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第109話 熊はかく語る

熊の会話かい…

 地中に埋まる謎の赤い土の層を発見したが、俺達にはそれが何か判断出来ない。帰還してから研究部門に引き渡すことにし、今日やって来るギルドの人の為に狼煙をあげることにした。


 そのついでに骸骨さんの収納していたガラクタも燃やしていると、不格好な縫いぐるみは魔族を封印したものだった…。


 ク魔族ラビィのお陰でオリビエの胸に触るととても恐ろしい目に遭うことが発覚し、密かに俺は震え上がるのだった。


「そんなぁ…殺生な…」

と項垂れ、茫然とするラビィ。熊にそんなウサギみたいな名前を付けたのは何処のどいつだ? そこは普通テディだろ? 紛らわしい!


 だが男として同情出来る部分はある。色々おかしな設定のクマゾクだが、今のところは憎めないキャラだと思う。

 それに魔族が悪い奴だと言う話も聞いていない。エルフと同じく長命種族だと言う情報しか無いのは、出会うことが稀なせいか?


 魔族だけでなく、まだ人間以外の種族と接したことも無い。町で何かの獣と人間のハーフを見たことはある。ケモミミみたいな人間ぽさはかなり薄く、ケットシーみたいな姿を連想してもらえば良いだろう。


 オリビアさんに拒絶されていじけるラビィだが、

「なぁ、あんちゃん、ワイを飼ってくれん?」

と俺の脚に抱き着きながら俺を見る。

 まるで潤んだチワワの瞳ようだ…ハートをドキュンと射貫かれ、首元を掴んで抱き上げる。


 左腕に乗せ、背中を撫でてやると犬の毛よりしっかりした毛だが滑らかで手触りが良い。

 首から尻に撫で、そこから逆撫でして毛を立たせて遊ぶ。短い尻尾がピクピク動くのは気持ち良いからだろう。


「悪くないな…」

「あんちゃん、ええのか!?」

と頭を上げて俺の顔を見上げる。


「お前、封印される前の記憶は残ってんだろ」

「そら…まあ、それなりには残って…ん? えっ?!

 封印の影響的な? だいぶ記憶が消えとるやん…」


 イヤイヤ、さっきまで結構詳細に思い出してたでしょ。

 それはちょっと嘘っぽいよ。ま、本熊?がそう言うなら深く追求しないけど。


「番犬の代わりぐらいは出来るだろ。

 それに見た目も毛並みも悪くない」

「男に褒められてもなぁ…まぁ、朝晩しっかり喰わせてくれるんなら、番熊ぐらい…」


 長命種と言うことは、何か役に立つ情報の一つか二つぐらいは持っているだろう。それさえ貰えれば元は取れるに違いない。


 問題はずっと熊の姿が維持されるのかどうかだ。『魔熊の森』の主みたいに熊のままで居てくれるならありがたい。


「セクハラ熊ですよ、居たところに返して下さい」

と胸タッチされてまだ不機嫌なオリビアさんに対して、

「私も抱っこする」

とエマさんがラビィを奪い取って抱き締める。


「良い子良い子。手触り最高!」

「それは認めますが、中途半端な胸を触られますよ」

「熊に触られて怒るなんて、器が小さいわね」

「胸は貴女よりありますが」


 二人の会話、いったんストップ掛けるべき?


 気持ち良さそうに撫でた後、

「…この子、高く売れるかな?」

と言うエマさんだが、勿論冗談だよね?


 それに、こんな怪しい奴を売ったらダメ!

 自称魔族でも人権はあるでしょ?

 熊の姿で戦斧を振り回したとは思えないから、獣人の姿になれるんだと思うけど。俺のそばに置いておけば、何かあっても骸骨さんがやっつけてくれるだろう。


「ところであんちゃん達、こんな何も無い山で何しとん?

 ゴミ燃やすには良さそうやけど」

と地面に降ろされたラビィが俺に聞く。


「調査だよ。木を植えても育たなくて」

と答えると、ラビィが地面に鼻を付けて匂いを嗅ぐ仕草を見せる。そしてサンプル採取の為に明けた穴の淵まで匂いを辿って歩いて行った。


「そら当然やろ。魔界蟲の魔力がプンプンしとるやん。魔界から出てきたんやろ」

「魔界蟲って?」

「知らんの? 魔界蟲はコッチで言うヒュージワームの一種やな。魔力の塊みたいな化け物やな。直径二、三センチ程のドリルみたいになって地中を掘り進むんや。

 コイツが通った穴は魔力の影響で時間が経つとダンジョンに化けることがあってな…魔界じゃ災害指定の蟲なんよ…飼い慣らす研究もされとったけどなぁ、失敗したらしいで」


 ラビィの話に、知ってる?と他の三人に聞くが、そんなの聞いたことが無いと首を振る。

 記憶が消えたと言う割に、よくこれだけ教えてくれるな。


「魔界はコイツらのせいでそこら中ダンジョンだらけや、往生したで。

 元々レアクラスの生き物やし、濃い魔力が無いと生きられんから、魔力濃度がえらい薄いコッチじゃ生き残れる魔界蟲は少ない思うけどなぁ…」


 でも魔界蟲の魔力がプンプンしてると言ったよな。おかしいだろ?


