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第110話 ベルさんと魔界蟲

 熊で魔族のラビィが魔界蟲、ダンジョン、魔界の話をしてくれた。


 内容が濃すぎて正直言うと消化不良だ。

 それに現状にどう対応すべきか判断が付かないのだ。


 そうやって悩んでいる俺達の前に、ライエルさんと同じぐらいの年齢の男性が馬に乗ってやって来た。


「やあ、君がクレスト君だね。

 綺麗に整地はしてあるし、狼煙は上がってるし、これ程簡単に合流出来ると思っても見なかったよ」

「役に立てて良かったです」

「俺はライエルとパーティーを組んでいた青嵐のメンバーのベルビアーシュだ。

 ベルと呼んでくれ。

 冒険者ギルドの虎の子プラチナバットで緊急通信があって、何事かと思えば随分と楽しそうなことをしているみたいだね」


 プラチナバット…って? それ、電波なの? それとも蝙蝠なの?

 俺の疑問は解決しないまま、ルケイド、エマさん、オリビアさんが自己紹介を済ませる。


「ワイはええんか?」

とラビィが自分も自己紹介させろと俺の脚を突いて催促する。


「ペットかと思ったら…その子は魔族?」


 流石にライエルさんの仲間というところか、喋る子熊を見ても平然としている。ラビィを抱き上げ、頭を撫でた後にお腹を確認して、

「雄だね」

とどうでも良い報告をしてくれたお陰で仲間達も反応に困ってシーンとする。


「…で、中間報告を聞こうと思うのだけど、キャンプは何処に?」


 野営地は昼前に作れば良いと思ってまだ準備はしていない。馬がどっかに行かないよう、土の柱に繋いでいる程度だ。

 馬車は『格納庫』に収納してある。断じてアイテムボックスではない。


 座る場所も何も出さない訳にはいかないので、いつものように『大地変形』で地均しして野営地セットを出す。おトイレ休憩も必要だからね。 

 ただし一番の大物タイニーハウスは出さなかった。女性陣の目がダメだと訴えていたからだ。彼女達の持ってきたアイテムが散乱しているから、と言うのが理由であって、ベルさんには内緒にしておきたいと言う理由は少ししかないと思う。


 ベルさんは手紙で俺の能力のことは知っていたようで、「これがあの『大地変形』か」と頷いている。

 ルケイドがこの魔法を試してみたが、土属性と勘違いしているので上手く出来ないようだ。


 昨日までの経過はエマさんが綺麗に纏めてくれているのでスムーズに話が出来たが、今日に限っては何ともタイミングが悪いと言うか、良過ぎたと言うか。


 解決の糸口の一つ、魔界蟲と魔砂土のことを知れたのは大きな前進だと思うけど。

 ただ、ラビィが俺の『格納庫』にゴミとして入っていて、狼煙の足しにするために燃やそうとしたって話は喋るのに勇気がいった。

 燃やされた本人にもかなり怒られたしな…。


 そんなこんなで斯く斯く云々(かくかくしかじか)…ラビィには二度手間となって申し訳なかったが、話に一切のブレが無かった事から咄嗟の思い付きで語った嘘ではないと確認出来た。


「まずはその魔界蟲とやらを退治しないと、今後も被害の拡大に繋がる訳だね。

 それなら早速誘ってみようじゃないか」


 そう言うと思ってましたよ。

 無く子も黙る青嵐のメンバーが、敵を目の前にして確認もせず逃げるとは思わない。


「で、どうやって誘うの?」

「魔砂土の層に繋がる穴を明けて、そこに魔力を流してやれば良いだろ?」

「誰が? 人間の魔力じゃ足りないって」

「平気平気。クレスト君の魔力なら喜んで飛び出してくると思う」


 その根拠を教えてよ。どうも青嵐の人達って適当というが、人を過大評価するところがあるんだよね。


「せっかく平らなバトルステージも作ったことだし。チャキチャキ動く!

 皆は足下に注意して!」


 指示出しに慣れてるなぁ…若手の指導員でもやってるのかな?と思いつつ、サンプル採取も兼ねて穴を明け、その(へり)に手を添える。

 なるべく魔砂土の層に魔力を流すように制御をして…オリビアさんに教えてもらった魔力制御で大量の魔力を練り上げ、ゆっくりと穴へ流していく。


 穴を伝う魔力が、ある深さから一気に全方向に拡散して遠くへ流れていく感覚を覚える。魔砂土にはミスリルを含むらしいから、それだけ魔力を通しやすいってことだろう。

 目を閉じて魔力の流れを深く読み取る。土中の金属を探す金属探知機になった気分だ。

 魔界蟲は魔力の塊だ。きっと違う反応があるはず。


 魔力を流すこと数分…ピキンと何かの反応を感じ、それは魔砂土の中とは思えない程の速度で近付いてくる。


「来るよ!」


 魔界蟲と覚しき反応が穴の手間数メトルになったところで魔力放出をやめ、後方に下がる。


 そのほんの一瞬の差で俺の頭のあった場所を銀色に輝く光が貫き、空へと舞った。


「アレが魔界蟲や!

