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第116話 ブリュナーさんへの報告。主語は付けようね

 俺が留守中に起きた出来事をブリュナーさんが報告してくれた。総じて問題は無いと言えるだろう。


 ジョルジュさんの船にリタが乗ることはレイドル副部長に聞かされていたが、いよいよ出発か。

 性格ブスでなければもう少し違う付き合い方あっただろうが、あんな目に遭わされたせいか、皆に迷惑掛けずに椰子の実を運んでくれと言う思いしか沸いてこない。


 予定外だったのはパンケーキの専門店を開く気になったことかな。ミレットさん、クッシュさんの二人に許可を貰えたらクッシュさんを店長して…クッシュ店長…まるでクック船長みたいだな。


 ブリュナーさんの話が終わり、ここからは俺のターン!…で、何と闘うの?


「調査の経過はギルドに報告されるでしょうから、その写しを頂戴することとして。

 気になる事だけ質問させて戴きます。

 青嵐のベル殿から、魔界蟲なる魔物が出現したと伺いましたが。かなり厄介な相手だったとか」


 話しやすいように話題を振ってくれたのか。何から話そうかと迷っていたから助かるわ。


 一体目はベルさんが居てくれて無傷で倒せたけど、二体目でセリカさんが重傷を負ったこと、カーラさんの魔法で宙に浮かんでから剣をクチの中から突き刺したことを話し、『星砕き』の能力を話すかどうかで悩む。


 地割れを起こすような危険な武器を所持していることは、極力人に知られない方が良い。

 兵器として利用しようと企む奴が現れるのは必至だし、平和利用として道路工事や採掘現場に派遣されるかも知れないからね。


 採掘に使うのならマシだと思われるかも知れないけど、どこまで地盤に影響を与えるか分からないんだから危なくて使いたいとは思えない。

 だけど、ブリュナーさんには教えておこうと思う。

 俺の切り札の一つに過ぎないし、俺の中の骸骨さん本人を教えるのに比べれば、武器一つの秘密を教えるなんて大したものではないからね。


 現場を見た仲間達は、剣の力ではなく何らかの魔界蟲の力が働いて地割れが起きたのだと思っている節があるが。


 それにサーヤさんに預けている『アメンボウ』や、草刈りに使った『まっさお君』など、店では買えないアイテムを使用しているのだ。

 『普通の剣を使って留めを刺しました』なんて言っても、それは嘘だと見抜かれるだろう。


「キリアスの宝物庫から持ち出したのかも知れませんね」

とブリュナーさんが『星砕き』を手にして真顔で呟く。

 骸骨さんコレクションの数々は、本人がダンジョンから収集した物だと思いたいのだが。真相は闇の中だ。


 セリカさんの腕は俺の魔法で治したのだが、鎧は破損したままだ。ルシエンさんに見せると、大怪我をしたことがバレると思う。

 治癒魔法のことをルシエンさんに教えて良いものかどうかだな。


 そう言えば、『魔熊の森』の後始末はどうなったのだろう? あの件が有ったから軍が治癒魔法の使い手を囲うようになったのだ。

 事態が収拾した現在、その魔法使いを手元に起き続ける意味は無いのだ。


 それを聞いてみると、自らの意志で軍に残るか退役するか選択出来るようになったらしい。

 きっとスオーリー副団長が上手くやってくれたんだろう。それか軍としても経費削減で放出したかったのかも知れないけど。

 でもそれなら俺が治癒魔法を使えることを公表しても、それ程問題は無いよな。


 そして三体目との連戦になり、ラビィが命を懸けて戦ってくれたことを話す。詳しい経過は本人もあまり覚えていないようだが、脚を喰われ、腰から下を喰われて呑み込まれたと言うのに、よく五体無事に帰ってきたものだ。

