第130話 やはり美容用品とセクハラ爺さんに勝てるものは無い
今回も…長いです。<(_ _)>
レイドルさんに貴族向けの商品について教えてもらいに来たのだが、俺のサービス精神は伯爵に迷惑だったと理解した。
『ただより恐い物は無い』ってやつだな。
それにしても、ファンタジー世界なのに会計監査はやたらしっかりしてるぞ。
勇者がこんな文化をもたらしたと思えないから、恐らく転生者の知恵なんだろう。悪いことじゃないけど…サービスさせてよ…。
「それと別件だが、オマエ、玩具と食品にも手を出したな?」
「それは疑問形を取った強迫か何かで?」
「俺の調べが付いていることは分かっているなら話は早い。
チェスの駒の脚にガバロックの機構を取り付けたやつ、アレが上層部の目に留まってな。
国王に献上することになった。
これが評価されれば、シオン雑貨店には大量に注文が舞い込むことになるだろうな。どうする?」
どうすると言われても…その前に国王って?
貴族って聞いたけど納品先は国王か…まぁ確かに国王も貴族だよな。
「ちょいと待って。
さっきシオンさん達が集まって、貴族向けの商品なんて作ったことがないからどうするかって悩んでてさ。
それでその相談に来たんだ」
「先に聞いて来たのか。
工房の知名度は上がったし、大変名誉なことだ。で、おまえはどうする?」
「だから、どうすると聞かれても困る。
何をどうするのか具体的に言ってよ」
虐められてる気分だよ。それに俺は商品を作ることには無関係だし、聞かれても困る。
「『リミエン商会』と『キャプテン クッシュ』の実質オーナーはオマエだろ。そこと同じ遣り方を取るのかどうかだ」
おかしいなぁ。俺がオーナーだとバレないように裏から手を回しているんだけど、やっぱりこのオッサンはお見通しってか。
どこかにスパイを貼り付けてんじゃないだろうな?
そうだとしたら、かなり優秀な隠密系スキルの持ち主なんだろう。
スパイの話は置いといて、問題は貴族対応だろ。
俺がオーナーになっても貴族向けの対応なんて出来ないし、大量のオーダーなんて熟せないのも分かってるし。
それにバルドーさん、ガバスさんが居ないとあのアイデアは商品化が出来なかった訳だし。
「『エメルダ雑貨店』は洗浄剤と紙から手を引かせて、ガバスと一緒にシオンに協力させろ。
オマエがオーナーになって店を作り、三人纏めて面倒見ろ。名前は『リミエン玩具店』でも『シオガバルダ玩具店』でも『ガバルダシオン玩具店』でも何でも良い」
「三つの工房を一つに集めて、大きな玩具工房を作れってことね?」
「そうだ。ある程度のメンツを揃えて、そこに資金を投入しないと貴族対応なんか出来っこない。
三つの工房を個別に回るのも手間だろ。
シオンの店に目を付けたのは、リミエンでもかなりの実力者だからな」
「だから断り切れなかったのか」
マジで貴族って厄介な連中だよな。相手にしたくないよ。よし、貴族対応はブリュナーさんに丸投げしよう、そうしよう。。
それで…玩具店を作るのは俺的には構わないけど、個人事業主から会社員にジョブチェンジさせられる本人達の意向はどうなんだろうね?
資本金はブリュナーさんに聞かないと分からないけど、多分大丈夫だと言うだろう。
「大手の玩具工房を持てばオマエにもメリットがある。
子供達用に新しい玩具を考えついたら、遠慮なくすぐに作らせることが可能になるし、オマエの子供達が生まれたら赤ん坊用品がきっと色々欲しくなるだろう。
玩具に限らず、今までは生活の為の仕事しかできなかった職人達も、これからは自由な発想で製品開発が出来るようになる」
赤ん坊の予定は無いけど、そう言われると悪い話には思えないな。レイドルさんに言われてって言うのは初めてだけど、乗ってみても良いかも。
「最初の音頭はそっちで取ってくれる?
