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スライム×3+骸骨×1≒人間です。(リメイク版)【第一部として完結】  作者: 遊豆兎
第6章 登山の前にキチンと準備を整えよう
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第98話 バーベキューとパンケーキ

 子供達とオリビアさんを連れて歩いたことを何故か浮気だと言われ、エマさんの元気が無いと言われた。


 完全に冤罪と言うか、そもそも誰とも付き合っていないのに、何でそうなるのか意味不明だと思う。


 それでもバーベキューにお誘いすると一瞬で復活したので安心したよ。


「じゃあ、晩御飯も一緒でいい?」

と笑顔でお願いされると断り辛い。今夜の晩御飯も昨日と同じく屋台飯なんだけど。

 改築中なのでブリュナーさんの料理は食べれないよとを説明したけど、そこは気にしないからと言われたので家に連れて行くことになった。


 家に戻るといつものようにルーチェが飛び付いてこようとしたが、エマさんを見つけるなり、

「わーい、エマお母さんだ」

と言って方向を変えてエマさんに抱き着いた。


 少し悲しい気もするけど諦めよう。

 優しくて可愛いエマさんが子供にモテない訳がない。

 すぐにロイも出て来てリビングにエマさんを連れて行った。


「ちょっと予定変更で、エマさんも晩御飯を一緒に食べることになって」

と出迎えてくれたシエルさんとブリュナーさんに夕食の支度に変更があることを伝える。


「問題ありませんよ。屋台飯を並べてサラダを盛っただけですから」

とブリュナーさんは特に気にしないで対応してくれた。


 玄関での立ち話を終わらせ、靴を脱ごうとしたところでドアがノックされた。

 こんな時間に誰かなと考えながらドアを少し開けると、

「こんばんは!

 お魚がたくさん釣れたからお裾分けに来たよ」

と『虹のマーメイド』のカーラさんが元気よく入って来た。


「釣ったのはリーダーだけどね」

とサーヤさんの補足する声が後ろから聞こえる。


 彼女達に家の場所は教えていないが、それも諦めよう。この家の場所は説明するのが簡単だ、と俺が納得すれば済むことだ。


「これは立派な鱒をありがとうございます。

 どうぞ靴を脱いで上がってください」

とブリュナーさんがスリッパを示す。


「執事さんなのっ? クレトン、凄い!」

「靴を脱ぐの? 珍しいわね」

「立派なお宅ですね」

「お邪魔します」

とメンバー四人がそれぞれ一言喋ったところで、

「そこの流しで台お手を洗ってください。使い方は親方様、教えて差し上げてください」

と彼女達の相手を任された。

 ブリュナーさんは今から魚を捌くのかな?


 玄関脇に追加した小さな流し台には、センサー付きの蛇口が付いている。

 ガチャポンプで汲み上げた水は、魔道具のポンプで井戸の屋根に追加した貯水タンクに揚水する事ができる。

 その水がホースを伝って出るようになっている。

 センサーはカミュウ魔道具で見た照明の魔道具にも使われていたね。

 いずれ手洗い石鹸も常備するようになるけど、今はまだ泡の実で我慢だ。


「釣りは好きだけど、手を洗っても中々お魚の匂いが取れないのが辛いところよね」

と愚痴を溢すアヤノさんに『浄化』の魔法をこっそりと掛けてあげる。


「えっ! 手が綺麗になったわ…どうして?

