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スライム×3+骸骨×1≒人間です。(リメイク版)【第一部として完結】  作者: 遊豆兎
第8章 ダンジョンアタックの準備は怠りなく
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第131話 エマさん、お引っ越し

そして今回も…長い…<(_ _)>

 ただのセクハラボケ老人ことスイナロさん爺さんが実は不動産王だったらしい…エマさんが居たら、あの棒を借りて仲良く「アンビリーバ棒」ってやってた自信がある。


 冗談はさておき、三人の工房主を集めて『ガバルドシオン雑貨店』を立ち上げることになり、もう美容用品部門の立ち上げなんてついでぐらいにしか思えなくなってきた。

 これって完璧に感覚が麻痺したってやつかな?


 『ガバルドシオン雑貨店』のことはスイナロ爺さんが面倒を見てくれるし、その場に同席していたレイドルさんも無関係とは行かなくなった。何かあればレイドルさんを利用させてもらおうとほくそ笑む。


 美容用品部門は『リミエン商会』に一人女性役員を追加して立ち上げることになった。

 ニーズのある人が積極的に取り組んでくれているらしくて助かるんだけど、くれぐれもやり過ぎないように。

 ルケイド経由で様々な植物を取り寄せて、美容成分を抽出する地道な作業を延々と続けてくれる人を見つけることから始めないといけないんだよね。


 それとレイドルさんはチャムさんに俺をぶつけるだけでなく、チャム派の中の内部分裂も企んでいるようだ。

 我の強いチャムさんを疎ましく思っている人は少なくないようなので、年末にどうなるかが楽しみだ。今は四月だから八ヶ月先の話なんだけど。



 そんなビッグイベントがあった翌日。

 ブリュナーさんのシゴキは短時間に終わった…ただし時間をギュッと圧縮しただけで内容は変わらず…だからマジで死ぬかと思った。


 いつもの三倍速く動くブリュナーさんにボコボコにされたけど、俺の中の魔界蟲がフル稼働して常時回復プラス反応速度アップで良い感じに魔力を発散したようだ。

 そうで無ければ溜まりすぎた魔力によって、また余計な部分に余計な物が溜まることになる。

 全く難儀な体になったもんだよ。


 何度もアイテムボックスから魔界蟲を取り出そうと試しているんだけど、コイツは自分の意思で中に居続けるんだよ。

 そんなに俺の中は居心地が良いのか?


 でも今は魔界蟲のことを考えてる場合じゃない。

 今日は我が家にエマさんが引っ越してくるから、いつもの鬼のようなシゴキが更にヘルモードに進化したのだ。


 時間をあと一時間でも遅らせておけば良かったと少し後悔したが、朝十二時に迎えに行くようにとミランダさんが勝手に決めてしまったし。

 まぁ、コッチの人は時間感覚がアバウトで待ち合わせをするときは大体四時(三時)八時(六時)十二時(九時)十六時(十二時)を基本に決めてしまう癖がある。

 もう少しずらしたい時には二時間ずらすのだ。なので十二時の次は十四時(十時半)だ。


 そんな理由で死にかけたのも異世界の洗礼として甘んじて受けるしかないだろう。


「クレスト様、大丈夫ですか?」

とシャワーを浴びて汗を流している俺にシエルさんが曇りガラス越しに声を掛けてきた。


「大丈夫大丈夫。頑丈さだけが取り柄だから」

と嘘を答える。頑丈さではなく回復能力が取り柄なんだよね。

 でも今日は治癒魔法を使う間が無かったからかなりキツかった。ブリュナーさん、多分今日は俺に治癒魔法を使わせないようにと息もつかせぬ連続攻撃を仕掛けてきたんだろう。


 実戦になれば、常に回復魔法を使える状況に居られるとは限らないのだから、そう言う場面を想定しておけと暗に言っているのだと良い方向に解釈しておく。そうでないと明日からの訓練がもっと辛くなる。


 脱衣所からシエルさんが出ていったのを確認して浴室を出る。パパっと着替えを済ませ、軽く頭を乾かす。ハンドドライヤーが欲しい…据置型のパーマに使うような機械はやっぱり不便だ。

