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スライム×3+骸骨×1≒人間です。【第一部として完結】  作者: 遊豆兎
第2章 何故か冒険者になるにはトラブルって付き物だよね

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第16話 宿屋で妄想を

 夕食は想像通りで美味しく頂いた。

 調味料の種類は少なく、甘味料や香辛料は高価なため殆ど使われず、どちらかと言えば塩と素材の味を活かしたシンプルな料理や香草を効かせた薫りの良い料理が提供されていた。

 濃い味付けで誤魔化せない分、料理人の腕が料理の味にダイレクトに反映されるのだ。

 とは言え、ブイヨンや豚骨スープみたいな骨を使ったスープは存在するらしいので、いずれ食する機会があるだろう。


 そしてタイミング良く吟遊詩人の舞台も見ることが出来た。

 ただ演目は国民と共に平和に暮らしていた魔王セラドを倒すために、キーリス王国から勇者が派遣されたが返り討ちに遭って平和が続くと言う、舐めてんの?と言いたくなる変則的なストーリーだった。 


 それに魔王セラドって?


 おいおい、骸骨さんの生前の名前が確かセラドリック何とかだったよね。なんで俺が勇者に退治されなきゃならないんだよ?

 返り討ちにしたとは言え、胸糞悪いのでサッと食堂を後にする。勿論おひねりは無しだ。

 でも観客席は何故か拍手喝采なんだよね…解せぬ。


 それから簡易浴室でタライにお湯を入れてもらい、体を拭く。タオル…フワフワのパイル状に編まれたタオルと違って平べったい…は店の備品だ。


 石鹸は無いが、泡の実と呼ばれる黒い木の実を磨り潰して石鹸の代わりに使う。

 潰した時に青臭い臭いがする。流せば臭いも無くなったけど、やっぱりこれは不便だと思う。

 骸骨さんが死んでから二百年以上も経っているのに、こう言うところも何も進歩していない。


 やはり便利な魔法は科学の進歩は遅らせる要因となるのだろうか?

 それとも新商品を出させまいと誰かが妨害したり、何かの意志が働いているのかもね。


 慣れない行水的なお風呂で不完全燃焼ながら体と頭を洗ってリフレッシュ。ドライヤーがないので良く頭を拭いてから自然乾燥だ。


 ドライヤーの代わりに風と火の二つの魔法を同時に使えば理論上は温風になるが、森の中では火災が怖くて魔法の合成はやらなかった。

 だいぶ魔法を制御する訓練は積んだつもりだけど、ライター程度の火を熾そうとしたら指から火炎放射器ばりの炎が出た時の恐怖はまだ覚えている。


 あとは水を出す、風を吹かせる、土を生み出すと言った基本的な魔法は若干…そう、地球規模で考えれば若干森にダメージを与えた程度で済んでいるし。

 誰にも見られていないのでセーフなのだ。

 

 もし火と風を合成した魔法を使ったら、火炎旋風になって自分の丸焼きを作ってしまうかも知れないな。

 地水火風の四属性魔法の制御はもっと訓練しないとだめだな。


 道路を修繕した魔法みたいに、属性を伴わない、純粋魔力のみで事象の変化を引き起こす魔法なら上手く扱えるようになったのにね。


 あ、他にも最近定番の自分自身を綺麗にする『クリーン』みたいなやつも使えた。

 これは水洗いしてる訳ではないのに全身が清潔になる、摩訶不思議な現象を引き起こす魔法だ。

 紫外線やオゾン、次亜塩素酸的な物なら濃度や照射時間の定義が必要だが、そんなの無視して一瞬でお肌も服も綺麗になる。


 自分なりに原理を組み立ててみようと頑張ってみたんだが、理論的な説明はどう考えても不可能だった。

 これはもう非科学的事象の一言に尽きる。

 尚、この魔法を使うには魔力がどえらい必要なので、普通の人に使えるのか甚だ疑問に思う。


 こんな魔法を覚えていたとは、魔王セラドこと骸骨さんは余程の綺麗好きだったのか、それとも必要に迫られてだったのか。


 お湯で体を洗った後に定番魔法の『クリーン』に該当するであろう『洗浄(クリーンアップ)』と言う魔法を自分に掛けると、体を洗う前に同じ魔法を使う時より消費魔力がぐっと減る。

