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スライム×3+骸骨×1≒人間です。(リメイク版)【第一部として完結】  作者: 遊豆兎
第2章 何故か冒険者になるにはトラブルって付き物だよね
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第17話 防具を作ろう

 身だしなみを整えてから食堂に降りて朝食を頂く。

 卵はこの世界ではそこそこの高級品であり、このクラスの宿屋では目玉焼きですら朝食の一品として出せるような物ではない。

 知ってはいたけど…やっぱり黄色の彩りが無い朝食って寂しいよね。


 賛否はあろうが、やはり養鶏は必要だ。

 それと冷蔵庫。食品の保存は転生した俺にとって最大の問題だ。冷凍なんて贅沢は言わないから、冷えた飲み物が手軽に飲めるように、そして衛生って観点からも冷蔵庫は必須だな。


 宿屋での朝食に牛乳とスクランブルエッグが出せるようにするために、俺はこれからの人生をかけることにするぞ!

 勿論誰か他の人をスケープゴートに仕立てるけどさ。

 これなら魔王なんて称号は付かないだろう。人に後ろ指を刺されて破裂したり大量出血したりで死ぬような人生はまっぴらごめんだ。


 いや、そんなんで死ぬわけ無いだろ?

 指で人を突いて殺せるなんて、どこの漫画のキャラだよ?


 そんな馬鹿な事を考えながら、ある防具屋さんへと足を運ぶ。

 何故に防具屋か。

 それはひとえに俺が装備していた革製の防具に問題があったからだ。

 最初は安っぽくて初心者ぽいから問題ないと思っていたんだけど、実は骨董的価値を持つような品だった。


 二百年以上前の革鎧だよ。当然意匠も造りも材質も現代の物とは違っている。そんな革鎧が殆ど劣化も無い状態で残っている訳だ。

 当時は初心者でも手が出せる程度の値段で売られていた商品だとしても、それが今ではマニア垂涎のアンティークな鎧に化けている。


「こんな物を身に付けて歩いていると目立ちます」

とケルンさんに指摘されて、泣く泣くアイテムボックスの肥やしにするしかなかったのだ。


 とにかく目立たないようにするためには、この町で買った物で身を固めるのが一番だよね。

 でも幸いと言うか、衣服については今の時代の物と比べても大きな違いは無かったから、やはりシンプルな物は普遍的なんだと再認識した。


 防具の他にはバッグも買い替えようか。やはりバッグも時代とともにデザインが変わっているからね。


 あと、スライム達を個別に収納するためにポケットが沢山付いている服があれば良いかな。フィッシングベストみたいな服だけど、冒険者に売れないかな?

 市販品で気に入るような服が無ければ、既製服にポケットの追加加工をしてもらうつもりだ。

 これは優先度が低いから後回しにしても良いけど。


 でもそんなの着てたら、ポケットから丸まったスライムを取り出して「君に決めたぜ!」と言って投げる冒険者になるかもな。


 そんな訳でケルンさんのお薦めで、宿屋のご主人から場所を教えて貰った防具屋さん『ルシエン防具店』に到着。

 今から依頼に出るのか、冒険者らしき中年の三人組の男達が店からちょうど出て来たところで鉢合わせした。


 結構羽振りが良さそうな人達で、新しい鎧を着たせいか一人だけがやたらハイテンションだった。

 おかげでもう少しでドアに頭をぶつけるところだったよ。危ないなぁ。



 三人組の冒険者パーティーってメンバーが少ないと思うんだけど。

 他にもメンバーが居るけど、買い出しとか別行動をしているのかもね。


 そう言えば、俺も冒険者になるつもりだけど、パーティーを組むことは考えていなかったな。

 積極的に魔物を狩りに出るつもりは無いから、ソロ活動でも大丈夫だけど…ボッチと言われるのがなぁ。


 気を取り直して店に入ると、

「へい、らっしゃい」

と予想外に甲高い男性の声で迎え入れられた。


 見た目は普通のおっさんなのに、声だけが人相とミスマッチ。

 職人さんは声で仕事をしてる訳じゃないから気にはしないけど。


 店内には期待通りにディスプレイされた鎧がずらりと並んで…いなかった。

 ケルンさんにお薦め店を聞いてここに決めてたんだけど、この店はまさかのオーダーメイド専門店かな。

 オーダーメイドの鎧って高いんじゃない?

