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スライム×3+骸骨×1≒人間です。(リメイク版)【第一部として完結】  作者: 遊豆兎
第8章 ダンジョンアタックの準備は怠りなく
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第128話 道路の完成とある計画の中止

 ダンジョンではテントを使うつもりだったが、結局タイニーハウスを使うことになった。

 やはり人間には一度手にした快適さを手放すことは不可能らしい。


 新しいタイニーハウスをガルラ親方に頼み、魔道ボイラーに給水する簡易ポンプも家に届けてもらうことになり、意気揚々と工事現場へとやって来た。


 俺の中の魔力充填率は百二十%オーバーな気分だ。さっさと吐き出してラクになろう。

 工事区間は残り約三キロと言ったところか。

 ジャラさん、ルブルさんの役人コンビがテキパキと通行人を誘導して俺に魔法発動の合図を送る。


 施工範囲が薄ら白く光り、形を整え、そして表面に硬化処理を施す。要する時間は一分程だ。

 道路は起伏もあるし、真っ直ぐでも無い。

 役人コンビは工事のついでになるべく起伏を減らし、真っ直ぐな道に作り変えようと指示を出す。

 それだけでも馬の負担は減らせるし、目的地に早く到達出来るし、走り心地も良くなる。


 場所によっては二メトルほどの起伏を無くして平坦な道にした結果、道路の左右に高さ二メトルの壁が出来上がっている。

 スケボーやローラーブレードのジャンプ台みたいに見えたので、やってみたら楽しいだろうなと思っていたらその壁を無くすようにと指示された。

 上からの襲撃の可能性があるかも知れないから、だって。

 俺の楽しみが…非常に残念だ。


 リミエンからオリンピック選手が誕生する切っ掛けになるかも知れないだろ!と思ったが、考えてみればオリンピックなんてなかったわ。


 そんなアホな愚痴は置いといて。


 道路工事って、本来なら事前に全長に渡っての計画を立てておくものだと思うのだが、この世界では現地の地形を見てからノンビリと決めていくので、意外と俺の待機時間が長いのだ。


 今二人が検討しているのは、貯水池から流れている小川を渡る橋への接続についてだ。


 大雨が続けば水嵩が増してこの小川が氾濫することもあるらしい。

 その為、道路工事のついでに堤防を高くするのが良いのではないかと考えているようだ。

 でもそれをするには橋の架け替えも必要だ。


 今は道路のことしか考えていないけど、この川のルートを真っ直ぐに変えるのだって治水になるんだけどね。

 その工事になると『大地変形』を使っても少し大変そうだ。頼まれたらイヤとは言わないけどさ。


 二人は問題先送りにして、現在の橋をそのまま使うことに決めたようだ。

 そうすると、ここまで作ってきた道路より橋が細くなる、ボトルネックとなってイベント時にはここで交通渋滞になるかも知れない。

 こう言う場合、歩行者用の通路を両サイドに増設したほうが安全なんだけど、彼らはそう言う発想には至らない。


「ちょっと待ちなよ」

と二人を止める。


「どうされましたか?」

「本当にそれで良いの? 今なら特別大出血サービスで堤防の建設もやってあげるよ。

 ここまでで結構土を削ってきたから材料もあるし」


 日本の建設関係者が聞いたら怒りそうだな。

 適当な土砂を積み上げて、魔法で硬化するだけなんだから。


「ついでに橋の位置もずらして道を真っ直ぐにしようよ」

「ですが橋を新しく作らないと」 

「それなら大丈夫。今から作るから」


 何を言ってるのか分からない!と言う二人を尻目に、アイテムボックスから丸太を四本、鉄骨三本を取り出して、鉄、木、木、鉄、木、木、鉄の順に並べる。

 その上から土をバサッとかけ、『大地変形』で形を整える。そして『大地硬化』でガチガチに固める。


 一度アイテムボックスに収納して、裏返しにして取り出し、裏側も同じように形を作って硬化する。これだけで『なんちゃって大橋』の出来上がりだ。


 続けて堤防を嵩上げして硬化処理を施し、既存の橋から少しずらした位置に新しい橋をポンと乗せる。

 橋の前後に少し傾斜を付けた道路を作り、橋に欄干を付ければ橋の架け替え工事が完了だ。

 あとは古い橋を撤去し、橋のあった部分の堤防を作り直せば小川周りの工事が完了だ。


 自衛隊の災害復旧でもここまで簡単には出来ないだろう、と自画自賛だ。

 さすがにこれだけの工事をすれば、良い感じに魔力も減っただろう。


「クレスト様のことを『道路魔人』改めて『土建神』と呼ばせてもらいます」

「呼ばんでいいっ!

