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スライム×3+骸骨×1≒人間です。(リメイク版)【第一部として完結】  作者: 遊豆兎
第6章 登山の前にキチンと準備を整えよう
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第100話 ある変化とカードの謎

 パンケーキを焼いた後でバルドーさんとホクドウで軽く手合わせした後、防具店で某肉体派俳優が映画で着ていた革ジャンの異世界版レプリカを受け取った。


 その直後に見たセリカさんの新しい鎧は破壊力抜群だった。ついつい開いた胸元から見える谷間に視線をホールドしてしまった。

 何故かこの防具店では頭をぶつけたり、セリカさんのお胸様に翻弄されたり。

 仕方なく彼女用の追加パーツを注文してその場から逃げたのだ。


 次に向かったのはマーカス服飾店。ポケットが簡単に開閉出来るように改造したストレージベストを受け取る為だ。


 その目的の店から出て来たのは何かの職人さんだろう。服にトンカチ等を貼り付けて歩いていた…いや、そうでは無くストレージベストのアレンジバージョンを着ていたようだ。

 ポケットではなく工具を差せるように工具ホルダーに変更したらしい。見ようによっては武器を沢山服に括り付けた危ない人に見えなくはないが。


 店に入ると奥さんが笑顔で迎えてくれた。


「クレストさん、いらっしゃいませ。受け取りですね。すぐにお持ちします」

と言うと奥に向かって声を掛けた。



「ストレージベストの売れ行きはどう?」

「大工さん達によく売れていますよ。さっきの方みたいに、工具ホルダーと幾つかのポケットの組み合わせると便利らしいです。

 ポケットには釘を分けて入れるらしいですね。

 それと、ワンタッチオープンのポケットも問い合わせがチラホラ」


 そのうち、この世界に試験管を何本も服に装着した科学者が現れるかも知れないね。


 店員さんが俺専用に作ったカスタムベストを大事そうに持ってくる。割れ物じゃないんだからそんなに慎重にならなくても良いのに。

 それとも俺の噂のせいでビビってるのかな?


 受け取ったベストを羽織り、カチッと留まるバックルの付いたベルトで締める。差し込みバックル(サイドリリースバックル)が完成したみたいだ。


「残念ですが、そのバックルはまだ試作の段階です。

 バネが中々思うような力加減にならないそうで、まだそのベストに付けた分しか出来ていないんですよ。

 市販はだいぶ先の話ですって」


 あら、残念。これが付いたリュックとか欲しかったのに。プラスチックが無いから雄側、雌側共に金属製だからね。適度な力加減で着脱出来るように調整するのが難しいのかも。

 ビステルさんなら簡単に作ってくれるだろうけど、間違いなく『こんな簡単なのはアタイに作らせんじゃねえ』って言われるだろうな。


 やっぱりプラスチックが欲しいよ。実際にはABS樹脂が理想なんだけど、作るには石油が必要だ。

 でも、分子式だけで考えると炭素と水素だけで出来ているから、錬金術師なら作れるんじゃないのかな?

 それともそう言う知識が無いと、錬金術ってスキルがあっても無理なのかも。


 もしこの世界に石油があったとしても、極力使わせたくはない。エコなリサイクル社会を構築出来ていて、水も空気も美味しいのにわざわざ汚す必要は無い。

 石炭が一部では利用されているらしいので気になるけど、採掘量もそれ程多くないそうだし。

 でも、薪不足が進めば石炭の増産は必至だろう。綺麗な世界を守る為にも、カンファー山を元通りに戻さないといけないね。


 改造したポケットは、蓋を持ち上げるとバネの力で自動で開く。マチの部分は蛇腹になっているので収納量も多いが、パンパンに詰めて黄色く塗ったら世界一有名な某ロボットの腰に付いてる四角の箱みたいになるかも。

 スライムの出入り用に蓋との隙間が空いているのもポイントが高い。


 素早く取り出せるのは良いが、閉じる時はポケットを押して元の位置に戻してから蓋を閉じる必要があるので要改良だな。でも良い案が浮かばないので暫くはこのまま着続けよう。

