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スライム×3+骸骨×1≒人間です。(リメイク版)【第一部として完結】  作者: 遊豆兎
第8章 ダンジョンアタックの準備は怠りなく
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第125話 パンケーキを焼きながら恥ずかしい目に

 イスルさんは強かった…それ以上の感想は不要だろう。


 レイドルさんがイスルさんの不意打ちを受けて意識を無くしたのは短時間だ。目が覚めると、腹が減ったと言ってまた肉を食べ始める。

 呆けたかと一瞬思ったが、どうやら俺の治癒魔法は呆けにも効いたらしい。


 ラビィは最初に肉を少し食べた後、リンゴを咥えてリビングに戻った。どうやら味覚も子熊のようだ。人間形態に戻らず、ずっとリンゴを食べ続ける生活を送って貰いたい。


「ふぅむ、まだまだ甘いな。レイドルぐらいは一撃でヤらないとな」

と監査役のルベスさんが腕を組む。


「アイテムの性能に頼るようでは二流じゃ。

 エンガニも元金貨級冒険者と言え、今の実力は大銀貨級程度。

 よってクレストの金貨級への昇格は見送りとすべき、俺はそう判断するぞ。

 本気になった状態のクレストなら別かも知れないがな」

「それでも大銀貨級は確定なんだ。

 彼は中々の気分屋でね。噛み付く相手も居ないから、町の中じゃ本気にはならないと思うよ」


 ライエルさんとルベスさんの会話を聞くと、俺の二重人格…骸骨さんが出て来た状態の話をしているように思える。

 あの人、キャラも強烈だしなぁ。


「カンファーの山のダンジョンに入る前に、マーメイドのお嬢さん達も鍛えた方が良いかも知れんな。

 俺もリミエンでずっとさぼ…駐留している訳には行かんしな」

「さぼ?

 ルベスさん、お仕事をおサボリ中ですか?」

「いやいやいや、監査対象は君一人ではない。

 こう見えて忙しいのだよ」


 ふぅん、そうなんだ。ウチの玄関にお迎えが来てるんだけど。


「やっぱりここに居ましたか!

 探しましたよ、早く帰って報告書を纏めてください!」

と怒っているのは衛兵隊のグレス副隊長だ。


「おぉ、グレス遅かったな。肉を食え!」

「肉で誤魔化さない!」

「さっき監査対象のクレストの戦闘力を測ったばかりだ。少し休ませろ」

「やったのは俺なんだが」

「と申されておりますが?」

「書類仕事は苦手なんだ! 俺には向かん! 代わりにやってくれ!」


 グレス副隊長に連行されるルベスさんを指差し、

「いい? アレがダメな大人って言うやつだから。あなた達は、あんな大人になったらダメよ」

とイスルさんが指導する。

 間違ってはないけど、その教え方…まぁルベスさんの自業自得か。

 アレが『青嵐』の最強アタッカーの姿かよ。


「飯も食ったし、イスル、帰るぞ。

 貯水池のキャンプ場での食事スタイルだが、このバーベキュースタイルを採用するか。

 食材さえ用意出来れば、焼くのは食べる本人だから料理人が少なくて済む」

「毎日だと飽きそうですし、熱い時期にはどうかと思います」

「我慢して貰おう」

「分かりました、そうしましょう」


 イスルさん、それで納得するの?

 これって商業ギルドジョークだよね?


 こう言うのはたまに遣るから面白いのであって、毎日バーベキューは厳しいと思うよ。

 それなら代案を出せと言われるからクチには出さないけど。

 案も無しに言ったら「もぎます」と言われそうだし。


 商業ギルドの二人が帰るなら、とライエルさんも帰っていった。これでやっと落ち着ける。

 そう思ったのか、ラビィも出て来て子供達と遊び始めた。

 それから前回同様に二人が一台のバーベキュー台に並んでパンケーキを焼き始める。


 今日のパンケーキメンバーはミレットさん、俺、オリビアさん、シエルさん、それとマーメイドの四人組だ。

 前回大量に焼いているので慣れたものだ。

 シエルさんもオヤツにパンケーキを焼いているそうで全然問題無い。


 次回はダンジョンアタックと言うことで、手早く食べられるように肉巻きパンを多目に作ることにする。串焼き肉以外のおかずもブリュナーさんが予め用意してくれているのでとても助かる。


