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(閑話)復活の熊

 ワイが目を覚ましたのは、燃えさかる炎の中やった。

 最初はボーッとなんでこなん所におるんや思とったけど、よう考えたらローストベアになるとこやん。誰がこんなことしたんや?


 頭の上にポイポイと何か投げてこられとるとこを見たら、ここはゴミ焼き場かなんかやろな。

 で、ワイがここに居るゆーことは…


「このーっ、ヒトゴロシっ!」

と叫ぶの当然やろ。

 まぁ、この程度の火ならワイの毛皮は燃やせへんけどな。


 普通ならこれで犯人が慌てて火を消しに来る筈やけど、聞こえへんかったかまたゴミが飛んで来た。ワイの頭ぐらいある木の塊や。ゴチンと命中して、「アタッ!」と声を出したもうた。


 一体何処の誰や? 魔王か勇者の一派か?

 感じる魔力は勇者の系統とは違うようやな。なら魔王か?

 それなら一回はリベンジせなあかんわ。こう言う時は、格好つけて名乗りをあげるのが様式美やな。


「人を呪わば穴二つ…その通り。

 だが俺は今こうして復活したのだ!

 如何にセラドリックが強かろうと、俺を」

「うるせー!」


 最後まで言わすどころか、ワイの胴体並の大きさの木のボールが飛んで来て、プリティストマックにドストライクや。


「生きてる? なんなら留めを刺そうか?」

と自信満々な声が飛んで来た。

 仮にも魔界では騎士の地位を勝手に名乗ってたワイを人間が殺すやと?

 オモロイ冗談や。


「そんなのいらんっ!」

と返事を返すと、なんか知らんけど火の中やなのに冷たい魔力が浸食してきたんや。


「火で焼け死なないのなら凍らせてみようか」 


 おいおい、そらないで!

 せっかく復活したばっかりや言うのに、いきなりゲームオーバーはイヤやで!


「なんでそんな好戦的なん?

 世界平和や! ハム アンド チーズっ!」

「ラブ アンド ピースな」


 冷静に訂正してくる奴やなぁ。こら、相当な場数を踏んどるに違いないわぁ。

 戦意は無いのを示さなあかんと思うて火の中から飛び出たら、

「念仏唱えるまで待ってやる」

と言いながらアイテムボックスから木の棒を取り出して氷を纏わせたんや。


「念仏て…」

「なら死ねっ!」


 目の前の人間は恐らく勇者や。ワイが知っとる連中とは違うみたいやけど、スキルもあるし、髪も瞳もあの勇者らと同じや。


 そやけど木の棒を持っとる言うことは、この勇者はコッチに来て間もない言うことや。

 勇者達は冒険スタートの時には、何でか知らんけど木の棒を持って出発するらしいやん。


 振り下ろされた木の棒は予想より速ぉて、ギリギリ回避したわ。嘘やん、初心者勇者が何でこんな鋭い攻撃出来るねん?

 え? 棒がダメなら格闘なん? 魔力のこもった右脚の必殺キックやと!

 そんなん当たったらキラーンと星になるわ!

 ホンマ死ぬ気でブーツにしがみ付いたで。


「あかん! この人、鬼や!」

「熊は喋らない。正体を現せよ」

「こっちの熊は喋れんの?」


 ワイを封印した勇者達は、ワイが喋っとっても何も言わんかったで。そやのにコイツ、熊は喋らん言うんや。どうやらキリアスとは違う場所に来たみたいやな。

 コイツの仲間達が近寄って来たけど、大したことはなさそうや。気を付けなアカンのは、この勇者一人だけやな。


「お前、勇者に関係があるのか?」


 なんやて? アンタも勇者やろ? 自覚無いんかい?

 まぁ、そっからは自己紹介してお話しモードに入って、茶髪の姉ちゃんに裸族扱いされたけどあんなんと一緒にすなっ!


