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第107話 気を付けなきゃ

 オリビアさんが作り出した直径三十センチの光の輪っか。

 本人の想像とは全く違う機能をもった魔法のようだ。


「俺も似たような物を持っててさ」

とアイテムボックスから骸骨さんの所持品のトンファーを取り出す。


「これ、見た目は鉄の棒に取っ手が付いただけに見えるけど」


 防御の構えを取ってトンファーに魔力を流すと、魔力によって殆ど透明なシールドが発生する仕組みになっている。

 エンガニの尖った攻撃を受け止めるだけの強度があるのだが、それ以降は試していないので詳しいスペックは分かっていない。


 このトンファーの名前は『カウンタック』。

 説明文には『見えない魔力の盾で攻撃を防いで即座に反撃!』とある。

 つまりカウンター攻撃だ。詰まらないけどシャレのつもりか?


 骸骨さんのオヤジ振りは捨ておいて、皆に見えない盾を確かめてもらった後で、オリビアさんの輪っかに触れると同じような現象が起きているのだと実感できる。


「そう言うことでオリビアさんのこの魔法、予定とは違うけど使えそうだね」

「オリビアさん、凄いです!」


 エマさんは薪でペチペチと不思議な盾を叩き続けているけど、それは耐久テストのつもりかな?


「エマさん、もう薪で叩いても壊れないのは分かったでしょ?」

「アンビリーバ棒なら壊せるかと」


 多分無理だから!

 これは女同士の負けられない戦いなのか?

 それとも矛と盾のつもりなのか?


「これさ、もし結界みたいに中に入れたら全方向の攻撃を防げるよね?」

とルケイドが何かのアニメかコミックのネタでも思い付いたのだろう。


「中に入るとは?」

「今は垂直に立てて、盾みたいに使ってるでしょ。

 それを自分を囲むように足元に作るんだ」

「…試してみます」


 オリビアさんが平らな地面に手を付けたのは、きっと俺の十八番の仕草をマネしたからだな。


 その手から白く光る輪が生まれ、ゆっくりと大きくなっていき、オリビアさんの体が入るぐらいのサイズに育つ。

 輪っかからゆらゆらと放たれる燐光はそれ程の高さに達せず、せいぜいが膝の辺りぐらいで止まっている。


 もっと光の柱が立ち上って体が光で隠れるぐらいにならないとエフェクト的にショボいと思うが、決してクチには出さない。こう見えて不可視のシールドが張られている可能性もあるのだから。