 クレストさんの魔法なの?」

「便利でしょ。手に限定して掛けたので、大して魔力は使いませんし」

「そう…なのね、ありがとう。助かるわ」


 アヤノさんが一瞬不思議そうな顔をしたけど、それもすぐ元に戻った。

 リビングでは先に入った残りのメンバー達がエマさんを見て口々何か言っていたが、敢えて詳細は省こう。

 俺がエマさんとお付き合いしてると言うのは、彼女達の勘違いだから。


 子供達は貯水池でサーヤさんと一緒遊んだ仲なので、遊び友達が仲間を連れて来たぐらいにしか思っていないようだ。

 ロイとルーチェの口から、明日のお昼ご飯はお庭でバーベキュー大会だから、お姉ちゃん達もおいでよとお誘いの言葉が出るのは仕方ないだろう。


 食材は足りるかな?と計算しつつ、密かにパンケーキを焼いてくれるメンバーを確保できたと喜ぶ。

 三百枚近いパンケーキを一気に焼き上げるつもりだから、人手は多い方が良い。

 これなら石窯を用意しておけばピザもパンも焼けたのに、と少し残念に思ったので、改築のついでに裏庭に石窯を作ってもらうようブリュナーさんに追加をお願いしておいた。


 夕食は家族枠の六人、エマさん、マーメイドの四人で合計十一人となったので、食堂での立食に急遽変更した。

 たまにはこう言うのもパーティーみたいで悪くない。これを一番喜んでいたのはルーチェだね。

 貴族のパーティーに来たみたいだと感想を漏らしてたけど、貴族のパーティーでは多分屋台飯を並べたりしないから。


 今夜はマーメイドの四人がエマさんをギルドの寮まで送ってくれることになったので安心だ。

 オリビアさんは一人で帰ることになるけど、彼女も大銅貨級の冒険者だし、魔法使いだからそれ程心配はしていない。

 それに彼女の自宅は貴族区画にあるのだ。治安はリミエンで一番良いエリアだからそんなに心配の必要は無いだろう。

 そうでなければ、夕食を食べてから帰らせるなんてことは出来ないし。



 そして翌日。朝食後に昨日と同じようにブリュナーさんに剣術の訓練を受けるのだが、ロイがエリスちゃんに貰った木剣をどうしても使いたいようだ。

 グリップの太さが大人用でロイの手には合わないので、ブリュナーさんが手早くナイフで削って調整してくれた。

 そのナイフ捌きは思わず見蕩れるほどだったが、本来ナイフってそう言う工作に使うものだよね?と、見物しながらどうでも良いことを考える。


 そして剣道しか知らない俺は盾を用意していなかったのだが、ブリュナーさんはバックラーと呼ばれる小振りな丸い盾を出してきた。


「まずはロイ君と親方様で軽く手合わせしてもらいましょうか。

 親方様は得意の格闘ではなく、盗賊の役をお願いします」

とサビが浮いて所々刃が掛けている剣を渡された。


「漫然と剣を振るうのでなく、こう言ったシチュエーションがある方が楽しいですからね。

 ではロイ君は後ろに居るルーチェちゃんとオリビアさんをこの盗賊から守り抜いてください。

 親方様がロイ君を抜いてルーチェちゃんを捕まえて壁まで走って行ければ親方様の勝ち、それを阻止できればロイ君の勝ち。

 いいですね?」


 武器を持ってロールプレイングをするとは思わなかったよ。

 でも普通なら素振りを何度もやったり型を教えたりするんじゃないの?

