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第106話 光の輪っかは?

 俺が渡した薪がエマさんの明けた四角い黒い穴?に飲み込まれた。


「…クレストさんのが私の穴に…」


 とにかく驚いた、の一言しかない。嘘から出来た魔法だよ。こんな事があるんだね。


 でもエマさん、その言い方っ!

 現象的には多分間違っていないけど、勘違いするから真っ昼間からそんなセリフを言っちゃダメ!


「エマっち! 一回きゅっと締めて!

 それからゆっくり出し入れするの!

 クレたん、もっとアナタの」


 ゴツッ!とアヤノさんの拳骨がカーラさんの頭に落とされたけど、自業自得だよ。ホントこの人も懲りないな。


「ゴミ箱でないことを祈るわ」

と普段は毒舌を言わないオリビアさんが珍しくそんなことを言う。


「多分…行ける」

とエマさんが恐る恐る黒い穴?に手を入れようとしたが、手は黒い波紋を立てるだけで穴?には入らない。

 だがその波紋に触れたまま、

「さっきのクレストさんに貰った棒、出てきて」

とお願いをすると、棒が逆再生するようにゆっくりと出てきたのだ。


「アンビリーバ棒!」

「上手いこと言わないのっ!」


 この時ばかりはエマさんも満面の笑みの後にドヤ顔を見せ、オリビアさんが悔しそうに突っ込んだ。


「上手い棒?」

「カーラは暫く黙ってて」


 でも、本当にアンビリーバボーな光景だよ。

 今度はさっきより早く薪を入れて取り出し、次は入れたままで黒い穴?を閉じた。


 さっきまで四角い穴?になっていた場所をエマさんが両手で確認するが、そこには空気以外の何も無い。

 スカッと空振りしただけだが、あの薪はこの場所から無くなっている。


「じゃあ、もう一回『タンスにドンドン』!」


 体の前に右手を翳すと、その手を中心に四角い穴?が空いたのだ。


 出現する場所を指定出来るようだな。


「クレストさんの棒、出てきて」

と黒い穴?に触れて波紋を立てながらそう言うと、入れたのと同じぐらいの早さで薪が出てきた。

 速度まで再現しているとなると、これはアイテムボックスとは異なる現象だな。

 恐らくあの波紋が通過した物質の運動エネルギーまでもデータとして記録しているのだろう。


 だけど毎回『クレストさんの』と言わなくても良いのに。その辺に落ちてた枝だし。

 それにしても、縦長の四角い穴はタンスをイメージしたからか。


「何でもドンドン入るタンスをイメージしたの! 出来てビックリ! クレストさん、ありがとう!」


 考え事をしていた俺の手を取るとブンブン上下に降り始めた。この世界の人、これ好きなんだよね。


「クレストさん、何を考えているの?」

と浮かない顔のオリビアさんが聞いてきた。


「消費する魔力の量とエマさんの魔力の量。

 それに『タンスにドンドン』に物を入れた状態で魔力を消費するかどうか。

 俺の『格納庫』は入れる時に魔力を使う(設定な)だけで、入れてしまうと魔力は使わない。

 だけど出し入れする時のスピードは再現されないから、『タンスにドンドン』とは違うものだと思ってた」


 運動エネルギーまで再現出来るなんて反則だろ。

 これ、魔法じゃなくて本物の収納系スキルが生えたんじゃない?


 スキルと魔法の区別が明確にあるのかどうかは知らない。ステータスを見てもスキル欄は表示されないからね。


 他にも気になることはまだあるけど、それは一旦置いとくとして。

 マジックバッグを所有するのと同じで、この能力を人に知られるとエマさんが危険な目に遭うだろう。絶対他の人には言っていけないやつだと思う。


「クレストさん、もっと入れてみたい。出して」

と手を出して可愛くお強請りするエマさんに、内心その言い方っ!と突っ込みながら木の皿やコップ、折り畳み椅子と丸テーブルを一つずつ渡していく。


 バカンスに来た訳ではないのだが、寛ぐ時に使えるだろうとの判断から休憩セットを選んだのだ。ビーチパラソルが無いのだけが残念だ。


 オリビアさんも一度は諦めたものの、さっき出していた光の輪のようなものをもう一度作り出していた。

 エマさんがモノを収納するためにタンスを選択したので四角い穴?になったのは理解出来たが、何故オリビアさんは光る輪っかなんだろう。とても異空間へ繋がるようなイメージは無いのだが。


 そんなエマさんとオリビアさんは関係ないと、ルケイドも本気で『格納庫』スキルの獲得を目指していたらしい。


 本人曰く普通の人より魔力量は多いそうだし、しかも転生者だ。きっと面白いことをやってくれるに違いない。


 出来れば今の状況を好転させられるようなスキルを頼む。


「よっし!」


 ルケイドが何かのスキルか魔法を思い付いたのか、珍しくそんな声を出した。


「クレスト兄に教えて貰った『範囲指定』と『格納庫』、それに僕の『植物図鑑』スキルと『土壌操作』魔法を掛け合わせて出来たのが新スキル『植物採集』!」


 どうやっ!て顔で皆を見渡し、

「行くよっ! 幅二メトル、長さ二十メトルで対象はタンポポで『植物採集』!」


 地味すぎるっ!

