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スライム×3+骸骨×1≒人間です。(リメイク版)【第一部として完結】  作者: 遊豆兎
第8章 ダンジョンアタックの準備は怠りなく
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第138話 足癖の悪い二人

 マローネが我が家に迎え入れられ、冒険者ギルドで進行中の食べ歩きマップ製作はビステルさんと言う対金属特化の最終兵器の参加により製版の目途が付いていた。

 俺のことを兄貴と呼ぶ、少々頭のイカレタ五人組のことはどうでも良いや…。


 一夜明け、明日からはダンジョン攻略に取り掛かることになる。俺とエマさんとオリビアさんの準備は万端だが、心配なのはルケイドと『紅のマーメイド』の四人だ。


 ルケイドには三つ股の鉾『鬼降ろし(オーガニック)』を預けてあるが、使い熟せるようになったかな?

 剣術の訓練は真面目にやってきたらしいが、やはり剣術スキルが無いので戦闘能力と言う面では不安が尽きない。

 それにアイツは男爵になる予定だから、間違っても殺させる訳にはいかないからね。


 俺としては、ルケイドには土属性魔法で壁を作るなど裏方的な役目を果たして貰えれば十分なのだが、それでは本人が納得しないだろう。


 マーメイドの四人は『青嵐』のベルさんとルベスさんに鍛えてもらっているから、彼女達の頑張りを信じるしかない。

 そんな仲間達のことを考えながら、いつものように朝の訓練と言うなのシゴキを受けているとベルさんがフラリとやって来た。


 明日ダンジョンに向けて出発予定なので、マーメイド達の今日の訓練はお休みにしたようだな。

 俺に手を上げて軽く挨拶した後、ブリュナーさんを見て、

「ブリュナーさんか…」

と何か言いたそうな様子を見せる。


 対してブリュナーさんが軽く挨拶をすると、

「ベル殿、おはようございます。

 御用であれば少しペースを速めて終わらせますので暫くお待ちを」

と当然のように俺に死刑宣告をしてくれた…死にはしないけど俺にとっては同意語なのだ。


 一緒に訓練していたロイとルーチェは先に部屋に戻らせる。子供には見せたくない光景…と言うのは大袈裟だが、通常とは違う訓練モードに入ることに変わりはなく、恐怖心を植え付ける恐れがあるからだ。


 それから当社比三倍の速度で動きだしたブリュナーさんに一方的にボコボコにされて芝生に転がされた。

 ブリュナーさんは俊敏性を向上するスキルを持っているらしく、俺の攻撃は全て回避されるのだ。

 俺が攻撃を当てる為には同じ早さで動くか、動きを予測して移動先に武器を持っていかなければならないのだと思う。


 芝生の上で我ながら生きているのが奇跡だと関心しながら荒い息を付いていると、ベルさんが邪魔だとばかりに俺の脚を引き摺ってズルズルと動かし始めた。

 子供にやると喜ぶやつだけど、大人の俺にやらないで欲しいのだが。


 俺を退かし終えたベルさんは、信じられないことに、

「ブリュナーさん、申し訳無いのだが私と一つ手合わせして貰えないだろうか?

 久し振りに見る強者に血が騒いで仕方ないのだが」

とブリュナーさんとの勝負を申し出たのだ。


 それに対して、

「私はそれ程強くは無いのですが、『青嵐のベルビアーシュ』殿のお願いとなれば、お断りする訳には参りませんね」

と俺との訓練中には見せたことの無い程の良い笑顔で答えるブリュナーさん。

 力を抜いて自然体で構え、ベルさんの準備が出来るのを待つ。


 ベルさんは背中の大剣を使うのかと思えば、肩に掛けているマジックバッグにそれをしまい、替わりに両手持ち剣サイズの木剣をそこから取り出す。

 そして両手にナイフを持つブリュナーさんと二メートル半程の距離を開けて右斜めに構えを取った。

 そこから力強く振り降ろしてからの連撃が彼の得意技とする『狼爪(ヴォルフナージェル)』だ。


 ブリュナーさんはそれに対して左を前にして半身で構え直す。

 両手のナイフには鉄の芯が入っているらしいのだが、刃渡り二十センチ程のナイフでどうやって両手剣を相手にするのか俺には全然分からない。

 ナイフで両手剣を受け止めることは出来ないだろうから、逸らすか回避してから攻撃に入るしかないと思うが。


 それにしても、ゲーセンやコンシューマ機の格闘ゲームじゃないんだから、木剣と言っても当たれば痛いじゃなくて大怪我確実。それでもブリュナーさんは恐くないのかな?