 カミュウさん達には早いとこ魔力の絶縁体を見つけて、魔道具の小型化を実現してもらいたいものだ。


 鏡で身嗜みを確認、リビングで待機していたシエルさんを連れて庭に出ると、早めに出勤してきたオリビアさんがブリュナーさんに訓練を受けていた。


 彼女は魔界蟲戦を経験し、魔法の効かない相手を敵に回すと自分は手も足も出ないと実感したので、別の攻撃手段を得ようとしているのだ。

 『光輪』が自由に動かせるスキルなら盾として使えるのだが、今のところ壁としてしか使えない。

 しかも丈夫な鎧を着用できる程の筋力がないオリビアさんに接近戦は任せられないので、俺としては『光輪』と魔法の使い方の改良を優先した方が良いと思うけど。


 本人には悪いけど、ブリュナーさんもきっと回避の訓練をつけていると思っているだろう。


 それに魔界蟲は基本的にコッチには居ないから、もう遭遇することは無い筈だ。

 『一匹見つけたら百匹いると思え』と言われる黒い生命体のようにカンファー家の山が魔界蟲に占拠されている様子は無い。それならク魔族のラビィが感知した筈だから。


 外皮が魔法を弾くので、魔力の絶縁体として魔道具に使えるかも知れないのだが、安定供給が出来ない素材に意味は無い。

 魔界蟲は普通に戦えば一体倒すだけで死人が出るような強敵だ。こんなのがウヨウヨしていたらコンラッドは直ぐに大惨事に陥るだろう。


 ブリュナーさんの出した掌がオリビアさんの胸の形を大きく変え、「アゥッ!」と悲鳴をあげてオリビアさんが吹き飛んだ…俺がブリュナーさんに教えた掌底での突きだ。

 腹を打つと危険だから、比較的防御力の高い胸に攻撃したのであって、決してセクハラではない…よね?

 ブリュナーさんクラスなら僅かな時間の接触でも十分感触を楽しめる…ような気もするけど。


 ブリュナーさんがオリビアさんに手を差し出して起こしたところで、

「じゃあ行ってくるね」

と庭に出ている家族達に声を掛ける。

 

「パパっ、エママお姉ちゃん連れて来るんだよね!」

とルーチェがテコテコと走って来て抱き着く。ウチの娘が世界一可愛いのぉ、と頭を撫でてやる。

 でも、いつまで経ってもこの子はエマさんの呼び方がママなのかお姉ちゃんなのか安定しないな。


 ママじゃないと何度も言ってるうちにエマママからエママに変わったのだが、素直にエマお姉ちゃんと呼ぶ日が来るのか不安だ。

 俺のことをパパと呼ぶのでお兄ちゃんと呼ぶように頼んでいるのだが、これもまだ定着しないし。


「エマお母さんが通い妻から本妻に進化するんだね」

と親指を立てるのはロイだ。

 誰がロイにそんな言葉を教えたんだろ?


 まだ十歳のロイが言葉の意味を分かっているとは思えないが。それに進化でもないし…。

 コイツは最初から俺とエマさんをくっ付けようと企んでいたんだよな。きっとスラムに来る前の体験がそうさせているんだと思うけど。


「行ってらっしゃい!」

と見送られ、シエルさんを連れてエマさんが待つギルドの女子寮へと向かう。

 シエルさんを連れているのは、引っ越すからと言っても女性の部屋に男一人では入り辛いからだ。


 二十分程歩いてギルドの女子寮に到着すると、先に一階入り口の管理人室へと顔を出して挨拶をする。

 エマさんをウチから寮に送った時に管理人さんとは何度か顔を合わせているので、もう不審者扱いはされない。


「管理人さん、おはようございます」

「クレストさん、おはようございます。

 エマちゃんの引っ越しですね。

 今日は宜しくお願いします」

と予想外に丁寧に頭を下げてくれた。

 娘を送り出すお母さんじゃないんだし、そんな大袈裟な。


「俺は荷物を運ぶだけで、大したことことはしないから。お手伝いに家事のプロも連れてきたし」

「ふふふっ。相変わらずですね」

と意味ありげに管理人さんが笑うと、シエルさんも小さく頷く。良く分からないけど、女性同士専用の以心伝心的な何かか?