 ポケットを押し込むと連動して蓋が閉じるようなギミックも作れないことは無いだろうが、先に傘とガマ口を完成させてから頼もう。


「良い感じだね」

と納得した風を装い、店員さんに笑顔を見せるとあからさまにホッとした様子を見せる。

 だから、俺はそんな怖い人じゃ無いから安心してよね。


 マーカス夫妻はポケットの形も何種類かパターンを用意し、お客様に選んで貰うようにしたらしい。

 子供達だとお菓子や拾った木の実等を入れるのに使いそうだが、冒険者は何を入れるのだろう? 乾燥した携帯食か?


 ガマ口や傘は現在鋭意製作中とのことで、先日商業ギルドの職員が訪れ、開発で困っているなら協力しますと申し出たきたそうだ。どうやらこちらにもレイドル副部長が動いたようだな。

 恐らく輸出商品に取り入れるつもりなのだろう。それならブランド化し、価値を上げて守らないといけないね。すぐに模倣品が横行するだろうから。


 革ジャンの上からストレージベストを羽織ってもそれ程おかしくないように俺のセンスでは思えたので、そのまま家に戻ることにしよう。


 お裾分けのパンケーキ三枚重ねを肩掛け鞄経由で出してカウンターに乗せ、

「これウチで焼いたんだ。皆で食べて」

とウィンクする。

 焼き立てで仕舞ったから甘い香りがふわっと漂う。

 奥さんと店員さんのノドがゴクリと唾を飲み込んだ。良い反応だね。


 なおルシエン防具店で脱いだ服は肩掛け鞄経由でアイテムボックスにしまってある。

 あるのだが、さっきパンケーキを出した時に肩掛け鞄にかなり違和感があった。今まで見えていた鞄の底が見えなくなっていたのだ。

 おかしい。これだとまるで、この鞄がマジックバッグみたいじゃないか。何度もアイテムボックスの入り口として利用していたから、鞄本人?が俺はマジックバッグだぜって勘違いしたのかな?


 まさかそんなことは無いだろうが、ひょっとしたら俺ってマジックバッグを作る事が出来ちゃうとか…?

 現在の技術じゃ作れないマジックアイテムだと聞いていたけど、そうじゃ無くてアイテムボックスを使える人にしか作れないってのが正解だったのかも。


 それなら勇者召喚を始めた理由がマジックバッグ製造のためって可能性も考えられなくは無いが、勇者が先かマジックバッグが先かって言う卵と鶏の話になりそうだな。

 解答の望めない可能性の話をしても仕方ない。この事は墓場まで持って行こうと心に誓うが、もし必要になれば解禁しよう。


 早く食べたそうにしている二人が可哀想なので、じゃあねと告げて店を出た。

 そう言えば、ホクドウを握る時に填めるグローブを買い忘れていた。確か武器店にも置いてあったので買って帰ろう。


 かなり薄れた記憶を頼りに二軒の武器店を探す。看板に『ファロス武器店』と書かれている店がみえたので迂回してもう一軒の店に向かおうとすると、運悪くリミエンの中で二番目に会いたくない人と鉢合わせしてしまった。


「まぁ、クレスト様! 会いに来て下さったのですね!」

「そのポジティブシンキングはどっから来るのか知りたいよ。回れ右してもう一軒のお店に行こうとしてたの、分かったよね?」

「私に反応したように見えましたわ」


 この天然ダイナマイトな話し方は、ルケイドの兄のガールフレンドだったリイナさんだ。


「それって間違いなく拒絶反応だから」

「イヤよイヤよも好きのうちと言いますわ」

「だから、なんでも自分に都合良く解釈するその考え方を辞めてもらえませんか。

 失礼します」


 良いとこのお嬢さんにありがちな、自己中心的お花畑満開な馬鹿に育ったのだろう。少し話すだけでイラッとする。

 ディアーズの野郎、お金のためとは言え良くこんなのと付き合えてたな。感心するよ。俺には無い包容力ってやつがめちゃくちゃあったのかも。


「たかだか銀貨級程度で偉そうなクチを」


 リイナさんの後ろに控えていた目付きの悪い黒服の男がそう言って俺の前に出る。

 さすがはファロス家の令嬢の護衛、高そうな剣を提げている。


「あん? 間違ったことは言ってないけど何か?

