(資料)リミエン商会について
石鹸の製造に必要な油と塩を安価に提供することを目的に、ブリュナーが立ち上げた商会である。
油と塩だけでは多額の赤字となる為、ブリュナーはクレストには内緒で様々な分野に投資を行っている。
クレストが出資者であるが、従業員は全てブリュナーが過去の部下を雇っているので秘密保持は万全。
この世界でも商会の立ち上げに必要なのは、人、物、金であるので、リミエン商会の内情を紹介する。
■人
まず総責任者である商会主、商会主のサポートを務める二名以上の幹部が商会立ち上げ時に最低必要となる。
この三名が実働部隊として動けば、社員は居なくてもよい。
父ちゃんが社長、母ちゃんが経理、長男が専務、その三人が全従業員…と言う形態の企業も日本にはまだ残っていることだろう。
詐欺や脱税防止の為、商業ギルドから定期的に監査が入るが、初回監査時に監査官はなんでこんなに儲からない商売を?と疑問に思いながら監査を行うことになる。
なお後日美容用品部門にも参入することになり、一名増員となる。
■物
最初に必要なのは事務所だ。商業ギルドに登記する際に、所在地未定では認可されない。
現在は商業区間の小さなテナントを借りている。
店舗を持たず、生産者から直接購入者に商品を届ける商売のため、八畳一間程度の部屋に書類が積まれた部屋である。
倉庫はマジックバッグを使用する。
つまり全員が武力面から見ても腕利きなのである。ただしクレストはそのことを知らない。
何処かに倉庫を借りたんだろうと呑気に考えている。
油について
油は野菜と違って生産者が直接市場や契約先に届けるのではなく、製油メーカーが工場で一度に大量生産している。
その為、原材料を輸送するコストが発生するので販売価格は銀貨一枚/リットルと高価である。
リミエン商会では既存のメーカーか油を購入するのでなく、製油メーカーが進出していない地域の農民と交渉し、新たに農民(農村でノンビリ暮らしたい退役軍人や引退した冒険者)を入植させて油を作ることにした。
その為に農村に搾油専用の小屋を建設している。
菜種油、向日葵油は村の現金収入源となり、菜種、向日葵その物を販売より収入が増えたと歓迎されることになる。
なお、この搾油小屋が工場かどうかの議論が商業ギルドでは起こったのだが、絞って樽詰めするだけの工程を行う場所は工場に該当しないことになった。
この搾油小屋を工場に認定すると、スラムで実施している革の鞣しや染料作り等の現場も工場に該当すると言う指摘があったためだと言われている。
■金
毎月の固定費:大銀貨百枚
事務所の家賃:大銀貨二十枚
人件費:四人で大銀貨百枚
毎月の油の販売による収支予定
販売単価:大銅貨六枚/リットル
仕入値 :大銅貨五枚/リットル
仕入量(販売量):二百リットル
見込利益:大銀貨二枚
損益:大銀貨九十八枚の赤字
幹部自身がマジックバッグを持って搾油小屋に買い付けに行くので運送費はゼロであるため、既存メーカーの半額での仕入れとなる。
搾油小屋について
生産する農村は立ち上げ時は三ヶ所。
建築費は大銀貨五百枚/軒。ブリュナーが派遣した入植者の宿舎を兼ね、建築は入植者、村民達が行っている。
塩について
『シャリア伯爵領』海運ギルド所属の製塩業者がクレスト式製塩法(流下式枝条架式塩田)を実施することとなる。
海から海水を汲み上げ、枝条架に海水を散布する為にポンプが必要となるが、カミュウ魔道具店のテスト機の設置(実際には無償譲渡)とラファクト鋼材店の新素材実証実験(実際には無償譲渡)、及び土属性魔法使いの実地訓練及び試験(実際には無料奉仕)により、ほぼ無料で製塩所が設立された。
かん水の濾過はラファクト鋼材店所属の錬金術師による濾過フィルタの実証実験(実際には無償譲渡)により、安価に上質な海塩の製造が可能となった。
塩も油同様に幹部自身がマジックバッグを持って買い付けに行くので運送費はゼロ、岩塩の半額での仕入れが可能となった。
毎月の塩の販売による収支予定
販売単価:銀貨三枚/キログラム
仕入値 :銀貨二.五枚/キログラム
仕入量(販売量):百キログラム
見込利益:大銀貨五枚
油と塩の関連事業のみでは初年度に大銀貨二千枚を超える赤字となる。
更に洗浄剤と紙の研究所設立と運営費を相当額提供しており、美容用品部門設立もあって赤字はその倍の見込みである。
その為、羅漢果、ブルーベリー、オレンジ等果物関連事業、砂糖大根の栽培と製糖事業、油粕を利用した肥料、農薬の製造等主に農業関連事業を基軸として実施することとなる。
また、クレスト式養鶏場(半バタリゲージ方式。狭い場所に産卵する性質を利用して産卵のみゲージ内で行わせる)、養豚事業も立ち上げる。
農業、養鶏、養豚により黒字化達成となるのに五年掛かりとなるが、クレスト本人はブリュナーさんに任せてるから安心だろうと赤字期間があったことは知らずに終わる。
骸骨さんの遺産を上手く散財するのに丁度良い投資なので、赤字でも問題ないと思っていたのは本人しか知らない。
その為幹部達は初年度に赤字を減らすために各方面に投資を行い、記念式典特需の影響もあって赤字を半分に減らしている。
また、匿名の冒険者から提供された魔物素材の売却益を、公共工事やスラム街対策名目でリミエン伯爵に毎年献金している。
なお、これらの経緯はブリュナーの死後、跡を継いだオリビアによりクレストに報告されることになる。
帳簿上にも不備はなく、商業ギルドからも特に指摘されることは無かった為、リミエン商会に関しては口出ししないことにしていたクレストが大いに驚いたのは当然である。
「お願いだけして後は人任せ、無関心は良くないなぁ…」
と呟いたクレストに、
「当たり前です!」
とオリビアが一喝したのも当然である。