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スライム×3+骸骨×1≒人間です。(リメイク版)【第一部として完結】  作者: 遊豆兎
第8章 ダンジョンアタックの準備は怠りなく
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第120話 鎧でパニック(Part 2)

 『気高き女戦士の鎧(ブリュンヒルド)』を纏い、更衣室から出て来たセリカさんを見て、俺もルシエンさんも暫く見蕩れていた。

 現代の名工と言えど決して作り得ぬだろう造形美は、セリカさん自身の色気を伴うことで更に美しさを増したと言わざるを得ない。


 鎧下となる分厚目の上下、それと各部を守る硬い革鎧は落ち着いた濃いガーネットのような渋めの紅色に染められ、強化装甲として装着された金属部品も深いワイン色に着色されている。

 これなら『紅のマーメイド』の彼女が纏うべき鎧であると誰もが納得するだろう。青色系統や他の系統の色でなくて良かった。


「これはまた…着けてみると想像以上の品だな」

とルシエンさんは鎧を褒める。やはり防具店やってるだけあって、中の人が美人だろうとぶれないね。


「全くだ…さすがセリカさんだね、とても似合ってる。ずっと側に居て欲しいぐらいだよ」


 スタイルの良い彼女の美しさがより引き立てられたようで、町中でこの姿を見せると言い寄ってくる男が増えてきそうだ。

 装着は自動で行われるので町を出てから身に付ければ良いのだが、外すときはどうなの?


 と考えていると、セリカさんが慌てて

「ごめんなさいっ、それは無理なの!」

と手を大きく振って断った。


 あの…俺、何か言った?


 ポカンとする俺にルシエンさんが軽く拳骨で小突いてきて、

「無意識にプロポーズしないでくださいよ…多分おかしな事を言うとは思ってたんだが」

と言うのだ。


 おかしいなぁ…素直に感想言っただけなのに。


 なおも分かっていない俺に、

「クレストさん、お気持ちは大変ありがたいのですが、二股は良くないと思います」

とセリカさんが少し困惑した様子を見せる。


 二股と言われても、まだ誰とも付き合っていないし。誰かが何か勘違いしてる?

 そんな俺に、

「…あの、クレストさんが本当に何も考えていないのは分かりました。私の早とちりのようで、ごめんなさい」


 兜を外したセリカさんが頭を下げる。何気ない仕草でも鎧を着けてると絵になるね。

 良く分からないけど、自己解決したみたいなのでこの件は終了としよう。


「俺の方もごめんね。でも似合ってるのは本当だから。

 アヤノさんもそう思うよね?」

と第三者として振る舞っているアヤノさんに聞いてみる。

 少し笑いながら、

「えぇ、女ながらこの姿には惹かれますね。

 でも余り女性を褒めすぎてはいけませんよ」

と苦言を呈してきた。

 うーむ、無意識のセクハラで有罪判決を受けたおじさんになった気分だよ。


「以後気を付けます。

 で、その鎧、自動で着られたみたいだけど、外すのも自動なのかな?」

と自分の興味を最優先する。


「どうなのかしら?」

とセリカさんが考えるように少し右上を見上げ、

「着ける時は胸甲を撫でながらリーダーに着けてもらうようにお願いしたの。その反対をすれば良いのかな?」

と兜は右腕に抱えて胸に手を当てる。


 すると鎧が薄らと輝き始め、

『装着状態…確認』

と俺達の目の前に銀色の光が現れ、このような文字を作ったのだ。


「うわっ! 文字が浮かんでる!」

と驚く俺に構うこと無く、光は形を変えていく。


『自動解除モードスタンバイ…完了』

『解除開始』


「あっ!ダメ!」

とセリカさんが叫ぶと同時に鎧全体が光に包まれ、反射的に目を閉じた。瞼に輝くような光を感じなくなって目を開けると、


『解除完了』

『解除シーケンス終了』

と銀色の光の文字が形を変えていき、目の前に下着姿のセリカさんが立っていたのだ。


「あっ、ごめん!

 セリカさん、早く着替えて!」


 手で目を隠しながらそう言って振り返る。指の間から除くような趣味は持ち合わせてはいないのだ。


 バタバタと店内を走る音が遠ざかり、更衣室のドアが閉まる音がした。


「ごめん! わざとじゃ無いから!」

と更衣室に向かって叫ぶと、

「分かってます!」

と少し怒った感じで返事が飛んできた。今度から興味を最優先するのは気を付けようと思う。

 と思うのだが、気になることが。


「あれ? あの鎧はどこに行ったの?」


 セリカさんが鎧を外した場所には何も落ちていない。まさか亜空間に自動収納される仕様なのか? それなら鎧の運搬もラクで良いけど、解除の度に下着姿を披露するのは宜しくないな。


 でも、これってダンジョン産じゃなくて魔法の勇者の作った鎧じゃないのかな?