そんなの超かっこ悪いだろっ!」

「それなら『ロードマスター』では」

「それなら…ぐっ、やっぱりやめて!

 クレストさんで良いから!

 二つ名とか称号とか要らないのっ!」


 ゴロだけで言うと『ロードマスター』って悪くないけど、『道路の師匠』とかそんな感じの意味になるだろ?

 そんなの要らないよ。

 それに、なんでこの世界の人はそう言う呼び方をしたがるのか不思議だ。恐くてステータスも見れないや…。


 今日は堤防工事をやったから距離は三百メートルほどしか伸びていない。でもまぁ地図に残るような仕事をしたと思えば満足か。


 翌日からは道路脇に待避所を作ったり公衆トイレを作ったり…と追加の工事もやったし、雨の日もあって作業完了まで一週間ちょっとを費やした。


 工事が終わっても特にセレモニーも開通式も無く、

「後は我々が役所に連絡しておきます。ロードマスター クレスト様、有難うございました」

と役人コンビに言われてお開きとなった。


 一緒に仕事した仲だし、最後ぐらい晩飯を一緒に食おうと誘ったんだけど、俺と一緒に食うなんて滅相もないと拒否られた。

 業者と癒着してるとか、賄賂を受け取ったと誤解されるのかな?

 この世界の役人はよく分からないや。



 この工事の間に我が家の魔道具が全てマナバッテリー対応に改造されたり、浴室エリアにラビィ用の足洗い場を設けて壁に専用ドアを付けたり、魔道ボイラーのタンクに給水するパイプ式ポンプの取付をしたりと、我が家も少しずつアップデートされていた。


 これで暫く家の中を弄る必要は無いだろう。

 足洗い場で脚を洗ったラビィが脚を拭かずに廊下の方へと走って行ったので怒ってやったけど。まぁ微々たる問題か。


 少し温めのお湯でラビィと入るお風呂も乙なもんだよ。最後に犬みたいに全身ブルブルっとやって水気を飛ばすのは予想通りだし。



 そんな充実した気分を味わった翌日、ブリュナーさんのシゴキを受けた後に『ボルグス馬車工房』を訪れた。

 工場内は部外者立ち入り禁止だが、俺の名を出すと店員さんがすぐにボーゲンさんを呼んでくれた。


 案内された工場には、黒の艶消し塗装でタイタニウムフレームを目立たなくした試作機が鎮座していた。

 そのフレームの上には既に客室と御者台がセットされており、ハンドルの据え切りテストの実施中だった。


 その前でステラさんとビステルさんが腕を組んで真剣にテストの様子を確認している。

 車輪にはゴムタイヤにしては少し薄っぺらいが何かを装着している。きっと衝撃吸収用の魔物素材か新素材だろう。


 御者台は二人乗りで、客室の中を通ってアクセスする。その御者台は全方向が板で覆われており、雨風を凌げる。

 ガラスの代わりにお隣『シャリア伯爵領』で開発された透明な新素材を使用しているので視界も確保出来ているし、サイドミラー、ワイパー、ヘッドライトにルームライトも装備している。


 手綱は御者台のレバーと連動させてあり、馬を離せば自動車のハンドルと同じ操作で前輪が動く。勿論駐車ブレーキもある。

 残念ながらエアコンの魔道具はまだこの世界には存在しない。


 次に客室だが、ロングボディの割に通路スペースを確保する為に四人乗りだ。

 乗降用ドアは左側のみ、後部は自動車のリアハッチと同じで上にガバッと開く。リアハッチを開けた状態で調理を行い、リアハッチからカーテンを垂らせば屋台の気分が味わえる。

