表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
134/199

第104話 話し合いと新しい魔法の使い方

 いよいよカンファー家の所有する山に向けて出発した。

 骸骨さんのお陰でおトイレ問題も無事に解決したし、食事にも問題ない。


 馬の水をやるのにドラム缶を半分に切ったような入れ物を出してバシャーンと入れる。


 どれもアイテムボックスがあるから出来る荒業的行為だが、無かったらどうなっていたのやら。


 午前中の反省を活かし、午後からは俺の馬車にはルケイドを座らせることにした。

 するとあっさり女性陣も頷き、ライエルさんの提案通りに座ることになったのだ。

 雨も降っていないし暑くも寒くもない。御者台に居ても、天候のせいで苦労することはない。


「ここから先は、私有地に繋がる道に入るから気を付けてね」

と、御者台のアヤノさんが声を掛けてきた。

 彼女の隣りはセリカさんだ。


 ライエルさんから貰って手元にある地図はかなり適当である。航空写真も無いし、測量用の器具も技術も無いのだから仕方が無い。

 国土地理院か何処か知らないけど、昔は手作業で等高線の入った地図を作っていたんだからその技術と手間には感心するよ。


 ガタンゴトンと揺れる馬車に車窓から流れる綺麗な風景。そこだけを切り取ればなんて長閑な良い景色なんだとホッコリするのだが、ルケイドの顔は相変わらず固い。


「なぁ、伯爵はどう動くと思う?」

と気軽に聞くような話ではないが、努めて平静を装い問い掛ける。


 でも俺が聞きたいのはそっちじゃない。

 現状では既に隠しきれない木材不足を招いたカンファー家を、このまま男爵の位置に置いておくことはまず不可能。

 伯爵の温情があったとしても、他の貴族から突き上げを喰らうのは必至だ。だから確実に平民墜ちとなる。

 それは彼も気が付いているだろう。


「僕がまだ子供の頃に、木が育たなくなったと聞いていたんだ。

 それでヤバイと思って、家を出てもやっていけるように体を鍛えて剣術を学んで。

 筋力強化、土属性魔法の適正、植物図鑑の能力を持っているから、それなりの暮らしが出来たら良いなって、そんな感じに思ってた」


 農家か植物学者になれと言わんばかりのスキル構成だ。転生者なのにスキルは三つしかないの? そこに引っ掛かるけど。


 俺が認識出来ているスキルは戦闘系だけでも剣術、槍術、格闘術、筋力強化、全種類の魔法適正。非戦闘系だと描画、錬金術、あと何かあったけど忘れた…て言うぐらいある。恐らく二人か三人分ぐらいのスキルを持っている。


 訓練次第でスキルが増えていくのか、それとも生まれつき決まっているのか。

 恐らく後者だろう。訓練次第でスキルが増えていくのなら、この世の中には沢山のスキルを持った人が溢れかえるだろう。

 実際そうなっていないのだから、スキルの数は制限があると考えるのが正解だと思う。


 そうなると骸骨さんのスキルの数はどう言うことだろう?

 別の人のスキルを取り込んだと思うのが一番スッと行くんだよね。

 何故そう思うかと言うと、骸骨さんも格闘術だけ使って剣は使わない。剣を嫌っているとも思えるんだよね。

 剣を使ったのはゴブリラの頸を落とした時だけだ。最初の掌底の代わりに剣を使っていれば、マジで一撃で倒せた筈。


 それに全種類の魔法適正なんて言う、まるで賢者かと言いたくなるようなスキルを何故格闘馬鹿の骸骨さんが持っているのか?

