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スライム×3+骸骨×1≒人間です。(リメイク版)【第一部として完結】  作者: 遊豆兎
第8章 ダンジョンアタックの準備は怠りなく
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第141話 マップを見ながら思うこと

 『エメルダ雑貨店』で俺の周囲に居る女性達は俺と結婚しても良いと考えているとエマさんに教えられた。

 その中にエマさんも入っていて、俺としては気軽に話せる女友達のつもりで居たので正直言って混乱している。


 そしてエリスちゃんに胸を大きくする装置が欲しいとお強請りされたが、そんな物は地球にだって存在しない。

 搾乳器なら作れないことはないだろうが…当然だが全くもって用途が違うし、さすがに俺もこの商品群のことを詳しく知っている訳がないからね。


 その代わりにネットに載っている程度のバストアップの記事を纏めておくことにした。

 それと女性専用のフィットネスジムを思い付いた。


 この世界に健康志向とかボディメイクの概念があるのか些か不明だが、綺麗な体形になりたいと願う女性は多い筈。

 問題があるとすれば、やはりプログラムとインストラクターだよな。


 音楽無しのラジオ体操なんて恥ずかしい物をやるわけにもいかないし。

 それなりに綺麗な体形の女性冒険者を見繕って、それっぽいトレーニングを開発してもらおうか。

 上手く行けば専属契約してもらえば良いだろう。


 ブリュナーさんには骨を折ってもらうことになるけど、リミエン商会と商業ギルドに動いてもらうようお願いしなきゃね。


 目下の悩み事は腕を組んで歩くエマさんかな。エマさんが嫌いとか、腕を組むのがイヤとかじゃない。

 彼女が俺との結婚を望んでいる、と言うのが困り事の種になるんだよね。


 上機嫌なエマさんには悪いけど、いつかは『ごめんなさい』と言わないといけないのかも。


 一時は俺の中ではやたら魔力を発生させていた魔界蟲だが、最近は俺が変な気を起こすようになるほどの魔力を出すことはない。

 魔力の溜まり過ぎが性欲に繋がるそうで、最初は本当にヤバかった。


 もし今もあの状態が続いていれば、俺もこうやって腕を組むエマさんに対して自制が出来るとはとても思えない。

 あの時は魔界蟲がわざとそうなるように仕向けていたのではないかと思うのは、考え過ぎなのだろうか?


 でも思い通りにならなかったことで諦めたのか、ひょっとしたら魔界蟲が俺に気を使っても発生量をセーブしているのか、それともアイドリング状態で待機しているだけなのか全く分からない。


 コイツのお陰で道路整備や土手の工事を短期間で終わらせることが出来たのだから、ありがたい存在だと言えなくもないが…もしかしたらアイテムボックスから飛び出してまた敵対する可能性が無いとは言い切れない。


 そんな危険な存在をいつまでもアイテムボックスに入れておきたくはないのだが、コイツは自分の意思で俺の中に居座り続けている。

 さすがに魔力の塊だと言うだけあると感心するしかないか。


 俺の目、耳になるスライム達も時々勝手に外出しているみたいだし。

 今のところトラブルにはなっていないし俺のもとに戻ってくるので問題とは言えないが、やはり意思疎通が出来ないと言うのは不便なものだ。


 スライムがペットなのかどうかは甚だ疑問であるし、この子達を公表して良いものなのかも今のところ全く分からない。


 この国でも魔物を使役することが出来る特殊能力を持つ人をテイマーと呼び、極めて稀だが存在は確認されているらしい。

 俺もスライム限定のテイマーと言えなくもないのかな?