 確かに俺達の目の前から黄色い花のタンポポだけが一瞬でスポスポスポッと消えていき、ルケイドの後ろに抜き立てホヤホヤのタンポポがポタポタと積み上げられていく。

 だが『まっさお君』のような爽快さが無い。

 やるならもっと量の多い雑草で試さないと。そこの猫じゃらしの穂のやつ(エノコログサ)とか。


 似たやつでチカラシバってのも生えてるな。

 後はよく手を切るテギリスゲも頼む。

 それと、めちゃくちゃ地味だからもうちょっと広範囲で一気に頼むわ。


『植物採集』!『植物採集』!『植物採集』!『植物採集』…。


 ルケイド、よく頑張ったな!

 お陰で辺り一面が本物の禿げ山に早変わり。一応女性陣には午前中と同じように手作業も続けて貰ったけど、『植物採集』の方が効率は良かったのは分かる。

 魔力量の問題は、熟練して行けば魔力量を抑えられるようになるから、そんなに気にしなくて良いだろう。


 一日でそれなりの範囲が剥き出しの地面に変わり、上から目視で確認していったが、特に怪しい物は見つけられなかった。


 貯水池の近くで発見されたダンジョンは、入り口を魔法による錯覚で偽装していたらしい。

 何故かその偽装の効果が薄れていて、今回偶々見つけられたそうだ。

 この山でも同じように何かの偽装魔法が掛けられている可能性も考えられる。

 だから魔法が掛けられている物を見れば光って見える(魔法が使える)ゴーグル型のマジックアイテム『マジックゴーグル』を使って探したのだ。

 だがこの場所に於いては空振りだった。


 この後は土壌に原因が無いかを調べるだけだな。それで土壌に原因があるとしたら、どうやって調べればよいの?

 ルケイド先生、お疲れのところ申し訳ありませんが、もう一息お願いします!


「僕の土魔法じゃ成分は調べれられないよ」


 なんですとーっ! それじゃダメじゃん!

 土属性魔法に適性があるのなら、土のことなら何でも分かるんじゃない?


 …と、全属性に適性がある俺が言ってもなぁ…。

 それなら俺にも分かるってことだから。もっと早く気付けよ俺。

 ウンウン唸ってみても、残念ながら土壌の成分分析が出来るような便利なスキルも魔法も持っていないし生えてもこない。


 俺が見て分かるのは、関東ローム層の土ではないし、赤玉土でも無いってことぐらい。昔は木々が生い茂っていてフカフカの腐葉土だった筈が、表面の土はかなり流れてしまったと思われる。

 これ、一体どうすれば良い?

 土の専門家を呼ぶ? で、土の専門家ってどんな人よ?


 まあ、これだけ禿げ山を作っただけでも凄い成果を残したわけだ。

 一度帰ってからギルド経由で土の専門家ってのを…いや、一週間ぐらいで中間報告を聞きに来るとか言ってたから、その人にお願いして手配してもらおうか。


 で、その時に俺達が何処の辺りにいるのか分かるのかな?

 ま、これだけ整地しながら進んで来たんだから、綺麗な道を辿れば自然と俺達の所に到着するか。

 ライエルさんには貯水池で『大地変形』を見せてるから、ガタガタ道を直しながら進んでいるとか思われていたのかもな。

 きっとそうだろう。


 それでついでだ、これだけ空き地が出来たんだから刈り取って回収した草は全部出して燃やしても問題はないだろう。

 オリビアさんなら高火力魔法も使えることだし、彼女の見せ場も作ってあげないと。

 あ、今日やらなくても聞きに来る人の目印になるように、その日に焼けば良いのか。

 うん、それまで草は集めて残しておこう。


 『紅のマーメイド』の四人には、途中からサーヤさんを先頭にして狩りに出てもらった。

 植生分布だけでなく、生物分布も調べておくのだ。地味な草毟りより彼女達もそちらの作業の方が良いだろう。

 大物は居なくても、小動物系ならそれなりに出てくる筈だ。でも赤い一本角付きの兎と大きなシマリスには注意するように言っておいた。

 木が無いことで、他の山に比べると多少の違いはあると思う。


 暗くなる前に野営地の準備だ。斜面になっていようが、俺の十八番を使えば平坦な広場が簡単に出来てしまう。

 昨日は割となだらかな土地だったが、今日の地面は斜面になっていて、かつゴツゴツしている。その分だけ多く魔力を消費するが、直径二十メートルの野営地を作り出した。


 傾斜しているので高い所を掘って低い所に持って行き、埋め立てる作業のイメージだ。

 深い所は十センチを越えて掘っただろう。土の色が少し違うように見えるが、太陽は大分傾いたのでハッキリとした色は分からない。


「よし、野営地の完成だ。家を出すよ」

 

 昨日と同じように配置して四人の帰還を待つ。

 その待ち時間にエマさんとオリビアさんが昼間に開発した魔法の訓練を始めた。


「タンスにドンドン!」


 発動するたびにそれを叫ぶのはどうだろうね?