 テレビアニメやコミックの変身シーンぽいもんね。

 翼を持つ馬の鎧を着る星の人みたいなやつのノリだしさ。名付けも『ブリュンヒルド』なんてコッチの世界には馴染みが無さそうだし。


 着替えを済ませて出て来たセリカさんが顔を赤くして、

「怒鳴ってごめんなさい」

と謝るので、「こちらこそごめん」と応じて無かったことにする。

 でもやはり消えた鎧の所在が気になる。


「セリカさん、あの鎧はどこに行ったか分かる?」

と聞くと彼女が慌てて床を探し始めるんだけど、さすがにそこにあったら聞かないし。まさか実戦で一度も使わずにオサラバ、なんて馬鹿なことになっていないことを祈ろう。


「ひょっとしたら、俺の『格納庫』みたいな感じなのかも。

 心の中で『ブリュンヒルド』…あの鎧の名前を呼んでみて」

「あると良いのですが」


 セリカさんが素直に目を閉じて探し始める。見つからなかったらどうしよう?

 性能はともかく、あの鎧姿のセリカさんを見られなくなるのは惜しいと思う。なんで写真やビデオが無いんだよ!

 ギルドカードの発行機が作れたんだから、マジカメやマジビデオぐらい作れただろ!と会ったことは無いけど魔法の勇者に愚痴を溢す。


「あっ、ありましたっ!

 これは…マジックバッグの中でしょうか?…それよりも『ブリュンヒルド』、出て来てちょうだい」


 セリカさんの呼び掛けに応じるように、床の上に『気高き女戦士の鎧』がゆっくりと姿を現した。

 無くなってなくて良かった!

 これでまた凛々しいセリカさんの鎧姿を見ることが出来ると内心ホッとした。


「収納は…?」

と悩むように呟くと、アイテムボックスに収納するのと同じように空間の中へと姿を消していく。

 これは便利だな。もしセリカさんも収納スキルが使えるようになったのなら、色々と持たせておけばぐっと安心感が増すというものだ。


 何か渡しておいた方が良い物はないかな?

 食べ物は後で作った時に渡すとして、有用な物で嵩張る物…盾かな。

 盾って持ち運ぶのに邪魔だから、冒険者が装備するのは腕に装着が出来る小振りなバックラーが主流なんだよね。

 中には盾を背中に背負って移動する人も居るけど、初めて見た時に亀さんみたいだと思ったのは内緒だ。


 骸骨さんコレクションから『気高き女戦士の鎧』にマッチしそうな盾を探してみる。


 トゲの付いたようなのはセリカさんには似合わないし、亀の甲羅…これを使う古武術も実存するらしいが、跳ねるコミックの中で敵の持っていたイメージが強くて無理!

 それに見る度に笑いそうだし。


 オーソドックスにホームベース型か、機動隊とかの持つ長細いやつが良いんだけど…赤くて細長くて、尖った黄色の十字架が付いた盾…性能的には申し分ないんだけど…これは明らかに勇者がデザインしたもよだのよね。


「あの…クレストさん?」

「これは何か企んでる時の癖よ。何かやらかすから気を付けてね」


 セリカさんが不安そうに俺を見ると、アヤノさんが心外なことを言ってくれる。

 確かにアイテムボックスの中を検索してる時は放心状態に見えなくないかも。


「アヤノさんのイケズ…。

 で…これ、セリカさんの中に入るかな?」

「私の中に…」

「クレたん、昼間から大胆ね!」


 突然背後からカーラさんの声が響いた。いつの間に?

 盾を手にして振り返ると、ニヤニヤと笑うカーラさんとサーヤさんが居た。アイテムボックスの検索中は本気で無防備になるようだな。気を付けないと。


「いくらセリカでも、さすがに盾なんて無理よ、壊れちゃうぐらいじゃ済まないから」

とカーラさんが訳知り顔で語る。


 そうなの? エマさんのスキルは結構入るみたいだけど。


「もう、カーラは変なことばっかり言って。

 セリカが『格納庫』みたいなスキルを覚えたかも知れないから、試しに盾を入れてって言ってるだけよ」

と言ってアヤノさんの拳骨がいつも通り炸裂したが、これは彼女達の様式美なのだ、無視しよう。


「えっ? セリカも収納スキルを覚えたの?

 私も弓と矢の限定だけど、収納出来るようになったんだよ。これだけでもすっごく便利なのよ」

とサーヤさんがドヤ顔でVサインをした。


 それからすぐにサーヤさんが弓と矢の収納スキルで取り出し、空間に収納する様子をお披露目したのだが、申告通り、何故か他の物は収納出来なかった。

 だが限定と言っても、射手である彼女の一番神経を使う弓と矢の運搬の問題が解決したのだから、これは大きなアドバンテージになるだろう。

 矢が尽きて戦闘継続が不能になることも無くなるし、使いたくは無いが毒矢などを安全にストック出来るのだから。


 彼女は『格納庫』を身に付けようとしていた時に、矢の持ち運びが便利になるようにと願いながら練習してたのかも。


 そしてセリカさんが渡された盾を手に持つと、

「やってみます…けど、エマさんみたいにしなくて良いですよね?」


 それは『タンスにドンドン』みたいに叫ぶのはイヤってことかな?