「運悪く魔界蟲の好きな魔砂土(まさつち)が多かったんやろな」

「魔砂土って? どんな土?」

「見た目は赤いな。あとは高濃度の魔力を通すと銀色に輝いてな…ミスリルも含むから、上手く製錬出来たら大金持ちになれるで。

 毒を含んどるから製錬は命懸けやけど」


 赤い土…マジかよ。ルケイドの表情が喜んで良いのか、悲しむべきなのか迷っているようで面白いことになっている。


「そっちのあんちゃん、赤い土に心当たりあるんか?」

「その穴の中に魔砂土と思われる層があるんだよ」

「それで魔界蟲が寄って来たんか。困ったもんやな」


 ラビィが投げ座りになり、短い前脚を組む…組めてないけど。


「ラビィ、魔界蟲を誘き出すの方法は有るのか?」

「めちゃくちゃ濃い魔力を出したら反応するで。魔界はそれで魔界蟲釣りして乗りきったんや。

 普通の人間の魔力や、今のワイじゃ無理やけどな」


 俺の魔力なら行けるかな? 試してみるか。


「もし釣れたとして、魔界蟲を斃すのは簡単なのか?」

「魔法は効かん。魔力の塊みたいな奴やから当然やろ。

 地表に出たら怒ってヒュージワームの姿に戻るんで、そこでたこ殴りの物理攻撃や。

 けどメッチャ強いで。

 ここの四人じゃ絶対に敵わんて。やめとき、死ぬだけや」


 地中をドリルになって進むとか、魔力の塊みたいだと言うならそれなりに強くて当然か。


「じゃあ、お前も参加だ」

「何言うてんの! こんな可愛い小熊のプー」

「その先は言うな、問題あるから」

「気にするな!活字化されへん!問題無い!」


 ドーンと俺に手を指すラビィに、

「この子、何を言ってるのかしら?

 コレを餌にしたら釣れないのかしら?」

と不敵な笑みを見せるオリビアさん。胸タッチされたのどれだけ根に持ってんですか!


 熊だってチビ助のうちはそれなりに肉球プニプニですよ。

 彼女に恐怖を感じたのか、ラビィが俺の後ろに回ってふくらはぎにしがみ付くのをエマさんが抱き上げる。


「こんな可愛いのにね、可愛いそう」

とラビィのお腹を自分のお腹に当てるように抱くと、

「赤ちゃんを抱く練習だと思えば良いのよ」

と片眼を軽く閉じる。

 そんなに喋る赤ちゃんは気持ち悪いと思うけど。


「とは言っても、誘い出して倒さないと問題解決にはならないし。どうしよう」


 当事者とも言えるルケイドは真剣に考えているが、彼らを危険な目に遭わせる判断を下すわけには行かない。

 それにまだ分からないこともある。


「それだけじゃない。

 入り口を隠蔽されてたダンジョンとの関連も分からない。アッチにも魔界蟲が居るのか、別の原因なのかだ」

「魔界でも絶滅したようなレアモンやで。

 魔力の薄いコッチに逃げてくるとは思えんのや。逃げるんなら魔力の濃い方を目指す筈。

 卵のうちに魔界から誰かが運んだ思うのが正解やろな。ワイは魔界蟲の卵なんか見たこと無いけどな。

 それと、ダンジョン入り口の隠蔽は魔族の常套手段やな。上手い下手はあるし、有効期間も人によって全然違うけどな」


 それが本当のことなら、隠蔽した魔族が何処かに隠れているということになる。目的はリミエンを破壊するためか? それにしても随分と気の長い作戦になるのだが。


「なんの為に隠蔽するんだ?」

「そんなん、餌場の確保に決まっとるやん。ダンジョン言うたら魔物の牧場みたいなもんや。魔力さえ流れとったらなーんもせんでも魔物が湧いてくるんで、ラクに飯が食えるって訳や」


 マジかよ…それだと今ダンジョンを攻略している金貨級冒険者って、ただの牧場荒らしと同じってことか。牧場主が居たら怒るよな。


「当然それ以外にも、人によって別の理由があるかも知れん」

「例えば?」

「人気ダンジョナーになりたいとか、やな。やり過ぎたら自分より強い魔物を呼ぶから命懸けやけどな」


 ダンジョナー? チューバーみたいなもんか?