さすがに俺から統合しませんかって切り出すのは失礼だと思うんだよな。
だって皆のとこの看板が消える訳でしょ」
「オマエが余計なアイデアを出さなければ、こうはならなかったんだがな」
悪いの俺なの? ちょっと馬車の中でも遊べそうな物を考えただけなのに。
「シオンもバルドーもガバスも新商品の開発で名を上げたからな。
これだけの工房が集まって出来た工房なら、幾らでも工員が集まってくる。バンバン儲けてくれ」
「儲ける儲けないの話じゃなくて、一番聞きたいのは国王様向けの商品の対応なんだけど」
「専門の装飾デザイナーと彫金師、細工師を紹介してやる。商業ギルドとしても、恥ずかしい物を納品させる訳にはいかん。
そいつらも小さな工房だと協力を拒むだろうな。あぁ言う連中は何故か性格も歪んでくるからな」
レイドルさんが勝利を確信した監督のように頷くけど、そう言う人を紹介されるの? ちょっとご勘弁なんだけど。
「でもさ、バルドーさんはともかく、エメルダさんは継続で良いんじゃないの?」
「チャム婦人の件がある。オマエ、まだあのおばさんの謝罪は受けていないんだろ?
そのせいでチャムとエメルダの仲が悪化しているぞ。馬鹿たれが」
俺、悪く無いし。悪いのは向こうだし。
…て言う考え方自体が既に悪手になってるのか?
「俺が山に行ってる間に一度ウチに来たらしいけど。俺から会いに行くのはおかしいだろ?」
「その為の家令だろうがっ!」
マジで怒鳴られた。なんで?
「オマエが帰ってきたことをブリュナーに伝言させりゃ良かったんだよ。オマエのことだ、アイツに謝罪は不要だとか言ったんだろ?
本心からでなくてもな、女が謝るって言ってる時は素直にヘイヘイと受け取るのが社交辞令、世渡りのコツだ」
「本部長、酷ーいっ! でも当たってる」
ずっと黙って聞いていたスレニアさんがクチを尖らせた後に頷いた。
イスルさんは無反応を押し通す。この程度なら彼女に取っては軽い立ち話程度に過ぎないのだろう。
「あのおばさんが悪いのは分かっているが、前にも言ったが直接の原因を作ったのはオマエだぞ。
傷口を広げたのはエメルダとルケイドかも知れんが」
「どこの馬の骨かも分からない、とか言って勝手に俺を悪者にした人の擁護をするわけ?」
最初から俺を不審人物扱いしてて、なんかあの人の相手はイヤなんだよね。
「するかよ。
あのおばさんには公になっていること、なっていないこと両方の、オマエの功績を延々教えて説教してやった。
顔を引き攣らせて泣きながら御免なさいと謝ってたがな」
そんなに恐れられるような功績なんて無い筈だけど。多分尾鰭背鰭を付けたんだろう。
「それでだな、今はルケイドや製品開発部と一緒に研究をやっているが、ウチの部隊はそのうち引き上げさせる。そうすると恐らくアイツはルケイドを蹴り出そうとするだろう。
既にルケイドと方向性が違ってきているからな」
「嘘? ルケイドが蹴り出すんじゃなくて?
ちょっと意味不明なんだけど」
研究資金は元々俺が出してるし、研究所は商業ギルドが借りてるし、音頭はルケイドが取ってる。それで何でルケイドが蹴り出されるの?
訳が分からないんだけど。それなら先に蹴り出してやらないの?
「アイツは自分の欲望、綺麗になりたいと言う願望に忠実なだけだ。
美容の為の洗浄剤にのめり込むのは目に見えている。成果が出れば、ウチにもメリットがあるのが…な。そこは察しろよ」
高額な美容用品をチャムさんに作らせて、上前を撥ねるのか。それがギルドの仕事だから仕方ないか。
「研究所は商業ギルドがお金出してるし、資金は俺が出してるよ。俺は実務から手を引いたしクチは出さないことに決めてるけど」
「あそこは年末までの契約だ。問題ない」
イヤイヤ、俺の資金は問題点だよっ!