「本来女子寮には男性は入れないのですが、今日は特別ですからね」

と管理人さんがウインクする。年齢的に俺のダブルスコアの女性にウィンクされても困るのだけど。


「エマさんの部屋は二階の一番奥だから。井戸はそこね」

と教えてもらい、二階に上がる。何となく昭和レトロと洋風ファンタジーが融合したような建物だ。


 ドアをノックしてシエルさんにエマさんを呼んで貰うと、

「ハァーイ、開けますね」

と返事をしてドアを開けたエマさんは、首もとが大きく空いた半袖シャツと短パンのラフな姿で、右肩にシャツが寄ってブラの肩紐が堂々と見えていた。


「あっ! クレストさんもっ! きゃっ! 見ないで」

と顔を赤くする。

 そう言えば朝は弱いと言ってたなぁ。もう十二時(九時)なんだけどね。


 きっと短パン姿を見られたのが恥ずかしかったんだよね、コッチには太腿まで見せる衣装は無いから。と、肩紐を隠そうとするエマさんを見つめ…こう言うレアなシーンは中々見られないし、と自己弁護。


「クレストさんはバケツにお水を。エマさんは先に着替えて」

「ひゃあいっ!」


 シエルさんが俺にバケツを渡し、スッとエマさんの姿を隠すように中に入ってドアを閉じる。

 中から「クレストさんのエッチーっ!」と言う声やドタバタする音が聞こえたけど、俺は俺の役目を果たそうか。


 ガチャポンプで水を汲んで両手にバケツを持って二階へ上がる。

 シエルさんが入って良いよとドアを開け、俺の頭をコツンと小突き、

「あんまり見たらダメですからね」

とダメ出しされた。


「私も寝過ごしたのがいけなかったし」

と顔を赤くしてモジモジする様子に可愛いなぁとつい見蕩れてしまう。


「はいはい、仲良しは綺麗って昔から言いますけど、手早く片付けますからね」


 それからシエルさんが俺とエマさんに指示を出して荷物を片付け…と言うよりアイテムボックスにポイポイッと収納していく。

 エマさんの『タンスにゴンゴン』は人前では使わせないようにしている。便利に使う癖がつくと、うっかり知らない人の前で使ってしまう恐れがあるからだ。


 俺のアイテムボックスは、ケルンさんに初めてあった時にやらかしているので今更隠せない。

 一時は肩掛け鞄をマジックバッグに見せ掛けて使っていたけど、あの苦労はあまり意味が無かったようだ。


 でっち上げた『格納庫』スキルを堂々と使い、エマさんの荷物を一つ一つバケツリレー方式で収納していく。

 スキルを使えば箱に移し替える必要が無いのでとてもラクだ。この世界には段ボール箱が無いから、箱と言えば全て木箱になるからね。


 最後は備え付けのタンスの中にある物だ。

 ここには本や食器類と違って、ばらで収納する訳にはいかない秘密が収まっているのだ。


「…袋に詰めるから、ちょっと外に出てて…」


 そうなりますよね、分かっていました。

 どんな下着かなんて少しも興味はありませんけど…


「ギルティですね」

と箒でシエルさんに追い出された。何故考えていることが分かった?


 入っていいよ、と呼ばれた時には飾り気の無い革袋が置いてあるだけだった。

 中の物を見ることが出来ない寂しさを感じつつシュポンっと格納して、後は掃除をしたら退去の準備は完了だ。


 何も無い四畳半の部屋は三人だとあっと言う間に掃除が終わる。

 使った雑巾に『浄化』を掛けて干し場に掛ければ全作業が完了だ。

 

「早かった…クレストさんのスキルは反則です。マジックバッグより便利だなんて」

とシエルさんが呆れたような、関心したような顔をする。


 マジックバッグは基本的にダンジョンから出てくる異世界定番の超便利グッズだが、この世界のマジックバッグはクチより小さな物しか入れられない。


 そのマジックバッグ以上の能力を秘めたアイテムボックスの便利さを知ると、どうしても使いたくなるんだけどね。

 それで運送屋さんの仕事が無くなっちゃったので申し訳ないんだけど。


「一家に一人、クレストさん…ですね」

と恐ろしいことをエマさんが言うと、シエルさんも大きく頷く。

 俺は一人しか居ないんだけど…スライムだった時なら分裂も出来たけど、さすがに人間の体を持った今は分裂出来ないです…恐くて試そうとも思わないし。


 …でも、もしできたらリアル分身の術?

