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スライム×3+骸骨×1≒人間です。(リメイク版)【第一部として完結】  作者: 遊豆兎
第2章 何故か冒険者になるにはトラブルって付き物だよね
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第15話 宿屋に泊まろう

 衛兵さんに真っ黒なカードみたいな入門許可証を発行してもらい、大銀貨四枚を支払った。


 衛兵さんが貨幣の枚数を確認すると、

「これより一週間、クレストさんはリミエンでの活動が許可されたこととなります」

とぎこちない作り笑いを浮かべる。


 そして入口を手で示し、

「では荷馬車にお戻り下さい」

と告げると、ポケットからメモ帳みたいな物と羽根ペンとインクを取り出して机に置いて、何やら書き始めた。業務報告なのかな?


 随分適当な衛兵さんだと苦笑しつつ、ケルンさんと一緒に荷馬車に向かった。

 荷馬車は通行の邪魔にならないように誰かが端の方に移動させていたようだ。


 二人で御者台に乗り込むと、

「最初にクレストさんに言っておかなければならない言葉があります」

とケルンさんが真面目な顔でそう告げた。

 ドキッとしたけど、

「なんでしょうか?」

と何でも無いよ!といったような表情を作ってケルンさんに顔を向ける。


 視線が合うとケルンさんがニコリと笑い、

「リミエンにようこそ!」

と言って拍手をするのだ。


 えーと、この世界にもそう言うのがあったんだね。

 緊張して損したよ、ドッキリ大成功!みたいに喜ぶケルンさんにホッコリしたけど。


 ケルンさんはまだ少し笑いながら城門から入ってすぐ隣にある馬車の管理施設に荷馬車を入れた。

 町の中に馬車を乗り入れると、馬糞が通りに落とされるので清掃しなければならない。

 その費用はこの施設から町側に馬を乗り入れた延べ回数に応じて毎月の負担割合が調整されるそうだ。


 だからケルンさんのような行商人は極力ここに荷馬車を停め、荷物は担いで運ぶらしい。

 なるほど、これなら筋トレにもなるから戦う商人さんになるのも当然だね。


「今日はそれ程荷物が多くないですよ」

と笑いながら言うケルンさんだが、どこのバックパッカーかと言いたくなるほどの大荷物を背負っている。

 それでも平気な顔をして歩いているんだから、異世界って地球の常識とやっぱり違うんだよなと思ってしまう。

 もし日記を付けているなら、『行商人ハンパねぇわ』で締め括っただろう。


 それから、これもすぐ近くにある両替商を利用するように薦められた。

 骸骨さんの持っていた貨幣は年代物で、下手な場所で出すと使用出来ないか、またはぼったくられる可能性があるそうだ。


 ドスっと荷物を地面に置いたケルンさんに見送られて人生初の両替商デビューを果たす。

 建物自体は小さくないが、店の間口はかなり狭くて四人が立って並ぶのが限界だろう。

 本来は倉庫か何かで、後からこの店舗を作ったような感じだ。

 予め小さな革の小袋に大銀貨までの各貨幣五十枚ずつを分けて入れてあり、それらをカウンターにドスンと乗せた。


 音を聞いて若い店員さんがやってくると、袋から貨幣を出すと枚数を素早く数える為の木箱みたいなヤツに入れて枚数を確認する。


「旧キリアス貨幣ですね。使えないお店が多いですからね。価値はあるんですけど、使い勝手は悪いんですよ。換金手数料に一割が掛かりますが、宜しいですか?」

「はい、それでお願いします」


 手数料が一割なのはケルンさんから聞いているからね。ちょっとお高い気もするけど。

 受け取ったコンラッド貨幣の枚数を確認し、

「まだあるから、お金が足りなくなったらまた来るわ」

と言ったら、やたら店員さんがニコニコしながら見送られた。


 この旧キリアス貨幣はコンラッド貨幣の一割増しの価値があるそうだが、何故か交換レートは一対一であった。

