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スライム×3+骸骨×1≒人間です。(リメイク版)【第一部として完結】  作者: 遊豆兎
第6章 登山の前にキチンと準備を整えよう
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(閑話)タイタニウムパニック

 俺は鋼材店をやっているラフト・ラファクトだ。自慢じゃないが、恐らくリミエンでもトップクラスの筋肉量だろう。


 息子のグレックからあのビステルが男を連れて来ていると連絡が入り、まさかと思って店内に来て驚いたぜ。


「ビステルが男連れで来てると思えば『鋼拳』に『早贄』じゃねえか。

 何処かにカチコミ入れるつもりか?」


 これは面白い事が起きるに違いない。そう考えると思わず笑みが浮かんでしまう。


 ブリュナーは以前からリミエンで暮らしているのを知っていたが、まさか濃紺の髪と瞳の冒険者まで一緒とはな。


「俺もブリュナーさんも平和主義者ですよ」


 全くどのクチがそんなことを言うのやら、と、言うやつだ。


「衛兵隊長に喧嘩を売る奴がよく言うもんだな」


 正直言うと、よく言ってくれたと儂も思う。

 いけ好かないあの隊長を好きって奴はそうは居ないが、商売をやっている関係上、下手に権力に歯向かうわけにもいかんからな。

 そういった意味で、コイツには感謝状の一つでも渡してやりたい。


「高名なクレストさんがわざわざウチに来たってのは、何か特殊な物を作るつもりか?」

「イヤだなぁ、俺みたいな一般人を捕まえて、そんなお世辞は言わなくていいから」

「はぁ? 何を言ってんだか」


 どうやらブリュナーさんがコイツの手綱を握っているようだが、ブリュナーにも御する事が出来んらしい。

 しかしコイツ、本気で自分は一般人だと思っているのか?

 どこのギルドもコイツの動きを注視しているのだが。コイツの奇抜で柔軟な発想は恐らくリミエンを変えるに違いない。


「実は馬車を作ろうと思っているんだけど、フレームに鉄パイプを使う予定なんだ。

 騙されたと思って設計図を見てよ」


 マジックバッグから出した図面をテーブルに広げ、鉄パイプでフレームを作ることのメリットを性能面、製作面の双方から一つ一つあげていく。

 鍛冶師でも何かの職人でもないと言うのに、鉄のことを良く知っておる。褒めてやると年相応にはにかむのは好印象だ。


「コイルバネと油を使った衝撃吸収装置を付け、前輪は角度を変えられる機構を追加、車輪は四輪独立懸架にする」


 何かの呪文かと思うような単語が混じっているが、図面で該当する場所を示しているのでギリギリ理解が出来た。


 これをこの若さで思い付いたのか?

 キリアスの何処かから盗んで来たのではないか?

 そんな疑問が出てくるのは当然だろう。だが質問を繰り返していけば、盗んだ物ならいずれボロが出るだろう。


「この馬車本体、舵取り機構に衝撃吸収装置はお前が思い付いた物か?」

「そうだけど。

 衝撃吸収装置と軸受はビステルさんに作って貰うけど、この店で鉄パイプのフレームが作れるのなら市販用は作って貰おうかな」

「その図面通りで良けりゃ、パイプフレームぐらいは幾らでも作ってやるぞ」


 鉄パイプを円弧状に曲げるにはちょっとしたノウハウが必要だがな。力尽くでやるとパイプは変形してしまう。


 試作機と大量生産品の区別は付けてくるのか。で、コイツの言いようだと、試作機のフレームは鉄パイプではないと言うように聞こえたが。発注リストを見れば分かることか。


「後はボルグスさんとモルターズさんで組み立てるようにしてる。

 フレーム以外の鉄の部品も親方のところで全部作ってくれるなら有難いかな」


 先に二人には根回しは済みか。ブリュナーが傍に控えているだけに用意が良い。


 作ってくれと頼まれりゃあ作ってやるが。

 こんな馬車の作り方を根底から変えるようなものを、よくあの二人が了承したもんだな。

 新しい物好きなステラならまだ分かるが、保守派のボルグスまで引き込むとは大したヤツだ。

 

