表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スライム×3+骸骨×1≒人間です。(リメイク版)【第一部として完結】  作者: 遊豆兎
第8章 ダンジョンアタックの準備は怠りなく
155/199

第121話 協力店巡り

 『ルシエン防具店』でセリカさんに鎧と盾を渡すことになり、それが実はプロポーズの意味を持つと聞かされたが、セリカさんも俺が知らずに渡したのだと納得してくれた…よね?


 『気高き女戦士の鎧(ブリュンヒルド)』に関して言うと、所有権がセリカさんに固定されたようでアヤノさんに装着させることが出来なかった。

 こうなると、セリカさんにはこの鎧があるから修理に出した鎧はアヤノさんに合わせて仕立て直すことになった。


 カーラさんに渡した亀の甲羅と木の杖はいらないと突っ返されたが、ネタ装備なので当然だ。

 

 セリカさんの装備の問題は一先ず解決となり、ダンジョンアタックに備えての準備は消耗品の補充だけとなった。

 こんな感じでダンジョンや冒険に出る機会が増えるなら、そう言う事務仕事専門の人が居てくれると助かるな。だからクランみたいな集団が出来るのかと納得だ。


 『紅のマーメイド』の四人とは店で別れ、連絡が来ていたと言う『マーカス服飾店』と『シオン雑貨店』に向かうことにした。


 先に要件の簡単そうなシオンの店を訪ねると、狭い店内に何人かの客が入っていたのでビックリだ。

 しかもカウンターにはシオンの姿はなく、シオンに少し似た感じの女の子が座って対応していた。


 客対応の合間を縫って、

「クレストだけど、シオン居る?」

と聞いてみると、女の子に奥へ入れと指で指示された。買い物客じゃないけど、店員さんならその対応は改めた方が良いと思うよ。


 そうクチには出さず、奥の部屋に入るとシオンが作業服を脱いで作業していた。

 腕まくりをして細くて白い上腕を見せている。やっぱり女の子だったかと思ったが、これもクチに出すほどデリカシーが無い訳じゃない。


「シオン、久しぶり。繁盛してるね」

とまだ俺に気が付いて居ないシオンに声を掛けると、作業の手を止めて俺を見る。それから自分の胸を見る…いや、そこのサイズは気にしなくても良いから。

 ティーシャツ一枚の姿だが、色気も無い…と言うとセクハラ判定で有罪確定になるかもな。


 作業服を慌てて羽織ると何食わぬ顔をして、

「こんにちは。遠征に出てたんだってね

 無事で良かったです」

「ありがとう。お店が繁盛したみたいだね」

「はい、クレストさんのお陰です。

 商業ギルドにカードホルダーのサンプルを持っていたら、何故かすぐに注文が入ったんだけど。

 クレストさん、何かやってくれたの?」

「いや…皆不便だと思ってたんだと思うよ」


 立ち話程度ならしてるけどね。記念イベントの対策本部とか、もう知らない人ばかりで誰が誰だか全然分からないし。それは集まっていた人達も同じだったようだ。

 ただし、ギルドカードその物だとランクまで見せることになるので、名札を作ってその裏にギルドカードを入れるようにしたらしい。


 商業ギルドが採用すると他のギルドも右に倣えと次々発注が入り、シオン雑貨店の名前がギルド女性職員に知れると興味本位で店に入る人が増えたんだとか。

 そしてたまたま子供向けの商品を探していた奥様のお眼鏡に叶ったキャラクターグッズが呼び水となったらしい。


 シオン本人が店番しながら商品の製作が出来なくなったので、親戚に頼んでヘルプで来て貰ったのがあの無愛想な女の子と言う訳だ。

 客商売をしているのだから、それなりの接客態度は取らないと揉め事になるとシオンに言い含めておく。


 この店を俺の憩いの場にするつもりだったが、客が入りだしたのならそうも行かないか…。

 多分店長には物凄く失礼な考えだと思うけど。


「あ、それでクレストさんに相談なんだ。

 ブロックみたいな子供向けの玩具を作ろうと思ってるんだ。何か良いアイデアはない?」


 言っておくが、玩具と言われて定番のリバーシを出すほど俺は単純じゃないからな。

 …いや、商品の一つとしては出すけど、それはメインではない。

 パクリと言われることもないのでミカちゃん人形、ヒルバニラファミリーの動物の人形やミニチュアハウスを最初に思い付き、次にシオンの書いたキャラを使ったジグソーパズル。

