表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スライム×3+骸骨×1≒人間です。(リメイク版)【第一部として完結】  作者: 遊豆兎
第8章 ダンジョンアタックの準備は怠りなく
181/199

(閑話) 気高き女戦士の戦い?

 ある日、防具展示のルシエンさんが私に提案してきたのは、魔力を防御力に変換出来るルーンを刻んだパーツを鎧の内部に貼り付けると言うものでした。


 最近になって開発されたこの技術は、まだ不安要素が多くて実運用に耐えるかどうか不明とのことです。

 ルシエンさんにはいつもお世話になっているし、実害は無さそうだと思って了解したのですが。


 まさかこのコトが無ければ、今頃私はこうやって想い出に浸ることすら出来なかったでしょうね。


 ライエルさんの推薦で私達『紅のマーメイド』がクレストさんと同行してカンファー家所有地へ行くことになったと聞き、任務の難しさよりも私達は嬉しさで飛び跳ねました。

 クレストさんは今年の『リミエンに最も影響を与えた人物トップテン』にノミネート間違い無しの新人冒険者なのですから。


 冒険者登録したその日に武器を持たずに大銀貨級パーティーを征圧したかと思えば、スラムの子供達を保護したり、次々と新しい知識を披露して商業ギルドを歓喜と混乱の渦に巻き込んでいるのです。


 どんな人かと言えば…私の胸を見る癖があるけど、とても優しくて良い人なんです。

 噂では衛兵隊長に喧嘩を売ったそうですけど、あの隊長は住民には全然好かれていませんからね。


 私とカーラが二日酔いで動けなかったあの日、アヤノとサーヤの二人は子供達の護衛と言う名目で貯水池に同行したのね。

 それで子供達と仲良くなって、魔鹿も倒してクレストさんが運んでくれて。


 アヤノとサーヤの二人はクレストさんが好きになってたみたいね。よく話題に彼の事を出すようになったもの。


 でも確かに何処かにご飯を食べに出掛ければ、彼の噂を聞くことが珍しく無いわけだから、彼を話題にするに流行に乗っていたと思えば丁度良いかしら。

 流れている噂の半分は根も葉もない嘘で、恐らく衛兵隊長が流しているのだと囁かれているわ。


 そんな彼に同行し、帰還の前日になってのことよ。魔界蟲と戦い、重傷を負うことになったのは。


 私とアヤノは魔界蟲の後ろから攻撃することにしたのだけど、アヤノが攻撃に集中し過ぎたのか尻尾を躱しきれずに弾き飛ばされたの。


 すぐに動けないアヤノに魔界蟲の尻尾が振り降ろされれば、軽鎧を着けているアヤノの防御力では命を落とすことになるわ。


「リーダーっ!」


 私は迷わずに武器を手放しアヤノの前に走り寄ってアヤノを庇うことにしたの。


「セリカ! 逃げて!」

とアヤノが叫ぶけど、足に来ているあなたを放置出来ないでしょ。


 ルシエンさんに教えられた通り防御力アップのルーンの発動キーを唱え、魔界蟲を睨み付けたわ。

 来るなら来なさいっ!


 胸の前で腕をクロスさせて腰を屈め、魔力を放出すると鎧各部に貼られたルーンを刻んだパーツが淡く光を放ち始めたの。

 これによって本来の防御力を一時的に跳ね上げることが可能…かも知れないって。


 今は躊躇っている場合じゃないのよ、アヤノを守れるのは位置的に私しか居ないのだから。

 

 魔界蟲が振り下ろす巨大な尻尾はまるで大木が倒れてくるようでとても怖かった…逃げたいと思わなかった訳じゃない。

 でもここで逃げれば、私はこの後ずっと後悔を続けることになる…いえ、ここから少しでも下がれば私は逃げたことになる…。


 だから歯を食いしばり、丸太のような尻尾を真正面から受け止め…だけど攻撃の勢いは私の想像を遥かに越えていたわ。


 稲妻の直撃を受けたような痛みが全身を襲い、両腕には燃える焔に突っ込んだかのような突き刺さる痛みが走った。

 ここで気絶しなかったのは奇蹟なのか、それとも私の意地なのか。

 だけどもう私には戦う力が無いどころか、立っているのが精一杯。


 その痛みとほぼ時を同じくしてバシッと言う大きな衝撃音が響き、ルーンが爆発したかのように強烈な光を発したの。


 私を打ち付けた巨大な尻尾は「それが何か?」とでも言いたげに元の位置に戻っていった。

 いえ、魔界蟲の顔は信じられない物を見たとでも言いたげね。


「セリカーっ!」


脚を引き摺りながらアヤノが駆け寄ると、私を地面に寝かせたわ。

 正直、もう立つ気力も残っていなかったし。


 そこから先のことはほとんど意識を無くしていたので覚えていなかったけど、クレストさんの治癒魔法が私の両腕を治してくれたのは理解しているわ。

 だって普段感じている彼の魔力が私の体中を駆け巡ったことは、私の細胞レベルで記憶に残っているのだから。


 私の両腕は骨が完全に砕け、筋肉も押し潰されて再起不能、切断するしか無かった筈なのよ。もう一生使えなくなったかも、と気を失う前に残念な気持ちになっていたのだけど、意識が戻った時には元通りに戻っていたわ。