 実質約二割も損をした計算になるのだけど、リミエンで問題なく使える貨幣が欲しかっただけなのでそれで良いことにする。

 ケルンさんに聞いてもこの旧キリアス貨幣の交換レートのことは知らなかったようだ。そうそう手に入れることが無い物なのでそれも当然か。


 ちなみにケルンさんは旧貨幣も使える当てがあるのでそこで使うと言っていた。それなら俺もそこで、と言ったら、

「さすがに大量には使えませんよ」

とやんわり断られた。商人には独自のルートやルールがあるんだろうね。


 両替商を出たところでケルンさんと別れることになった。

 今日は久し振りに子供達に会えると喜んでいるケルンさんに御礼を言って見送る。

 初めて会った人がとても親切な人で良かったよ。


 時刻は夕方もよい時間だ。安くて良い宿はないかと別れる前にケルンさんに聞いたら、

「何処も値段なりですからね」

と苦笑していた。

 お薦めの穴場スポットはそうそう無いらしい。

 サービスの良い宿屋は常に長期宿泊客が独占しているんだとか。


 どの宿屋も顔馴染みになれば多少の割引はしてくれるようになるので、クレストさんも頑張って下さいね、と言ってケルンさんは自宅へと歩いて行った。

 どう見ても彼の後ろ姿は歩く荷物なんだよね…あれで荷物が多くない、だと?


 角を曲がってケルンさんが見えなくなった頃、俺も行動に移すことにした。とにかく今夜の寝場所を確保せねば。

 でも、どうやって宿屋を決めれば良いのか分からない。店の前に料金を書いて出すようなことはどの宿もやっていないんだよ。


 で結局、自分自身の鼻を頼りに美味しそうな匂いのする宿を選んだ訳だ。決して一番近くに見えた宿屋を選んだ訳ではない!


 入ったのは『南風のリュート亭』と言う、三階建ての小洒落た宿屋だ。

 少しお高いかも知れないけど、とりあえず二泊だけさせて貰おうか。

 二階の部屋で一泊銀貨七枚。食事は別料金で、夕食と朝食を付けると一泊で銀貨十枚、つまり大銀貨一枚になる。

 三階の部屋の宿泊料はその倍の一泊で銀貨十四枚となる。食事を付けると一泊で銀貨十七枚。


 誰にも聞いていないのに、何故料金が分かったのかって?

 この宿屋は親切で、ドアを開けてすぐに値段を書いた羊皮紙が見えるように貼ってあったからだ。わざわざ値段を聞かなくて済んでラッキーだ。


 ひょっとしたら、値段を聞いて高い!と言って出ていく人が多かったのかもね。


 正直この金額が高いのか安いのか分からない。

 ビジネスホテルで素泊まり七千円前後と考えたら妥当なのか。

 ちなみに駆け出しの冒険者は素泊まりで一泊銀貨三枚までの安宿で雑魚寝するって聞いたから、二階だと高い、三階だとかなり高いってところだな。


 一階は受付と支払をするためのカウンター、食堂と厨房、食堂の奥には小上がりの小さな舞台があった。

 きっとここで吟遊詩人が演奏をするんだな。演目に俺の十八番のゴブリンの歌が無いことを祈ろうか。


 既に夕食を取り始めているお客さんもぼちぼち入っていて、エールやワイン、焼いた肉の香りが漂っている。俺も後で注文しよう。

 この後、吟遊詩人が舞台に上がるそうだと話し声が聞こえたので、タイミングが合えば見物してみるつもりだ。


 それで受付には俺と同じくらいの年齢の女の子が立っていて、黙ってこっちを見ていた。取りたてて美少女って訳ではない、至って普通の女の子だ。

 こう言う普通の女の子の方がトラブルに巻き込まれにくい。美少女だとなんやかんやでトラブルになることが多いそうだ。

 勿論これもケルンさん情報だ。


「こんばんわ。部屋は空いてます?」

「はい、こんばんわ。お部屋ですね…あいにく二階は満室で、三階なら空いております。

 いかがなされますか?」


 ありゃ、困ったね…と言う表情を作る。実際には困っていないんだけどね。

 幸いにして所持金は豊富にある。ビバ生前の俺! 二度目の人生はイージーモードだぜ!