 ひょっとしたら、魔界蟲の体内はマジックバッグやアイテムボックスのようになっていて、全身が呑み込まれたことで体内で元通りに結合した、なんてことがあったのかもな。

 これも真相は分からない。


「そのようなことが…命の恩人…恩熊で御座いますね。それなら明日は鮭のムニエルでも用意しましょうか」


 リミエンでは鮭は超高級魚だ。何かの儀式や御祝い事の席でしか食べられない。俺も鮭は好物だから食べてみたいので、すかさず了解した。


「では最後に宜しいでしょうか。

 今回の遠征、ルケイド殿以外は女性でしたが、何かございませんでしたか?」


 それ聞く? 何か期待してるのかな? ワクワクしてるみたいだけど、残念ながら爛れた関係なんて持っていないよ。

 かなり我慢してるから、一度発散しないとまた夜中に出しちゃうかも。

 あの時は『洗浄』を使ったからバレなかったけど。女性達の匂いの中で寝るのはかなり精神的負担が掛かるわ。


 シエルさんはこの場に居ないし、正直に話す。ブリュナーさんは笑うこともなく、

「一度、夜の店に行かれると宜しいかと。我慢のし過ぎはお体と心に悪うございます」

と答えた。

 いずれはケルンさんにでも相談するつもりだったけど。


「まだ特定のお相手をお決めになられていないのなら、ですけどね。

 本当は早く決めていただくと有難いのですが」


 心配してくれてるのは分かるけど、結婚の話はまだ無理だ。もっとも、戸籍も曖昧なこの世界では結婚と言うのは厳密な意味を持つのは貴族達の世界の話。

 苗字を持たず、それ程多くの財産もない平民の多くは結婚式も挙げることはなく、事実婚状態だと言って良いだろう。

 だから婚前交渉と言う概念も基本的には無く、いつから夫婦になりましたと自己申告すれば良い。


 だが貴族になると話は少し違ってくる。と言っても、貴族の結婚観は政略結婚が大半だと言う部分を除けば、現代社会とそう変わらない。

 普通に結婚式を挙げ、戸籍管理上の手続きとして領主館、王城にある住民票擬きの貴族リストの更新を行う。


 お腹の大きな状態でのウェディングドレス姿を披露するのは恥だとか、十月十日がどうこうと言うお節介貴族ババアも少なく無い。

 そんなババア達がある意味でオイタをする貴族達の行動を抑制するストッパー的役割を果たしているのは、何とも皮肉なものなのだが。


 体裁を気にする貴族の多くは、そう言う面では極力婚前交渉を避けようと言う意識が働く。

 それは関係のない市民の女性に手を出し、金で黙らせると言う悪循環を起こすので困りものだが。

 中には稀にその金目当てに若い貴族に近寄る女性も存在するし、そのような後腐れない女性を斡旋する闇商売もあると言われている。


 遠征の同行者であるエマさん、オリビアさんは男爵家の娘であるため肉体的接触は避けるものだと教えられているが、平民であるマーメイドの四人はそこまで深く考えてはいない。


 クレストなら性格も悪くないし、武力も財力もあるから、向こうから手を出してくるなら受け入れても構わないと内心思っている面もある。

 だが、他のパーティーメンバーのことを考えると声には出せない、そう言ったところだ。


 おおらかと言うのか、それが冒険者の女性の一般的な姿勢である。そうなるのも当然で、ラブホテルなんてものはないのだから、たまに行われる夫婦の夜の営みは子供達の知れることになる。

 早熟な子供達が多く、結婚年齢も総じて低くなる。その分平均寿命が六十代なのだからバランスが取れていると言って良いのだろう。


 ライエルは特に何も考えずにクレストと仲の悪くないメンバーをマッチングさせただけなのだが、ブリュナーはこれを機にクレストにもっと積極的に女性と付き合って貰えるようになって欲しいと考えていたのだ。