 デカくなるで、姐ちゃん達は早ぉ逃げや!」


 真っ先に逃げ出したラビィが後方から声を掛ける。

 その間に空中で最高到達点に達した魔界蟲は、銀色のドリルのような体を爆発させたかと思うと、巨体となってドスンと落下した。


 地面から頭の方だけ出してる触手的な奴をイメージしてたが、まさか全身を出してくるとはな。

 胴体部分は約五十センチ、頭と尻尾の先は三十センチ程度の不格好な銀色の巨大なミミズのようだ。


 頭の先端は丸い口で、そこには鋭い牙がギッシリ並んでいて鮫の口がまん丸になったようだと思わせる。


 その口が俺を餌と確認したのか、蛇が鎌首を持ち上げてから攻撃するような動作で噛み付いてきた。

 シールドを張るトンファー『カウンタック』

で受け止めると、首の戻る動作も蛇のようだ。


「ラビィ、コイツは再生するのか?」


 左腕に受けたダメージを治癒魔法で治しながら熊に聞く。ヒュージワームだと頭を落としても死なないだけでなく、頭が再生するらしい。


「本家のヒュージワーム程じゃない!らしい。

 てか、腕、喰われてへんの?」


 折角ターゲットが俺に絞られているのに、下手に動いたらエマさん達に攻撃が行くだろ?

 避ける訳にはいかないんだよ。


 魔法が効かないと聞けば、オリビアさんも出番は無い。危ない時は『光輪(コーリン)』で対応して貰おう。

 ルケイドの『石弾(ロックブレット)』は土属性だが、実質的には物理攻撃なので、もしダメージが通るようなら援護射撃をしてほしいところだが。

 バンっ!と音を立てて命中した石は銀色の体表に弾かれたようで明後日の方向に飛んで行った。


 青嵐のベルさんは両手剣を持って尻尾の方向から斬り掛かっている。


 俺を狙う魔界蟲の頭は俺の背の二倍近い位置にある。一体全長何メートルあるんだよ?

 それが土中じゃ工作機械に取り付けるドリルみたいな大きさになるなんて。どう考えてもおかしいだろ?


 立て続けに鎌首が攻撃してくるが、『カウンタック』のシールドは抜けないようだ。こんなおかしなアイテムを用意していた骸骨さんに感謝だよ。

 次の連続攻撃を受けたところで骨折したけど皆には内緒だ。


 ベルさんを見ると、彼の攻撃は魔界蟲の再生速度の早さもあって大したダメージになっていないみたいだ。

 せっかく文字通り弱点のクチを開けて待っているってのに、武器が届かないんじゃ意味が無い。

 質量に差があり、更に細長い相手だとカウンターも決められない。


「うなれ『狼爪(ヴォルフナージェル)』!」


 視界の隅で銀色の光の筋が三本ぐらい走り、魔界蟲の口が悲鳴のような、歯軋りのような音を立てて藻掻き始めた。

 どうやら尻尾?が輪切りになったようだ。だがのたうち回る巨体が地面を激しく何度も叩き、石礫(いしつぶて)が辺りに飛び散ったのだ。


 やばいっ! 俺がそう焦ると同時に「ドンドン!」とエマさんの声が響いた。

 彼女の前にポッカリと明いた四角の穴が石礫を吸い込み、彼女とオリビアさんを守ったのだ。

 ネーミングセンスは絶望的だが、防御にも使えたのか。だが非戦闘員の彼女が戦場に居るのは心臓に悪い。


 左腕を魔法で治療し、遥か頭上で不気味な音を立てる口を黙らせるべくアイテムボックスを急いで物色、よし、

「君に決めたぜ!『対空竹槍(ビー29)』!」


 俺の右手に掴んだシンプルな構造の緑色の投げ槍を力の限り投げ付ける。

 ソレを餌だと勘違いしたのかは分からないが、魔界蟲の口がグワッと今までの倍の大きさに開いて俺を目掛けて襲いかかる。


 『対空竹槍』は魔界蟲の口内に突き刺さったものの致命傷とはならなかったようで、一瞬動きを止めたに(とど)まった。

 だが投擲後のフォロースルーで大きな隙を作った俺には、襲い掛かる大きな口を回避する余裕がない。如何せん僅か数メトルでは回避するには距離が足りない。

 目を閉じてやがて来る筈の衝撃に備える。


業火(ヘルファイア)


