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第108話 燃えるゴミから

 調査の為に山に入ってみたものの、草刈りにウンザリ。

 骸骨さんの秘密道具『まっさお君』とアイテムボックスを連携させたり、ルケイド新スキル『植物採取』で草刈りに関しては一気に効率アップが図られたのだが。


 エマさんが収納スキル『タンスにドンドン』を、オリビアさんは防御系スキル『光輪(コーリン)』を生み出した。


 どちらも役に立つことは間違いないのだが、それなら同行してくれている『紅のマーメイド』の四人にも新しいスキルを期待する。


 旅の同行者を女性でかためたライエルさんの意図は分からないが、毎晩一緒に寝ていると俺もルケイドも彼女達に手を出すかも知れないと危機感を募らせつつ、三日目の調査に入ることにした。


「『植物採取!』…『植物採取!』」

「『タンスに~ドンドン!』」

「『光輪!』」

「クレストさんのアンビリーバ棒アタック!」

「なんのっ! こっちの名付けはクレストさんよ!」


 ルケイドが真面目に地味な作業を繰り返ししている中、若干二名がおかしな争いを始めているみたいだが。


 エマさんにはちゃんとしたドラムスティック的な物を持たせようかな?

 さすがにいつまでも拾い物じゃ可哀想だ。だがオリビアさんの安全の為にも、破壊力があるものは避けるべきだな…いや、なんでそんなアホな心配してんだろ?


 他の四人は草刈りした跡に変な物がないかを探してもらいながら、獲物を見つければ狩ってもらう。

 ルケイドの『植物採取』の効率が上がれば上がるほど、今回の調査の効率も上がるだろう。

 地面を覆い隠す草木が無くなるだけで、目視のし易さ、確かさは段違いに良くなる。


 彼には植物の専門家と言う位置付けで来てもらっているのだが、それ以上の働きをしていると思う。


 しかしそんな彼の奮戦があっても、植樹しても木が育たなくなると言う異常現象の手掛かりが掴めなければこの苦行からは解放されないのだ。

 ひょっとしたら地表面だけ探っても意味が無く、木の根が届く地下深くに異常が起きているとか?


 例えば有害性のある物質が地下水に混ざり始めたとか、土や地面に含まれる魔素に変化が起きているとか。

 筆写してもらった地図を見ても、カンファー家の所有する全ての山地が植樹不能に陥って居る訳では無い。

 資料が古く、現地を見る異常が出ている範囲は広がっているとサーヤさんとルケイドが判断しているが。


「考えられる原因だけど、地中じゃないかな」

と昼休みの間に皆の意見を求める。


「それはどうやって調べるの?」

「それなんだけど…掘って確かめる」

「このスコップ、よく喋るってやつ?」


 召喚勇者の中にコテコテの関西人が居たことは間違いなさそうだ。


 今朝、土の色が違うと思いながら、どうして気が付かなかったのか。

 上手く出来るか分からないが、ボーリング調査的な物をやってみる。


「『大地変形』」


 これで直径十センチ、深さ十メトルの穴を明ける。

 この魔法が便利なのは掘った土が消滅しないこと、つまりボーリング調査で行うサンプル調査のように試料が取りだせる(可能性がある)ことだ。

 今まではアイテムボックスに連動させてそのまま保管し、元の位置に埋め戻すと言う手間を掛けていた。


 このサンプルはアイテムボックスに入れず地表に…出した瞬間、高さ十メトルの土の柱がグラリと傾き、女性陣目掛けて崩れながら倒れた。


「ドンドン!」

「光輪!」


 咄嗟に白と黒の対照的なスキルを発動した二人を避けて、

「キャーっ」

と悲鳴をあげて逃げ遅れたカーラさんが土で汚れた。


 ある意味お約束?