 看板を見てこの場を去ろうとしていたのは分かったでしょ?」

「市民権も持たないクソが、お嬢様に偉そうにクチごたえするな!」


 全くもって意味不明なんですけど。

 余所から来た人は一定期間在住しないと市民権は購入出来ないけど、まぁそれは被選挙権みたいなもんも同じだから多目に見るとしても、定価の十倍出せばそのルールを無視して買えちゃうんだよね。

 それを買ったら偉いってどう言う理屈よ?


「はぁ…なにが市民権だよ。

 ただの金持ち優遇政策を有り難がるなんて馬鹿じゃねえ?

 俺にはあんなもんの価値が分からないから買ってないだけだ」

「市民権の価値も分からんクソか。やはり噂の悪行は本当のようだな」

「ダメだこりゃ。ファロス家でマトモなのはビリーだけか。

以前ウチから抗議文を出して、当主には俺に口出ししないと文書を貰ってるのに、アンタがコレじゃ全く意味無いんですけど。当主に逆らってんの分かってる?」

「お前みたいなヤツに当主様がそのようなことをするわけ無いだろ。嘘もロクに付けんクソ馬鹿だな」


 ブリュナーさん曰く、ファロス武器店は先代に雇われた店員さん達で保っているようなものだとか。当主は性格は悪くないが商売人としては特出した才能がある訳では無いそうだ。

 また、人を見る目は曇っているとも言っていたから、こんな護衛をリイナに付けている訳か。


「じゃあ聞くけど、俺が市民権を買ってたらアンタは俺をクソって言わない訳だよね?

 それなら今から買いに行こうか。お金なら第四級市民権を十回買ってもお釣りが来るだけ持ってるし。

 それだけでクソじゃ無くなるんだろ?

 でも、それっておかしいよね。俺自身の価値はイチミリも変わっていないのに、お金を出して市民権を買うだけでアンタの評価が変わるって訳だ。アンタは何を見て人を判断してるのかな?」

「小賢しい野郎だな。大銀貨級冒険者の俺を舐めるな」

「プッ!」


 クチで勝てなければランクで勝負か。思わず吹き出してしまったよ。気が向かないが、アレを使うか。


「なら…はぁ、金貨級商売人の俺を舐めるな」


 マジックバッグ化した肩掛け鞄から金色に輝く商業ギルド発行のギルドカードを取り出し、護衛の前に突き付けてやった。


「天秤に剣のマークでしかもトリプルスターだとっ! 嘘だろ…」


 えっ? 名前の横にあるマークって、皆同じ絵柄じゃないの? そう言えばマークの無い人も居るから意味があるのかも。

 天秤に剣…テミスと言ったか、裁判関係の像になってた女神に由来するのかな?

 トリプルスターってのはこの、カードの右上に書いてある星三個のことだけど、これも何か意味あるの?

 トレカのレア度ぐらいに思ってたけど。


 でも、このアホの反応を見るとかなり重要な意味があるような気がする。貰ったときにレイドル副部長から一切説明は無かったけど。


「リイナお嬢様、相手が悪いです。怒らせる前に帰りますよ」

「アホか。アレだけ言っといて怒ってないと思ってんの?

 リイナさんには呆れただけで、俺を怒らせたのはお前だぞ。クビだな」

「そんなっ! お許しください!」


 はい? なんでお許しくださいなの?

 俺にファロス家の人事権なんて無いんで意味不明!