 チェスのフィギュアヘッドをデフォルメ化した動物に変更した物、輪投げ、けん玉、ヨーヨーとあれやこれやと鉄板に書き出していき…。


「ストップ! もう鉄板切れだから!」

と言われてしまった。紙はまだ大量生産が始まっていないから使えないし、電子デバイスも無いから気軽に掛ける物が足りない。


 筆記具は試験販売が開始されたそうだから、早めに紙の販売も始めて貰いたいところだ…既に紙の生産に関しては人ごとになっているが、それで良いだろう。

 エメルダさんに渡した試験研究費は、商業ギルドが噛んだ時点で俺の出資だと分かるから返還されるだろう。


 紙の製法は恐らく高値で他の領に販売されることになるだろうし、各種石鹸類が販売に漕ぎ着けたら商業ギルドもウハウハになるのは間違いないからね。


 個人的にはカードゲームやトランプも作って欲しいが、これはプラスチックに変わる素材が開発されてからだな。


 どれから手を出そうか悩み始めたシオンが、

「こんなに教えて貰ったのに、返せるものが無い」

と声を震わせる。一つでもあればラッキー程度に思ってただろうな。勢いに任せてちょっとやり過ぎたかと反省中。


「体で払おうにも私の体じゃね…」

と冗談か本気か分からないことを言う。確か前に来たときは一人称が俺だったんだけど。

 女性の考えることは本当分からないな、と苦笑しつつ、

「たまに遊びに来て、のんびりさせて貰えるだけで十分だから。

 それに俺が欲しい物を作ってくれてるんだから、シオンには感謝してるよ」

と答える。


 決してシオンさんの言うように、好みが違うとか…は無い。何の?とは聞かないように。

 他にはお互いに急ぐ用事も無いので、シオンに別れを告げて『マーカス服飾店』へ脚を運ぶ。

 ドアには『パターンオーダー承ります』と前回来たときには無かった看板が追加されていた。


 店内に入ると、以前は中古の服が並べてあったスペースに生地やパーツのサンプルを並べたコーナーと、職人・冒険者向けのカスタムメイドコーナーに様変わりしていた。

 どうやら経営方針を方向転換したらしい。


「あ、クレストさん、いらっしゃい」

といつものように奥さんが出て来てくれた。


「思い切ったみたいだね」

「ええ、ご贔屓のお客様だけでは厳しいですから、余所とは違う事をやってみようと決心しましたの。

 それでですね、傘とがま口の試作品が届きましたので、ご覧になっていただこうと」


 奥に居る店員さんを呼んでサンプルを持ってこさせると、「さぁどうぞ」とグイグイ押してくる。余程気に入ってるようだね。

 先にがま口のバッグを手に取り、パチン、パチンと開け閉めをして調子を確かめる。


 センスの良い職人さんらしく、俺の適当なイラストから良くここまで完成に漕ぎ着けたもんだと感心する出来栄えだった。

 がま口自体は接着剤ではなく縫い付けて固定してあり、金具が取れそうな不安も無い。


 続けて傘を確かめる。バネを使ったジャンプ傘ではないので、ハジキを押してロック解除してゆっくり開く。

 軽量傘に慣れているせいで重たく感じるが、スキルの恩恵なのか傘自体に全く問題が無い。

 後の問題はどちらも耐久性だな。


「すごいね、よくこんな難しい物を短期間で作れたもんだ。良い仕事してますよ」

「えぇ、正直私もビックリです。

 こんなに簡単に開閉出来てしかも丈夫。まさに世紀の大発明です!」


 …気まずい。俺が発明した訳でもない物でそんな評価されても困るし恥ずかしい。

 やっぱり教えるんじゃなかったかな、と後悔するがもう遅い。

 俺が教えた事は誰にも言わないってことにしてるけど、レイドル副部長か誰かが俺の行動を監視してるような事を言ってたから、この店で作ってる物のこともバレてるんだろうな。


 あっ、せっかくだからキャラクターグッズの定番もラインナップに加えさせようかな。


「それと、『シオン雑貨店』に無地のシャツを卸すことは出来る?

