(閑話)とある空間で
この世界にはどこにも属さない場所がある。
どこまでも続く真っ白な空間は、地上での出来事を観察するには最適なのかも知れないし、逆に最悪なのかも知れない。
だが少なくともここに暮らす者達はそんな細かなことを考えることも無い。
「ほお、こんな設定を使うとは中々面白い企画を考えたものだな。よし、採用するか。
最近マンネリ化が進んで飽きていたんだが」
そう独り言を呟くのは白いトーガのような服を纏う一人の男性だ。
彼の前には同じような服装の女性が緊張の面持ちで立っていたのだが、彼の言葉を聞いてホッとした様子だ。
「あの星がどう変わっていくのか、幾つかのパターンを用意して運営と予想屋に連絡してくれ。
私の予想は、そうだな、最終的にはコイツの勝ちで、五世紀の安定確保だ。それに五口掛けるとしよう」
男性の指差す先を確認し、女性がメモを取る。
「はい、承知致しました。そのように手配致しておきますね。では失礼致します」
そう言って男性の前から女性が立ち去った。
「何をそんなに慌てているのか。人間の寿命なんてたかだか八十年程しかないではないか。
折角六番町の虎屋の大判焼きを手に入れたと言うのに。
まぁ良い、一人で食べるか」
男性が空間から薄茶色の紙袋を取り出して大判焼きを一つ取り出したところで、先程の女性が音も無く現れた。
「局長、ズルいです!」
と言うと、綺麗な手を無造作に紙袋に突っ込んで大判焼きを二つ取り出した。
「おいコラ! 二つはダメだろ!」
両手に大判焼きを持って走り出した女性が通ったドアの脇には『異世界転移管理局』と書かれた看板が空間に貼り付けてあった。
「まあ、この企画に免じて今回は許してやるか。
二百年以上も前に死んだ魔王とスライムの組み合わせだしな。
これは予想外に荒れるか、それとも…フッ、楽しみはこれからか。
そう言えば、あそこには対象者が結構居たような気がするが…まぁ調べるのも面倒だし、出会えるかどうかは別の神のみぞ知るってヤツだからな。
さて、もう一つの世界はどうなっているかチェックしてみるか…おや、いつの間にか滅びてしまったか。
やはりアレを進化させすぎるのは難しいと言うことだな。
これはこれで良い教訓になったと報告するか」
今日も管理局長は平常運転だと周りの局員は安堵したとかしないとか。