 スライムは汚物処理に利用されるので一定数の需要は常にある。

 もし今の財産を全て失うようなことになれば、スライム達を利用して日銭を稼ぐことになるのかもね。


 そんな今はどうでも良い事を考えながら、出来もしない現実逃避。

 どちらかと言わなくても好みのタイプのエマさんが俺の事を好ましく思ってくれている、それは素直に嬉しいと思うけど…。


「あなたにはあなたの考えがあるに違いないから、私のことは気にしないでね」

とエマさんが言ってくれるのだけど、気にしないなんて無理だよね。


 普段はそんな風に見えないけど、仮にも男爵家のお嬢様なんだし。

 だから俺とエマさんの間には歴然とした身分差ってものがあるんだ。


 そう考えたら、なんで普通に腕を組んで歩いてんだと言われそうだけど。

 貴族制度の無い社会で生活してきたからか、男爵家のお嬢様だと聞いたところで『だから何か?』と思うんだ。

 勤めている会社のお偉いさんの娘だと言われた方がよっぽどビビる。


 エマさん自身は貴族ではない家に嫁ぎたいと考えているのだと思うけど、ご両親はどう思っているのだろう?

 さすがに俺が婿の候補だと紹介されたら、きっと烈火の如く怒り狂うに違いない。

 チャムさんじゃないけど、何処の馬の骨か分からないような奴に娘は渡せん!と言われるのがオチだろう。


 そんな未来を回避するために、誰にも告げずにこの町から去って行くってのも考えたけど。

 商会や工房の皆の事を思うと、それは無責任過ぎて出来ることでもやって良いことではない。


 もしリミエンから離れるとしても、皆の迷惑にならないようにしてからじゃないとね。

 携帯電話やインターネットがあれば、何処に居ても仕事の指示が出せると言うのに、そう言う面では不便さを感じてしまう。


 そう言えば、ラビィを封印した魔法の勇者はWi-Fiやブルートゥースの技術を実用化していたんだよな。

 まだ一度も使っていないけど、俺にも魔道具の製作スキルがある。携帯電話は無理でも、チャンネル固定の無線ぐらいなら作ってみても良いかも知れない。


 お昼ご飯を何処で食べようかと、エマさんがサンプルの食べ歩きマップを取り出した。

 基本はモノクロだが、一部には赤インクを使った二色刷りにするあたりはさすがビステルさんだょ、良く分かってる。


 文字も太字と細字を使い分けているので、この世界でよく見る書き物よりとても読みやすい。

 本などは原本を書き写すのが主流であるから、どうしてもペンで書いた細い文字ばかりになるんだよ。


 二人で本を持って同じページを見るなんて、多分小学生の頃以来だ。

 その相手が可愛い年頃の女性だと変に意識してしまう。


 今までそんな意識はしたことが無かったのだから、結婚したい相手だと告げられたことが俺の心に突き刺さっているのだろう。

 可否で言えば今のままではやはり不可なのだが、数パーセントはそれを否定したい気持ちもある。


 これなら何も考えずに魔物を殴っている方がよほど気がラクと言うものだと思うと、自分がどれだけ脳筋側に足を突っ込んでいるのかと悲しくなってくる。


 ページ数の都合で一軒当たりの情報量が限られているのだから、このマップだけでお店を決めるのは難しい。

 でもそうやって悩むこと自体も楽しみの一つなのだ。それが一人でじゃなくて二人で、なのだから楽しさは倍になる。


「何処にしようかな」

と真剣に悩むエマさんもイヤな表情ではなく楽しそうにしているし。


「このマップがあると、次は別のお店に行こうって思えるのね」

と、目的のお店に向かう道中、エマさんはまだマップを手にして唸っているのだ。


「そうだね、この店にはまだ行っていないから次はここに行こう!って思わせる効果を狙ってるんだよ。

 それと、このマップを持って食べに来てくれた人には一品サービスとかやるのもありだし、スタンプを押してスタンプが十個溜まったら何かの景品が貰えるようにするのも良いよ」


