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スライム×3+骸骨×1≒人間です。(リメイク版)【第一部として完結】  作者: 遊豆兎
第2章 何故か冒険者になるにはトラブルって付き物だよね
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第14話 リミエンに到着

 骸骨さんがアイテムボックスに入れていた道具のお陰でケルンさんの荷馬車は無事に修理完了。

 何度も御礼を言われて辟易して、ケルンさんを手で制した。


「あの、俺はこの辺りのことを全然知らないんで、良ければ教えてくれませんか?」

と余り下手に出ないようにお願いする。

 お礼を言われ続けるより、少しでも情報を貰える方がこの世界の初心者である俺には役に立つ。

 今が何年何月かすら知らないのだから。


 自己紹介では設定通り他国の施設に預けられていて、最近自立したことにしておいた。

 じゃあどこのどんな施設だよ?と聞かれると答えられないんだけど。


 ケルンさん曰く、そう言う孤児を預かる施設って経営が悪化しやすいので簡単に潰れるのだとか。

 それなら在籍していた施設も潰れたことにしておけば、大きな矛盾は生じないかな。


 ここからケルンさんに教えて貰ったことを述べて行くと、この国はコンラッド王国と言う名前で現在の国王はルシウム・ド・コンラッド。

 王都はリミエンから三つ先にあって、ケルンさんは行ったことが無いらしい。


 この国の主産業は農業で、近隣諸国と比べても農林資源は豊かだとか。

 その反面、鉄鉱石の半分以上を輸入に頼っているらしい。

 最近になって黒くて燃える石、つまり石炭が発見され、これを少量だけ輸出しているそうだ。煙が臭いので町中で燃やすのは禁止だと。


 コンラッド王国なんて骸骨さんの記憶には無い。死んでる間に出来た国かな?

 尋ねてみたら、建国95年の新しい国だった。

 ステータスで見た俺の出身地のキリアスは、コンラッド王国の北に位置し、現在も長年に渡り続く騒乱の最中らしい。

 だからキリアスからこの国に脱出してくる人も本当に僅かだが居るので、キリアス出身の俺がこの国に居ても不思議ではないとか。


 いや、骸骨さんの記憶だとキリアス王国は勇者を先頭にイケイケドンドンでアチコチに戦争を仕掛けていたヤバい国だったみたいだけど、いつの間にそんなに弱体化したんだろう。

 一番考えられるのは、勇者が居なくなってからか。


 勇者に関しての詳しい記憶が無いが、辛うじてアジア系の顔をした男女二人組だと分かった。恐らく異世界召喚なんだろうな。


 そして驚いたのが、今は大陸歴五八八年三月ってこと。

 骸骨さんが持っていた冒険者タグの最終更新は確か大陸歴三三七年二月だったから、二百五十年も死んでた訳だ。そりゃキリアス王国が落ちぶれていても仕方ないか。

 けど、そんだけ経っているのに馬車が進化していないのは戦争ばっかりしてた影響なのか?


 ケルンさんが言うには、戦争も何度かあったし、魔物の大量発生や大洪水など色々災害が発生したそうだ。

 それで各国は何度も痛手を受け、文化も文明も進化は殆どしていないのだとか。

 最近では他国との戦争ではなく魔物との生存圏争いが主流だと言う。

 そんな主流は嬉しくないけど、人間同士でドンパチやるより精神的には楽か。


 お金は銅貨、大銅貨、銀貨、大銀貨、金貨、大金貨、白金貨の七種類の貨幣があり、それぞれ貨幣は十枚で上位貨幣一枚に相当する。

 普通の市民なら月に大銀貨十枚から二十枚で生活している。


 金貨以上の貨幣は大商人しか扱わないとか。

 なので町中で買える武具などの高額商品は、基本的に大銀貨の枚数で表示されているそうだ。


 大銀貨が一万円札相当と仮定すると、大銅貨が百円玉、銀貨が千円札、金貨が十万円ってとこか。物価も違うだろうから完全には当てにならないけど。

 けど、なんか過去に日本人が来て決めたんじゃないかと疑ってしまうな。買い物に行く際は銀貨と大銀貨を持っていたら何とかなるね。

 五銀貨玉とか五大銅貨玉とかあればなぁ…。

 逆に二銀貨玉なんて作っても、すぐゴミになるから余計な事はしないで欲しい。


 幸いにして骸骨さんの遺産の貨幣も一応は使用可能で、しかも昔の貨幣は現在の物より質が良く、一割増しの価値があるらしい。ただし両替で手数料を一割も取られるので実質儲けは無しだ。

 マジックバッグの中に大量にあるんだけど…一度に大放出すると出所を詮索されるかも知れないな。両替する時は注意しておこうか。

 リミエンに入る時に必要になると言われて、大銀貨を十枚だけケルンさんと交換してもらう。


 ちなみにケルンさんは商店の無い小さな村々を中心に回る行商人だ。

 あまり儲けにはならないけど、自分と子供二人を食べさせる程度には稼いでいるとか。

 奥さんは病気で亡くなっているそうだ。まだ三十歳。たまには人肌恋しくなるだろうに。

 余計なお世話だって?