 やはり作業量に消費魔力量が比例するということだ。


 さっぱりしたところで三階の部屋に戻る。

 脱いだ服は洗い物に出す籠に入れておく。別途料金は必要だが、宿屋で洗ってくれるサービスを利用するのだ。

 こう言うことでケチケチする必要は無いので、遺産を残してくれた骸骨さんには感謝だよ。実に有難い。


 井戸から汲んできた水をコップに半分程飲んで一息付くと、ベッドに横になる。


 さて、偶然にも骸骨さんとスライム達を合成して再び人間として生まれ変わることが出来た訳だが、これから俺はどう過ごせば良いのだろうか。

 この世界の生前の俺は『魔王』と呼ばれていたり、身に覚えのない罪を着せられていたようだ。

 今世ではそう言う目に会わないためにも、全ての危険は回避したい。


 危険って言っても、魔物のことじゃない。魔物よりも、むしろ人間の方が危ない生き物だ。

 ケルンさんも見た目は人畜無害って感じなのに、実は戦う商人さんだからね。

 人を見たら泥棒と思う、石橋は叩いて壊すくらいの精神と慎重さが大切だ。


 そう思うと気になって部屋の扉の戸締まりを確認するのは小心者故の行動か。


 ついでに鞄から三匹のスライムを出してやり、アイテムボックスから今日退治した魔犬を取り出して餌として与える。


 このスライム達の大きさは俺の拳より一回り小さく、ほぼ無色透明だ。しかもかなり軽い。

 体の中央にある魔石もかなり色が薄いので、俺がスライムだった時とは別の生き物だと考えて良いだろう。


 それに俺があのダンジョンでゴブリラと戦う前まではもっと大きかったと思う。

 まさか骸骨さんと魔力融合した際、肉体の構築に必要だった分だけスライム液を消費して容積が減ったのか?

 いやいや、そんな訳は無いな。だってスライム三匹より骸骨さん一人の方が大きかったんだから、スライム液の量を補填に当てたとしても物理的にはおかしいでしょうね。


 理由はともあれ、スライム達は小さい方が持ち運びに便利なので有難いんだけどね。


 スライムはその弱さのあまり生態を研究しようとしたり、ペットにしたりする者は居ないだろう。


 でもうちの子達はウィズ、ケン、タクの魂を宿していた影響なのか俺の言うことを理解出来るなど、結構優秀なんだよね。

 紙のように薄く延びたり、簡単な形状であれば体の形を自由に変えたり出来るし、魔物か動物かの判断も出来るし、俺と視聴覚情報を共有出来る。

 一体何処が目と耳なのか分からないが、そう言うものだと受け入れるしかあるまい。


 スライム達は自分の体積の何十倍もの魔犬をペロリと完食した。質量保存の法則はどこに行った?と聞きたくなる。

 しかし血の一滴も漏らさず、かつ硬い頭蓋骨まで完全に溶かして処理してしまうんだから、我が家は毎日ゴミゼロの日だな。


 スライム達に『洗浄(クリーンアップ)』『殺菌(ステライズ)』を掛けてやると、自ら定位置としている鞄の中に戻っていく。

 やはり狭い場所が好みのようだ。後で専用の鞄でも用意してやろうかな。


 実は鞄に手を入れるたびにコイツらがじゃれつくから困っているんだ。

 それかポケットが沢山付いたベストのような服にするか。

 よし、明日は冒険者ギルドへ行くついでに買い物だな。



 そして翌朝。久し振りに人間らしくベッドで眠った後の寝起きは最高だった。


 えっ、俺は人間かって?

 骸骨でもスライムでもなくなったんだし、今はどこを触っても人間そのものなんだよね。

 ほっぺたプニプニで温かいし、ドクンドクンと心臓も鼓動してるし。


 森の中で修行をしていた頃のある日のことだ。

 何気なく魔力を三匹のスライムに渡してみたが、最初の日のように骸骨に戻ることは無かったのだ。

 ひょっとしたらウィズ達スライム三人組に分散していた魂がこの体に定着したことで、肉体が完全に元通りになったのかも知れない。


 今世の俺は、底辺よりちょっと上ぐらいの冒険者として暮らしながら、いつか郊外にオール電化擬きの一軒家を建ててのんびり暮らすことを目標にしよう。

 骸骨さんみたいに魔王と呼ばれる人生や、スライムになるような波瀾万丈とは無縁な生活を送るのだ。

 まぁ時にはちょっとした刺激も欲しいけど。


 あと、贅沢は言わないから毎日お風呂に浸かりたい。ボディソープとリンスインシャンプーが欲しい。

 おトイレは洗浄機能付き便座で、テレビやラジオはいらないけどスマホが欲しい。

 パチスロみたいなヤツじゃない、何かもっと健全で娯楽になるものとかあればなお良し…ん、結構贅沢を言ってるか?


 やっぱり地球の知識があるだけに、この世界の暮らしって不便に感じるんだよな。水道もガスも電気も無いんだから。

 江戸時代にタイムスリップしたと思うしかないな。


 だからと言って自分で欲しい物を開発すると、どうしても目立ってしまう。自分の手は汚さず…じゃなくて自分の手を動かさずに誰かに開発させるか。


 石鹸の製法をしれっと流してみるのもいいな。

 何気にアルカリ性水溶液って危険物だから、それさえ気を付ければ行けるよね?


 それなら、他の家電とかも魔道具工房に作らせて…俺は何食わぬ顔で出来上がってきた製品を買うだけだ。

 よし、決めたぜ! 今世は裏方に徹するぞ!

 目指せ、裏の発明家!

 お前ら全員、俺の掌で踊りやがれ!


 …はっ! 俺はなんてアホな妄想をしていたんだ。そんな事を考えてたら、変な称号が付くから駄目だ!

 とりあえずステータスっ!


 ほっ。特に変な記載は無しか。

 それもそうだ。考えただけで称号が付くようじゃ、この世は称号だらけになってしまう。

 称号が付くには実績が必要で、更に多数の人に認識、認知されて初めて得られる物なんだろうね。

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