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スライム×3+骸骨×1≒人間です。(リメイク版)【第一部として完結】  作者: 遊豆兎
第8章 ダンジョンアタックの準備は怠りなく
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第133話 穀物店でお買い物…さすが農業大国だ

 エマさんが引っ越しパスタを買うので付いて行ったらシロップの原料を見つけてしまった。

 これはもう買い占めるしかないだろう。


 『リミエン商会』は恐らくこれ以上取扱商品を増やす余裕はない筈なので、ルケイドに丸投げしよう。

 アイツには『植物図鑑』のスキルがあるから、きっと上手くやってくれるだろう。

 俗に言う、ビバ他力本願だ。


 それに山の件でカンファー家は奪爵確実だが、シロップの生産に成功すれば地位を取り戻すことも不可能では無いだろうし。


 商業ギルド宛にも手紙を書いて、増産の指示を出させることも忘れない。

 本来なら農業系ギルドに行くべきなのだが、これ以上ギルドの知り合いを作りたくないのだ。使えるものなら何でも有効活用しなきゃ損だ。


 それがレイドルさんだと思うと少し躊躇う部分もあるけど、確実に儲かる商品をあの人が見逃す筈はないのだ。きっと盛大なくしゃみをしている頃だろう。


 それにしても…だ。

 エマさんには俺が店員さんを強迫しているように見えたようだが、俺は笑顔でソルガムを買い占めただけで別に悪いことはしていない。

 値段も向こうの言い値で買うつもりだし。


 でもスイカズラの大量栽培をマジでやろうかと思ってたところに、シロップの原料になりそうな物を見つけたんだからラッキーだよ。

 樺の木からキシリトールが安定して採れるようになるのはまだまだ先の話だから、栽培期間が短くて荒れ地でも育つソルガムはきっと神様の贈り物に違いない。


 ちなみにソルガムは十キログラムで銀貨五枚で、小麦粉とほぼ変わらない価格だ。

 需要がないのに高いのは、輸送費と開拓地で働く人達へのキックバックが上乗せされているからだろう。

 わざわざ育てたのでなく、邪魔な雑草を刈り取った扱いだったらもっと安くても良さそうなんだけど。


 蕎麦の実と米もあるけど、醤油も味噌もみりんも日本酒も無い状況ではそれ程食指が動かない。

 煮干しや昆布から出汁が取れたとしても、めんつゆが出来ないんじゃ掛け蕎麦さえ食べられない。


 大豆はあるし、海塩も生産予定なので後は麹さえ見つけられれば味噌が作れる。

 でも麹はノウハウが無いからカビばっかり繁殖しそうで恐い。最初に麹を見つけた人は偉いよね。よくあんなの蒸した大豆と混ぜる気になったもんだ。


 そう言えば、東と南の大陸には違う食文化があるらしいから、ひょっとしたら和食が食べられているのかも。


 それなら椰子の実や果物の購入を頼んだついでに、食事もマジックバッグに突っ込んで持って帰ってもらうように頼んでおけば良かったのに。

 まあ、今リタが行っているのは南の大陸だから、提供されるのは東南アジア系か熱帯地方系の食事だと思うけど。


 リタの話はどうでも良いけど、異世界に行ってテンションが上がるのってこう言う時なんだね。

 初めて魔法を使った時も興奮したし、風俗店でも興奮したけど…それとはまた別の興奮だ。

 ひょっとして、異世界に行って一番活躍出来るのは農家さんかも。


 ソルガム(仮)の在庫量が分からないそうなので、調べが付いたらブリュナーさんに請求書を渡してくれと店員さんにお願いし、贈り物用の梱包がされたパスタセットをマジックバッグに偽装した肩掛け鞄に入れて行く。

 ソースの入った樽が嵩張るから普通なら二セットしか持てないところを、向こう三軒両隣に配る梱包した分と我が家用に買った分を入れていく。


 それが終わると、

「あの…クレスト様、勇者が愛したと言うライスは?」

と店員さんがおずおず聞いてくる。


「麦と違って凄い手間が掛かるから、手出ししたくないよ」

「そうですよね!」


 何故に喜ぶ? やっぱし手間が掛かるから店としても扱いたくない商品なのか?

 でもダンゴが出来る…のかな?

 米の種類で上新粉とか団子粉とかもち粉とかに分別される筈。

 ここにある米がどんな性質か分からないし、さすがに研究してる余裕は無い。


「…今はね」

「そうですか…」

とガッカリする店員さん。


「これ、食べられるの? 硬いけど」

と籾の付いた米粒を手に掬い、興味深そうにエマさんが見ている。


「この粒だけにするまでにも手間が掛かってるし、外に付いてる籾を取るのも一苦労だよ。

 とにかくライスは処理が大変だから、麦が豊富なコンラッドにはそれ程需要が無いかな…。

 そりゃライスがあれば、スイーツのバリエーションは増やせるかも知れないけど」


 砂糖は高級品だけど流通しているし、小豆もあったから詳しく知らなくても頑張れば餡は作れる。

 でも米か…


「やりましょうっ!