 商店街や観光地が良く使う手だけど、初体験のこの世界の人には新鮮に映るだろうね。


「狡賢いです! そんなの絶対みんながハマるわ」

「そうなるのが目的だから。

 でも人気のお店に人を集中させちゃうかも知れないから、お店にとっては痛し痒しなんだよね。

 何事も程々にやるのが一番だよ」


 マップを鞄に仕舞い、ここが定位置だと自然に俺の手を取るエマさんが俺を見上げ、

「あなたってまるで少し先の未来の世界から来たみたいね」

と言って笑う。


 未来か…確かに俺の持つ知識は未来の知識と呼んでも差し支えはないのか。

 抑えているつもりだったけど、この世界の人からすればそれでも知らない物ばかりなんだよね。


 どうしてキリアスが勇者召喚なんて行ったのか、真意は今となっては不明となっているけど。

 召喚された人達がもたらした知識はきっと当時の世界に衝撃を与えたに違いない。そうなれば、一人の召喚では物足りずに次々と召喚していく可能性があるわけだ。


 外道だの何だのと言われる勇者達だが、私利私欲の為に誘拐されてきたのだから一定の同情はしてやるべきなのかも。

 まぁ、それを差し引いてもやり過ぎたからボロクソ言われているんだと思われるけど。


「未来かも知れないけど、別の世界から来たのかもよ?

 それに見た目は同じように人に見えるけど、中身は全然違う生き物かも知れないよ。それでも俺?」


 なにが『それでも俺?』だよ、と自分で突っ込みを入れたくなる。


「勇者達も違う世界から来たんだから、あなたが同じように別の世界や未来から来たと言われても驚かないわ。寧ろ納得できるもの」


 勇者と言う前例が事実なのだから、異世界の存在は当たり前のように受け入れられているんだ。タイムスリップって概念まで受け入れてるのは予想外だけど。


「あなたの発想は多分キリアスとは違う、優しい世界の物だと思うの。

 だって、どれも人を幸せにしたいって思いから生まれてるように思えるもの。

 キリアスや勇者達の世界から来たのなら、もっと暴力的だったり、ドロドロとした発想になるんじゃないかな?」


 間違いなく勇者達と同じ世界から来てますけど…訂正したいけど訂正出来ない、このまどろっこしさに腹が立つ。


「私が行き遅れって言われるようになるまでは、今のままでも…それは私だけじゃなく皆が同じように思ってるのかも。

 今は頼れる大家さんで、そして素敵な冒険者…?

 うーん、素直に冒険者と言えないのはどうして?」


 エマさんの傾げた頭が俺の左腕にコツンと当たるがそのままキープ。そんなことで真剣に悩んで欲しくはない。


「あなたがまともに受けた依頼って…貯水池の依頼だけだったね。

 冒険者じゃなくてコンサルタントか商会主みたいだもの」

とクスクス笑う。


 みたいじゃなくて非公式ながらオーナーですからね。

 もし結婚すれば、こう言う情報も教えていくことになるんだろうね。

 俺はやりたいことだけ言って後はブリュナーさんに任せっきりだから、実態は当事者以外には分からないようになっている。


 どうやってレイドルさんがリミエン商会とクッシュさんのお店のオーナーが俺だと突きとめたのか、機会があれば聞いてみたい。少し怖い気もするけど。


 結局、お昼ご飯に選んだお店は最初にロイとルーチェを連れて行った『茜の空』となった。

 エマさんもこのお店を気に入っていたし、落ち着いた雰囲気なのでゆっくり時間を過ごしたい時にちょうど良い。


 個室でランチを頼み、初めて会った時のことの話で盛り上がる。

 リタの悪事が無ければ、エマさんとこんなに仲良くなれただろうか?

 きっと数多く居る冒険者の一人に過ぎなかったに違いない。そう言う意味では彼女に感謝だな。


 俺に感謝されてリタが喜ぶとは思えないけど、『風が吹けば桶屋が儲かる』とは良く言ったものだ。

 人生一体何がどう言う良い方向に流れて行くのか分からないんだよ。スライムに転生した俺が言うのだから、これは絶対に間違っちゃいないよ!

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