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スライム×3+骸骨×1≒人間です。(リメイク版)【第一部として完結】  作者: 遊豆兎
第6章 登山の前にキチンと準備を整えよう
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(閑話)男でも女でもなく不思議な生き物達

 ワタ…俺は五番通りに雑貨店を出しているシオン。

 ここは両親が残してくれた住宅兼店舗で、子供の頃から色々な物を作るのが大好きでソレがそのまま仕事になっちゃった訳だ。


 初めの頃は楽しくやってたけど、最近スランプになっていたんだ。

 スランプと言っても出来が悪い訳じゃ無い。自分が満足出来ていないだけなんだ。


 だけどね、自分が満足出来ていない品物なんて売りたいとも思えないんだよ。

 そんなある日のこと、いつものように新商品のことを考えながら机に向かっていると突然頭が激痛を訴え始めて意識を失ったんだ。


 そして目が覚めた時、私はここではない世界の記憶を感じ取ったの。それはきっと吟遊詩人の歌う異世界の記憶だと思ったわ。


 でもそれはとても断片的な記憶なの。ひょっとしたら私は転生者なの?

 分からない。過去にはコンラッド王国にも何人か出現したと言われている転生者は、強力な魔法や能力で魔物と戦ったと伝えられているわ。


 でも私には何もそんな力を感じない。

 肉体は滅んでも魂は消えず、延々と復活を続けるって言われているけど、ひょっとしたら前の人生の記憶が消えずに一部だけ残っていたのかも。


 それがさっきの頭痛のせいで呼び覚まされた…きっとそうね。

 世界には遥か過去の記憶を持って生まれた人が居たって記録も残っているんだし。でも私の記憶にあるのは…やたら不格好な犬か猫か鳥か分からない不思議な生き物達なのよ。


 私の前世って一体…残念ながらその記憶の中では自分の姿を見ることは出来ないようね。

 でもこの世界の魔物と違って全然攻撃的な感じはしないから、余程平和な世界に生きていたようね。


 それからワタ…俺はその生き物達をモチーフにした商品を作ろうと思い立ったの。

 物作りは得意だから、イメージさえ固まればそれ程手間を掛けずに犬のような、果物のような姿のオブジェを作りあげた。


 木の肌のままだと可愛くないので、オレンジ色に塗装して、丸いお目々を書いてあげるとベリーキュート!

 うん、コレがワタ…俺の求めていた新商品だわ。


 それから夢中で不思議な生き物達の姿をスケッチしていったんだ。看板も変えたし、品揃えも一新して、さあ新規オープンっ!


 …。


 それから一週間。誰も来ないわね。おかしいわ。こんな可愛らしい看板にしたのにどうして?

 まさか時代がワタ…俺に追い付いていないのかな? それともコレが最先端を行く者の孤独ってやつかしら?


 このままじゃ今月の収入がゼロになってしまうわ。一体どうすれば…。

 客の居ない店内でカウンターに座り頭の後ろで手を組んで考えていると、店のドアが開いたの。

 お客様かな?


「こんにちは」

と挨拶してくれたけど、何かの集金の可能性もあるから、

「…こんにちは。いらっしゃいませ?」

と挨拶を返したわ。


「何故に疑問形で出迎える?」

と不思議そうに聞かれて、考えてみる。お客様が最近来てなかったから、

「今テンション低いから」

と正直に答えると、

「いや、アンタの精神状態は知らないし」

と笑われた。


 照明を付けていないけど、まぁ良いか。明かり窓は開けているから、真っ暗な訳じゃないし。


 何か買ってくれたらラッキー程度に思っていよう。商品棚に置いた不思議な生き物達に興味があるのか、黒髪の男性は色々な商品を興味深そうに手に取って行くわ。


 そう言えば、最近何かと噂で濃紺の髪の冒険者が居るって聞いてるわ。素手が強いが喧嘩っ早い暴れ者とか、かなり口が悪いとか、女癖が悪いとか。確かクレストって名前だったかな。

 この辺じゃ珍しい色だから間違い無いと思うけど、噂とは違うみたいね。全然強そうに見えないし、口調も普通よね。女癖は今のところは分からないわ。


 彼が手に取ったのは、最高傑作の一つ、バリバリ鳥。やたら太ったヒヨコにティアラを被せ、お腹には着脱可能な太めのベルトを巻いているの。

 その仕掛けに気が付いたようで、ベルトを外して付けてと具合を確認してるみたい。買ってくれるのかしら?


「この玩具、アンタが作ったのか?」

と、バリバリ鳥をワ…俺に見せる。そうに決まってるでしょ? 何か文句あるのかしら?