 冬場の寒さを防ぐ為、アコーディオンカーテン式の間仕切りを付けて客室と遮断も出来る。


 シートをパタパタと動かすと、三人が並んで寝られるベッドになる。ベッドを買った家具店に作らせた特注品らしい。


 右側の壁をパタンと降ろせば、そこも寝台として利用可能だし、屋根も上にせり上がって大人一人がぎりぎり寝られるスペースになる。

 最大六人乗りだが五人しか寝られないのは仕方ない。一人は御者台で寝てもらおう。

 レバー、ハンドルを畳んでシートを動かすと、狭いがフラットになる。子供用ベッドだな。


 当初はお洒落な外観にするつもりだったが、キャンピング馬車に路線変更したため御者台と車輪とドアの付いたコンテナのようだ。


 ラファクト鋼材店の錬金術師とビステルさんのコンビが張り切ったもんだから、ボーゲンさん、ステラさんの予想より早く完成したらしい。


 最大の特徴の一つ、ショックアブソーバーとコイルバネを組み合わせたサスペンションを取り付けるフレームを別構造としたことで試作、試験の手間が大幅に軽減出来たのも要因だろう。

 その分だけ重量アップに繋がるので、俺の馬車は一体型にする予定だ。シートのフレームをタイタニウムに変更すれば更に少し軽くなるし。


 もう一つの目玉である前輪のハンドル機構だが、さすがに難航したらしい。

 最初は吊り上げて無負荷にした状態であればスムーズに動かせても、接地させると重たくてハンドルが回せなかったとか。

 ここはボーゲンさん、ステラさんが大活躍して何とかクリアしたらしい。


 ビステルさんがキャッキャッ喜びながら苦労話をし、これらの機能の説明をしてくれたのだが、機能は俺が考えたんだから知っている。

 よく短期間でここまで作り込んだものだと素直に評価はしておいたけど。


 そしていよいよ実走試験に入る。まずは俺が整備した貯水池行きの新しい道路をゆっくりと走らせ、徐々にスピードを上げていく。

 御者台にはボーゲンさんとステラさんが仲良く乗っていて、凄い凄いと二人ではしゃいでいた。いい歳こいだオッサンとお姉さんの不倫デートみたいだな。


 従来なら片道一時間(四十五分程)掛かっていたのが、道路整備と馬車の性能のお陰で三十分を切るぐらいまでに短縮出来た。


「噂で勇者の髪の人が道路と橋を作り直したって聞いたけど、ホントだったんだ。

 お陰で全然酔わなかった」

とビステルさんが俺を突きながら言い、馬車工房主の二人もウンウンと頷く。


「魔法使い三人で二ヶ月掛かる工事を、一人で一週間でやったと聞いたぞ」

「私は橋を一人で作り上げたとか、片手で持ち上げたとか聞いたわよ」

「他にも丘をワンパンで消したとか、堤防をあっという間に作り変えたとか、色々とクレちゃんは噂になってるわ」


 ボーゲンさん、ステラさん、ビステルさんが噂を披露してくれた。

 工程はまぁ合ってるか。元々五十日の予定らしかったし。

 橋は一人で作ったけど、片手では持ち上げていない。遠眼にそう見えた?

 丘を消したのはそれなりに時間が掛かったし、堤防も片側に半日がかりだったけど。


 一部に合っている内容があると、どこが嘘か分からないんだよね。尾鰭背鰭は噂に付き物だけど。

 噂を流す人も、お酒が入ると場を盛り上げようと大袈裟に言っちゃうだろうし。

 俺が噂に取り合わなきゃ済む話だろうけど。


 リミエンにはお金が無いと聞いてるから、短期間で工事を終わらせたかったてのは事実だし。その分、俺に払う日当も少なくて済むもんね。

 実は裏側ではその日当について伯爵が悩んでいるのだが俺は一切知らない…。


 試作機はカンファー家所有地方面に向けて整地されていないガタガタ道を走り、ギルドの紋章付き馬車より格段に乗り心地が良いと実感した。

 少し酔ったビステルさんには治癒魔法を掛けておくのも忘れない。


 俺の今の一番の感心事は、マーメイドの四人の修行の状況とカラバッサの駐機位置だ。 


 二台しか作らないタイタニウムフレームの車体であり、盗難防止は万全にしておきたい。

 