 スキルは訓練しなきゃ発現しないらしい。だけどあの人がわざわざ魔法の訓練をしたとは思えないんだ。


 あのダンジョンで死んでいたことと何か関わりがあるのか、それとも俺が気が付いていないだけでスキル奪取系の能力を持っているのか。

 使い切れないスキルを持っても勿体ないから、これ以上のスキルはいらないけどね。


「それで今はクレスト兄のお陰で実験も出来て、海藻を使ったリミエンソープの製品化は確実だ。

 薪の問題が解決出来れば大量生産に入ることも出来そうだ。

 そうなったら収入はどうなるか、僕の手元にどれぐらい入るのか、どう分配するのか…って色々考えることがあってどうしたら良いのか分からないんだ」


 まだ十五歳児だし。行き先も解らないのに夜中にバイク盗んで走り出す年齢だよ。

 それが急に大金が転がり込むかも知れないんだ。

 それでも来年は十六歳。センチメンタルな旅行に出てもイ~ヨな歳になる。それが叙爵と言う貴族行きの旅になるのか、それとも別の行き先を選ぶのか。


 俺としては、ルケイドは貴族の仲間入りを薦めるのだが。

 何故かと言えば、石鹸と紙の製造の立役者として表舞台に立って欲しいからだ。

 それに奪爵の処分を受けたカンファー家からルケイドのような優秀な若者が叙爵されたと言う事実によって、奪爵と相殺されて両親の悪評が多少は静まると思うのだ。

 失った地位と同じかそれ以上の地位を得ることが彼の両親への恩返しになると勝手ながら思うのだ。


 それに功績を挙げた者を評価しなければ、領主様の面目丸潰れにもなると思う。恐らく多方面からそう言う声が上がる筈。

 そうなったら結婚相手にも困らないぞ~。

 勿論俺の身代わりになって欲しいなんて、これっぽっちしか考えていないからな。


 親への恩返しの意味で、と前置きして、もし叙爵の打診があれば受けた方が良いが、そこはお前の気持ち次第だ、と俺なりの考えを伝えておく。


「そうなったら、クレスト兄も一緒じゃないとおかしいよ」


 捨てられた仔犬のような目で俺を見るなよ。これっぽっちの部分があるだけに、僅かながら良心が痛むだろ。


「あのな、俺はキリアス出身の根無し草だ。

 それにアチコチで悪い噂が流れてるしな。そんな奴を貴族の人達が手放しで喜んで受け入れてくれると思うか?」


 悪い噂もこの言い訳に使えるじゃん。いけ好かない衛兵隊長、有難う!

 名前を知らなくてごめんね~。


「…ずるい。僕に貴族を押し付けようと思ってるよね?」

「どうだろね? 人の評価も考え方も様々だ。

 俺が思うに、今の状況を客観的に見ると俺には打診は来ない、そう思ってるだけだ」


 ルケイドが俺も貴族にしてよ!なんて言い出してもそうならないように裏工作が必要かな?

 ま、多分現状だとルケイドが幾ら直談判して声を出したところで、反対派多数でそうはならないだろう。


「それよりルケイドも過去の調査資料は読んでおけよ。当時の状況ぐらいは分かるだろう。

 そこから違いが見えて来るかも知れないし」


 内心でルケイドに済まんな、これ以上は爵位云々の話をしたくないから話題を変えるわ、と呟く。

 奪爵されるより先に、親父さんが爵位を返上し、財産を売却して多少なりともリミエンの損失を補填すべきなんだ。それを言いたくないからね


「初回の記録は読んだ。木の専門家じゃない人が派遣されてて、よくそれで調査したと言えるねと思った」

「専門家なんて居るのか?」

「他の領にも同じ業種の人は居るよね。リミエンの他の三家は加害者の候補だから問題外、だよね?」


 他の領に自分の領内でのトラブルなんて簡単には言えないだろうね。恐らく領主様と他の領主はライバル関係、弱みを見せる訳にも行かないだろうから、そこは同情してやるぐらいの度量の広さを見せてやれよと思う。


「それより、この調査の費用ってどこから出るの? クレスト兄、食料や物資を色々買い込んでくれてるけど、赤字にならない?」


 そこはどうだろうね?

 依頼者が居ない、と言うか普通なら調査地域の土地所有者の負担だからお前の親父だぞ、と思う。

 それとも『ウチにはそんなお金はありません』と暗に言っているのか?


 だが強制執行だとすれば領主持ちか?