「もおー、クレたん、私が好きならハッキリ言ってよ」

「え?」

「これ、好きな子にイタズラするパターンなんでしょ? 困る~」

「残念、そうじゃないよ」


 カーラさんの頭に被った土を払いのけて『浄化』を掛けると、何故か被害の出ていないエマさんが頭に土を乗せ始め…それを見て同じようにオリビアさんが土を頭に乗せ、それから少し考えて胸にも土を乗せるように手を動かした。

 まさかセクハラさせて訴えるつもり?


 仕方なく二人の頭を軽く払って『浄化』を掛けてあげるとニカッと笑みを浮かべる。

 可愛いから許すけど、わざと汚すなんて、どこかに似たような神事があったような無かったような…。


「クレスト兄、寝かせて出さなきゃダメだよ」

と笑いながらルケイドがアドバイス。それは俺も思ったけどね。


 気を取り直してもう一度『大地変形』で穴を明け、脳内で水平に動かしてから地面に置くように地面に出した。


 建物を立てる前に行うボーリング調査は、一メートルおきにサンプルを取り出して強度を調べ、地中に打つ杭の長さを決めると言う。

 だからこんなに長い土の柱が出来る訳はない。俺達の中に地質学者も古代学者も居ないので、分かることと言えば色の違いだけだ。


「ここ、赤いね」


 柱のほぼ中央、およそ四~五メートル付近が赤い土砂と小石になっているのだ。

 『鑑定』スキルがあれば、この赤い石の正体が分かるのに。この赤い土砂と小石の層が原因か?

 そうだとしたら、どうやって確かめるか。有害物質かも知れないので、素手では触らないように皆に言い含めておく。


 赤い砂で最初に思い付くのは硫化水銀を含む辰砂だ。これ自体は朱漆などに利用されていて、毒性は低いと言われている。辰砂は熱処理して出てくる蒸気に水銀が含まれるので、絶対加熱はしないように。


「もしこの赤いのが原因だとしたら、この山はどうすれば良いの?」


 地中にある赤い土砂部分だけを全部撤去?

 そんなの無理だろうな。


 だけど、異変が起こり始めるまでは植樹出来ていたというのだから、この土砂部分だけが原因とは考えにくい。

 それに被害の範囲が広がっていると言うのもおかしな話だ。地層が地下で急激に動く筈は無い。

 有害物質を含む地下水が地表近くに押し上げられることで、深く張った根がそれを吸い上げて枯れていったと考える方がまだ納得出来る。


 やはり、そうなるとこの山では植樹不可能だし、いずれもっと広範囲に影響が広がる可能性もある。いわゆる鉱毒による汚染だ。

 そうだとすれば、俺達の手には負えないよ。


「クレスト兄、地層ごとに分けて植物に害があるか無いかを確かめて行くしかないと思う。

 広範囲でサンプルの柱を集めて、リミエンに戻ってから実験しようよ」


 それもそうだな。ここでどうにか出来る問題では無さそうだ。それにしても、ルケイドは地味な実験をするのが好きなのか?

 派手な実験の方が絶対楽しいのに。


 土に関してはそう基本方針を定めたのだが、魔法で隠蔽されたダンジョンとの関わりはまだ何も掴めていない。

 絶対何かの繋がりがある筈なので、マーメイドの四人に『マジックゴーグル』を託し、先行して彼方此方(あちらこちら)を探索してもらうことにした。

 もちろんその間もルケイドと共同しての禿げ山作りは続けていくが。


 そして空振りの日が続くこと三日が過ぎて、冒険者ギルドから中間報告を聞き取りに誰かがやって来る日になった。

 目印になるように、今までに回収した雑草を狼煙として燃やし始める。

 仲間達は何も突っ込まないが、俺のアイテムボックス(『格納庫』と嘘を付いている)にはトン単位に届くかも知れない量の草が回収されている。


 他にもゴミ屋敷の片付け依頼でもあったのかと思うような物品も焼却する。

 骸骨さんの時代に有ったものだから、どれも骨董的価値を持つかも知れないが、片方の脚が取れたロッキングチェアなんて、どう考えても不要だろう。


 アンティークショップ?