 待てよ、それってエマさんなら『デビル刈ッターベルト』を使ってくれるかも…いや、ギャップ萌え狙いなら『片手ハンマー(パニッシュメント)』が良いかも。

 これはヤバイな、エマさんのキャラがブレてきたよ。


 俺の中では可愛くて大人し目だけど、時に大胆な行動を取ることもあるけど、それもイヤな気にならないって人なんだよね。

 遠征中にはオリビアさんと張り合ってたような気もするけど、最後には和解したみたいだし。


 おっと、また余計な考えごとをしてた。今はセリカさんのスキルの検証が最優先。


「行きます…収納…」


 セリカさんが手を当てていた盾が先程の鎧と同様、空間の中に姿を消していく。


「その盾は?」

「名前は『ヒルドベイル』。『ブリュンヒルド』に比べたら全然物足りないかも知れないけど、盾の持ち合わせは少なくて」


 出しても良い盾はね…サーフボードの形をした水上戦用の盾とか、マジで鍋の蓋にも使えるバックラーとか、変形ギミックに隠し武器満載の盾…これは欲しいかも…じゃなくて、色々とヤバいんだよ。


 収納から取り出した『ヒルドベイル』をセリカさんと他のメンツ達がマジマジと見ている。

 そしておもむろに、

「これ、金属じゃないですね。

 何かの魔物素材か錬金術師の作った材料なのか…言うなれば帆船の帆のような感じがする。

 これを作ったやつは、かなり頭がおかしいだろう。問題は強度だが」

とルシエンさんが『ヒルドベイル』を拳でコンコンと叩き、顔を顰める。


 形状も縦長の長方形で緩く湾曲しているし、色も白い地に金色の装飾が施されていて、高貴の人の乗る帆船の帆に見えなくもない。


「見た目は柔らかそうに見えて、この硬さだ…無駄なことに技術を使いやがったもんだ」


 そうだよね。軽さと丈夫さをとことん追求した結果、炭素繊維みたいな素材を作り出してんだから。

 説明文にも『正体不明の繊維を編んで作った軽量かつ堅牢な盾。絶縁してるけど、本体は熱と電気を伝えやすいので敵の魔法に気を付けてね』と書いてある。


 盾と鎧が揃ったから、セリカさんの防御力はそれなりに上昇したんじゃないかな。慢心するのはダメだけど、前の装備よりは安心感がある。


「防具店でよくそんな物を出せたね」

とアヤノさんが苦笑し、ルシエンさんも大きく頷く。

 確かにルシエンさんの儲けにはならないね。でもセリカさんの鎧は修理に出されてるんだから、一応俺も売上げに貢献してるよね。まあ、今回は余り嬉しくない貢献の仕方だけど。


「それで、クレたんはセリカに鎧と盾をプレゼントしたんだ。

 じゃあ、セリカもクレたんのお嫁さんに決定だね!」


 そう言ってカーラさんがセリカさんを強制的に万歳させようとしたけど、残念ながら身長差の都合で斜め四十五°の中途半端な万歳になった。


「カーラ、それは違うみたいよ」

「嘘っ! 何よそれ。

 女性から男性に鎧を送るのは『命懸けで私を守ってください』って意味なのよ。

 まあ、これはお姫様が騎士にあげることが殆どだから当然だけどね」


 コッチの騎士は鎧を貰うのか。肩に剣を当てるような儀式はしないのかな?

 でも、考えてみると騎士の鎧って普通は支給品だよね?

 じゃないと皆バラバラな鎧になるからさ。お揃いの鎧を持たせるのは、統一感とか威圧感とか敵味方の識別とかの意味がある筈だし。


「で、男性から女性に鎧を送る場合はね、『俺を守ってくれ』って意味は変わらないけど、その為には側に居る必要があるでしょ。

 だから『俺の側に居てくれ』って意味、つまりプロポーズなのよ。

 セリカも受け取ったんだから、クレたんのプロポーズ受けたってことでしょ」


 ちょっと待ってよ。確かセリカさん達が来る前に、ルシエンさんが鎧を貰う方も覚悟を決めるぞ、みたいな事を言ってたのってそう言う意味だったんだ…ちゃんと教えてよ!

 それに対して、気楽に受け取ってくれないかと聞いた俺ってアホじゃないか。そんな人は居ないでしょ。


「やっと理解してもらえたか」

とルシエンさんが腕組みしながら頷く。


「ちなみに武器をあげるのは意味ある?」

「武器なんて消耗品だから特に意味は持たないわよ。だからサーヤも気楽に貰ってたでしょ」

とアヤノさんが教えてくれたのは良いけど、あげたつもりは無かった…まぁ今更か。


「クレたん、私には無いの?」

と催促してくるカーラさんには亀の甲羅をプレゼント。

 名前はズバリ『こらコーラ』だ。背中に背負えるように肩のバンド付き。ついでに頭の部分がウニャウニャと丸くなっている木製の杖も渡しておこう。


「私の扱い雑! どうしてっ! やっぱり乳が足りてないと思ってるんでしょ! セクハラで訴えるわよ!」


 暫く杖でバンバン叩かれたけど全部受けきった。マジで殴らなくても良いでしょっ!

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