「勿論すぐに作れるとは思わないから、研究や試作に掛かる費用は俺が出すし」

「随分と気前が良いな」


 屋敷は訳あり物件を安く買った、と言うかレイドルの野郎が処分したくて仕組んだのだろうが、子供を二人も保護して育て始めているってことだ。

 資金は十分あると見て良いだろう。

 キリアスから脱出してきたらしいから、逃げる際に上手く稼いできたんだろう。それも一つの才能と運だからな。


 実際に作るとなった際に問題は無いか、ジックリと図面を眺めてみる。

 奇抜な形状の部品や極端に長細い部品の有無、それと特に荷重の掛かる場所のチェックはしてあるかを確認してみた。

 この中で一番気になるのは舵取り装置のギヤと自在継手だな。

 特にギヤは下手すりゃ簡単に歯が折れる。どれだけの荷重が掛かるか分からん以上、最初はオーバースペックとも言える物になるだろう。


「オマエの武力とクチの悪さは俺達にも届いているが、こんな物を考えつくなんて意外と頭も良いんだな。

 それにしても、思っていたより弱そうな見た目じゃねえか。その(なり)で二つ名持ちってことは、随分と良いスキルに恵まれてんだな」


 雑談ついでにそんな軽口を叩いてみたが、怒ることも無い。噂の中にはやたら怒りっぽいとか暴れん坊だと言った物も流れているが、これはコイツを貶めようとした奴が流した物らしい。


 ケルンから魔犬を蹴りだけで屠ったと聞いているが、この体で格闘のスキル持ちか。

 筋力強化もセットで持っているらしいが、あれは瞬間的にしか使えんし、総合的に見てそんなに強いとは考えにくいのだが。

 大銀貨級パーティーを素手で倒したそうだし、恐らく何か隠し球を持っているんだろう。


「レイドルの奴に手合わせを頼まれなかったか?」

「まさかあの人、誰彼構わずそんなことを?」


 レイドルの野郎もコイツに興味を持ったか。

 あの野郎は武器スキルを持っていないからな。

 あんなガチムキの副部長なんて絶対商業ギルドの人選ミスだぜ。だがあそこのトップは今でも誰か分からんからな。

 何かの基準があるのなら明確にしてもらいたい。まさか好き嫌いで決めてはいないだろう。


 だが手合わせ出来るのなら、あの鉄面皮野郎をマジで殴れるチャンスだぜ。思いっ切り殴ってこい!

 治癒魔法の使えるヤツが居れば、致命傷さえ入らなきゃどうにかなることだし。


 クレストと話した感じ、悪い奴では無いと判断できた。ここで自己紹介だ。名前を教える価値の無い奴も多いからな。どうしても必要な奴にしか名前を教えんことにしておる。


 それでは試作機の材料を見せてもらおうか。


「持ってく材料は決まったか?」

「発注書に買いたわよ。受け取りな」


 ビステルがテーブルに置いた発注書を取り、

形状と数は図面から拾った物だと理解が出来るように書かれていた。そう言う細かなところにビステルは気が利く。

 そして材質だが、その文字を見て叫んでしまった。


「タイタニウムだとっ! 本気か?

 前にオマエに言われて継手部品は作ってあるが、馬車になんて無駄な金を掛けるんだ」


 タイタニウムだけで一台大銀貨百五十枚だぞ。どこのお大臣でも、そんな無駄はせんぞ。


「言ったでしょ、この店で鉄パイプのフレームが作れるのなら市販用は作って貰おうって」


 あぁ、聞いたさ。

 だから試作機は鉄パイプじゃ無い、それなら鋼にしてサイズを落として軽くするかと思うだろうが。

 それが選りに選ってタイタニウム…信じられん。


「無駄じゃ無いですよ。

 馬車は軽くなるほど馬にも負担が掛からないでしょ。

 その分早く走れる訳だから、遠距離になるほどその差は出る筈です」


 どこの世界に野宿前提で移動距離を決める馬鹿が居るんだ?