 でも後から所有者に請求されるだろうな。


「誰が出すかは聞いてないが、恐らくは領主持ちだろうな。

 俺が出しても構わないぞ。元はと言えば俺の思い付きから始まったんだし。

 七人の一ヶ月、二ヶ月の手当てぐらいは出せるからな」


 お金を稼ぐ気になれば、冒険者らしくちょっと強めの魔物を狩ってくればよい。倒すのなら、なるべく人様に迷惑掛けてる魔物を選びたいけどね。

 多少の経費を許容するなら、開墾して価値の高い野菜や果物を作って貰うのもありだし、牧場に投資して、家畜の肉や乳製品を増産してもらうのもよい。

 手っ取り早く稼ぐのなら、ジョルジュさんの船に乗せてもらって貿易すればあっという間だ。

 個人的には三つ目がお勧めなんだけどね。


「お金持ちで羨ましいよ」

とルケイドが溜息をつく。そのお陰でレイドル副部長に目を付けられていたから、良いことだけじゃ無いんだけど。

 金銭的に苦労していないのは間違いないな。


 会話をしたことでルケイドの固かった表情がだいぶ和らいだようだ。やっぱりコミュニケーションは必要だよね。


 俺もまだ読んでいない資料を読もうと思ったのだが、馬車の揺れが大きくなってそんな余裕は無くなった。


 国境線のよう目に見える境界線も引かれていなければ、鉄のフェンスなんて物も設置されていない。どこも大体ここから先は俺の領地だって勝手に言ってる感じらしい。


 実際現地の近くに来てみると、最初の感想として、山って広いよね~デカイよね~困ったね~が正直なところだ。

 こんなのたった八人で全部探索するのは不可能だと思うが。

 遭難者の探索のように、何百人規模かでお手々繋いで一気にやった方が良くないか?


 木材搬出用に作られた道を進むごとににガタガタ、ガタガタ…どんどん乗り心地が悪化していく。

 ライエルさんが用意してくれた馬車は、貯水池の依頼に行く時に乗った馬車より乗り心地が良いにも関わらずこれなのだ。

 やはり荒れた道には馬車は適応できないか。それは自動車でも同じだから仕方ないけど。


 猫じゃらしみたいな穂の付いた草にタンポポ、細長い葉で手を切りやすいことから命名されたテキリスゲなんて厄介な草も生え放題だ。

 こりゃ、この道は長いこと本当に馬車すら通って無いな。


 草枯らしの魔法なんてのがあれば便利なんだけど、即効性のある除草剤(魔法)は副作用も強そうだ。

 ライエルさんが居れば、風魔法で根刮ぎ草刈りをしてもらうのに。


 草刈りねぇ…骸骨さんの持ち物に何か使えそうな良い物は無いかな?


 アイテムボックスの中に鎌も入っていた筈だから、適当なやつを見繕って…『まっさお君』?

 赤いリンゴもこれで切れば青くなる…そんな説明文が付いてるんだけど、持ち手が二メートル近くもあって、どう見ても死神の持つやつだ。

 違うの探そう。


 装着するとバックルから連発可能な三日月型のカッターを発射するベルト『デビル刈ッターベルト』…ただし使用前に叫ぶ必要あり。誰がそんなの使うんだよ?


 赤い帯にアクセサリーとして小さな鎌が付いているお洒落な帽子の『ザ・デスブリンガーハット』。副作用として、これを被ると無性に麺類が食べたくなるらしい。


 流石に骸骨さんコレクションでも鎌?のバリエーションは少なかった。

 なお武器として使用した際の威力は『ザ・デスブリンガーハット』の小さな鎌が一番高いらしい。どう考えても納得が行かないのだが。


 馬車から降り、試しに『範囲指定(エリア デジグネイト)』と言う魔法を使ってから『まっさお君』を振ってみた。


 スパッ!