 商品に関する前向きな意見なら聞いてあげても良いわよ、なんて偉そうに言う訳には行かないわね。


「…売れると思ったんだ。でもサッパリ」

と仕方なくお手上げのポーズ。買うなら早く買って欲しいわ。次の商品のアイデアを考えないといけないんだから。


「腕は良いのにね。

 そうだ、一つ商品を作ってくれないかな?」

と男性が言う。どうしようかしら。

 ウチでは注文生産なんてしてないんだけど。


「何? 可愛くない物は作らないよ」


 でもこの条件を飲んでくれるのなら、作ってあげても構わないかしら。すると男性は少し考えて、

「可愛いくするのは後でも出来るよ。

 別パーツで予め作っておいて、それを貼り付けるのもありだよね?」

と答えたわ。


 なるほどね、確かにそう言う遣り方もあるかしら。暫く腕を組んで目を閉じて考えてみる。悪くはないのかな。

 でも、もう少し押してみようかしらね。首を横に振って、

「それは無い。ワンポイントでも良いから、何か入れておきたい」

と言ってみた。勿論ダメなら譲歩しようと考えてのことよ。そこまで傲慢なおん…男じゃないからね。


「じゃあ、こんなキャラクターを入れてくれ」

と言うと、勝手に鉄板に曲線を描き始めたのよね。そして出来たのはとてもシンプルなイラストで、ひょっとしたら鳥?のキャラクターだった。


「基本はこんな感じ。

 バリエーションに帽子を被らせるとか、片眼がねを掛けさせるとかしても」

と他にも二体の鳥?のイラストを描いていく。私は思わず立ち上がるとその男性の手をとり、

「天才かっ!」

と叫んだわ。


 はしたないわね、いきなり男性の手を取るなんて。彼も突然のことに驚いていた、と言うか何か迷っているみたいだけど。

 視線はこの分厚い前掛けに向けられているのは何故かしら?

 体形を誤魔化す為に丁度良いのよ。コレを付けてたら女には見えないみたいだからね。


 でも今はそんなことは気にしている場合じゃないわ。


「それで何を作れば良い? 今なら領主館の合い鍵でも作れそうな気分だ」

と本気を見せる。

 私のスキルに合鍵を作るような能力は無いけど、気分の乗ってる今なら何でもやれそうなのよね。


「試させて貰うようで悪いが、カードホルダーを頼む」

「なんだよ、それ?」


 聞いたことの無い商品名に戸惑いを覚えたわ。合鍵を頼まれるよりはマシだけど。


 鳥?を書いたのとは別の鉄板にそのカードホルダーとやらの絵を書いていくけど、三層構造の簡単なヤツだった。カードと言えばギルドカードのことね。どうやらギルドカードをそれに入れるみたいだけど、

「それにギルドカードを入れてどうするの?」

とどんな意味があるのか聞いてみる


「革紐を通して首から提げるか、胸ポケットに挟んで止めれば、相手が誰か一目で分かるだろ」


 それってつまり、

「常に自分のカードを人に見せる訳?

 ちょっと恥ずかしいかな」

と抵抗を示す。まあ私が使わなければ良いだけの話だけどね。


「そのうち、ギルドの職員は皆これを付けるようになるから」


 確かにギルドに行けば名前を知らない職員さんばかりで、一度聞いても暫く会ってなければすぐに忘れるし。初対面だとなんて呼べば良いのか分からないし。 


「売るのはギルドだけなの?」

「冒険者にも持たせたい。

 だって革袋に入れて首から提げてるらしいし。汚いよね」


 なるほど、この人は綺麗好きなのね。でも冒険者がそんなの首から提げていると行動の邪魔になるわよ。

 男の人なら服の中に入れてても良さそうだけど、女性だと胸が邪魔するからそれは無理よ。

 でもまぁ良いわ、手間はそれ程でも無いし、材料もある。それに作ってる間は暇してるよね?


「一つは作ってあげるよ。

 その代わり、その鳥のイラストの他にも教えてくれない?」

「お安い御用だ。

 あ、俺はクレスト。冒険者だ。よろしくね」

「やっぱりか。そうだと思った。

 …俺はシオン。よろしく」


 そう悪い人には見えないんだけど、念の為に男装は続けておこうかしらね。

 本当は伸ばしたいけど、手入れが面倒で髪は短く切ってある。前掛けで胸も潰れてるけど、これでも脱いだらボンキュッボンな体なの。


 奥の工房に入り、材料と工具を揃えるわ。

 カードホルダー自体はとても簡単。私のスキル『自動加工』は作りたい形さえ頭に入っていれば手が勝手に動いてくれる。

 金属加工は時間が掛かるけど、木材ならあっという間ね。


 でもこんな簡単な物で私を試すとは、一体どう言う意味かしら?