 新しいキャラクターをプリントしたシャツを作らせたいんだけど」

「服を雑貨店で販売ですか?

 シャツの卸値にプリント代とシオンさんの利益を乗せると割高になりますが」


 新品シャツの卸値が全然分からないけど、どうせ新品は富裕層向けの商品なんだから多少高くても大丈夫だろうな。


「差別化を図る意味もあるから高くて良いんだよ。あの子に染物屋を紹介してあげてよ」

「分かりました。シオンさんもクレストさんの協力者の仲間入りですね。

 名札を入れるカードホルダーもクレストさんのアイデアですよね?」

「新製品を全部俺の発案と思わないで欲しいけど、確かにそうだよ。あの程度なら占有販売権も取れないだろうし、丁度良いかなって思った訳ね」

「ギルド職員の名前が分かるのは便利ですよね。職員の対応も丁寧になったようですし、ギルド利用者としてもありがたいことです」


 役に立てたようで良かったよ。まぁ当然のことなんだけどね。

 それ以上の話題は無く…と言うより話好きの奥さんに捕まると長話に付き合うハメになるので早めに退散だ。


 それからガバスさんの工房へと向かう。中に入って丸いゴングをカンカンカンと三度鳴らすと、語尾が特徴的でよく名前を間違えられるボビースさんが出て来た。

 奥から鉄を打つ音が聞こえているから、ガバスさんとギズさんは作業中のようだ。


「クレストさんじゃないっすか!

 珍しく冒険してたと聞いてびっくりしてたっす!」


 おいおい、そんなにハッキリ言うなよ。この人は何も考えずに喋ってるのは分かってるけど。


「樹脂が定期的に届くことになったんで、ガバロックの型を作ってたっす。他にも話したいことはあるんで、中に入って聞いて欲しいっす。

 親方! クレストさん来たっす!」


 デカイ声でそう告げると何度かカン、カンと音がしたがすぐに止まった。作業場に入ると相変わらず熱気に包まれているが、よくこんな所で一日中作業出来るもんだな。


「クレストさん、無事で何よりじゃ。

 ワッフルメイカーの型は出来たんでな、クッシュさんが試作の最中じゃ」


 やったね! 後でクッシュさんの家にお邪魔しようかな。

 それからギズさんが型の試作品を作った順に並べて進化の過程を説明してくれた。女性が使いやすいのは勿論だが、手入れのし易さを求められて意外と手間だったとか。


 ボビースさんに製品版のガバロックを持って行って欲しいと渡されたけど、それなら展示販売会を開いてくれたらサクラになるからと提案。堂々とサクラなんていうんじゃないよ、とガバスさんに小突かれたけど。