 妻を持てばクレストの考え方も変わるだろう。

 今は金をどうやって上手く減らすかを考えているように見えるが、クレストがやる気になれば現有資産の軽く数倍を稼ぐのは難しくない、そう評価している。

 元は国王側の要職に就いていたブリュナーとしては、クレストの利益は回り回って国力を高めることに繋がるのだからクレストに稼いで欲しいと願っている。


 クチには出さないが、そう言う思いもあってエマさんを三階に住まわせることにしたのだ。

 本人達の相性も悪くないし、子供達もエマさんとクレストの結婚を望んでいる。

 後はどうやってクレストの首を縦に振らせれば良いのかとこっそり思案している状況だ。


 もし本人達が結婚の意思を固めたとすれば、次に問題になるのはクレストの出自である。

 だがそれはクレスト本人の価値を考えれば、然したる障害にはならないだろうとブリュナーは考えている。


 商業ギルド発行のゴールドカードを持ち、しかもそれには葵の紋章に近い天秤マークとトリプルスターが刻まれている。

 これは商業ギルドのトップがクレストに会員間のトラブルを裁定する権利を与えたようなもの。これを出さば、商業ギルドのカードを持つ者は大抵が『ははあ』と頭を下げるのだ。


 ところ変わって、現在エマさんの父親は鉄鉱石の鉱山で指揮を取っている真っ最中だが、出入りの行商人が噂話だがと前置きをしてエマが付き合っている男性の話をしていったのだ。


 勿論そんな都合の良い話がある訳は無く、ある人物の差し金であるのだが、その事実は誰にも語られることは無いはずだ。

 クレストをリミエンに留めておきたいと願い、そのような策を巡らせることの出来る人物が少なくとも二人はリミエンに居ると言うことだ。


 そんなことはつゆ知らず、

「遠征の無い日に夜遅く帰ってくると怪しまれますから、昼間の予約を取っておきます」

「…悪いね、しょうも無いことで余計な手間を取らせて」

「そう思うのなら、早く結婚式を挙げていただきたいものです」

「…善処します」

とあまり人には聞かせたくない話を小声で終わらせる。


 ブリュナーさんが聞いておきたいことはそれで終わったようで、他に何かあったかなと考えていると思い出したことがある。 


「あ、ガルラ親方に小屋の改築を頼まなきゃ」

「小屋…ですか?

 それを今回の遠征に使用されたのですね。

 便利な()()をお持ちのようですね。

 ですがあまり多用されない方が宜しいかと」

「そうなんだよね。

 最初はテントを張ろうかと思ってたんだ。でも先にトイレを出したから、コッチも出してと頼まれてね」

「そこは、そんな()()は無いと突っぱねて良かったのでは?」

「そうだね。お陰で皆と一緒に寝ることになって苦労したから。やっぱり寝る場所は分けないとダメだね」


 起きるたびに誰かの体の柔らかい部分が俺の何処かに当たっているのだから、機能は正常だと反応していた物を沈めるのに苦労したし。

 廃材でも良いからもう一つ似たような物を作って貰うか、それか改築だな。


「ですが一度見せているのですから、次はダメだと言われると彼女達を拒絶していると思われかねませんよ」

「それならやっぱり少し改良して、彼女達と接触しないようにしよう」

「出す時に、彼女達と接触する必要があるのですか?」

「出す時じゃなくて、出してからだね。

 彼女達がとにかく俺にくっ付いてくるんだ」

「女性達がくっ付いてくる?

 どう言う仕様か分かりませんが、使うときは気を付けて下さいよ。特に信用出来ない女性が居る時には絶対使わないように」

「それは分かってる。また夜中にパンツ汚すのはイヤだし、何かされても困るからね」


 『浄化』スキルが無かったらどうなっていたことか…考えたくもない。あれから毎朝起きたら一番に俺とルケイドに掛けたもんな。


「難儀ですね。使うたびに汚すので?」

「さすがに毎日じゃないよ」

「それは良かったです。さすがに使うたび女性達がくっ付くようなスキルだと問題ですから」

「はい? 小屋の話だよね?」

「いえ、スキルの話では?」


 ブリュナーさんがおかしい、といったん様子を見せる。途中から微妙に会話が合ってなかったのか?