 それとマジックバッグは人の前では使わない方がよいと忠告をされた。

 すんません、マジックバッグよりもっと便利なアイテムボックスってスキルも持ってるんです。これは言わないでおこう。


 それに肩に掛けているバッグはマジックバッグではなく、ただのバッグなのだ。

 それを如何にもマジックバッグのように見せ掛けて、アイテムボックスから物を取り出している。


 そして分かったのが、骸骨さんが死んでから復活するまでの間に、魔法使いも魔道具技師も軒並みレベルが落ちているってこと。

 戦争や災害で多くの魔法使いや技術者が亡くなり、技能継承に失敗したのかな?


 確かに凄腕職人って俺の勝手なイメージだと、頑固な人達が多そうな気がするからなぁ。

 最低でも技能継承を支援するために映像を残すツールを作っていないと、その職人が急に居なくなったら簡単に技能が失伝してしまう。

 そうなると次の天才が現れるのを待つしかないわけだ。


 そんな話を聞いていると、ぽかぽか陽気に照らされて気が緩んだ訳ではないと思うが、進行方向に突然大人の柴犬サイズの野犬が一匹だけ現れて、馬が驚いて急停車した。


 どうやら荷馬車の荷物狙いのようで、俺達を無視して荷台の臭いを嗅いでいるようだ。


「これは干し肉の臭いのせいですかね」

とケルンさんが苦笑した。

 最後に立ち寄った村で大量に仕入れて来たんだとか。


 こんな野犬でも相手が子供ならあっさり噛み殺してしまうし、荷馬車を襲うことを覚えた魔物は可哀想だと思うが駆除対象なのだ。


 そうそう、この世界では動物と魔物の分別基準は魔石の有無らしい。

 見た目での判断が付かないのも居るそうなので、動物と言えど近寄る際は要注意。例えば魔物の犬は動物の犬に比べて一~三割も運動能力が高いと言われているそうだ。


「俺が相手しますよ」

「えっ!?」


 驚くケルンさんを残して御者台からパッと飛び降りる。

 俺に飛び掛かって来た魔物の野犬(魔犬と呼ぼう)にタイミングを合わせてゲシッと腹から蹴り上げると、ギャウンと悲鳴を上げて大きく宙に舞った。

 憐れ、魔犬は空中でクルリと大きく一回転し、そのまま勢い良く地面にドサッと落下したところで頸の辺りを踏み潰して命を絶つ。


 牙や爪にはどんな菌が潜んでいるか分からないから、噛まれたり引っ掻かれたりしないように短時間で確実に対処することが大切なのだ。

 頭蓋骨は硬くて簡単に斃せない可能性があるから、弱点の頸部を破壊するのが一番手っ取り早い。


 もし生き物をこんなにあっさり殺してしまうことに抵抗が無いのか?と聞かれれば、やられる前にやるだけだと返事をしよう。

 特に動物タイプの魔物は見た目と違って凶暴なものが存在する。森の中でリスの群れに襲われたのは軽いトラウマだぜ。

 それに今の俺は対象の生物の魔石反応を感じることが出来る…と言うか、これは肩に掛けたバッグの中で食っちゃ寝しているスライムの持つ能力なんだけどね。


 魔犬の遺体は後でスライムの餌にするのでマジックバッグに偽装した革のバッグ経由でアイテムボックスに収納しておいた。

 ブーツも魔法で出した水で洗っておく。

 蛇口から出る水をイメージしても滝のような勢いで出て来るので、地面を抉って出来た水溜まりにブーツをポチャッと浸してジャブジャブ。


「まさか蹴り殺すとは。良い度胸と凄い腕前ですね」

と驚いたような、呆れたような顔でケルンさんが苦笑していた。


「え、えぇまあこの程度の相手なら平気です。

 ところでケルンさん、一人で護衛も無しで大丈夫なんですか?」


 そう、今更だがこのおじさん、護衛も付けずに行商しているのだ。道中、盗賊とか魔物とか襲ってきたらどうすんの?

 ただの野犬一匹程度なら何とかなるだろうけど。


「あははっ、この辺りの魔物に遅れをとる程私は弱くありませんからね。いや、有難いことですよ。

 それに護衛を一人でも付けたら一発で赤字です」


 なんと戦う商人さんでしたか!