 いや、服は分身出来ないからやっぱりやめておこう。


 借りていたバケツを管理人さんに返して、エマさんが挨拶をする。


「管理人さん、二年間ありがとう御座いました」


 へえ、受付嬢になる前からギルドの寮に住んでいたんだね。受付嬢としてはまだ新人だから、下積みの為に下部組織で働いていたのかも。


「エマちゃん、次に来るときは赤ちゃんを連れてきてね!」

と少し涙ぐみながら冗談とも本気ともつかぬことを言う管理人さんに軽く頭を下げて別れを告げた。


 未婚の男女が並んでいると、何故かそう言う方向へと話を持って行きたがる人が多くて困る。

 これはいつものことだし、赤ちゃんが元気に育つ前に亡くなる確率が高いから産めよ増やせよの精神が潜在的にあるのかも。

 それに外に出れば魔物の脅威もあることだし、仕方ないかと諦めよう。


 我が家に戻る前に家具屋に寄ってタンスやベッドなどを購入してもらう。家具は好みがあるから、本人に決めてもらうつもりで用意はしていなかったのだ。

 商業ギルドのお勧め店ではなく、通り道にあってエマさんも事前に入っていたらしい。


 エマさんが白とピンクで統一された家具セットを選ぶと、店員さんがニコニコしながら俺に近寄り、

「お届け先は…いえ、お持ち帰りになられますよね?」

と配送は不要だよねと確認された。

 こんな店員さんまで俺の収納スキルのことを知ってたのか。


「買い付けから戻っている最中、馬車を修理するクレスト様を見た物ですから。

 目立つ髪の色に見慣れない機械を操作しておられたので良く覚えております」

と後から出てきた店主が悪びれることなく弁明する。

 まさか俺のスキルの噂を流したのはお前さんか?


 バレているなら話は早い。シュポンっと家具セットを収納して家具屋を出る。

 手軽な三段ボックスや組立式のスチール棚が無いことに気が付いたので、『ガバルドシオン雑貨店』のラインナップに加えてやろうと思い付く。

 嫌がらせだって?

 違うよ、ただの報復です!

 それに便利だし。家具屋にはちゃんとした家具、雑貨店には組立式の家具…棲み分け出来てるしさ。


 家具屋から我が家への道中、外で昼食をとることに。

 シエルさんも居るから女性の好むお店になるかと思っていたら、意外にも普通の定食屋だった。

 お手頃価格で腹いっぱいになる、がコンセプトらしい。

 なので職人さんや男性客が半数以上を占めていた。


「ここはブリュナーさんが料理を教えた料理人さんの営むお店なんですって。

 ブリュナーさんは店を出すなどまだ早いと言ってたんですよ」

とシエルさんが教えてくれた。


 お店は無駄な装飾を排除し、お洒落の欠片もないので実に見た目でお客を選んでいる。

 お昼の時間帯は回転率を上げるためにメニューを二種類の定食に絞っているようだ。

 今日は焼き肉定食か焼き鳥定食のどちらかだ。


 場違いだと思われる二人の女性に視線が注がれる中、大してそれを気にせず焼き肉を頬ばる二人。

 俺だけ焼き鳥定食だ。

 焼き鳥と言っても炭火焼きではなく鉄板の上で豪快に焼くスタイルらしい。炭で焼くのは少々手間が掛かるからね。


 さっぱりしたレモン風味のソースが絶品で、焼き鳥の三分の二は女性二人のお腹に収まったけど、その分だけ二人から焼き肉を貰ったけどね。

 でもその光景に怨嗟の視線が注がれていたことに、きっと二人は気が付いていないんだろうな。


「安くてボリューム満点、しかも美味しいです。

 なんとなくブリュナーさんの味付けに似ていましたね」

とシエルさん。いつも料理のお手伝いをしているだけに、ブリュナーさんの料理には誰より詳しいのだ。


「違うのは素材と調味料かしら?

 ブリュナーさんは妥協しないで食材や調味料を使ってるけど、この店はお客様の層に合わせて提供価格を抑える為に調味料を工夫されているしている…のでしょうか」


 周りのテーブルからお客さんがかなり引けているので、食後にそんな感想を述べながらのんびりとお茶を飲ませてもらう。

 お店としても、女性二人連れのお客さんは珍しいだろう。客寄せパンダとして役に立ったみたいだし。


 厨房も落ち着いたらしく、タオルで手を拭きながら料理人が席まで歩いてきた。


「お客さん達、ブリュナー師匠の料理を食べたことがおありで?」

「うん、よく作って貰ってるよ」

「よく、ですか?

 中々気難しい人で、侯爵家を出てからは何処にも行かなかったと聞いていたんです。

 気に入らない相手には料理を作らないと仰られていましたよ」

「あー、まぁ気が変わったんじゃないかな?