 クレストさん、ソルガムとか言う正体が確かでない物にヤル気を出して、ライスにヤル気を出さないのは不公平です!

 やりましょうよ!」


 不公平って貴女ねぇ…新しいスイーツを食べたい…と素直に言えば良いのに。

 その希望、是非とも叶えてあげたいけど今は優先順位がね…。


「クレストさんっ!」


 エマさんの顔が凄く近い!

 しかも俺の両手をしっかりホールド…『うん』と言うまで帰してもらえない悪徳業者に捕まった気分…?


「じゃあ、ダンジョン攻略が終わってから装置を考えてみるよ」


 そう言うと、エマさんの顔がパッと明るくなってルーチェが「パパっ!」と言って抱き着くのと同じように抱き着いてきた。

 これは『嬉しい! ありがとう!』のハグだよね。

 恥ずかしいけど避ける訳にもいかないので、甘んじてハグられる。間違ってもハブられる…ではない。


 しかし困った…エマさんのお強請りに負けてしまった俺が悪いのだが。

 頭の中に浮かぶ籾摺りは石臼でゴリゴリやる方法と、大小のローラーの周速の差を利用する方法だ。

 石臼は重たいからローラー式の機械を作ってみるか。

 米粒を篩に掛けて大きさを揃え、米粒の大きさに合わせて隙間を調整出来るようにしておけば理論上は出来る筈…ローラーの材質の問題もあるからかなり手間だけど。


 籾殻さえ取り除ければ、後は石臼でゴリゴリ削って米粉にして、何のお菓子に使えるか確認すれば良い。


 でも俺の本業って冒険者だったよな…。

 皆、俺のこと勘違いしてるよ。イベント企画に道路工事に工房のオーナーにおやつの製造…もう少し普通の冒険者向けの仕事を頼んでくれないかな…。


 エマさんはハグの後に顔を真っ赤にしてたけど、その姿を見ると俺も恥ずかしくなる。


「うふっ、恐い人かと思ってたけど、噂は嘘みたいね。

 もしライスが上手く食べられるようになったら教えてね。

 湿地地帯に野良生えしてて、幾らでも獲れるそうよ。小鳥が好んで食べるそうだから美味しいのかもね」


 鳥と人間の味覚は全然違うと思うよ。でなきゃ虫とか食べないだろうし。中には甘い物が好きな鳥もいるだろうけど。


 まぁ、エマさんの捨て身の攻撃のお陰で店員さんが噂を信じなくなったのは良いことだろう。

 俺もエマさんの柔らかな感触を楽しめて嬉しかったし。


 店員さんに御礼を言って店を出る。今まで興味は無かったんだけど、たまには穀物やパスタを扱うお店に入ってみるのも悪くないもんだね。



 その日の夕食は、我が家用に買ってきたパスタセットと以前ラビィとエマさんを虜にした鮭のムニエルだ。


「私も今日から料理のお勉強をします!」

と気合いを入れて厨房に入ったものの、魚の切り身を触るのは初めてだったらしくエマさんがキャーキャー騒がしかったのは…まぁご愛嬌と言うことで。

 『包丁で指を切ったら俺を呼んで』と言っておいたが、一度も呼ばれなかったので切らずに済んだらしい…大人相手になんて心配してるんだろ。


 ちなみに俺のお皿の上の鮭は、何故か他の皿より形がボロボロになっていたのだけど…きっとそういう事だ。

 深く追求するのはやめておこう。

 誰だって最初は初心者だからね!

 でもこれ、自分で食べようって気にはならなかったのかな…?


「美味しいですか?」

「うん、鮭もパスタも美味しいよ」


 ムニエルの味付けはブリュナーさんに任せて、焼くのを手伝っただけだろうから味は前回のブリュナーさんが焼いてくれたのと変わらない。

 こう言う料理は気持ちの問題だからね。


 満足そうに頷くエマさんに、ダークマター製造スキルが無いことに心底ホッとしながら、ほぐれていない箇所にフォークを刺してクチに運ぶ。

 その様子をじっと見つめるエマさんにニコリと笑いかけて、

「うん、美味しい。ありがとう」

と声を掛けるとニパッと笑顔を見せる。


 一人同居人が増えただけだと思ってたけど、こうしてみると心の中がポカポカしてくると言うか、幸せを感じるのはこう言う時なのかと自分らしく無い思いを持つのだった。


 お腹もいっぱいになり、夕食後のリビングで床にベタッと伸びたエマさんの上にラビィが乗っかった。


「食べて直ぐに寝たらミノタウロスになるで。

 エマはんもダンジョン行くなら筋トレせなあかんで。ワイを錘や思うて腹筋三十回や」


 食べて直ぐに運動させるなよ。どこの鬼トレーナーだよ?