「だからルケイドが蹴り出される前、年末迄に一旦基礎研究は終了させて、全ての資金を引き上げろ。
そこでチャムと縁が切れる。
洗浄剤も紙もそこそこデータは取れただろうから、目的の一つはかなり達成した筈だ。
来年、ルケイドが男爵位を得てから正式に洗浄剤と紙作りに乗りださせろ。全面的にウチもバックアップするつもりだ。
工場ではオマエの考えた通り、廉価版の製品を大量生産すれば良い」
つまり、年末迄に得られたデータで大量生産用のレシピを作って、来年から生産開始しろってか。
確かに毎年性能アップした洗剤のコマーシャルを見てるから、言いたいことは分かる。
「チャムには資金は無くても十分な知識を得ているから、金持ち連中から出資を募って誰かに工場を建てさせるだろうな」
「ウチとチャムさんじゃ客層が違うから潰し合うことは無いだろうけど」
それで普及用の商品と美容用の商品に別れされるんだな。
「でも、釈然としないよ。知識の持ち逃げを許してるみたいでしょ」
「一応だが、契約には研究所で見聞きして得た知識を第三者に開示した場合の罰則がある。
だがその程度じゃ抑止力にはならんだろう。
それに元々オマエだって洗浄剤の製法は情報開示するつもりでいただろ?」
言われて見れば、石鹸は必要な物だから誰が作って売っても良いと思ってたんだ。それがチャムさんだっただけだ。
「脇が甘いんだよ。エメルダが引き入れた連中が皆まともな奴とは限らんだろうが。
後から契約結ばせるなんざ、愚の骨頂だぞ。
しっかりした人選もせず、有利な情報だけ奴らに与えて契約で縛らんかったから後で痛い目を見るんだ。よく覚えておけ」
「レイドルさんが副部長で無ければ、俺だって最初からギルドに相談に来たんだけど」
レイドルさんの大きな手がアイアンクローで俺の頭を潰そうとする。マジで痛いし。
「でな、当然だがチャムに美容用品の独占をさせる訳にはいかん。
上層部の中にはオマエの抑止力としてチャムを利用しようとする奴も出てくるだろうがな。
それに対抗して、オマエもオーナーになって美容用品部門を立ち上げろ。そしてチャムに勝て。そうでなければ腹の虫が治まらんだろ?」
「俺、言っとくけど普通の冒険者だよ。美容用品で闘うのおかしく無い?」
「普通の冒険者はサービスで土木工事はしないし、商会にスイーツ店に工房は持たないぞ。
それにチャムという魔物と闘うには、同じステージに上がるしかないだろ?」
…あのおばさん、魔物扱いかよ。
確かに地球にもモンスターペアレントとかモンスターカスタマーとか出現してたし…。
「そう言や、チャムさんと商業ギルドって昔何かあったんだよね?」
「…チャムと付き合っていた男がチャムをふって商業ギルドの職員と結婚しただけだ。
アイツの完全な逆恨みだな」
マジか…女性って恐い…なんて言うと差別とか蔑視とか言われるから言わないけど、もう何年も前のことを根に持ってるのか。
それに俺は関係ないのに商業ギルドの回し者呼ばわりされたもんな。
「ルケイドやオマエに腹芸を期待するわけにもいかんから、チャム対策は製品開発部にやらせよう。
イスル、すまんが美容用品専門チームの立ち上げの」
「上申書を作ります! ソッコーで!」
「作っ…任せた…」
「スレニアも手伝うよ!」
ずっと無表情で座っていたイスルさんがレイドルさんの言葉を遮って立ち上がり、脱兎の勢いで机に向かった。
すぐ横で「ほぉほぉ、ふむふむ、なるほど」とスレニアさんが相槌を打つが、どう見ても手伝いになっていない。
前屈みになったスレニアさんの谷間が見えて下半身が反応したのは絶対に内緒だ。
でも貴族向けの商品の件で来た筈なのに、何でこんな大きな話になったんだ?