 城門近くの待機所に置いておくとかなり目立つ筈だ。設計コンセプトがまるで違うのだから当然のこと。


 車輪は大きいが、前輪の切れ角をなるべく大きく取るようにしたので自動車のスペックで言う最小回転半径は約三メトル(馬に牽かせると、馬と手綱の長さがプラスされるからこんなもんでは済まなくなるが)。

 これなら馬を外して後ろから二人で押せば、我が家の敷地に入れることは理論上可能だ。


 だが問題がある。入れたは良いが庭の中では方向転換が不可能なのだ。

 門扉から家の玄関までは直線状に綺麗に切石が並べてあるが、そこ以外は芝生だ。グリグリ馬車を動かして芝生を傷めるのは絶対にイヤだ。


 それならアイテムボックスに収納しておくか?

 いや、俺の不在時にブリュナーさんやシエルさんが使いたい時があるかも知れないから、駐車場に置いておきたい。


「クレちゃん、どうしたの? 悩みごと?」

「カラバッサをどこに置こうかと。家に置きたいけど、ウチには入れられない。

 入れたら最後、方向転換出来ないんだ」

「ふむふむ…」


 俺の悩みを聞くと、態とらしく腕を組み直して暫く考える。


「これからリミエンに訪れる馬車が増える事が予想されるでしょ。だから城門脇の駐機場の改修案が出ててね。

 敷地面積は広げられないから、どうやったら収納台数を増やせるか検討してる中で出たアイデアに、スライド式と回転式の運搬装置があるのよ」


 縦、横方向にレールを設置し、台車(パレット)に乗せた馬車をスライドさせる物流倉庫か機械式駐車場のような方式だ。台車自体がクルリと回転するので、方向転換の出来ない馬車でもその場で前後を逆に出来る。

 馬車同士の間隔を狭めて駐機出来るので、収容台車も何割か増やせる。

 さすがに立体駐車場や地下駐車場のアイデアは出てこないか。


「それで? ウチの敷地にレールを敷くと?」

「ううん、旋回装置を中央に設けて九十度回転させたら、二台までなら壁際に移動させられるわよ」


 庭に旋回装置? 一体どこの秘密基地だよ…そんなの俺なら飛び付くに決まってるだろ!


「それやろうよ!」

「…ダメ。馬はどうするのよ。クレちゃんの敷地じゃ馬は飼えないわよ。芝生にウンコする」

「…確かに」


 言われてみれば、馬糞のことなんて考えてなかった。馬は広い馬房に預けなきゃ。

 それなら馬車を使うたびに馬を取りに行くか、リヤカーのように引いて行くしかないか。


 馬を取りに行くようになるんだろうけど…自動車みたいに自走できるようになるのは何年後のことか。


「と言うか、そもそも何で家にカラバッサを置こうと思ったの?」

「珍しい馬車だから、駐機場に置いてたら盗まれないかな、と」

「…ドアに鍵を掛けておけば良くない?

 考えすぎよ」

「でもサスペンションとかハンドルとか、機密情報だよ。産業スパイが狙ってるかも」


 折角(工房の人達が)苦労して作り上げたカラバッサの情報を持って行かれるのはいやだよね。


「クレストさんねぇ…こう言うのは、いつか誰かが模倣するものだわ。そしてそこから技術は進歩していくのよ。

 見られたくないなら、車輪以外のパーツはカバーで隠してあげるわよ」

「カラバッサに使用しているベアリング、サスペンション、ハンドル機構は、ビステルさんが居ないと製作は無理だな。

 似せた機体は作れても、性能は段違いになるだろう」


 馬車工房の二人も俺の考えすぎだとビステルさんを援護する。こうして我が家の秘密基地計画は頓挫することになったのだ…。

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