 どんな材料を使うかってことか、それとも単に加工の腕か、それともあの鳥?の表現方法か。


 材料には、嘘か本当か分からないけど百年も生きた木の魔物から取れた木材を用意したから問題無し。

 これまた嘘か本当か分からないけど、この木材で作られた人形には魂が宿るなんて噂されているのよね。カードホルダー程度ならそんなことはある訳ないし。


 スムーズにカードが出し入れ出来るかが、この商品の肝になるかしら。

 そこは丁寧に仕上げて確認しなきゃね。

 あの鳥?の表現方法は作りながら考えてみるしかないか。


 板から三枚切り出して、それぞれの形にカット。

 一番後ろの板に、さっき書いて貰った鳥?を書き、彫刻刀で一気に彫る。でも彫ったままだと全然目立たないのよね。塗料で埋めるのも手だけど、それよりカードの滑り止めも兼ねて、接着剤とゴムを混ぜた樹脂を流し込んでみよう。

 木目をバックに、シンプルながら茶色いラインで描かれた鳥?がプリティね。


 それから接着剤で三枚の板をくっ付けて万力に挟んで割れない程度に圧縮。ヤスリを掛けて綺麗に整え、私のカードを入れてみた。

 流石私ね。サイズはピッタリだし、激しく振ってもカードが滑り出ることも無いわ。


 でもこれだとお金の出し入れの時にカードが取り出しにくいわ。だから切り欠きを入れてもう一回。今度は悪く無いわ。

 でもホルダーから出さずに本人認証出来ないと不便ね。右下に切り欠きを追加して、本人確認も問題ないわ。これで完成よ。

 さあ、早速お披露目ね。


「カードには本人認証で右下を触ることがあるので、そこは切り欠いたよ」

と私のカードを入れて、カードの右下を触れて本人確認をしてみせる。カードの性別表示は非表示にしておいた。


「そうだったね。忘れてたよ」

「それとクレストさんの仕様だと、一度カードを入れると出すのが難しいので、裏の板には切り欠きを入れといた」


と言って裏面の左右の端にUの字型の切り欠きを見せる。

 それからクレストが自分のカードで確かめて…やはり銀貨級ですね。


「良い腕してるよ、大したもんだ」

「ありがとうございます。

 これなら板自体を可愛い形にしても良いし、前面のフレームに小さなキャラクターを掘っても良いね」


 私のアレンジ案も幾つか出来ているわ。

 クレストさんは普通の商品にプラスアルファとして、別の板に作っておいたキャラクターを後から通常の商品に貼って価値を上げようとしてるのよね。それも良い案ね。

 お客様に好きなキャラクターを選んで貰うのもアリだと思うし。


 確かに可愛いキャラクターを全てのお客様が求めている訳じゃ無い。

 むしろキャラクターなんていらないと言うお客様の方が多いだろうし、その相手をしないと生活が出来ないもの。

 

 でもあの不思議な生き物達を知り、普通の商品を作っても私は満足出来ない体になったのよね。

 シンプルなカードホルダーでも隅に仔猫のイラストを追加するだけで商品の印象は随分と変わる。これなら客商売を続けながら、私の好奇心も満足するだろう。


 首に掛ける紐は丈夫さも大事だけど、太すぎたり目立ち過ぎては行けない。人によって好みもあるだろうし。

 後で何種類か用意しておこうかしら。

 見た目はシンプルながら丈夫さに定評のある大暴れ牛の革なんてどうかしら。長さが調整出来るように加工を追加しておけば、結構売れると思うわ。


 クレストさんのホルダーに使った百年トレントの木材は、特に表明処理をしなくても劣化することは無い。柔らかな印象の木目が良いアクセントになっているけど、そんな高級品だと気が付いてるのかしらね?


 それより待ち時間に書いて貰ったイラストを見せてもらわなきゃ!

 彼の書いた可愛らしい双子や意地悪そうな犬、麦わら帽子の面白い顔のおじさんなど個性溢れるキャラクター達を見せられて、

「クレストさん、弟子にしてください」

と言ってしまったの。


「原案は出したけど、これらのキャラは形を変えたりアレンジして、もっとコンラッドの人のハートを掴めるように改良しなきゃダメだ。

 それはこれからのシオンの仕事だ」

と言われて、私は甘えすぎたと悟ったわ。


「…分かりました。

 『鋼拳(スティールナックル)の』クレストさんに弟子入りしようなんて、甘えすぎました」

と謝ると、逆に御礼を言われて商業ギルドにカードホルダーを売り込みに行くようにと言われたの。


 その時は売れるかどうか、半信半疑だったけど、何種類か本体のサンプルとイラストのサンプルを書いて持って行ったら意外にもギルド職員全員分の発注になったわ。

 今から急いで作らないと!

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