話を大きくしたのはレイドルさんだけど、いつの間にか俺もイエスマンになってて止められなかったんだよね。
美容用品が充実するのは女性にとって嬉しいことだし、綺麗になった女性を見られる男性も嬉しいし。
それでリミエンの財政が助かるのなら、悪いことはどこにも無い訳だ。
でも俺が美容用品部門とか、ちょっと違う気がする。出資するのは構わないけど『リミエン商会』みたいに誰かに身代わりを頼まないとな。
そう言う人選も商業ギルドに任せりゃ大丈夫か。
けどさ…俺って死ぬまでに骸骨さんの遺産を使い切るつもりだったけど、商売が上手くいったら使い切れなくならないのかな?
と言うか、こんなことばっかりやってるけど、どこか人里から離れた長閑な場所でノンビリ暮らせる日が来るのかな?
今のうちに山を買って別荘でも建て始めておいた方が良い気がしてきたよ。
でも山って買えるのかな? 土地は基本的に領主の持ち物なんだよね。そこを間借りしてるってのが、この国の基本的な考え方だ。
開拓、開墾した農地だって『優先的使用権』が与えられているだけだ。過去にも実際に『開墾ありがと。じゃ、俺がここ使うからオマエはアッチを開墾しなよ』と農民に無茶を言った領主もいるらしい。
そんな領主を野放しにするような国ではなかったらしく、そいつはすぐにすげ替えられたらしいけど。
今までリミエンが開墾に積極的でなかったのは、単に食べる分には困らないだけの収穫があったからだ。それ以上増やしても倉庫の肥やしになるだけ。
でも油の増産、高濃度アルコールと麦芽糖の製造が始まったので、開拓が急に推奨され始めたのだ。
『リミエン商会』もその流れに乗ったらしく、冒険者ギルドに依頼を出していたのを見ている。
でも山となると、どうなんだろうね?
「レイドルさん、山って買えるの?」
「何を急に薮から棒に?
山は管理も難しいし、魔物が襲うこともある。それに何より、何をするにも不便だぞ。
その前提でも良いなら、爵位を貰えば領地として与えてもらうことは可能だ。基本的に土地は平地だろうが山地だろうが、どんな僻地だろうが領主の持ち物だからな」
やっぱりダメか。
「もし貰えたとして、そんな場所でどうするつもりだ? 住むのか?」
「住んでも良いかなと。何とかなるんじゃない?」
「山一つでも領地を貰えばオマエも立派な領主だぞ。最低百人の住民は連れていかなきゃならん。
領主になる気が無いなら諦めろ…」
その間は何? 他にもあるんでしょ?
「何か別の方法が?」
「伯爵に欲しい場所をお強請りするのはどうだ?
お前への報奨金代わりに使い道の無い山をくれてやったと、他の領主連中からおもしろおかしく揶揄されるのは間違いないから、うんと言わせるのは難しいがな。
言えば間違いなく銅貨禿げになる。伯爵の頭に禿げを作る覚悟で聞いてみろ」
うーん、レイドルさんより伯爵の方が人当たり良かったから、無理を言って禿げさせるのは申し訳ない。これがレイドルさんならそう思わず済んだのに。
「失礼なことを考えてなかったか?」
「えっ…何のことかな…で、他には無い?」
「…考えてたのか…ったくオマエはなぁ…。
自給自足で満足出来るなら、新規開拓地だな。最近は畑不足も無かったから開拓団の派遣など無かったが。
いや、これには開拓準備金が必要か…それなら…オマエを山奥に追いやって誰かに何か言われても禿げないような領主に土地を貰え。そんな奴が見つかればな」
なるほど…人里離れてポツンと一戸建て生活は中々のハードルが有る訳だ。
レイドルさんとの話はこれで終わらせ、レイドルさんとセクハラボケ老人のスイナロさんを連れてすぐにシオンさんの店へと向かった。
何故スイナロさんか…セクハラする癖はあるけど、実はこの爺さんもかなりの有力者だったのだ。しかもマジックハンドを一人で作り上げる腕の持ち主だったのだ。アンビリバ棒だよ。