「クレストさん、ルベスさんのことですが。特訓をして貰おうと思います」

とアヤノさんが真面目な顔で言ってきた。


 パンケーキを焼く手にも迷いが無い。冒険者を辞めたら、パンケーキ職人として雇っても良いだろうと考えつつ、

「あの人、性格は適当だけど本当に強いよ。

 俺でもあの人と戦うのは恐い」

とブルったことを思い出した。


「私はクレストさんと戦うのでも恐いです。

 八股角の魔鹿を無傷で倒したんでしょ」


 魔鹿の角は強い個体ほど枝分かれしていく。

 一般的な成体の雄鹿は四股角であり、剣士ならこの鹿の頸を一撃で墜とせるぐらいの力量を持ってやっと大銀貨級に昇格する資格を得られると言われる。


 雄鹿の角は強力な武器であり、鎧でもある。

 基本的に突進系の攻撃しか出来ないが、その突進が厄介なのだ。

 実際には何も無い広場で戦うような馬鹿な真似はせず、太い樹木の繁る森に誘い、機動力と言うアドバンテージを活かせない状況に追い込んでからが勝負なのだが。


 俺は地面を操作する魔法で機動力を奪ったのだが、何も真っ正直から挑まなくても良かったのだと実は後悔しているのだ。


 それはさて置き、アヤノさんも強くなりたいと言う意思が今まで以上に強く感じられるようになっている。

 魔界蟲戦で大して役に立てないどころか、自分のミスでセリカさんに本当なら死ぬような目に遭わせたと言う負い目を感じてのことだろう。


 でも特訓したからと言って、そんなに急に強くなれるものではない。地道な努力の積み重ねに勝る修行は無いのだから。

 もしかしたら、運良く必殺技のようなものを覚えるかも知れないが、技に頼るのはやはり二流だろう。

 ブリュナーさんの訓練には、きっとそう言った意味が込められているのだと思う。それか何も考えていないのかのどちらかだろう…恐くて聞けない。


 そしてローテーションしてセリカさんに。

 やはり魔界蟲戦で死にそうなダメージを受けたことで、戦うことに対しての恐怖心が以前より強くなったと本音を漏らした。

 自分には決して倒せない圧倒的な強敵が存在する、分かっていたが今までそんな敵は避けてきた。


 それは冒険者ギルドの方針でもある。怪我で引退する冒険者を減らすように管理されてきたのだから、重傷を負うことは無かっただろう。


 それがたった一撃を受けるだけで人は死ぬ。その恐怖を知った自分に、以前と同じように仲間と一緒に戦えるのか不安だと漏らす。

 『大丈夫』と言うのは簡単だけど、それは正解では無いだろう。


「『気高き女戦士の鎧(ブリュンヒルド)』がセリカさんを守ってくれる。

 だから恐くても立ち向かえる」

「クレストさん…」


 俺を見上げるセリカさんの瞳、そして覗かせる胸の谷間にドキリとする。

 もし周りに誰も居なければ、彼女に触れていたかも知れないな…

「なに?」

「焦げてるわよ…」


 …すんません!


 焦げたパンケーキはスライムが美味しく食べてくれる!

 廃棄するのは勿体ないから慌ててボックスに収納して、次のパンケーキを焼き始める。


 クスクス笑うセリカさんに、

「少し心がラクになったかも。ありがとう」

と御礼を言われて、じわじわと顔が赤くなる。

 風邪かな? 


「クレたん、セリカと何かあった?

 嬉しそうにしてたよ」

とローテーションで回ってきたカーラさんが最初にそう言ってきた。


「パンケーキ焦がしちゃってさ。それで笑われた」

「ふぅん、そっか」


 それから特に何も言わず、粛々とパンケーキを焼き続けていたが、

「私とリーダーにも何かちょうだいね」

と最後にお強請りしてサーヤさんと交代した。


「そうよね、二人だけ貰うのは不公平だもんね。

 ローブ系とかロッド系は無いの?」


 魔法使いの定番アイテムかも知れないが、ローブは却下だ。あんなの山の中をウロウロするのは頭がおかしいって。

 寒さ対策なら毛皮のコート、ダウンジャケットの方が余程有効だ。

 コートは裾が引っ掛かるだろうから、スキーウェア的な服装が一番か?


 ロッド系ね…ようは木の棒とか棍だよな。

 

 何々…『十連コン棒』? 名前だけで却下だ、次行こ。


 『絡めるコーン』…ふんわりサクサク食感、これで打つとクルリと絡まる。食える武器?


 『ロリコーン』…そんなの持つなよっ!


 他には怪しげな仕込みワンドやステッキ、ゴルフ用品、釣り竿…ぐらいか。何か間違ってる。


 防具を見てみるか…


 『美魔女スーツ』はどう考えてもカーラさんにはまだ早いよな。


 『ボディコンスーツ』…説明文には『いつか泡のように』…これ着たら弾けて消えちゃう!?


 セクシー系衣装はカーラさんには合わないし。


 魔法使い用のアイテムはどれも外れっぽい…かな…えっ?

 『…の勇者の魔法メモ』


 興味本位で読んでみると、表紙は傷んでいたが中はセーフだった。

 内容はキリアス語で書かれた初心者魔法使い向けのガイドブックで、ラビィが解説したような事柄だった。

 キリアス語とコンラッド王国の公用語はかなり似通っているので、カーラさんにも読めるだろう。


 俺が長考モードに入ったのを見たカーラさんは、俺のパンケーキもひっくり返してくれていたようだ。手間掛けさせて悪いな。

 ちなみにアイテムボックスの中にある本は、取り出さなくても読めると初めて知った。


「武器、防具は無いけど、もっと良いものかも。後で渡すよ」

「やった! 言ってみるもんね!