 両者が構えて見合ったままジリジリと時間は過ぎていく。

 達人同士になると(まばた)きだけでなく、呼吸のタイミング一つで勝敗が決まることも有り得る…らしい。俺はそんなレベルに達していないので、そう言われても良く分からないんだけど。


 リーチと攻撃力に劣るナイフが両手剣に勝るのはスピードだ。それを最大限に活かさなければブリュナーさんに勝ち目は無い。

 ベルさんも当然その事は分かっているから、下手な一撃を放つことは無い。


 見ている俺が先に息が止まりそうな錯覚を覚えたときだ、

「ハッ!」

と声を出して先に動いたのは予想通りベルさんだった。


 凄まじい勢いで繰り出された袈裟斬りが唸りを上げてブリュナーさんの肩口目掛けて振り下ろされた。

 だが完全に動きを見切ったブリュナーさんは、左に躱しながら逆手に持った左手のナイフで剣の中程を強く叩いて軌道を狂わせた。

 硬い木材同士のぶつかり合う音が響いた僅か数瞬後、いつの間に放ったのかベルさんの脇腹にブリュナーさんの蹴りが命中した。


 蹴られた脇腹からドスッ!と言う鈍い音が響き、ベルさんが体勢を崩す。それでも反射的に出したのか、お返しとばかりにベルさんの左膝がブリュナーさんの腹を捉えたのだ。


 両者が蹴りの後の硬直から解けるとさっと後方に下がり、視線を交えるとどちらからともなくて武器を手離し、

「参りました」

と頭を下げた。

 結局、決め手には両手剣もナイフも関係が無いじゃん…思ったより足癖の悪い二人だな。

 でもそれを言ったら『武器は手脚の延長線』と言い返されるだろうから、わざわざ言わないけどさ。


 それにしても…バトル漫画の舞台じゃ無いんだからアクションシーンは程々にしてくれよなと内心で愚痴りながら、芝生に手を付く二人に治癒魔法を掛ける。


「工事魔法だけじゃなくて、治癒魔法も使えるのか。こりゃ、クレスト君が居ると便利で助かるな。

 『一家に一人、クレスト君』と言われるのも良く分かる」


 おいおい、俺は救急箱でもAEDでもないぞ。誰がそんなこと言って…言うとすればカーラさんかサーヤさんあたりだろうか。


「冗談はさておき、今日来たのはオリビアさんの『光輪(コーリン)』を見させてもらおうかと思ってね。

 ついでに『紅のマーメイド』の四人の報告をね」

と軽い口調で訪問目的を告げるベルさん。

 俺としては、そのついでの方に興味があるんだけどね。


 普段なら自主練の後にお茶を飲んで一息ついてから子供達の授業に入るオリビアさんだが、ベルさんのお願いを聞いて視線で俺にどうしようかと問い掛けてくる。


 明日からのダンジョンアタックの同行者であり、メンバーの中で最も経験豊富なベルさんのお願いは断れないかな。


 一般的な話として、防御力の薄い魔法職が背後からの奇襲を受けて戦闘不能になる可能性は低くない。

 だがオリビアさんには重く取り扱いの不便な金属製の盾より優れている(可能性がある)防御系スキルがあると聞けば、百戦錬磨のベルさんがそれに期待するのは当然だろう。

 『光輪』の性能次第でいざって時の選択肢が大きく変わるかも知れないし、安心感も変わってくるからね。


 『光輪』には未知の部分が多いので、ベルさんには過度な期待を持たせないように予防線を張っておこう。


「でも、どれぐらいの性能なのか、まだ本人も把握仕切れていませんから。

 『光輪』は出している間、魔力を消費し続けるので、魔法での攻撃を考えると多用は出来ません。

 不意討ちを防ぐぐらいに考えておく方が良いでしょう。どのくらいの強度の攻撃まで防げるかは分かりません」


 俺の説明を聞いてからベルさんは考えるように顎を撫でつつ、

「なるほど、空間に固定が出来る丈夫な壁のようだと聞いたのだけど、無制限には使えないのか。