「これでどうかしら?」

とルケイドに聞くと、

「輪の大きさはそのままで、もう少し強く守りたいと願ってみて」

とアドバイスが入った。

 俺に聞かれていたら、もう少し光らせて、もう少し光の柱を高くして、みたいな物理的に答えただろう。


 それを聞いて頷くと、光る輪がより強く輝きを始め、膝までしか届いていなかった光の柱が彼女の顔近くまで到達した。


「凄いです!」

と褒めるエマさんだが、アンビリーバ棒でその光の柱を叩くことは忘れない。


 音を立てずにアンビリーバ棒が光の柱に阻まれ、エマさんの攻撃はオリビアさんには届かなかった。

 俺も叩いてみたが光る壁が不思議な感触を手に伝え、それより奥への侵入を拒絶した。


 ただ、その状態を維持するのは難しいのか、ルケイドが試しにと伸ばした手は壁に阻まれることなくオリビアさんの胸をポヨンと直撃した。実に羨ま…げふん。


「キャッ!」

と顔を赤くするオリビアさんと、即座に土下座をするルケイドにエマさんが笑い声を立てた。


「訓練すれば、どんどん進化していくよ。オリビアさん、頑張って!」

と励ましてからルケイドを立たせる。悪気があったわけでもあるまい。


「この魔法の名前は何にするの?」

とエマさんが興味を示す。


「名前ね…光、輪、守り…プロテクションサークル? 光も入れたいけど長いわね」

「丸くて固い光だから、千懴光(センザンコウ)とか」

「獣みたいで却下です」


 タンスにドンドンなセンスを持ってエマさんに名付け親は無理かな。


「護りたいって意味でガーディアンとか」

「堅苦しいですね」


 ルケイドの案は男性が使うならって感じだな。 


「私のアンビリーバ棒のライバルだから、アンタッチャ棒?」

「棒の要素はありませんから」


 うん、棒の要素は確かに無いと思う。それにアンビリーバ棒はただの枝だからね。さっさと焚き付けに使わなきゃ。


「じゃあシンプルに光輪(コーリン)でどう?

 初見で防御能力があるとは思わないだろうし」

「はい、それで行きます」


 俺の案を聞いてオリビアさんがニコリと微笑んだ。

 長いと言うから一気に短縮、しかもほぼ日本語読みにしたのだが随分嬉しそうだ。

 俺に名前を決めて欲しかったのかな?


 イージスとかアイギスでも良かったけど、名前負けしそうだし、こっちの世界では通用しないだろうし。


「アンタッチャぼー」

とぶー垂れるエマさんのクチにドラフルーツを放り込む。マンゴーみたいな濃い甘さのあるやつとレモンみたいに酸味のあるやつを同時に食べると、とても美味いんだよね。


 それにしても、三人がたった一日で新しいスキルを身に付けるとは予想外だね。特にエマさんは魔法が使えなかった筈なのに。

 それだけマジックバッグみたいな物を強く欲していたのかもね。


 それならマーメイドの四人にもスキルが身に付く可能性がある。

 別に『格納庫』のスキルじゃなくて、自分に必要なスキルにチャレンジすれば良い。


 この山で訓練するとスキルが出来やすい、なんてことは無いだろう。スキルの発現には何かの切っ掛けが必要らしいから、嘘の『格納庫』の習得しようと試行錯誤したのがその切っ掛けになったのだと考えられる。