 魔法の勇者の悪口言うてやったけど、スルーされたからあの腐れ外道とは関係無い連中やし、話も通じそうやから一先ず安心やな。

 オリビアとか言う赤茶色のロングヘアの姉ちゃんに抱っこされた後に、何でか知らんけど投げ付けられてメッチャ怖かったけどな。

 あの脂肪の塊に手が当たったからやて?

 なんでそんな事で死にそうな目に会わないかんねん?

 やっぱ人間の雌の考える事は分からんなぁ。


 けどなぁ、熊の体やと不便なんや。痒いとこ掻けんし。そやから元の姿に戻ろ思っとんやけど、どうやら魔力が足りてへんみたいやな。

 飯食って寝とったらそのうち戻るやろ。


 で、ここは何処なんやろ?

 魔力が薄いんやから魔界じゃないのは分かるんやけど、地面の下から魔界蟲の魔力がプンプンしとる。

 こんな危ない場所であんちゃんら何をやっとんねん?


 木が育たん調査やて?

 いやいや、魔界蟲が居るんなら木なんか育つ訳ないやろ。アイツら、若い木の根っ子からチューチュー魔力吸い取るんが好きなんやで。

 まあ魔界にしか居らん蟲やから、人間が知らんのは当然やけどなぁ。


 けどなんで魔界蟲がこなん魔力の薄い所に居るんや?

 普通なら魔界から出てこん筈なんや。考えられるとしたら、魔族の誰かが持ち出したか、なんかの荷物に卵でも付いとったかや。

 一時の移住ブームで魔族も結構キリアスに来たんやけど、勇者らにボコられる言うて離散したからなぁ。


 魔界蟲がこの辺で生き抜く言うたら、この山には魔砂土が多いんやろ。扱い方を間違うたら魔族でも結構危ないらしいんやけど、適切に処理したらミスリルも採れるしな。


 コッチの人間は魔砂土も知らんのかい。知らん方が幸せかも知れんけど、どうやら間違いのぉ魔砂土の層があるらしい。こらヤバイで。

 ダンジョンも探しとる言うとるから間違いない。誰かが魔界蟲を運んで来とるわ。

 いつ頃から来とるんか分からんけど、移住してきた魔族は若い奴が多かったしなぁ、まだ生きとる可能性は高いわ。


 そやけど入口が隠蔽されたダンジョンがあって、その隠蔽魔法が消えたやと?

 おかしいなぁ、邪魔者を呼びこむのをイヤがって隠蔽すんのや。絶対とは言わんけど、掛けた奴は死んどるやろ。

 気変わりして人間を招き入れとる、言う可能性も無いことはないけど、行ってみな分からんなぁ。ワイが知っとる魔族やったら話出来るかも知れんなぁ。

 

 調子に乗りすぎてダンジョンとマジックバッグの関係を話してもうたけど、知ったとこで誰も何も出来んし。

 多分このあんちゃんならマジックバッグも作れる思うけど、好きなアイテムを好きなダンジョンに出現させることは出来んから、マジックバッグの実験はせんやろな。


 マジックバッグとダンジョンには空間としての繋がりは無いんや。

 魔法の勇者は魔力因子の結合がどうたらこうたら言うて実験しとったけど、多分謎の解明は出来んかったやろ。

 神が暇潰しの為に作ったシステムや言われとるけど、あながち間違いやないかもな。


 そんな話をしよったら、人間のオッサンのベル言うのが来たんや。人間にしてはエラい強そうや。

 プラチナバット通信が使えるやて、人間もやるもんや。魔法の勇者も中々プラチナバットの捕獲は出来んかったし、飼い慣らすのは面倒なんや。子供の時に捕まえて育てても人には懐かんのや。卵か赤ん坊を産むのか知らんけど、とにかく生まれて間もなしの個体から育てなアカンのや。

 希少価値があるんで、懐いたプラチナバット一匹売っただけで一生食べれるらしいで。


 ベルはん言うのも大概やけど、クレストのあんちゃんも大概やな。魔法の使い方は初心者か思うほど下手クソやけど、それでもゴリ押しで地面を丸く平らに整地しとんのや。ホンマオモロイ人間やな。


 ベルはんは魔界蟲を倒す気でおるけど、どうなるやろ?