「長期滞在であれば少しは割引ができるのですが」

と申し訳なさそうに言う女の子。

 長期滞在って何日くらいか気にはなるが、細かいことを考えるのはやめておく。


「じゃあ、とりあえず二泊だけお願いします。食事も付けると銀貨三十四枚ですね。

 あと、お湯も欲しいので…大銀貨四枚で良いですか?」


 お湯はタライに一杯で銀貨一枚。だからタライ六杯分のお湯を買うことになる。そんなには必要ないから、多少はチップのつもりだ。


「畏まりました。では鍵をお渡しします。外出するときは私か代わりの者に渡してくださいね」


 チップの効果か、女の子のプライスレスな笑顔のサービスがあった。笑うと少し可愛いかも。


 ん? 鍵を渡してくれってことは、ずっと誰かがカウンターに居るってこと?

 それともカウンターに人が居ない時間は出入りが出来ないのかな?

 多分後者だろうな。オートロックのドアとかそんな便利な機能は無いんだからね。


 おっと失敬、値段表の下に出入り出来る時間を書いてたわ。

『午後十四時から午前七時の間は出入り出来ません』

 

 あ…、言うのを忘れてたけど、この世界は一日三十二時間制だ。

 半日で十六時間だから東西南北の方角と合致しているので合理的と言えるのだが、今の俺には馴染みが無いのでかなり戸惑う。

 一日二十四時間の時計に換算したら、一時間が四十五分相当だから非常に紛らわしい。

 地球の時計に変換したら『午後十時半から午前五時十五分の間は出入り出来ません』って事だからね。

 意外なところで異世界の洗礼を受けたな。


 ちなみにこちらの一時間は四十五分かと言うと、長針と短針の付いた機械式の時計が無いせいで定かではないのだ。

 一応時計も時計台もあるが、時針だけで分針がない。

 だからせいぜい半時間、四半時間と言うざっくりした単位で扱われている。日時計みたいなもんだよね。

 お陰で分刻みのスケジュールに追われてせせこましく生きるような人は居ないだろう。


 そう言えば地球の半日が十二時間なのは、ある星座と関係しているからなんだよ。だから星座が違えば時計も変わって当然だと納得するしかない。


 部屋の鍵を受け取り、食事の出来る時間を聞いてから三階に上がる。部屋は一番手前か。

 中はショボい学生寮みたいだった。当然トイレは共同だ。各部屋に水洗トイレが備えられる程の文明レベルではない。


 骸骨さんの記憶の一部を見させてもらっているから特に何も思わないが、元スライムの俺はこの世界より遥かに科学技術の発展した世界に暮らしていた訳で。

 二つの世界を比べると余りの差の大きさに驚きを通り越し、もうどうでもいいやと思ってしまう。


 そうだ、もし時間があって大してやることが無いのなら、オール電化住宅みたいな家を作ってみるのも面白いな。

 どこまで実現可能なのかちょっと興味もあるし。

旧キリアス貨幣とコンラッド貨幣の交換レートが一対一の理由は、新旧の五百円玉を交換するのと同じ感覚だからなのです。

溶かして金銀にすると一割以上の価値があるけど、それを店員さんが黙っている客に教える道理はありません。これが相手が有力者であれば違う対応になったかも。


交換手数料の一割はぼったくり価格ですが、町中のお店で使えないお金を持っていてもしょうが無いからと諦めるしか無いのです。


そもそもな話、他国の旧貨幣なんか持ち込むなよ、交換してやるだけ有難く思えと店員さんは思っています。


地球で時計が12時間なのはオリオン座のシリウスに関係しているそうです。

12と言う数字は便利だと言う理由もありそうですが、本作では敢えて16時間としています。


日本人が転生しているのなら12時間にした筈ですがね。

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