 彼女達は大銀貨級の昇格を目標にしているそうだが、肉体的な限界はそう簡単に伸ばせる物ではない。

 だから魔法かスキルを増やしたり育てる方が早く目標に近付けると思うんだ。そのお手伝いが出来るなら、一緒に行動してもらうことの御礼になるだろう。


 それから暫くして四人が戻ってきた。

 戦果として射貫いた鳥を並べるが、

「この山はおかしいよ、ウサギもイタチも出て来ない。鳥か虫だけ」

とサーヤさんが不満そうに報告する。


 木が無いことが生態系に影響しているのは確実だが、巣穴を作る小動物さえ存在しないのは確かにおかしい。

 考えても納得出来る理由が出て来ないので、エマさんに報告書に記載してもらうに留めて他の人に鳥の調理をしてもらう。


 ルケイドが作った土のテーブルに鳩のような鳥を乗せ、慣れた手つきで調理を進める四人。いつもはオチャラケているカーラさんだが、調理中はリーダーとなるようだ。


 俺が雑貨店で店員に言われるがままに買い込んだ野外料理用の調味料セットを使って、焼き鳥と鍋料理を作ってくれた。

 手の汚れも調理に使った道具も『浄化』と『殺菌』を使うと一瞬で綺麗になるので皆に大好評だ。


「相変わらず、家事を舐めてんの?と聞きたくなるような性能ね」

とサーヤさん。


「便利過ぎる。一度使うとクレたんが一人欲しくなる」

「あげません」

「ええ、渡せません、一人しか居ません。あと、エマさんにもあげません」


 カーラさんの言葉に即座にエマさんが反応し、オリビアさんがそれに続く。

 確かにカーラさんに貰われるつもりは無いけど、あげませんと言うのも違う気がするけど。

 細かいことは置いといて、早速晩御飯を頂きましょうか。


 夕食後、新たなスキルの習得にチャレンジする四人と、得たスキルの習熟訓練に励む三人。

 俺は一人で外に出ると、おトイレのついでにスライム達に餌を与えて見張りの任務を任せた。


 そして三日目の朝。

 目覚めた時はオリビアさんとエマさんに挟まれていた。道理で暑いと思った訳だ。

 オリビアさんの胸部もセリカさんには及ばないが、それでもかなりの破壊力がある。

 ギリギリCクラスのエマさんの方を見てホッとするが、それでも朝一番に目にするには十分刺激的だ。

 下半身が男女混成パーティーは危険だと強く訴えてくる。果たしてこの任務が終わるまで、誰にも手を出さずに我慢が出来るのか?


 こんな女性だらけのパーティーにしたのは、間違って既成事実を作らせようと企んでいるのではないだろうか?

 そんなことしてもライエルさんにはメリットが無いと思うけど。 


 先にタイニーハウスの外に、土壁の外を見るが特に変化は無い。掘り返した土が若干赤い気がするが、そんな鉱石もあるだろう。大量に採取出来るのなら顔料に使えば良い。

 合成着色料なんて無いから、綺麗な発色の鉱石にはそれなりの価格が付けられる。

 木がダメなら、ルケイドのオヤジさんはそう言う方面に早めにシフトすべきだったんだよ。


 古くからの家業を続けようとしたのは分かるが、解決出来ないのに問題の先送りでは被害が拡大するだけだからね。

 これは政治も同じだ。少子高齢化なんて何十年も前から分かっていたことなのに、百年安心とか大嘘こいで対策しなかったのは誰の責任なんだろうね。


 愚痴は置いとこ。


 毎日剣術の訓練を行うようにと鬼教官のブリュナーさんからメニューを渡されているので、こっそり続けている。

 普通なら素振り千回とかだと思うが、決まった型は俺には合わないとかで、とにかく思い付く限りの攻撃手段をとにかく多く繰り返し、仮想ブリュナーを倒すことが宿題なのだ。


 ゲームだと一部を除いてナイフの攻撃力は最低クラス。それは防御力が単に数値でしか表せないことが原因だと思う。

 布→革→青銅→鉄→鋼…と国民的なロールプレイングゲームでは材料が変わることで防御力の数値が上がる。

 ゲームによっては重量の要素も含まれるが、それでも結局は数値のみ。これはシステム的に仕方ないことだが、リアルに置き換えて考えるとその材料で作った全身ガチガチの鎧を着ているようなものだね。