まだバルドーさんとガバスさんは自分の店に戻らず、商品デザインをあーだこーだと議論していた。
「失礼する」
と俺の後からレイドルさんが部屋に入り、
「儂も居るぞぃ」
とスイナロ爺さん。店番の女の子には目もくれなかったので、どうやらストライクゾーンを外れていたらしい。
「三人揃っていると聞いてな、直ぐに来たんだが。
国王への献上品を製作すると言う方向で決まったらしいな。助かる」
とテーブルの上のメモを見て安堵したようだ。
「最近良く耳にする三人じゃ。何か面白いことをやってくれると期待しておったがのぉ。
まさかここまでの大事に発展するとは予想外じゃよ、良くやってくれた!」
と珍しくスイナロ爺さんが女性がいない…と言うのに機嫌が良い。
居ないわけではないのだが、この爺さんにとっては多分シオンさんも男性に映っている筈だ。
「国王への献上品といっても、色々と段階があってな。武具や食器類はお主らの想像通り、派手な装飾を施した見栄え重視のガラクタが好まれる」
おい、献上品をガラクタ呼ばわりするんかい?!
「他にも珍しい食品も丁寧な梱包を施すのぉ。
で、お主らの作ったブロックチェスじゃが…何ともユーモアのある動物の表情と足ツボマッサージみたいな凸凹した板。
材質は何とも陳腐な白一色の樹脂じゃな。
こんな物に派手な装飾をしても誰もそこを見やせんじゃろ。
これが木なら全部の駒と盤に焼き印を付けて、専門職に作らせた綺麗な箱に収めれば済む」
ナルホド、全体をブラバ樹脂で作っているから、木のようには行かないって言うことか。
「このブラバ樹脂じゃが、使用量を最小限に抑えられるか?
凸と凹は木では作れんことは分かっとる。
多少手間を掛けにゃならんが駒をツーピースに分割して、凹の基部だけ樹脂製にするんじゃ。
これなら献上品を作る段階では型を一つ作れば良かろう?」
あ、なるほどね。今は駒全体が樹脂製だから、見た目がショボくて貴族向けになりそうにないけど、凹部を隠すように木で作れば普通のチェスの駒と変わらない。
それならシオンさんでもエリスちゃんでも作ることが出来るし、焼き印も当てられる。
「盤も…手間を掛けるが升目の数だけ木の板に丸い穴を開け、下から凸部分を覗かせる構造にするんじゃな。
ここまで言えば、完成形が見えたじゃろ?」
「スイナロ爺、かたじけない」
マジックハンドで顔見知りになっているバルドーさんが三人の代表になって頭を下げる。
「これなら貴重な樹脂を節約可能じゃ。作る手間はかなり掛かるがのぉ。
まぁ工賃をしっかり踏んだくれると思って喜んでおけば済む話じゃよ。
完成したら、装飾師が無駄にピカピカにしてくれるわい。
入れ物もシオンの腕なら問題ないじゃろ。
儂からリクエストがあるとすれば、箱の留め具にセラドボタンを使うことぐらいじゃわい。
お主らなら余計な心配は不要じゃよ」
今までセクハラボケ老人扱いして済まん!
「おぉ、もう一つリクエストがあったのぉ…次に来る時には膝枕してくれるDカップ以上の娘を用意しておいてくれんか」
…一回このセクハラ爺さん、絞めて良い?
折角見直したばかりなのに!
そして残る問題をレイドルさんが切り出した。
「シオンさん、バルドーさん、ガバスさんに伺いたい。
看板を畳み、クレスト君をオーナーにした新しい工房に入って貰えないだろうか」
三人が「えっ?」と言う顔を見せてから暫く沈黙を続ける。
「ワタシはそれで構わないわ」
一番最初に返事をしたのはシオンさんだ。実に男前だ…女性だけど。
シオンさんの返事にスイナロ爺さんが反応し、胸を見て一瞬にして興味を無くした。なんて失礼な…。
「ブロックの型を作ったのは儂じゃなく、儂の弟子なんじゃが。
ご…ボビースだけを傘下に入れると言うことかの?」
「ワッフルの型を作ったのは弟子のギズさんでしたっけ?