 料理を作りながら余生をのんびり過ごしたいとか言ってたし」


 今どこに務めているのかは教えていないらしい。それなら俺も教えないでおこう。


「あの師匠がねぇ…おっと、団体様だ。良ければまた来て下さいね」

と言い残して慌てて厨房へと戻っていくので、こちらも店を出ることにした。


 自宅に向かう道中でエマさんが、

「あれ? ブリュナーさんって家令が元々のお仕事で、料理は趣味だったわよね?

 さっきの料理人さんって執事の弟子なの?

 それとも料理の弟子なの?」

と素朴な疑問に気が付いた。


 言われてみれば確かに…まさかナイフ投げの弟子とか言わないよね?


 三人でゴブリン♪ゴブリン♪ゴゴゴブリ~ン♪と鼻歌をハモりながら家に到着すると、エマさんの到着が待ちきれなかったのかロイとルーチェが前庭で待っていた。足下に番犬代わりのラビィも座っている。

 

「ただいま!」

と言ってエマさんがしゃがむとルーチェが抱き着き、ラビィが脚に体を擦り付けに行く。

 さすがエマさん、この二人の一番人気だ。


「エママお姉ちゃんのお手伝いするのっ!」

とルーチェがエマさんの手を引いて家の中へと攫って行った。


「今日から茶髪の姉ちゃんもここで暮らすんやな」

「ラビィ、茶髪の姉ちゃんじゃ無くてエマお母さんだよ」

「ワイ、熊やから名前覚えられんのや」


 プッ! 嘘にもなってないし


「次はロイはんが鬼や。オリビアはんも早ぉ逃げるで!」

と三人で鬼ごっこが始まった。可哀想にオリビアさんも巻き込まれたらしいが、これもブリュナーさんの訓練メニューのひとつだろうか?


 そんな三人を庭に残して三階のエマさんの部屋に上がり、「パパ、来るの遅いっ!」と文句を言われつつ、荷物を次々と出して行く。


 マジックバッグだと出す時に向きも場所もアバウトにしか指定出来ないが、アイテムボックスなら細かく指定出来る。


 それでも壁際にタンスやベッドを直接出すのは恐いので、少し手前に出してグリグリと動かす。


 自称お手伝いのルーチェは棚に手が届かず、俺がクレーンゲームのようにルーチェを運ぶので却って時間が掛かったのだが楽しかったからヨシとする。


「ルーチェちゃん、その革袋は開けないでね!」

と言われた傍からルーチェが中から下着を取り出し、頭に被る…悪気は無いと思うがエマさんはイチゴ柄の下着を見られてあたふただ。

 こう言う時は、

「お茶の用意してくる。リビングに来てね」

と何も見なかった風を装い、慌てて部屋を出るのが一番だろう。

 

 ルーチェの悪戯にめげず作業を終えてエマさんが降りてくる。


「寮の部屋より広いし、二階の屋根からの眺めも良いし。

 クレストさん、我が儘を聞いてくれてありがとう」

「気にしないで。うちの皆もエマさんは家族だと思ってるから」

「そうだよー、エママなの!」

「ルー、ちゃんとエマお母さんって言わなきゃダメだぞ」


 鬼ごっこでバテたオリビアさんを庭に置き去りにしてきたロイが、ルーチェにおかしな説教をする。

 気にしたら負けだ。

 事あるごとにエマさんをお母さんとかママとか呼ぶのは、無意識に母親を求めているからだろう。


「うん、じゃあ今日から私がママね!」

「やったーっ!」

 エマさんが子供達にそう言うと、子供達も満面の笑みを浮かべて抱き着いた。


「なので、よろしくお願いします、貴方…」


 え? この、あなたって…?

 あなた達なにやってんの!と怒る時に使う貴方?

 それとも…夫婦間での呼び方の?

 だとしたら、エマさん本気?

 分からないなぁ、女性の気持ちって。


「うん…まぁ気楽にしててね」

と的外れのことを言って自分の部屋に戻る。


「まさか貴方なんて」


 不意打ちを食らって驚いたけど、俺ってエマさんをどう思ってるんだろ?


 俺だって男の子だからさ、同じ屋根の下、と言うよりお隣に可愛い女の子が住むことになったんだよ?

 気にならない訳がない。

 間違ってドアを開けたら着替え中だった…そんなハプニングが起こる日が来るかも…

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