 まさかケルンさん、俺が金持ちだと思ってたんじゃないかな…ちょっとアイテムボックスにアクセスして…あぁ、大金貨だけで軽~く億円単位であった。


 店内でフリーズしてたら、男性にこう言われた。

「お客さん、ちゃんとした防具屋に来るのは初めてだね?」


 ぶっ! いきなりバレちまったょ。


「はい。今まではお下がりの鎧を使ってましたから。

 ここはオーダーメイド専門店ですよね?」

と正直に答えよう。


 こう言う場面では見栄を張っても良いことは一つも無いから。

 それに億越えの遺産があるから、少々の散財なら平気だろう。骸骨さんにも勝手にお金を使うなとは言われてないし。

 鎧のことなんて全然分からないから、ここはプロにお任せしよう。


「お下がりの鎧だと?

 体つきは人によって違うから、ちゃんと店で調整したものを着てくれよな。

 で、今日はその鎧の修理か調整に来たのか?

 それにしては手ぶらだが」

とぶっきらぼうな応対を受ける。


 えっと、それって『貴様みたいな半人前に売る鎧は無いっ!』て遠回しに言ってるのかな?

 確かケルンさんが少し癖がある店主だと言ってたけど、癖っててっきりこの声のことだと思ってたよ。


「あ、違います。

 新しい鎧が欲しいなら、このお店にしなさいってケルンさんに教えて貰ったんです。

 駄目ですか?」

とケルンさんの名前を出した。

 本人に私の名前を出すと良いと言われてたから、遠慮はしない。


「お、ケルンの紹介か。そりゃ失礼したな」

と店主が少し頭を下げた。


 ケルンさんを信用していなかった訳ではない…いや、話半分だと思っていたけど、予想以上に効果絶大だったのに驚いた。


「どんな鎧にするか決めているのか?

 …勧めるのは軽鎧だが。戦闘スタイルは?」


 店主が俺の体付きを四方から見てそう判断した。

 俺の体はムキムキの筋肉質では無いが、魔法職の体だと判断される程に貧弱ではないと思う。

 恐らく骸骨さんと融合した時に、大学生だった頃の体の遺伝子情報を読み取って再現したのだろう。

 スライムにDNA分子があったのかと考えると、なんか複雑な気分だけど。


 ゴブリラを斃した時の中年の姿じゃないのは有難いんだけど、本格的な戦闘職の体には見えないんだろうね。


 戦闘時は魔力を使って体を強化するし、短時間なら馬車を持ち上げられるぐらいの馬鹿力も出せる。

 けどそれはまた別の話。


「まあ色々ありまして。

 筋力強化が使えて、戦闘は格闘メインでやってるので」


 格闘がメインなのは嘘ではない。

 大学が決まった頃、当時の悪友に強引に連れて行かれたある格闘技のジムで出会ったお姉さんに一目惚れして一年半程通っていたからね。

 その程度で経験者と言うのは烏滸がましいけど。


 下心だけでよくそんなに続いたもんだと思う。

 俺をジムに誘った悪友は何度か通っただけで退会したけど、俺はジムを退会していない。

 だって退会する前に間に転生しちまったからだよ、こんちくしょー!


 こんなことなら、お姉さんに告白しとくんだったよ…。


「ふぅーん、格闘か…。

 それなら余り動きを阻害する物は付けない方が良いな。

 サンプルを幾つか出すから、気に入ったのを教えてくれ」


 格闘と言うところに何か引っ掛かりがあったようだが、一度店の奥に入った店主がキャスターの付いた棚を引きながら戻ってきた。

 ハンガーに革ジャンの上下のような物を掛け、胴体部分だけの防具や肩当て、脛当てなど部分鎧はトルソーみたいな物に付けた状態で数種類持ってきてくれた。


 正直、種類が色々あって良く分からない。こんなことになるなら、通販で売ってるようなヤツでも良いからコスプレ用の鎧をもっと見ておけば良かったな。


 どれが良いのか分からないから、地球の物に似ている革ジャンと革のパンツにしようかな。

 でも暑い季節には着れないのか。

 あぁ、だから部分鎧が種類豊富なんだ。

 でもサンプルを見て思うのは、鎧って付けるの面倒くさそうだってこと。


「この手のやつが良いけど、着たら暑くて大変かなって思うと、やっぱり部分鎧なんですよね。

 でも付けるの面倒くさそうだし」

と革ジャン、革パンを指さした。


「お前な、鎧を付けるのが面倒くさいのは当然だろうが」

と店主が呆れている。


 スキーブーツみたいにカチッと簡単に固定出来るバックルを知っているだけに、三~四つのベルトで締めて固定する脛当てなんて欲しく無い。

 バックルだと攻撃を受けたら壊れるかも知れないけど。


「それに革鎧を着たら暑くて当たり前だろ。

 …と言いたいが…」


 店主はそこで一旦口篭もる。言おうかどうしようか悩んだようだが、

「着ても暑くならない、特種な革素材が無い訳ではない。

 凄い、面白いと思って仕入れてみたが、誰も使ってくれなくてな」

と嘘みたいなことを言うのだ。

 ここは異世界。地球の常識から外れた物があっても不思議では無いのかも。

 でも何故そんな素敵な素材が売れないの?