 町中じゃ恥ずかしくて使えないだろうから、その方が彼女にも良いかも。下手に無言で使うようなアドバイスはしないでおこう。


 でもこのスキルがどんなスペックなのか、とても気になる。

 我が家の改築が終わったら彼女が引っ越ししてくるから、今使ってる家具を運ぶのに使えるかどうかだね。


 マジックバッグはその口より大きな物は入らないと言う制限がある。

 それを知らずに足踏み式旋盤なんかを出してしまったけど。何も言わずにスルーしてくれたケルンさんに感謝だよ。


 アイテムボックスは未だ底が見えていない。分かっているのは生きている物は入れられないってこと。

 でも根っ子から抜いた草花は生きている筈だけど入れられるので、植物は除く。

 あと、乳酸菌やら何とか菌はどうなのか不明だし、狩った魔物や動物に付いている虫も不明。


 ノミとかも入らない仕様だと有難いのだが。

 牡蠣や貝はどうだろうね? 生きたままの牡蠣や貝なんて、海なしのリミエンだと高級品になること間違いなしだ。


 そっちの考察は暇な時にやれば良い。今はオリビアさんの掌に乗る光る輪っかを見てみよう。

 『格納庫』と言う、物を収納するためのスキルを教えて試してもらったのだから、きっと何かを収納出来ると思うのだけど。


 彼女が何を収納しようとしていたのかが問題なのかな?

 聞いてみようか。


「オリビアさん、ちょっといい?」

「はい、構いませんが」

「その光る輪っか、何を入れようと思って作ったのか気になったんだ」

「…我が家は輸送や農業に使う馬や牛などを扱う商売をしております。

 リミエン近郊にも牧場がありますが、家畜泥棒にあったり、何者かに殺される事件が起こりまして。それで家畜達をと」


 まさか生きてる動物を入れようなんて、想像の斜め上を行ってたわ。マジックバッグにもそんな機能は無いからさ。


 俺が思うに、別の空間にソックリそのまま保存しているのではなく、何かの情報に置き換えて保存しているのだと思うのだ。

 だからデータに置換できない魂や記憶を持つ生きた物は入れられないんじゃないのかって。

 それなら植物は入れられるってことには納得出来るし、エマさんの移動速度まで再現できる機能も理解出来る。


 でも生物を収納か。それ、家畜を守るなら逆に外から人が入れないように結界を張れば良くない?

 いやダメか、オリビアさんが居ないと解除出来ないから家畜に何かあった際に誰も対応出来なくなる。


 難しいな。防犯対策したところで、警備会社もすぐには駆け付けて来ないから意味ないし。

 それにしても何処のどいつがそんなマネをしてるんだよ、腹立つわ。


 その防犯対策は悪いけど保留にして。

 問題の光る輪っかだな。間違いなく家畜を入れることは不可能だ。でも発動してるってことは、何かの機能が備わっている筈。

 家畜達を殺されないように収納…なんの為に…守る為に…。


「オリビアさん、その輪っかはどれぐらい大きく出来る?」


 彼女が掌に魔力を集めると、ゆっくりと輪が大きくなっていくが、

「…今なら…三十センチちょっとぐらいです」

と言うように、そこまでしか広がらない。

 

「それ、動かすことは?

 オリビアさんが動いてもその場に留まり続けるか試してみて」


 その結果だが、光る輪っかはその場にずっと浮いたままでピクリとも動かず、オリビアさんが離れると暫くして消滅した。

 恐らく魔力を供給し続けないと消えるか、制限時間があるかだろう。


「じゃあ今度は穴の向こうに手が通るか試してみて」


 空中に浮く光の輪に、俺もエマさんもルケイドも興味津々だ。


 皆の視線が注がれる中、垂直に立って光る輪っかの中を通すようにオリビアさんの手が触れた。

 そして白く光る波紋が立っただけでオリビアさんの手はそれ以上先には進まない。


「壁があるみたいになっていて、通過しません」

とオリビアさんが報告した後、見物客三人が順番に触れてみた。


 輪っかの中には直径三十センチの透明な盾があるみたいで、叩いても殴ってもビクともしない。

 その様子にコメカミにイラッとしたときのマークを浮かべて、

「あの、クレストさん。もう少し丁寧に」

と言うオリビアさんだが、この魔法の正体が分かっていないみたいだな。


「分かったよ、これはオリビアさんが家畜達を守ろうと言う気持ちから作った盾だよ」

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