 どんな凄い治癒魔法の使い手でも、粉々になった骨を修復したり、千切れた手足をくっ付けるのは不可能な筈のよ。

 クレストさんは一体どんな魔法を使ったのか。恐らくこの事を知られると、間違い無しに国がクレストさんの獲得に動くことになるでしょう。


 だからこの事は絶対誰も言わないことにしているのよ。

 あの時ベルさんが居なくて良かったわね。いえ、ベルさんが居れば私が怪我をすることは無かったのかしら?


 壊れてしまったガントレットは恐らく廃棄になるでしょうね。何年か愛用していたのだけど、仕方ないわ。


 ルシエン防具店でクレストさんを見つけると、私に試させたい鎧があると言うのよね。

 このお店はオーダーメイド専門店だから、普通なら客のサイズに合わせて作り上げているのよ。

 随分変わったお願いをしてくるものねと訝しむけど、クレストさんがそんなにおかしな真似をする筈は無い…いぇ、クレストさんだから有り得るのかな?


 それから先は以前にお話ししているのでここでは省かせてもらうけど、『気高き女戦士の鎧(ブリュンヒルド)』は私専用の鎧となって、『ヒルドベイル』と一緒にいつも私の中にあるのよ。


 戦うことの恐ろしさを改めて魔界蟲に思い知らされたし、正直言うともう戦いたく無いって気持ちも少しだけどあるわ。

 だけど不器用な私には、鎧を来て皆の前に立つことしか出来ないからね。


 クレストさんが私に譲ってくれたこの鎧と盾があれば、どんな攻撃にも耐えられると思うから。


 だから私はこれからも前に出て戦い続けることを選んだのよ。

 一度は無くしたと諦めた両腕が、いつかクレストさんの役に立てますように。


 そしてもし望みを一つ叶えて貰えるのであれば、この両腕であの人を抱き締められますように。



 ルベスさん、ベルさんが私達に訓練を付けてくれることになったのだけど。

 『青嵐』のルベスさんはこの国で一番強いアタッカーだと言われているわ。

 そんなルベスさんとパーティを組むベルさんが弱い訳もなく。


 二人の鬼のような教官による地獄かと思うような訓練が連日続いたわ。

 でもそれは私の心の弱さを矯正するための訓練だと思って必死に耐えたの。

 この鎧は大切な人から貰った宝物。

 『気高き女戦士の鎧』の所有者として恥じぬよう精進を続けなきゃ、次に彼と顔を合わせることが出来ないもの。


 盾を持ったのは初めてでは無いけれど、やはり扱うのは容易では無いわ。

 攻撃を真正面からまともに受ければ、盾は無事でも腕の方が動かせなくなるのだから。そうなると盾は嵩張る錘にしか過ぎないものね。


 鎧も盾も性能はピカイチだから恐れることなく防具に頼れ、だけど防御だけでは敵には勝てないから常に攻撃を意識をした防御を行えとルベスさんが言うの。


 その言葉を信じて『ヒルドベイル』の扱いを徹底的に訓練したわ。受ける攻撃はルベスさんの雨のような槍の連続突きだったり、ベルさんの必殺技だったり。


 でも『ヒルドベイル』はそんな攻撃を受けても傷一つ付くこともなく。


 これなら私でもやれる!

 まだ戦える!


 私が魔鹿の突進を止め、そこでアヤノが魔鹿の首をひと太刀で落とせるようになったところでとりあえずの訓練は終了したわ。


 でも私達がそんな必死の思いで訓練をしていたって言うのに、クレストさんとエマさんの仲が以前よりずっと良くなっているのは少し腹が立つかも。


 せっかく治して貰ったこの腕で、貴方の役に立てるのなら本望だと思っていたけれど。

 どうやら私の中では貴方の存在がもっと大きなものになっていたみたい。


 エマさんのことは嫌いじゃないし、幸せになって欲しいと思う気持に嘘は無いわ。

 でも、だからと言って戦う前から諦めるのは違うと思うの。

 その戦いには鎧も盾も使えないし、守っているだけでは叶わないのも理解しているわ。


 せめて同じ舞台に立てるぐらいになる為には、やはり私の出来ることを愚直に進めて行くことしかないのかな?


 あの鎧が私を覆うように、クレストさんが私を覆ってくれる日がいつか訪れますように…。

明日から新章に入ります。

ダンジョンに入る前にグダグダと続けてごめんなさいm(_ _)m


最近セリカさんが好きになってきたので、活躍させてあげたかったのです。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