「どのくらいのスペースがあるので?」

「俺にも分からないんだけど」

「そんなに広いのですか…それは小屋ではなく宮殿ですね」

「さすがに宮殿は持っていないよ、ベッド二つしか入らないから小屋だよ。タイニーハウスってやつだね」


 そこでブリュナーさんが納得した顔をした。


「なるほど…分かりました、違うものの話をしていたようですね」

「何の話を?」

「私はずっと親方様のスキルの話をしていたので。

 凄いスキルをお持ちのようですが、スキルを使うたびに女性がくっ付いてくる不思議な仕様なのだと思いました」

「そんな訳無いでしょ…」


 ケルンの馬車の修理をしていた様子は、作業中に通り掛かった商人によってリミエンに話が伝えられていた。

 足踏み式の工作機械などマジックバッグに入る筈は無く、クレストにはマジックバッグに代わる収納系スキルがあることは一部の者には知られているのだ。


 ケルンが誰かに話した訳ではないが、ケルンの顔を知っていた者が運悪く通ったのだから仕方ないだろう。


 その話をブリュナーがクレストの留守中に掴んでおり、そのスキルで出した物だと瞬時に理解していたのだ。


「収納系スキルを持っていたの、バレてたのか」

「当たり前です!

 まず路上で工作機械を出すような常識から外れた人は、親方様以外に居ませんからね」

「嘘~ん! 俺、そんな非常識だったの?!」

「御自覚が無くて何よりでございます」


 今更だけど、非常識って怖い!

 あと、話すときは主語を付けようね。


 軽くショックを受けたものの、他にもまだ気になる事は残っているし、もう一度山に出向く必要があるので、魔砂土の層にあるダンジョンの話をしておく。


「しかし、ダンジョンが現れたと言うことは、魔界蟲が植樹不良の原因かどうかも怪しくなりますね。

 ラビィ殿の話から、他の魔族の関与も十分に考えられますし」

「次はそのダンジョンに潜るつもりだからね。

 気を引き締めて行かないと」

「ですが、ライエルさんが親方様達だけでの攻略を許可するでしょうかね?」


 ダメなのかな? リミエンの金貨級以上の冒険者は貯水池近くのダンジョン攻略に取り掛かっているから、俺達が行くのが一番良いと思うのだが。


「それとは別に、魔界の話も気になりますね。

 魔界からこちらに移住してきた魔族が居るとのことですが、魔界がどこにあるのか我々は知りませんからね」

「人間が行くと魔力が濃すぎて体がおかしくなるそうだけど、それならコッチだとラビィには魔力が薄すぎて体調を悪くする気がするんだよね」

「魔力酔いと魔力欠乏症、ですかね。

 今のところラビィ殿に目立った欠乏症の症状は見られませんが。暫く様子見でしょう」

「元の姿に戻るのに俺の魔力を吸い取ったからぁ。人の姿になるそうだけど、俺は戦場から離脱してたから変身した姿は見てないんだよね」


 そこでブリュナーさんが何か考える。思うことがあるようだ。


「『吸魔』の術は悪魔の技と言われていますから、人には言わない方が良いでしょう」


 そうなんだ。この世界には悪魔が実在するのかな?

 神様も実在してそうだから、悪魔が居てもおかしくない…のかも。遭いたくないけどね。


「今ここで考えても結論は出ませんから、ラビィ殿が話してくれるのを待つのが良いでしょう。

 お疲れでしょうから、今夜は早くお休みになられては。

 親方様は夜遅くまで馬車の設計やら考え事をされる癖がありますから」


 俺の夜更かし癖、バレてたんだ。照明には熱を持たないLEDみたいな『小電光(ミニライト)』を使ってたんだけど。

 まあ、確かに疲れてるから今日は寝るか。

第7章はこれで終わりです。




明日は閑話を2話挟んでから第8章に入ります。

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