「ボビースさん、『シオン雑貨店』で新商品が出来るかも知れないから一度行ってみると良いよ。ガバロックの用途がもっと広がる発想が出て来る筈だから」

「シオンさんっすか? 最近名前を聞くようになったペチャπの人っすね」

「女性の容姿を揶揄するな!」


 ガバスさんがボビースさんに拳骨を落とす。この世界だとこれぐらいなら暴力反対とかパワハラとか言われない。

 もしガバスさんに本気でやられたら、首が数ミリ短くなるだろうなと恐怖を覚えるけど。


 ブロックとシオンさんに提案したものを合体させれば、馬車の中でも使えるチェスボードが出来るし、丸パクリだがレ○ブロックも出来る。

 壁掛け式のチェスボードもアリだし、ついでに碁盤と碁石も作って貰おう。

 それに麻雀牌も作れるだろうから、貴族向けに雀卓とセットで売り出すか。


 玩具はリミエン商会は扱う商品の系統が違うから、シオンさんに…も違うな。バルドーさんとケルンさんに相談してみるか。


 玩具の製造販売に付いて考えていると、タイミング良くミレットさんがこの世界では見慣れないタイプのバッグを持ってやって来た。

 ヤクル○レディさんが配達に使うような直方体で、少し重たそうに見えるのだが軽々と担いでいるので、見た目程では無いのか。


「クレストさんだ。お久し振りです」

と挨拶をして、早速バッグを開けると甘い香りが漂い始める。中から取り出されたのは温かいワッフルだった。


「クッシュは屋台に立っているので、代わりに私が持ってきたんですよ。来て良かったです」

と俺の手を取り上下に振る。


「型が出来てワッフルの試作中だと聞いたから、後でクッシュさんのお宅に行こうと思ってたんですよ。来てくれて助かりました」

「パンケーキだけだとすぐに飽きられるから、こうやって新しい物を作ってくれるととても助かります。

 それとこの保温バッグ、商業ギルドがモニター販売で安くしてくれたんですよ。

 氷を入れれば長時間冷たいままだし、酪農家にとってこれは神アイテムです。食中毒対策で各屋台にも販売するみたいで、これを考えた人はウハウハですよね」

「どうなんでしょうね?」


 ミレットさんも俺が発案者だと思ってるみたいな様子を見せるけど、もう気にするのはやめよう。パクリ商品だろうが何だろうが、開き直った方がラクになる。

 後で商業ギルドにも寄る予定だから、レイドル副部長に聞いてみよう。お小遣い程度のアイデア料を貰えるかな?


 ボビースさんがお茶を煎れてワッフルの試食タイムだ。

 一口目は甘い物好きで型を作った功労者のギズさんだ。

 一辺八センチの四角形のワッフルを勢い良くガブリ。そして目で喜びを表現しながらそのまま食べ続ける。


「感想を言え!」

とガバスさんが怒るが、この表情だけでも旨いと分かるでしょ。

 ギズさんが手で皆に早く食えと合図をするので、残りの男達も一斉に手に取りパクリ。

 格子の部分と平らな部分で硬さが違って食感が楽しく、麦芽糖を使ったのか蜂蜜とは違う甘さが堪らない。

 一口では止まらず、あっと言う間に食べきって二つ目に手を付ける。さすがに三つ目までは行かなかったけど、久し振りのワッフルに大満足だ。

 

「麦芽糖はもう売り出されたの?」

とミレットさんに聞くと、

「どうしてクレストさんはレシピが分かるのかしらね?と言いたいところだけど。

 レイドル副部長が試供品を持ってきてくれたわ。芋と大麦の過剰在庫を吐かせるのに丁度良かったとか言ってたけど。

 クッシュの家にわざわざ運んで来てくれたのは、麦芽糖の作り方をクレストさんが教えたからでしょ?

 それと何に使うのかも」


 仰る通りなので反論も何も無いな。それにしても、商業ギルドはちょっと頑張りすぎじゃないのかな?

 石鹸各種、紙、筆記具、保冷バッグに麦芽糖…俺が教えた物を一気にやっちゃったんだよね。実作業は協力工房に遣らせてるんだろうけど、それでも初めて作る物ばかりだし。


 それだけ売れる物を求めていたってことなんだろうね。リミエンは農業中心の町だけど、他にも同じような町は幾つもあるから競争になって外貨獲得が難しいんだろう。

 だから余所とは違う商品を開発して差別化を図ると。

 それに記念式典に向けての貯水池周りの開発に大金を投じるだけでなく、木材の買い付けもするんだからお金が欲しくて当たり前か。


 ミレットさんに遠征先での主食用パンケーキを三百枚焼きたいからクッシュさんに伝えておいてと伝言を頼み、ワッフルに花丸付きの合格点を出してから商業ギルドへ向かうことにした。


「チョコレートが欲しい…」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