 緊急の連絡を入れる早馬ぐらいなもんだぞ。あれは戦時で無ければ交代制らしく、昼夜走り通す筈。


「毎晩野宿するつもりか?」

「この馬車はシートを動かすと大人二人が寝られるスペースが取れます…」


 どうやらこの馬車は常識と言うものを捨て去った奴しか乗れんようだ。

 だが、そこに目を瞑れば細かいことまで丁寧に考えてある。

 誰彼構わず暴言を吐いて暴れる奴だと噂が流れていたのは完全にデマだな。


「親方様は大変思慮深いですし、無闇に暴れるような事をなさるお方ではありませんよ。

 衛兵隊長が余程失礼な態度をとられたか、意にそぐわない事を仰ったのだと思います」

とフォローをするのは、あのブリュナーだ。


 恐らくリミエンでトップテンに入る程の実力者だ。今でも眼光は些かも衰えておらず、睨まれれば俺でもガクブル確実だ。

 投げナイフで特殊部隊を貼り付けにするなんて、どれだけの鬼人だ。


 そんな男に信頼されているのだ。儂もコイツを信じん訳には行かんだろう。

 だが、それと商売の話は別だ。キッチリ売上には貢献してもらうぞ。

 喋りながら計算できるスキルは重宝しておる。

 試作機二台のフレーム材料に大銀貨三百枚だと…改めて目眩が…。


「一台で百五十枚か。それに内装、外装、三人の工賃でどれぐらい行くかな?」


 クレストさん、何を呑気に構えているんだ?


「試作機一台で一千五百万前後ってところじゃないの?

 クレちゃんはお金持ちだね」


 こうなりゃ儂もヤケだ。クレストさんの懐は考えないことに決めたのだ。

 普通の馬車なら三百から高くても五百枚で購入可能だ。

 だが伯爵クラスだと二千万枚前後なので、それに比べりゃ高級馬車一台分は安い。お得じゃないか!


 頭がおかしくなってくる。


 馬車一台に一千五百万枚とか二千万枚とか…アホなのか?


 こう言う時こそ、ドンドンシンク! フィール!


「ところで親方様、馬車の運転は?」

「やったことない! 気楽な一人旅をするなら、御者の練習しなきゃ」


 そう言う問題か? もっと危機感持てよ。


「一人旅ってアンタねぇ。それがどれだけ危ないことか知ってるの?」

「左様で御座います。流石に一人旅は私も認められませんね」


 信じられんが、ビステルの方がまだマトモじゃねえかよ。


「けど、ケルンさんは一人で行商してるよ」


 そりゃ付近の農村なんかの道中ぐらいなら領主様が定期的に掃除してるって。そうでなけりゃ、農家は野菜を売りにこれねえだろ。

 頭は良いが、常識の欠けてる男だよ。世話を焼かなきゃって思われてんだろう。


「親方様でも、隣町まで行くのでも二名は付けて貰わないといけません」

「えー、馬車の中じゃ二人しか寝れないよ」


 馬車の中で寝泊まりするつもりだと?

 確かに雨の時とかはテントの設営も面倒だと思うが。それでも仕方ないだろうが…。


 余程テント張りがイヤと見える。

 馬車の屋根、右側の壁をベッド代わりにする案を考えよって。流石に皆が呆れておる。

 ビステルは客室を更に延長させたが、物理的に考えるとタイタニウム製フレームでかなり軽量化されておる。普通の馬車とそう重量は変わらんかもな。

 これが軍の奴らに知れたら絶対に欲しがるぞ。

 ウチにタイタニウムの注文が来るなら儂は一向に構わんがな。寧ろ宣伝してやりたいぞ。


「残念だけど、カラバッサは今のところ軍にも民間にも売るつもりは無いよ」


 それは従来の馬車との性能の差からだな?

 それなら販売価格を吊り上げてやれ。本気で欲しがる奴なら幾らでも出すだろう。


 ブリュナーは鉄パイプの機体をボルグスとモルターズの協業で作らせる気か。ステラはカスタムが好きだから、それは良いかもな。

 

 それにしても、外観はお洒落な客車から四角い荷馬車に変わったな。

 それで御者台を雨風と寒さ対策で壁で囲うか。透明な新素材まで利用するとなると、更に金は掛かるが…気にすまい。

 手綱はレバー操作で再現か。実現できるなら面白い。


 後方確認用の鏡に室内の魔道照明は分かるが、遠距離まで照らせる照明器具だと?

 今のところビステルしか作れんのなら、カラバッサ専用アイテムと言って良いだろう。


 ここまで考えつくのなら、この図面は盗んで来たものではないと認めざるを得ん。

 いやはや、若いのに大したものだ。

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