 トライアスロンの選手じゃないんだからさ。


 あっ…トライアスロンと言えば、レース中の栄養補給食にジェルやタブレットの他に羊羹もあるんだよね。

 羊羹はかんてんと餡こで作るのは知ってると思うけど、寒天を上手く加工すれば食べられるフィルムも作ることが出来る。


 寒天は山の中で天日干しで乾かすのが一般的だけど、圧縮して水分を抜く方法もあるし、フリーズドライの魔道具があれば作れそうな気がする。

 これが出来たら携帯食に革命が起きるかも知れないよ。


「あんちゃん、なんや知らんけど、悪い顔しとるで。何か思いついたんか?」


 エマさんの胸に乗って錘になっているラビィが目敏く気が付いたようだ。


「エマはん、後二十回やで!」


 お前は鬼熊か! オニグマ…なんか暗号ぽくて格好いいじゃないかよ。

 と言うか…このエログマ…エマさんの胸にしがみ付いとるっ、実に羨ま…しくないからなっ!


「ラビィちゃん…あの…クレストさんの相手してて。アナタを乗せて動いたら暑いわ」

「しゃあなぃなぁ…十回追加やで」

「鬼熊っ!」


 エマさんも俺と同じ感想だったようだ。

 ラビィがエマさんから降りて俺のもとにトコトコやって来ると、膝の上に乗ってきた。お前は猫か?

 それとも熊猫…はパンダだから違うよな。


 夕食後にロイとルーチェは一緒に風呂に入り、髪を乾かしてからリビングに来て腹筋中のエマさんに抱き着いた。

 全く無邪気なもんだけど、腹筋の邪魔になってるからな。


「エマママ、一緒に寝るの!」


 どうやらルーチェがエマさんと一緒に寝たいとお強請りに来たようだ。昨日まではロイと寝てたのに。

 じゃあロイは?

「俺は男だから一人で寝れるぞ」

と格好を付ける。


「じゃあ、クレストさんと一緒に寝たら?」

「えーっ! 恥ずいだろ」


 ガーン…拒否られた…ついに反抗期に突入か?


「エマお母さんこそ、クレ兄と寝たら良いのに」

「えっ!」


 俺とエマさんが顔を見合わせ、首を横に振る。

 こらこら、一緒に寝るのは色々マズいだろ。我慢できる訳が無いだろが!

 嫁入り前の娘さんなんだから、絶対手を出しちゃダメっ!

 バレたら絶対、御両親に殺されるから。


 それにエマさんはお母さんじゃないからね。

 とは言え…孤児院だと面倒見てくれてる人はお母さんになるのか。

 そう意味なら俺はお父さん?

 そうだよな、俺とエマさんの実子じゃなくても、俺が育てると決めたんだから俺にとっては二人は俺の子供で間違いない。


 でもエマさんは下宿してるだけだから、やっぱりお姉さんが正解だよな…。


「ルーちゃん、私はまだママじゃないわよ。

 でもここに居る間はママになってあげるね。

 ロイ君もね」


 エマさん、優しいよ…優しすぎる…

 俺と一緒で、面倒みてる間は孤児院のマザーみたいに自分の子供として接するってことなんだから。

 俺は自己満足と作業員候補として二人を保護しただけなのに、えらい違いだよ。

 こりゃエマさんの方に足向けて寝られないよ…後でこっそりベッドの配置を変えなきゃ。


 結局その後、エマさんの部屋にロイが入って行ったことは彼の名誉の為に内緒にしておこう。

 まさか…この歳でシスコンじゃないだろうな?


 冗談はさておき、ブリュナーさんとの報告会でソルガムとライスを発見し、ソルガムはカンファー家に投げることにしたことを話す。


「…そうでございますか。確かに商会は美容用品部門も立ち上げたばかりで手が出せませんね。

 カンファー家がこの機会を上手く活かせるかですが…普通に考えれば融資を受けるのは難しいでしょう。

 ですが、ルケイドさんに頼れば…。

 ふふ、なるほど、狡いことをなさいますね。親に借りを作らせるとは」


 ブリュナーさんは俺が取った行動の一つ先を読み、俺があの時に考えてもなかった結論に辿りついたみたいだ。

 言われてみれば、そうなるのか…と納得だ。

 俺は商会の都合しか考えてなくて、ルケイドならスキルがあるから何とかするだろうと軽く考えだけだった。


「…ルケイドは将来有望株だからね。

 アイツの始めることなら金を集めるのは難しくないと思っただけだよ。

 貸し借りと思うかどうかは本人達次第。

 これで上手く行けば新しい甘味料が出来て俺もハッピーだし」

と如何にも考えていましたよ、と言う態を装う。我ながら立派な大根役者だな。


「甘味料のことになると容赦しませんね。

 剣術の修行もそれぐらいの積極性が欲しいものです」


 おかしい…何故か思わぬ精神的ダメージを受けてしまった。

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