 オリビアさんの声の直後、突然頭上からボーンッ!と大きな音がし、熱を持った衝撃波と共に魔界蟲の歯や肉が俺に降り注ぐ。


「ナイスタイミングっ!」


 突然頭部を失った魔界蟲が、今まで以上に激しく暴れ始めた。濁った緑色の液体が辺りに飛び散って迷惑だ。図体がデカイだけに、のたうち回るだけでも攻撃になる。

 体当たりを避けながら『カウンタック』をしまい、ある精神疾患の患者が好みそうなグローブを両手にはめる。


 そして一度拳同士を打つけて気合いを入れると、

「歯ぁ食いしばれっ!」

と全身全霊を込めて胴体に正拳を突く。確かな手応えを感じながら、更に十分に溜めを作って反対の拳でもう一撃。


 動きを止めた魔界蟲にベルさんの『狼爪』の追撃が襲いかかりる。

 輪切りにされて更に短くなったところに、オリビアさんの最大級の攻撃魔法『煉獄の焔(プルガトリーム)』によってもたらされた赤熱の炎が魔界蟲の全身を包み込んだ。


「姐さん…こわ…」

「外皮は無理でも、剥き出しの肉なら焼けるでしょ?」


 暫く燃え続けた焔が下火になって燻り始めたころ、完全に息絶えたのか魔界蟲の体は重力に逆らうことなくドサリと音を立てて地面に横たわる。


「勝った…魔界蟲に殴り掛かる人やて…初めて見たわ…」

と呆れた様子のラビィを抱き上げたベルさんが、

「ほらね、平気だっただろ?」

と言ってカラカラと笑い声を上げる。


 エマさんは留めの魔法を放ったオリビアさんに凄い凄いと手を取ってピョンピョンしている。まるで芸能人に握手してもらって興奮しているファンみたいだな。


 戦闘では見せ場が無かったと落ち込むルケイドだが、剣術のスキルを持たず、土属性の魔法もサブウェポン程度にしか扱えていないのだから仕方ないだろう。

 それにチーム最年少だ。伸び代はこの中で一番持っているのだから、何も今は悲観する必要なんてない。そういう言っても素直に受け取らないだろうけど。


「それにしても、あんちゃんの魔力は魔族を越えてるで…そして臭い」

「酷えな!」


 頭上から魔界蟲の体液をモロに被ったからな…『浄化』で全身と装備を綺麗にリフレッシュ。


「なぁ、魔界蟲に使える部位はあるのか?」

「牙だけや。噂じゃダイヤでも噛み砕くらしいけど、そんなん見たこと無いわぁ」


 そりゃ、そうだろうな。で、ダイヤより硬い素材なんて加工できるの?

 いくら硬かろうと、加工出来ない素材に価値は無いんだけど。


「けどよ、あんちゃん上から喰われて死んだか思たで」

「仲間を信じただけだよ」

とサムズアップ。


 夕食後に行う魔法の授業のお陰だね。そこで彼女の魔法のことを知ったのだから。

 このチームで現在の最大火力を放てるのは『業火』と『煉獄の焔』を放てるオリビアさんだが、無駄撃ちを避けて確実に当てる方法は一つ。誰かが敵の動きを止めるか直線の動きになるよう誘導することだ。

 それまでにオリビアさんは詠唱を済ませて待機しておく。


 最後の発動コマンドを唱えずにホールドしておけば、集中を切らさない限り何時でも発射可能になるそうだ。

 もし『煉獄の焔』でも倒せない相手なら、無理せず素直に逃げの一手だ。この魔法を放った後は暫く魔力切れの状態になるそうだから、戦闘の継続は自殺行為に過ぎないからね。


「これだけデカけりゃ、魔石もそれなりのがあるだろ?」

「残念やけど…ドリルから変身したときに全魔力を放出するんか、魔石は全然残ってないそうなんよ。踏んだり滑ったりや」

「マジかよ…まあ置いといても邪魔だから収納しとくか」

「あんちゃん、物好きやな…」


 俺が嬉々として『格納庫(アイテムボックス)』に収納する様子にラビィは呆れているが、珍しい餌にウチの子達も喜ぶだろうと俺は思っているのだ。今夜早速輪切りを与えてやろう。


 その後、魔界蟲を呼び出すために放出した魔力が多かった筈だと、皆に休憩を勧められる。

 それは必殺技の魔法を使ったオリビアさんにも言えることなので、二人で並んでラビィを撫でながらの待機となる。

 エマさんに褒められたせいか、いつにも増してオリビアさんの機嫌が良さそうだ。


 ラビィも「幸せ者やわ~」と言い残して寝息を立て始めた。

 コイツにはこのまま成長しないことを希望するが、魔族の情報はかなり少ないらしく、また個体差が激しいためにラビィがこの後どうなるのか誰にも予想が付かない。


 そして俺自身も思ったよりよ疲れていたのか、いつの間にかウトウトしていたようで目が覚めた時には隣にオリビアさんもラビィも居なかった。

 体に不調は無く、魔力も回復したと思うがステータスを見ても数値でもゲージでも魔力量は表示されないのだから、どれだけ減ったか増えたか分からない。この世界のステータスはとても不親切なのだ。


 後でラビィにステータスの事とか、魔法の事を聞いてみるか。

 昔の方が魔法も魔道具も優れていたらしいからね。

 失われた魔法の復活なんてロマン感じるだろ?

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