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スライム×3+骸骨×1≒人間です。(リメイク版)【第一部として完結】  作者: 遊豆兎
第8章 ダンジョンアタックの準備は怠りなく
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(閑話) 親方様に教えられたことは

「それとは別に、魔界の話も気になりますね。

 魔界からこちらに移住してきた魔族が居るとのことですが、魔界がどこにあるのか我々は知りませんからね」


 予定より一日前倒しでカンファー家の山から戻ってきた親方様の報告に驚くべき内容が含まれていたのだが、当の本人はその事の重大性には気が付いていない様子であった。


 魔族の中には人間と敵対する勢力があり、大きな争いへと発展したことも過去にはある。

 元々その争いによる痛手を回復する目的で、旧キリアス王国は勇者召喚に踏み切ったと言われている。


 異世界からやって来る勇者達はこの世界には無い能力を秘めて(いると言われて)おり、まさに一騎当千と呼ぶに相応しい武人も遥か遠い過去には存在したそうだ。

 だが今から三百年程前に行われた召喚によってやって来た勇者達は揃いも揃って外道であったと記録されている。


 それでもその時の勇者の中には優れた魔道具技師も混じっていたらしく、その勇者が開発したギルドカードシステムは今の生活では手放せない物となっているのだから何が幸いするのやら。


 ラビィ殿の報告の中には他にもキリアス王国からコンラッド王国に向けた地下道の建設が行われていたと言う物もあり、これは到底看過出来るものでは無い。

 この事はすぐに国の中枢へと連絡し、その出口の発見に務めてもらうことにしたのだ。

 恐らく今頃はスオーリー副団長含め、多くの幹部も現場に出ていることだろう。


 魔族の力を借りれば地下道の掘削もそれ程の手間では無いかも知れないが、そうでなくとも土属性に適性を持つ魔法使いを使えば理論上は可能なのだ。

 だが長距離のトンネル掘削は空気や水の問題、それに時折出現する土中魔物の問題があって安全の確保が難しく、それを行うような馬鹿者は居ないと思われているのだった。


 だがそのような問題点に目を瞑るとすれば…コンラッド王国とキリアス王国の国境には、『魔熊の森』のような緩衝地帯も存する。

 そのような場所に出口を設ければ、発見される可能性は極めて低いだろう。


 『魔熊の森』以外にも人の手の入っていない森林地帯も国土の半分を占めているので、危険を顧みなければ出口は何処にでも作れるだろう。


 だが人が普段出入りしない洞窟はダンジョンの卵ともなりうる。これを放置しておく選択肢など何処にも無いのだ。


 それにしても、喋る熊…熊ではなく魔族だと言うことですが、親方様の周りには次々と面白い人が集まるものですな。

 ラビィ殿を人と言って良いのか些か疑問ではありますが、人の言葉を喋り意思疎通が図れるのなら人と見なすべきなのでしょう。


 ですが飼い熊として認識してもらう為には首輪も必要ですが…本人に選ばせるのが一番でしょうか?


 親方様がダンジョンから戻られてから、マローネを購入したお店に行ってもらいましょうかね。

 マローネの首輪も中々良いセンスをしていますから、きっと腕利きの職人を囲っているのでしょう。


 ですがラビィ殿が食べるリンゴだけで一日に大銀貨一枚ですか…その程度の出費は親方様の収入からすれば些細なものかも知れませんが、本人は分かっていない様子。

 いずれはお金の大切さをラビィ殿に教えなければなりませんね。


 体を張って親方様達を守っていただいたと言う恩はありますが、ずっとリンゴばかり与え続ける訳にも行きませんし。


 そんなラビィ殿ですが、やはり魔界から来たと言うことは魔界の場所を知っていると言うことでしょう。

 魔力が濃すぎる為、人間が暮らすには適さない場所だと言う話ですが、上を目指す魔法使いはより魔力の濃い場所に惹かれるものですからね。


 私の息子も優秀な魔法使いでしたが、魔力の向上の為に魔界を探す旅に出たまま帰ってこなくなっています。

 無事に魔界に辿り着けたのかどうか、そして今でも生きているのかどうかも定かではありません。


 私はもうかなり歳を取っており、今から旅に出るつもりはなく無為に日々を送る暮らしの中で、帰ってこない息子のことばかり考えていました。


 ですがキリアスから来たと言う濃紺の髪の青年が話題になり始めてから僅か数日で自宅を購入し、家令を探していると言う情報が耳に入った瞬間、迷わず私は家令に応募しましたよ。

 久し振りにこんな面白い人物が現れたのですから、このまま老いぼれていくだけのつまらない余生を送るよりずっと楽しい毎日が送れるだろうと思いましてね。


 初めて商業ギルドで親方様とお会いした時の印象は、『ボンヤリとした遣り手』ですかね。


 ミレットさんと言う牧場の若女将が出していたパンケーキと言う新しいスイーツを流行らせ、彼女から乳製品の購入を行う手筈を取り付けていたのですから驚きでしたね。


 そして親方様から開示された資産に驚き、自宅の改築を私に一任する言われてまた驚き。

 新しく泡の実に変わる洗浄剤の開発や、その材料となる油と塩を扱う儲けを度外視した商会の設立をしたり。


 親方様が治癒魔法の使い手であったことなど霞むぐらい、引き出しの多いびっくり箱のようなお方でしたね。

 ですが個人的な要望を言うので有れば、物品の開発や商会ではなく、もう少し本業の冒険者として活躍をして貰いたいものですが。


 元金貨級冒険者のエンガニを捕縛したのはお見事でしたが、アレは正面切っての戦闘能力は大したことは無い男だと言われていましたから。

 今の親方様なら、倒せて当然でしょう。衣服に穴一つ開けられなかったと言う点は少々予想外でしたが。


 ですが建国百周年記念の式典に関するアドバイザーに就任したり、貯水池周りの開発案を立案しただけでなく、基礎工事までやってしまうのはどういうことでしょうか?


 工事と言えば、僅か一週間で貯水池までの道路を作り変えただけでなく、堤防工事に橋の新設までお一人でなさったということニュースは耳を疑いましたけど。

 さすがに領主リミエン伯爵から問い合わせが入り、親方様に対して支払う報酬のことで呼び出しされたことは親方様には内緒でございますよ。


 そして突然渡された白金の地に金の三日月、そして緑色の宝石をカットした蝶が舞うペンダントには衝撃を受けたと言っても良いでしょう。


 恐らくこのペンダント一つで大銀貨千枚以上の値打ちがある筈ですよ。そもそも白金を使うこと自体がもう異常としか言えません。

 白金の重量単価は金の百倍なのですから。そうなるのには採掘量の少なさや精製加工の手間など色々な理由があるでしょう。


 そのような高価な品物を、私のような人を殺すことしか脳が無かった者にお渡しくださるとは…それも家族の証として。


 長い人生の中で、嬉しくて涙が出るような体験はこれが初めてですよ。

 これからも親方様に変わらぬ忠誠を…いえ、親方様が求めるのは忠誠などではありませんね。


 きっと家族として接して貰いたい、そう言う気持ちしか持っていないのでしょうね。


 そうですね…もし私が息子に対して家族の愛情をもっと与えることが出来ていたならば、魔力の向上に取り憑かれて家を出るようなことにはならなかったのかも知れません。


 これが後悔と言うものでしょうか。

 まだ二十歳前の親方様に諭されるとは、私も大したことのない男だったと言うことですかね。

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