 その一振りの後、俺は暫く硬直、復帰後に「こりゃ、オーマイガー級だよ…」

と呟き唖然とした。


 だって指定範囲内(幅二メートル、距離二十メートル)の雑草も背の低い灌木も一瞬で刈り取られたんだから。

 これがあれば、草刈りの依頼なんて一瞬で終わってしまう。いや、刈り取った後の始末が残っているか…地面に落ちた草なんかは、燃やすか吹き飛ばすか回収するかだな。


 アイテムボックスと『範囲指定』の魔法のコラボで一気に回収出来たらラクだよな~と軽い気持ちで試したら、スポッと一瞬で回収出来てしまった。

 草に隠れていた昆虫達が慌てて隠れる場所を求めて右往左往の大パニックになったのは申し訳ない。


 その光景を見詰めつつ、今の魔法の使い方を思い出す。

 今まで大地変形のような二段階詠唱魔法では、発動段階で脳内に対象範囲を思い浮かべた後にキーワードで実行していた。


 だが実はその対象範囲の指定自体が別の魔法を使用していたと言うことになる。


 ひょっとして、魔法って小さな魔法を幾つか連続して実行し、最終的に実現したい事象を引き起こす手段なのでは?

 パソコンソフトもスマホのアプリも表計算ソフトで作るマクロも、一つのプログラムで出来ている訳ではない。

 機能ごとに細分化した複数のプログラムを利用することで、目的を達するように作るのだ。


 例えばゲームならキャラを移動させるプログラム、敵を出現させるプログラム、戦闘時のプログラム、各種イベントのプログラム…それらが山のように集まって一つのゲームが作られる。


 俺は魔法の授業を受けていないから、今までずっと骸骨さんの魔法スキルに頼りっきり。

 属性を持つ魔法は安全に扱えるような制御が出来ない。

 だけど魔法の構造を理解すれば、簡単で安全に魔法が使えるようになるかも。


 範囲指定の魔法がアイテムを使う際にも活用出来るのなら、他にも応用が出来るかも知れない。

 これは研究のやりがいがあるな、と一人で感動していると、

「クレストさん、ついでに道路も綺麗に出来ますか?」

と何事も無かったかのように御者台からアヤノさんが声を掛けてきた。

 どうやら彼女は俺が新しいロマンの扉を開いたことに気が付いていないようだ。


 既に俺の十八番となりつつある…と言うより、『大地変形アースメタモルフォシス』以外の魔法と言えば最近では『浄化(クリーンアップ)』と『殺菌(ステライズ)』の二つしか使った記憶が無い。

 得意の『大地変形』で草を刈った範囲を平坦に整地した。


 そうそう、トイレを設置した際に『大地変形』で穴を掘ったけど、丸い筒状に切り取った土はアイテムボックスと連動してそのまま収納したんだ。

 トイレをアイテムボックスに戻すと穴が開いたままになるから、その後に土を元の位置に戻して埋めてやったんだ。

 場所を指定してアイテムボックスから取り出すのは神経使うけど。


「これなら馬車で奥まで進めそうね。

 エマさんも居ることだし、出来るだけ歩く距離は減らしたいのよ」

と流石はパーティーのリーダーだと思える発言だ。


「クレたん、エマっちに良いとこ見せようと張り切って魔力切れで倒れないようにね」

と茶化すのは勿論カーラさんだ。

 魔力の残量はステータスを見ても表示されない。肉体的な疲れ具合とも違うので、実は判断が難しいのだ。


 そもそも魔力の発生自体が謎の生体メカニズムによって行われている。

 ライエルさんが極秘だよと言いながら見せてくれた資料には、かなりヤバイことが書かれていたのでここでは割愛するが、カーラさんの言うように運が悪いと魔力を消費し過ぎて気絶する。


◇(資料 魔法に関する考察 を参照)


 現在のところ、安全だとお勧めできる魔力回復用のポーションは製造されていない。

 だから魔法使いは何の魔法が連続何回使えるか、一回使えるようになるまでの回復時間はどれくらいかを考えながら行動する必要がある。


 そう言う意味で、この世界の魔法使いは意外と面倒くさいので純粋な魔法使いは成り手が少ないらしい。

 だからルケイドのように『特定の属性魔法が使える剣士』のようなスタイルが主流である。


 俺が冒険者登録した時に対戦した『黒羽の鷲』の魔法使いも、魔力切れ寸前になったら剣を使う予定だったそうだ。もっとも剣の腕前は素人レベルらしいが。


 オリビアさんは『火属性』と『水属性』の二つに適正があるので、魔法使いとしての能力を専門的に高めることを選択したそうだけど。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