 ダンジョンマスターのことを言うのかもな。


「ダンジョンは古くなる程大きく成長するのは知っとるやろ?」

「ええ、だから冒険者ギルドはダンジョンが未熟なうちに潰すことにしているのよ」


 中々新しいダンジョンは見つからないそうだけどね。


「それは勿体ないで。

 古いダンジョン程、価値の高いアイテムが出てくる言うのはな、異空間…宙に浮いたアイテムを取り込む効率が良うなるからや。

 マジックバッグの中にアイテム入れたまま持ち主死んだら取り出せんなるやろ。

 そうやって宙に浮いたアイテムをダンジョンは引き寄せる能力を持っとるんや。詳しい理屈は分からへんけどな」


 異空間からアイテムを引き寄せる能力がダンジョンにあるってことか。じゃあ、アイテムボックスもそうなる可能性が高いよな。

 実は俺が死んだらアイテムがどうなるか心配してたんだよ。


「で、マジックバッグがダンジョンからよう出てくるのは、結局マッチポンプの為や。

 マジックバッグ持たせる、持ったヤツ死ぬ、アイテム宙に浮く、マジックバッグ出す、マジックバッグ持たせる…な、完璧なマッチポンプやろ」

「つまりマジックバッグはダンジョンが作っているのか?」

「そうや、世界のナナフシや」

「熊さん、それを言うなら七不思議よ」

「そうなん? 魔法の勇者はナナフシ言うとったで」


 そんな情報は要らんし。機嫌良く喋らせておく方が都合が良いから言わないけどね。


「…で、宙に浮いたアイテムは魔力をバリバリに浴びて、色んなマジックアイテムに変化したり、元々マジックアイテムだったらおかしな機能が備わったりする訳よ。

 狙って欲しいアイテムを作らせる研究したことあるんやけど、それ失敗したんよ」


 骸骨さんの持つ頭のおかしいような武器の数々はダンジョン産か。てっきり魔法の勇者が冗談で作った物かと思ってたよ。


「このアイテム改変は魔族でも真似は難しいんや。

 スキルで言うたら魔道具作製、錬金術、魔法適正(極)のレアスキル三つが揃わな出来んらしいんや。

 マジックバッグだけなら勇者の収納スキルでも作れたらしいけどな」


 やっぱりですか。俺も既に一つ作ってるし。でも今の話を聞くと、エマさんにプレゼントするのは躊躇するな。


「ちなみに魔族とコッチの世界の人間との関係は?

 敵対してたりするの?」

「それこそ、人それぞれや。

 わざわざ魔力の薄いコッチに出てくる必要は無い言うとる奴の方が圧倒的多数派や。

 あんちゃんらも魔族なんて見たこと無いやろ?」

「確かに無いわね。遥か遠い国ってことしか知らないわ。冒険者登録もしてないし」


 魔界が何処にあるのか知れないけど。簡単に行き来が出来るの?

 ゲート的な物を通るのかな? そう言うの、ワクワクするな。


「人間が魔界に行くのはやめとき。ここの山の木と同じ目に遭うで。魔力濃度の違いは魔力汚染レベルやからか」

「それは初めて聞いたわ。どんな物かしら?」

「怖い姉ちゃん…もう投げんなら教えるで」

「もうタッチしないなら投げないわ」


 その話はイイから、先に進もうよ。


「この世界には基本どんな生き物にも魔力があるやろ。それは大気中の魔力を取り込んどるからや。

 で、生物には快適に過ごせる魔力濃度、それを基準に魔力濃度不足と魔力濃度過剰にワイらは分類しとんのや。


 それで快適な魔力濃度の世界が何かの理由で魔力濃度が濃くなり、快適に過ごしとった生物が住めなくなることを魔力汚染と呼ぶんや。

 勇者対魔族の大きな争いの後に、そうなることがあったんやで」

「…幾つか国が滅びる切っ掛けになったと言われる魔力暴走がそうなのかもね」


 俺は何のことか知らないけど、かなりやばい事件を勇者が起こしてきたってことだね。

「でな、魔界はお山の大将になりたい奴らが争いを吹っ掛けることが多くて、ワイらみたいにコッチに逃げてくるモンも結構居るんや。

 魔界じゃ中間層でも、コッチならトップクラスになれる言うて一時期移住ブームが起こったわ。

 けど、移住先に勇者が喧嘩売りに来よったんや、ワイらなーんもしてへんのに。魔族言うだけで目の敵やん。信じられへんで」


 勇者って人間だけじゃなくて魔族にまで迷惑掛けてたのか。碌でもない奴らだと思っていたけど、度合いが更に倍だよ。


 ラビィのお陰でかなり謎が解けたけど、中間報告と解決はどうするの?


 狼煙を目印に、一人の男性が馬に乗って俺達の前に現れたのはそのすぐ後のことだった。

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