 クレたん大好き!」

「あー、はいはい、気持ちだけ貰っとく。

 パンケーキ、サンキューな」


 この子には恋愛感情とかそう言う物はないだろ。エサをくれる人なら誰でも好きってレベルの好きを真に受けるほど俺は世間知らずじゃないつもりだ。


「でもそれだとリーダーだけ何も無いよ」


 そうだよね…『星砕き』はどう考えても最終決戦用の兵器だろ。本当に地割れを作ったんだから。


 剣、鎧、盾はもう見てるから、アクセサリー系?

 でも女性にアクセサリーを渡すのはちょっと難しいかな。

 目元だけ隠すマスクなんて論外だし。


 さっきのメモみたいなのは無いかな…あった、『冴えない剣士の育て方』…地雷になりそうだから見なかったことにしよう。


 他には…『ホクシンイットリュー奥義の書』…これは胡散臭い。口伝とか極意はあるかも知れないが、奥義と言われるとなぁ…。

 まあ、骸骨さんがアヤノさん向けに何か解禁してくれるまでの繋ぎに読んで貰おうか。


 気が付くとサーヤさんからオリビアさんにローテーションしていた。


「私は『光輪』を授けて頂きましたから、この子を立派に育てていきます」

と胸を張る。


 セリカさんの時は彼女の心境を考えて何も感じ無かったが、オリビアさんも少し胸を開けた衣装になってて…隣に立つと、視線をそちらに向けたくなるのは男性として当然だろ。


「オリビアさん、クレストさんの子供が出来たのですか?」

と何も知らないミレットさんが驚いたように声を出した。あの言い方だと誤解されても仕方ないか。


「子供? あぁ、『光輪』は子供ではなくて」

と右手を前に出して以前より大きくなった『光輪』を披露した。


「クレストさんがヒントをくれて生まれた私のスキルです。

 もっと自在に扱えるように訓練しているんです」


 魔法使いにとってこれ程物理攻撃を受けるのに適したスキルは無いだろうね。『光輪』を出したまま別行動が出来るんだから。


 今のところ、出した位置からは動かせない設置型のシールドみたいなものだけど、もし自在に動かせるようになったら強力な魔法と堅固な盾の両方を持つことになる。

 セリカさんに渡した『ヒルドベイル』と『光輪』のお陰で貧弱だった守りはかなりアップしたよね。


 後は攻撃面の強化だな。カーラさん、オリビアさんの魔法使い二人が新しい魔法の使い方を覚えれば魔法攻撃が強化出来るはず。

 ついでにルケイドにも教えないといけないかな。

 俺は何か補助魔法でも覚えようか。それかラビィに魔力を渡してマサカリアタックしてもらうかだ。


 俺も後四日間は道路整備だけど、その間でアヤノさん達が納得出来る成果が出るかな?

 早めにダンジョンアタックを開始したいんだけど、不安要素は少しでも減らしておきたい。

 もし何日か待つようなら、カラバッサ作りを見に行こうかな。


「今日は考えごとばかりしていますね。手が止まっていますよ」

とオリビアさんが俺の腕を取って動かそうとする。オリビアさんの赤茶色の髪が俺に掛かって少しドキドキする。


 それに胸も当たって柔らかい感触が…はっ! ヤバイ、ラビィみたいに投げられる?!

 そう思ってしばらく警戒するが、その気配は無い。

 その間も甲斐甲斐しくオリビアさんが俺の手を動かして…

「オリビアさん、狡い!」

「まさかそんな手で!」

「実力行使はダメよ!」

「クレたん、フリーズしてるし!」

とマーメイドの四人から抗議を受ける。


「はいはい、次は私の番ね」

と間にシエルさんが割って入る。


「クレストさん、今日はどうかされました?

 いつもよりボンヤリしてるようです。

 考えごとでしょうか?」


 心配してくれているようで申し訳ない。どうも今日は彼女達と居ると、変に意識してしまうようだ。遠征の時の影響が残っているのかな?

 何も考えずに、わいわい楽しめる関係じゃなくなったのかな?

 それはそれで悲しい気もする。早いとこモヤモヤの処理をしないとマズいかな…でも、俺ってそんなタイプだったかな…?


「なぁ、あんちゃん、魔力の流れがおかしゅうなっとるで。

 中に入っとるんが溜まりすぎた感じや。

 出してスッキリせな」

とラビィが俺の脚に触れながら、そんな言って欲しく無いことを言う。


「ラビィちゃんっ!」


 女性達が赤面しながらラビィを呼び、リビングへと連れて行こうとする。


「なんも変なことは言うてへんで。あんちゃんの中に魔力を出し続ける何かが居るみたいなんや」

「えっ、魔力?」

「そうや。なんや思たん?」

「…」


 おれも含め、全員が絶句する。子供達は食べ過ぎて苦しいと、先にリビングに入って寝ていて良かったよ。


「なぁ…あんちゃん、そっちも溜まっとん?」

「知るかっ!」

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