 リミエンにそんな洒落たお店は無い。壊れたら直して使うって文化があるから、普通に古いものがゴロゴロしてるからね。


 量があるだけに一々広げて分別するのも面倒になる。考えて見たら廃プラなんてものは無いんだから、可燃物と不燃物を分ける必要は無い。

 金属があれば回収しとこうかな、ぐらいな軽い気持ちで次々に火の中へと投入を続け…。


 何も考えずに何かの動物の形をしたボロボロの縫いぐるみをポイっと投げ入れ、次に何を入れようかと手を動かしていると突然炎が高く立ち上った。

 念の為に頑丈な土壁で囲んでおいて正解だった。危険物が混じっている可能性もあったからね。


「このーっ、ヒトゴロシっ!」


 そんなセリフがどこかから聞こえてきた。

 ルケイドとはかなり離れているし方向も違うな。

 男性の声みたいだからエマさん、オリビアさんコンビとも違う。故に空耳だな。


 無かったことにして、掌サイズのサイコロのような物を投げ入れると、

「アタッ!」

と聞こえた。


 どう考えても、三人の居る方向から聞こえた声ではない。

 火の中に何か居る?

 それも喋るような怪しいヤツが。


「人を呪わば穴二つ…その通りだった。

 だが俺は今こうして復活したのだ!

 如何にセラドリックが強かろうと、俺を」

「うるせー!」


 スナップを効かせて投げた木のボールが火の中の何かに命中し、

「ブヘッ」

と悲鳴が聞こえた。


「生きてる? なんなら留めを刺そうか?」

「そんなのいらんっ!」

「そう。火で焼け死なないのなら凍らせてみようか」


 この三日間程、夕食後にオリビアさんに魔法制御を指導してもらうことにしていたのだ。

 その成果が出て、属性を持つ魔法の制御が出来るようになりつつある。慌てなければ掌サイズの氷を出すことも出来るが、失敗すると辺り一面が南極と化す。


「なんでそんな好戦的なんやっ?

 俺達、初対面やろ!

 世界平和を実現しようや!

 ハム アンド チーズっ!」

「それ、ラブ アンド ピースな」


 立ち上った炎の中から弾けるように出てきたのは、赤黒い毛皮にゆらゆらと燃える炎を纏う熊?だった。

 大きさは両手を広げると収まる仔犬サイズだが、見た目に騙されてはいけないだろう。喋る知能がある魔物であれば、巨大化するぐらいは想定しておかないと。


「念仏唱えるまで待ってやる」


 ホクドウをアイテムボックスから取り出して右手に構える。軽く氷結系の攻撃も出来ると匂わすように刀身に薄らと氷を纏わせ、小さな氷の粒をキラキラと撒き散らす。

 なおこれらは全てエフェクトだけで効果は無い。まだ攻撃に属性魔法を使えるほどの制御は出来ていないのだ。


「念仏て…ユズルン、今までありがとー!」

「なら死ねっ!」

「マジ?! あっ! 下半身だしてるけど、赤い服を着てなかったーっ! 今の無しでっ!」


 振りかぶったホクドウを熊?目掛けて一気に振り下ろしたが、掠めただけで躱された。

 的が小さいだけにホクドウでの攻撃は難しいか。

 折角のエフェクトも一振りで終わってしまったし。


 それならばと魔力を右脚に込め、一撃必殺とばかりにサッカーのシュートのように振り抜いた。


 ガツッと手応えがあったが、予想と違ってキラーンと輝きながら飛んでいくことはなかった。

 何故なら熊?は器用に俺のブーツにしがみ付いていたのだ。 


「あかん! この人、鬼や!

 こんな幼気(いたいけ)な熊にむご過ぎる!」

「熊は喋らない。擬態は辞めて正体を現せよ」

「えっ!うそ! こっちの熊は喋れんの? 失敗したー!」


 なんだコイツは?