それとバルドーさんは皮剥き器と薄切り器を開発している…キッチン用品が色々とできるのでは?
勿論ガバスさんの腕が確かなのはリミエンの鍛冶師は皆認めていますし」
「三人纏めて欲しいと言うことか。
それなら儂も構わん」
ボビースさんだけを、と言われたら断るつもりだったのか。
「知っておると思うが、『エメルダ雑貨店』の新商品は全てクレストの発案じゃ。
儂らは作っただけじゃ」
「勿論それも承知しています。恐らくリミエンで二、三を争うクレスト君の理解者だと思っていますから。
ちなみに一番は彼の家族と仲間達、争う相手はケルンさんです」
レイドルさんがそう言ってフッと笑った。
「それなら儂もその話に乗った。
じゃが、『エメルダ雑貨店』はエリスを店主にして続けさせてもらう。
エリスにはもう少し住民との交流の場を持たせてやらんとな。
それに新しい店で武器は造らんじゃろ?」
ホクドウをエリスちゃんに作らせ続けようってか。
そうだよね、新しいお店は玩具、キッチン用品、あと必要ならベビー用品を中心にした平和なお店を目指そうかな。
ガバスさんに作って貰ったメリケンサックとナックルダスター、結局実戦では使わず散々名前を弄られてワッフルメイカーを作っただけで終わったんだよね。
だって殴る時は骸骨さんのグローブ使う方が安心だからさ。
「それで新しい工房の名前は?
『クレスト工房』よね?」
とシオンさんが真顔で聞いてきた。勿論そんな訳はない。
「それだが、こう見えてクレスト君は恥ずかしがり屋でな。自分の名前を表には出したくないそうだ。
そこで三人の名前を上手く組み合わせて作るか『リミエン雑貨店』か」
「バガシ、シガバ、ガシバ? バルガバシオ、ガバルドシオ、シオガバルド…?」
暫く呪文のような呟きが続き、
「『ガバルドシオン雑貨店』で良いじゃろ。
韻を考えるなら、これが一番しっくりくるわい」
とスイナロ爺さんが杖で床を突きながら決める。
「ついでじゃ、代表者欄には儂の名前を貸してやろうかの。クレスト坊はいつものように裏で暗躍しとれば良いわい」
暗躍してるつもりは無いんだけど。
「スイナロ爺、あと何年生きるつもりですか?」
レイドルさん、それ真顔で聞くの?
「儂がポックリ逝ったらレイドル、お前がこれぞと思うもんにバトンを渡してくれんかのぉ。
儂も一応考えとくが…それまでにクレスト坊が皮を剥いて大人になっとるのが一番なんじゃが」
と杖で俺の股間を指す。昨日行ったばかりとは言えないけど、もう大人ですから…。
「よし、それなら新しい拠点を作らんといかんな。スイナロ爺、頼めますか?」
「誰にものを言うとるんじゃ?
なんならギルドを引越しさせてやるわぃ」
この爺さん、そんなに力を持ってたんだ…信じられないよ。
「嘘はやめてください。直ぐに信じる馬鹿が居ますから」
とレイドルさんが俺を指差す。
「酷え、今の嘘?」
「当たり前だろ。ギルドは老朽化でもせん限り誰にも動かせん。が、この人は本物のリミエンの不動産王だからな」
だからレイドルさんと仲が良いのか。
…ってことはめちゃくちゃお金持ちな訳で…貴族なの?
エロ爺さんとか言ってたら不敬罪?
「今は家督を息子に譲って悠々自適な生活をしとる、ただのスケベ爺さんじゃ。
そう気にせんでええぞ、クレ坊」
気にするわっ! ただのスケベ爺さんかと思えば不動産王とか洒落にならないだろ。