 あっけらかんと言ってハハハと笑うケルンさんは、見た目はのほほんとした人の良さそうなおじさんだ。

 でも見掛けによらない人って本当に居るんだね。


 それからまた御者台に座り、荷馬車で進むこと数時間。

 あの、やっぱりこれは歩いた方が良いと思いますけど。どう考えても乗り心地が悪いし、しかも遅い。

 健脚を誇る旅人なら荷馬車に乗るより歩きを選ぶね。でも荷物を背負って歩くのは疲れるか。


 歩き慣れていない人なら乗り心地が悪くても荷馬車で我慢するしかないだろうけど、絶対乗りたくないだろうな。

 スピード感が違うから単純比較は出来ないけど、田舎の凸凹道を爆走する軽トラの荷台に乗ってるより酷そうだ。


 そこからは何もトラブルも無く、二人でとりとめの無い話をしながら荷馬車を進めてようやく大きな城門の前に差し掛かった。


「お疲れ様、やっとリミエンに到着です」

とケルンさんが穏やかな顔で言いながら、城門に入る為に待っている行列の最後尾に荷馬車を付ける。

 十人程の短い行列なので、すぐに俺達の番が回ってきた。


 ケルンさんは衛兵さんと顔馴染みのようで、商業ギルド発行のギルドカードを見せ、荷台の荷物を見せるとすぐに入場許可が出た。


 そして俺だが、衛兵さんに身分証明書が無いと言うと入場審査の為に脇にある小部屋にケルンさんと一緒に連れ込まれた。

 中には天板が傷だらけの机と向かい合って座るように粗末な椅子が二脚があり、机の上には薄らと緑色掛かった直径十センチ程の水晶玉が一つ、そのすぐ横に銀色の長方形の金属板が置かれていた。

 細い銀糸のような物で水晶玉の下部と金属板が接続されており、何かのマジックアイテムだろうと予想する。


 先に入った衛兵さんが椅子に座ると金属板の短辺側にクレジットカードサイズの黒いカードを差し込んだ。

 テンキーは付いていないが、レジでよく見るカード読み取り機みたいな物かな?


 それで準備が整ったのか、反対側の椅子に座るように指示されたので素直に従うと水晶玉に手を乗せて、氏名、年齢、出身地、来訪目的を告げろと言われた。


 初めて見るファンタジー要素満載のアイテムにテンション爆上がりだが、一度咳払いをしてから深呼吸、ステータスで確認した通りに告げ、来訪目的は就職だと答える。


 水晶玉は薄緑から水色に変化し、すぐに青色、緑色と寒色系で纏めた色彩に次々と変わっていく。そのまま一分間程待っていると、最後に薄緑色の光で三度点滅した。


 衛兵さんが頷くと、次にケルンさんと椅子を交代するように指示をした。

 ケルンさんも水晶玉に手を乗せ、氏名、年齢、出身地を答えるとまた水晶玉が何度か色を変えるが今度は十秒程で終わったようだ。


 金属板から黒いカードを取り出した衛兵さんが俺にカードを差し出すと、

「これが貴方の一週間の入門許可証となります。身元引受人としてこちらのケルンさんが設定されているので迷惑を掛けないようにして下さい。

 保証金として、大銀貨四枚をお支払い下さい。

 リミエンで身分証明書を作ったなら、それをお持ち頂ければ大銀貨一枚を返金します。

 その許可証を返却すれば更に大銀貨一枚を返金します。

 なお一週間を越えてリミエンに滞在する場合、再度この手続きが必要となります。手続きをせず不当に滞在すると、少々厄介なことになりますのでお気を付け下さい」

と事務的な口調で告げ、壁に貼ってある羊皮紙を指差した。


 それには小さな文字で罰則規定が細かく記載されているが、簡単に言うと強制労働の刑が科せられるようだ。

 保証金はおおよそ四万円か。高いと思うが外国籍で身分証明書が無ければその金額で妥当なのかも。

 早めに身分証明書を作ってこのカードを返却しよう。


 こんな水晶玉でチェックが出来るんだと感心しつつ、ケルンさんに交換して貰った大銀貨を四枚渡して黒いカードを受け取った。

 カードは厚さ三ミリ程度で材質は不明だがプラスチックより硬そうだ。

 両面を繁々と眺めてみたが、どこにも何も書かれていない。ICカードと同じで情報は読み取り機でしか確認出来ないのかな?


 ケルンさんが身元引受人になってくれたので、俺がもし何か罪を犯すと責任をケルンさんが取ることになる。

 早めに冒険者ギルドでギルドカードとやらを作らねば。

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