「何を言ってんだよ。俺はお前から見たらクソ扱いなんだから、そんなの聞く訳が無いだろ。

 飼い主さん、コイツは目障りなんで俺の目に入らないように処分してよ」


 いつの間にかトリプルスターのマークが金色に輝き始めていた。このカードって一体どうなってんだよ。価値も仕組みも全く訳が分からない。

 と言うか、渡した時にキチンと説明して欲しかったょ…あ、使う気は無いって俺が言ったから説明を省いたとか?


「そんな! 処分なんて私には無理…でもどうしてもヤレと言われるのなら仕方ないです…」


 リイナさんが意味不明なことを言っていた護衛の腰からナイフを外し…泣きそうな顔で突き付ける。


「ちょっと待って!

 なんで刺そうとしてんだよ?」

「貴方が強制執行権を発動して処分しろと仰ったじゃないですか」

「はぁ? アナタもアホですか?!

 処分って言っても色々あるでしょ。オタクじゃ何か間違った使用人を殺してんの?

 そんなことないでしょ。当主にどんな処分をするか聞いてよ。はい、早く行くっ!」


 もうこの子ヤダ!

 親も親だよ、しっかり教育しとけよ。娘がこんなんだと親の程度も知れてるけどさ。

 ビリーはコミュ障だったけど、性格と頭はマトモだった…よな。顔はマズイぜ~とか歌ってたけど、それくらいならギリセーフだし、最初に歌ったのは俺だからな。


 アホ二人のせいでどっと疲れ、周りの見物人を押し退けてもう一軒の武器店に入る。

 この店はリミエンに来て先に入った武器店で、大銀貨二枚半で特にコレと言って特徴の無い革製の指貫グローブがデザイン的に気に入ったので購入した。



 家に戻ると、羊皮紙を丸めて作った棒を手にしたエマさんが鉢巻きをして出迎えてくれた。

 どうやら鬼教官役は継続中だったみたいだ。


 鉢巻きには日の丸印と『特攻』と言う文字が書かれていたので、間違いなく召喚勇者がもたらした文化に間違いない。

 だが何故そのチョイスを?

 合格とか必勝とかあっただろうに。ビステルさんに見せてもらった勇者大図鑑に載っていたスケバンが鉢巻きを巻いていたような気もするが。


「お帰りなさい。それは新作の革鎧かな?

 珍しいデザインね」

「似合うかな?」

「それ程世紀末ヒャッハーぽくないし、悪くはないのかな?

 それに本人の好きな鎧を着るのが一番だし」


 リイナ達のせいで少しささくれ立っていた心が鉢巻き姿のエマさんのお陰で癒される。エマさんも良い所のお嬢様だった筈だけど、リイナとは全然違うな。


 育った環境の違いって恐ろしい。それが社会的影響力のある家の子女なら尚更ね。

 人に迷惑掛けないのは当たり前、人の話は良く聞いて、しっかりした判断能力を持たせないと周りが迷惑するだけだ。


 リイナみたいな立場の女性は政略結婚に使われるパターンも多いだろうから、親の言うことさえ聞くように育てられたのかも知れないけど。

 そのせいでディアーズみたいなポンコツと付き合って、婚約しました!と親を驚かそうとしてたんだから自業自得だろう。


 あのままディアーズと婚約しててくれた方が俺に精神的な危害を与えず済んだと思うけど、結局何が正解だったのか分からない。

 とりあえず、ブリュナーさんには悪いけどもう一回ファロス家に抗議文を書いて貰おう。


 それにしても商業ギルドのトップは一体何を考えてあんなカードを俺に渡したんだろうね。俺のカードにアレだけの効果があるってことは、司法のトップ的な役割を持っているんだと思う。

 そんな人が顔バレしないようにしてるってことは、絶対桜吹雪の遊び人的な活躍をしているんだろう。


 もしファロス家の一件で俺に実害が出るようなら、リミエンからオサラバするって選択肢も考えなきゃいかないかもね。この地に愛着が湧いてきているだけに、そうならないようになって欲しい。

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