「だけどなぁ、上下を揃えると材料費だけで大銀貨が…八十枚。

 扱いにも手間が掛かるから、加工費に…十五枚。

 と言う訳で革鎧にしちゃぁ、かなりお高いんだが」


 店主が金額を言うときは小声だった。

 だが俺は店主のこりゃ無いわな~と首を振る様子に構うことなく、

「ならそれで!」

と即決したのだ。


 暑くならない夢のような素材の革ジャンが大金貨一枚でお釣りが来るなら、安くて最高だろ!

 まさかドラゴンレザーとか言わないよね?


 躊躇の無い俺の返事に店主が驚いたような、そして呆れたような顔をする。


「お客さん、本気かい?

 こちらから言っておいてなんだが、暑くない以外はただの丈夫な革だぜ。

 そんな物に大銀貨九十五枚は、ちょいと高いだろ?

 使ってくれるならウチは助かるが」


 ちょっとちょっと店主さん、俺が良いって言ってんだから、もっとグイグイっと商売っ気を出しなよ!

 不良在庫が捌けるチャンスだよ!


「そんなことは無いですよ、暑くならない革素材なんて最高じゃないですか!

 まさにミラクルな素材でしょ!

 俺がデザインするから、サービスで大金貨一枚で頼みます!

 色は黒!

 デザインは…」


 テンションの上がった俺は、まだ信じられないと言う顔をしている店主から少し錆びの浮いた鉄板(約五十センチ四方の薄い鉄板を木の枠に貼り付けた物)を借りて、白い蝋石でラフスケッチを書いていく。


 思った通りに絵が描けるのは、骸骨さんが持っていたスキルのお陰だ。

 まさか閣下と呼ばれるロックな人が着るような衣装を作ったせいで、骸骨さんが魔王と呼ばれるようになったんじゃ?


 俺がイメージするのは、某肉体派俳優が未来から来たアンドロイドに扮した映画で着ていた革ジャンに、プロテクターを追加したものだ。これなら魔王の要素は無いよね。


 ただしこの世界にジッパーみたいな手軽な物が無い為、ボタンかベルト留めになる。

 今回の留め具はボタンにしよう。もし気に入らなければ、改造すれば済む話だ。


 ササッと書けてしかも消せる鉄板と蝋石の方が、こう言う打ち合わせの時には羊皮紙に書くより便利が良い。少し重たいのが問題だけど。

 客からの細かい注文は忘れないようにこの鉄板に書いておくようで、店内にはディスプレイ用の鎧の代わりに何枚かの鉄板が並んでいる。

 この鉄板の枚数で忙しいかどうかが分かりそうだな。


「本当に良いのか?」

と念を押す店主さんに、

「勿論ですよ!

 何ならその素材一式、俺が全部買い取ります!」

と鼻息荒く捲し立てる。


「分かった、そこまで言うなら作ってやろう。

 それにしても少し変わったデザインだからな、作ってからイメージと違うと言われても直せんから、廃棄する革で確認用のサンプルを作ってみる。

 今日は採寸をするから、五日後以降に一度来てくれるか?」

「了解ですっ!」


 予定とかなり違ったが、俺専用の革ジャンを作ることになっていきなりマックスボルテージ!

 異世界って最高だねっ!

革ジャンを作るだけでこんなに長い話になってしまった。しかもまだ試作段階。

ホントに革ジャンが仕上がるのか不安になってきた。


日本の大手養鶏はバタリーケージと呼ばれるケージで沢山の鶏を飼育し、感染症対策で鶏舎には窓も無いそうですが、安くて安全な卵を食べられる恩恵を受けている消費者として、仕方ないし、これで良いと思えます。


一方、世界ではアニマルウェルフェア(動物福祉)なんて物が重視され始めているそうですが。

これが元農水相とアキ○フーズの収賄事件にも関係しているとはね。


日本の養鶏業者の皆さん、本当に有難うございます!

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