 悪魔系かと思うのだが。熊の姿は間違いなく仮の姿だ。俺の油断を誘っているにしては、随分地球のサブカルに詳しいな。


 俺と熊?の遣り取りに気が付いたのか、三人がこちらに注目している。だがまだコイツの正体も分からないので、迂闊に近寄らせる訳にはいかない。


「お前、勇者に関係があるのか?」


 赤い服を着た熊を知っている、つまり召喚勇者(か転生者)からその手の話を聞かされたことがあるのだろう。


「そうや! 魔法の勇者にボコボコにされ、命を助けてもらう代わりに悪の限りを尽くしたつもりのナイトベア・ラビィとはワイのことやてで!」


 どう考えても、お前の方が勇者より良い奴だよな?

 尽くしたつもり…てことは悪事を働いていないんだし。

 ナイトメアなら夢魔だけど熊…ねぇ、混乱するわ。


「あのクソ勇者! 毎年給料アップや、戦うのは春だけって言うたのに、給料一回も振り込まれたことが無いんや!」


 熊よ、それはただの冗談で言っただけだと思うぞ。お前が熊だけに。

 と言うか、この世界に賃上げの労使交渉は無いし、お前は悪の手先として働いてないから給料出なくて当然だろ?


「セラドを倒したら四天王に抜擢してやる言われ、戦斧(バトルアックス)担いでセラドと戦ったらレバーにグーパンで倒されたんや。

 魔法の勇者にゃ役立たずと罵られるわ、ハイヒールで下腹部グリグリされるわ、挙げ句の果てに封印までしやがって!

 あんな腐れ外道勇者、見たこと無いわっ!」


 言いたいことは色々あるが、設定詰め込み過ぎだろ?

 

「…で聞くが、お前の正体は?」

「信じるのはお前の自由やけど、俺は魔界出身の魔族だぞ」

「まあ、裸族!?」


 エマさん、それは俺も一瞬思った。でも毛皮着てるからギリギリ違うと思うよ。


「アホかっ! 魔族や!

 一回ホジホジ耳掃除したろか!」


 熊の手でそんなの出来るかよ…。

 冗談は置いとくとして、魔族が居るってことは聞いているが、コイツの言っていることが信用出来るのかな?

 そんな嘘をつく意味は無いと思うが。


「それでさ、お前はずっとその姿でいるつもりか?」

「いや、それなぁ、さっきから元の姿に戻ろうと試しとんやけど…無理みたいなんや」

と溜息をつく。随分人間臭い魔族だな。


「セラドに倒され、魔法の勇者に封印されたんで、元に戻るだけの魔力が足りんなったんかもなぁ」


 それを聞いてか、オリビアさんがラビィをガシッと両手で掴みあげるとギュッと抱きしめたのだ。


「ラビィ、かわいそう!

 私が飼ってあげるから!」


 オーマイガッ…! これって全部同情を買う作戦かも知れないんだよ。迂闊過ぎるよ。


 ラビィを仰向けにして赤ん坊をあやすように揺らし始めると、赤黒ぽかったラビィの体色が濃いグレーに変わっていった。


「姐さん…」


 見た目は本物の小熊の姿になったラビィが短く一言だけ呟くと、赤ん坊がご機嫌な時にキャッキャ言いながら手脚を動かすように短い前脚をバタつかせると、オリビアさんの下乳に当たってポヨンと揺らした。

 爪もそれ程出ていないようでオリビアさんに怪我は無い。無いけど少しイラッとする。


 と、さっきまで機嫌の良かったオリビアさんだが、突然ラビィを地面に投げ付け、

「セクハラで訴えますよ!」

と叫んだのだ。


 多分ラビィにそんなつもりは無かったと思うのだが。

 猫のように半回転して四本脚で着地したラビィが、

「そんなぁ…殺生な…」

とガクッと項垂れる。


 それより俺も、オリビアさんのお胸様にはノータッチを貫かないとコロサレル?

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