 フルプレートの鎧と言えども、実際にはどこかに柔らかい部分がある。

 だから、剣士はそこを狙って突き刺す攻撃をする。それか重たい剣で力尽くで鎧の上からダメージを与えることを選ぶ。


 ナイフは前者の究極の姿。まぁ、実際には金属鎧を着た相手にナイフで立ち向かうことはお勧め出来ないけど。

 そんな相手のお勧めはウォーハンマー。それが無ければ火炙りかブリザードで凍らせる。

 足元に油を撒いて、転ばせてから火を放つのが一番確実だろう…あぁ、だから骸骨さんの犯罪歴に放火があったのか…物凄く納得したよ。


 きっと現金を盗んで逃走中に火を付けたんだろう。時効成立だ(勿体ない)から返してこいとは言わないけど。


 …。


 格闘と剣術を織り交ぜた変幻自在なトリックアーツが俺の真骨頂だと言われたのだが、ブリュナーさんに認められる日は遥か遠いだろうな。

 そう思いつつ訓練に励んでいると、ルケイドとオリビアさんも出てきて訓練…と言うか実験を始めた。


 どうやら光輪の性能把握をするみたいだ。

 やるのは良いけど、昨日みたいにラッキーな接触は程々にしとけよ、と冗談を言っておく。


 昨夜、マーメイドの四人にどんなスキルが欲しいのか聞いてみた。

 アヤノさんは一撃で魔鹿の首を落とせるようなスキルか、瞬間的に距離を詰める移動術だと答えた。

 大銀貨級に上がるためには戦闘力の向上が必須。本物の剣士と呼ばれるには、それぐらいは出来なければ話にならないらしい。

 普通に考えれば、そんなの無理!だと思うけど。この世界には地球の常識が通じないところもあるから、話半分に聞きながら頷く。


 セリカさんはまだ自分のスタイルが固まっていないらしく、良く言えばオールラウンダーな戦士、悪く言えば中途半端。

 でもアヤノさんが純粋なアタッカー役なので、防御能力を高める方が良い気もする。

 それかアヤノさんと同じく火力特化にして、殲滅速度を早めるかだ。


 サーヤさんは言うまでもなく弓に関するスキルだ。ただ、弓術スキルの底上げなのか、それとも更に特化した連射速度アップや精密射撃のようなスキルの習得なのかは決めかねているらしい。

 それはスキルと言うより一芸、または技だね。


 そして最後にカーラさん。

 属性的には風の魔法に適性があるらしいのだが、普段攻撃に使うのは純粋に魔力を高密度に圧縮して放つ『魔素弾(マナブレット)』だ。

 これは攻撃魔法の基礎となるもので、初心者を卒業すれば見向きもされない地味魔法だ。

 風をまだ使い熟せないのか、それとも『魔素弾』に特別な思いがあるのか。


 この魔法のメリットは消費魔力の調整が簡単な事と、目視が難しい事か。とは言え、弾速はそれ程でもないし、拘って使い続けるような物ではない。


 正直言って彼女の扱いが一番困る。アドバイスをしようにも、目指すものが分からないのだからしようが無い。

 純粋な魔法使いになるのか、それとも兼業魔法使いになるのか。きっと本人もまだ方向性を決めかねているのだと思うことにする。


 そんなカーラさんなら喜んで『デビル刈ッター』を使ってくれそうだ。

 ついでにピンク色の『片手ハンマー(パニッシュメント)』も渡しておこうか…いや、説明文が本当ならど偉いことになるからやめておこう。


 先に訓練を終わらせて、まだ仲間達が訓練をしている間に朝食を並べてスタンバイ。我が家の庭で焼いたパンケーキは甘さ控え目にしてあるので、追い蜂蜜も用意してある。

 バターも良いが、マーガリンも嫌いじゃないし、使い勝手が良いと思う。いつか暇になったら誰かに作ってもらおうかな。


 食生活に潤いを求めるのは悪い事ではないし、新たな商品の創出は新たな雇用を生み出す。どんどん新商品を生み出していけば、いつかスラム街もなくなるんじゃないかな?

 その為には燃料となる薪や建材としての木材の安定供給が必要になるので、早くこの山の問題を解決せねば。


 単に自分が食べたい物を想像しながら強引にオチを付けた所で、仲間達が訓練を終えてテーブルに付く。


 因みに朝に弱いエマさんは普段は寮の管理人さんに起こして貰っているそうで、今日も起きてくるのは最後だった。


 皆の体に『浄化』を掛ける。

 原理不明のこの謎魔法は、馬鹿みたいな量の魔力を消費する。

 だから使える魔法の使い手は多くないそうだが、俺の魔力量は『まじパねえっす』ってやつらしく、八人同時に発動してもへっちゃらだ。


 それを初日のお昼ご飯前に八人同時にやっちゃった時には、オリビアさんとカーラさんが盛大に混乱してたけど。

 いわゆる生活魔法なんてカテゴリーに入るのでお手軽魔法だと勘違いされがちだが。

 起こしている事象自体は地味だけど、実際には奇跡みたいなことをやってるんだからね。


「ルケイドったら三回もお触りしてたの!」

と嬉しそうにカーラさんが報告すると、当事者二人が顔を赤くしながらモソモソと食事をとるのだった。


 俺より先にルケイドの下半身を気にせねばいけないのかも…。

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