 能力からすると仕方ないか。

 それと万が一、壊れた時のことも考えておかないといけないだろうし、強度を試してみたいのだが」

と少し物騒な事を言う。


 言外に壊すと言われてオリビアさんが眉をひそめるが、ベルさんの言わんとすることは理解出来るので頷いた。

 確かに『光輪』にどんなデメリットが潜んでいるのか分からないのだから、リスクは早めに潰しておいた方が良い。

 それでも意図的に壊すと言われると喜ばしいことではないのだが。


 ちなみにエマさんの『タンスにドンドン』も飛び道具に対しては有効な防御手段となり得るだろうが、非戦闘員である彼女に防御を任せるつもりは無い。

 それにこのスキルは本人の真正面にしか出せないので、側面に回り込まれると盾としては役に立たないのだ。


「『光輪』の実験をするのは良いけど、町の外でやってね」

とお願いするのが、『光輪』を壊すことを前提にしている彼に対するせめてもの抵抗だろう。


 それに壊れた時にどんな現象が生じるか分からないのだから、狭い家の中ではやって欲しくない。やるなら近くに人が居ない広い場所でやってもらいたい。


 怪我をするようなことは無いと思うけど、俺も付いて行こうかな。

 子供達の授業は…オリビアさんが戻ってくるまでは自主練か、それとも連れて行くか。


 シエルさんに頼んで自室で待機していた子供達を連れて来てもらい、

「ちょっとオリビアさんが町から出るお仕事が入ったんだけど。

 その間、二人でお勉強出来るかな?」

と聞いてみる。


「オリビア先生、お外に出るの?」


 子供達は顔を見合わせて暫く考え、

「直ぐに帰って来るなら待ってる」

「ワタシも行きたい!」

と別々の答を出した。ロイはお兄ちゃんだけあって分別が付くみたいだね。ルーチェの甘えん坊は変わらずってところかな。


 昼食後には『カルセド宝飾店』にペンダントを受け取りに行く予定なので、今から町の外に出るのは少々躊躇われる。

 さてどうしよう、と悩んでいると門の外から「おはよーっ!」とアヤノさんの声が届いてきた。

 どうやら『紅のマーメイド』の四人がやって来たようだ。子供達は彼女達を遊び相手と認識しているので、嬉しそうに二人が迎えに飛んでいく。


「ベルさん、オリビアさん。彼女達一緒に子供を外に連れて行ってくれませんか?

 俺とエマさんはこの後、行く所があるんです」

とこれ幸いとばかりに二人にお願いする。

 予定にあるのは一軒だけだが、せっかくだしダンジョンに向かう前に関係先に一度顔を出しておきたいのだ。


「それなら外で食べる昼食を用意致します」

とブリュナーさんが嬉しそうに言う。弁当を作るのは趣味なのかも。


 ロイとルーチェに手を引かれてやって来たマーメイドの四人を代表してアヤノさんが、

「クレストさん、お久しぶりです。ベルさんとクレストさんのお陰で少しは強くなれたと思います」

と頭を少し下げる。

 俺は何もしてないので、ホクシンイットリューの奥義書や魔法の勇者のメモが役に立ったのかもね。


「訓練はまだまだ続くよ。君達にはもっと上を目指してもらわないと。

 アイテムのお陰で強くなってるだけだと思われないよう、日々精進だからね」

と笑顔を返すベルさんの表情は穏やかだった。


 短期間の修行ではさすがに見た目に分かるような違いは現れないけど、セリカさん、サーラさん、カーラさんも少し誇らしげな様子なので、彼女達の修行はどうやらうまく行ったようで何よりだ。


 ただし、休みの日にまでベルさんの顔を見たくはない、と言う雰囲気もありありと見て取れるのだが…一体どんな訓練を行ったのやら?

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