 ここは高みの見物と行かせて貰おか。

 あんちゃんが地面に穴を開けて魔界蟲をおびき寄せるように魔力を流し始めたんやけど、この人、どんだけ魔力を作れるんやろ?

 自称魔界の王の連中と互角? まだ若いし、訓練次第じゃそれ以上になるかもな。


 それでホンマに魔界蟲は釣れたんや。ワイも何体か倒したことはあるけど、目の前のは割と若い個体やな。これならアレを使うことは無いやろうから、ベルはんが居ったら倒せるかもな。

 少々の怪我ぐらいは当たり前やろ。


 魔界蟲は古い個体になったら必殺技の銀光針を使うんや。アレを至近距離で喰ろたらワイでもギリギリ死ぬやろ。

 しかも魔法の攻撃は殆ど効かんので、接近戦でしか倒せんのや。

 調子に乗って武器でダメージ与えよったら、カウンターの銀光針の洗礼でやられた仲間は何人か居る。


 それさえ無けりゃ、ワイからしたら硬いだけのデカブツや。熊の姿やと無理やけど、元の姿に戻れたらな。


 ベルはんの必殺技『狼爪(ヴォルフナージェル)』が魔界蟲の尻尾を輪切りにしたんや。やっぱり思た通りの強さやな。

 弾かれた石が茶髪の姉ちゃんに飛んでったけど、怪しいスキルで受け止めよった。ドンドンやて初めて聞いた収納系スキルやん。


 その後はあんちゃんが自分を餌にして口を開けさせて、怖い赤茶色の髪の姉ちゃんが口の中に火焔魔法を命中させたんや。

 そうや、幾ら魔界蟲の外皮は魔法を弾く言うても口の中だけは別なんや。そやけど魔法勘の良え魔界蟲は魔法で弱点を狙われとったら口を閉じて回避するんや。


 魔法を命中させる隙が出来るのは、唯一捕食を確信した時だけや。そやけどあんちゃん、あんな怖いことよぉやったな。わざと魔界蟲の前で無防備になっとんやから。

 余程あの怖い姉ちゃんを信頼しとんのやろ。


 頭を失った魔界蟲はメッチャ暴れとる。それでも生きとる言うのは反則やけど、とんでもない万能細胞を持っとるらしいからしゃあないわな。


「歯ぁ食いしばれっ!」


 今は魔界蟲の歯、無くなっとんやけど。言うか、あんちゃん、なんで魔界蟲を殴るんや?

 そんなん人間のすることやあらへんで!

 ワイら魔族ならやる奴も居るかも知れんけど。


 頭を無くし、あんちゃんにボディ打ちされてヒヨコがクルクル回っとる状態でベルはんが輪切りを増やし、留めは怖い姉ちゃんの『煉獄の焔(プルガトリーム)』や。


 動き回る相手には通じんやろけど、脚を止めた相手になら大ダメージやな。頸と下腹あたりの二ヶ所を同時に高熱で焼かれたら、魔界蟲の再生能力も無効やろ。

 ワイもこの姉ちゃんだけには逆らわんとこ。


 けど、こんだけ苦労して倒した魔界蟲でも使える素材は牙しか無いし、魔石も何処にあるんか分からんのや。

 ドリルからヒュージワームに変身するときに魔石を使い切る言われとるからなぁ。シンドイだけで、儲けにはならんのや。


 無傷で倒せたから良かったなぁ、ぐらいに思とったら、あんちゃんは魔界蟲の遺体を回収しとるし。まさか喰うつもり?

 そう言や、勇者共も結構なんでも食べよったなぁ。勇者の居た世界は、テーブルの脚以外の四本脚ならでは何でも食べる習慣がある言うとったし。魔界蟲には脚は無いんやけど、どうすんのやろ。ヘタにこんなん喰うて腹壊したら死ぬかも知れんで。


 オモロイあんちゃん、怖い姉ちゃんに挟まれてワイも少し寝るわ。


 ワイの新しい冒険は始まったばっかりやで!

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