 そりゃ、分かり易い目標を設定しようって意味はあると思うけど。


 武器を構えるロイは様になっているとは言えないのは当然だが、なる程、田舎から出て来て冒険者になったばかりの男の子ならこんなもんか。

 木剣を構えて斬り掛かるロイの動きは、スライムアイを使わなくも十分に対応出来る程度だ。斜めから振り下ろされた木剣を錆びた剣で受けつつ勢いを殺す。

 バックラーを持ったロイの左手は完全に遊んでいる。

 訓練を積まないと盾なんて使えないってことか。


 滅茶苦茶に振り回される剣を適当にあしらい、剣が地面を叩いたところで隙ありとばかりに腕を掴んで脚を払い、背中から地面に転がせる。

 ロイが起き上がる前にルーチェを左腕で抱えて壁までダッシュする。

 攫われる役のルーチェは嬉しそうだ。


「これでロイ君はお姫様の護衛に失敗となります。自分より強い相手と一対一の状況になった時点で負けたようなものですがね。

 剣を習うとは、この負けた状況をひっくり返す力を得ることだと私は思うのです。

 そこには綺麗も汚いもありません。現場で負ければ大切な物を失いますからね」


 強くなりたいから。そんな軽い理由で剣を習うなよと言いたいのか。


「剣を持つ相手を前にするのは怖かったでしょう。

 ですが最初にこの恐怖に勝たなければ、どんな訓練を受けても意味はありません。

 武器を持てば必ず目の前には武器を持つ相手が立ちますからね。気持ちで負けないことが必要です」


 普通なら訓練相手も木剣を使うと思うが、いきなり真剣に慣れさせるのはスパルタ過ぎやしないかな。

 精神力は鍛えられるかもしれないけどさ。


「親方様はロイ君の剣に合わせてよく動けていますね。

 昨日も思いましたが、目が良いだけでなく、やはり剣術スキルをお持ちですね」

「一応ね。基本的には使わないけど」

「スキルの有無と好き嫌いは関係無いですからね。

 さてロイ君、剣は無駄に振ってはいけません。振れば振る程、腕に疲れが溜まりますからね。

 一撃一撃に意味を持たせて振るうことを考えましょう。では親方様、もう一度盗賊になってください」


 そこからは俺が先手を取って斬り掛かり、その防御を確実行うことからロイの訓練が始まった。

 動体視力のトレーニング方法を考えながら斬り掛かっていたのは内緒だけどね。


 『負けて悔しいか?』なんて聞くような愚かな真似はしない。ロイが負ける前提なのは誰にも分かることだから。

 だから負けたらどうなるかを考えさせ、負けない戦い方を教えるのがブリュナーさんの遣り方なのだろう。


「型は教えないの?」

と終わってから聞いてみると、首を横に振る。

「決まった型を教えると、自然と同じ動作を取りがちになります。

 確かに型を覚える利点もありますが、それは所属する場所が決まってからで良いのです。

 今は剣で戦える体作りが第一です。

 五年以内に親方様から一本取れるようにしてみせます」

と大の字に倒れてゼーゼー息をするロイにウィンクするのだ。


「その過程で自分に一番合う戦い方を見つけるでしょう。

 それが剣かナイフか、それとも槍か格闘かは私には分かりません。

 宝石の原石を加工し仕上げるのは職人の意向によります。それはロイ君が所属する場所の教官に任せれば良いことです。

 今はロイ君と言う原石を大きくする事が私の役目です」

「なるほどね。ロイ、そう言うことだから」

「…言ってることが難しくて分かんない」


 残念、ロイには理解出来なかったか。


「では今朝の訓練はここまでにしましょう。

 汗を流してからバーベキュー大会の準備をお願いします。

 シエルさんとオリビアさんには野菜とソースの買い出しに行ってもらいました。

 私はパンケーキの材料を受け取りに行ってきます」

「了解、お願いするね。

 ロイ、お待ちかねのボイラーの試運転だ」


 訓練中にガルラ親方達が魔道ボイラーを運搬してきて、今は設置する場所の仕上げ作業中で裏庭に置いてある。

 タンクに水を入れて魔石をセットすればお湯が出るので、目隠しを立てて簡易シャワー室を用意してもらったのだ。


 久しぶりのシャワーを浴び、ルケイドがこっそりと持ってきた液体洗浄剤で頭と体を洗う。

 泡立ちは良くないが、泡の実を使う手間を考えると遥かにラクだ。

 髪の毛がキシキシするので整髪剤が必要になるのは仕方ない。シャンプーで頭を洗った後と同じ現象だ。


 それよりプッシュポンプ式の容器が無いので木をくり抜いて作った容器に入っていた方が気になる。

 ひっくり返すと一定量が手に出る仕組みが付いてて地味に便利だ。さすが転生者と言ったところか。


 着替えを済ませて庭に戻ると、買い出しから戻った二人と一緒に昨日晩御飯を食べた女性達が勢揃いしていた。

 市場で合流したらしい。


 それから皆で手分けして、四セットのコンロを用意した。特大サイズのマジックバッグ(実はただの革袋)があるので荷物の運搬はとてもラクだ。

 ブリュナーさんがクッシュさんを連れてきたところで鉄板に油を敷く。既に鉄板もグリルもバッチリ加熱済みだ。


 改築作業も一時中断し、親方達(四人)が庭に集まったところでバーベキュー大会を開始した。

 合計十六人が参加のパーティーだ。騒がしいことこの上ない。


 お昼ご飯なのでお酒の提供は無い、と思っていたが少しぐらいならとブリュナーさんが気を効かせて用意していた。

 親方達もこの後まだ仕事の予定があるから、飲み過ぎることはないだろう、多分ね。


 このバーベキュー大会はあくまでパンケーキを焼くついでなので、食事の後にはグリルと鉄板を交換して一気にパンケーキを焼くことを親方達を除く参加者には言ってある。

 四台のコンロと焼き手が都合良く八人(俺、オリビアさん、シエルさん、エマさん、マーメイドの四人。クッシュさんは監督だ。子供達は戦力外とする)揃ったので、一人あたり四十枚も焼けばノルマ達成だ…簡単だよね?

 お腹いっぱいになったところで申し訳ないがシャンシャン働いてもらおうか。


 ちょっとした料理教室の気分を味わうつもりが、材料を混ぜて捏ねるだけでも量が多いと大変だった。ハンドミキサーなんて無いから全部手作業だし。

 パティシエは体力勝負と聞いたことがあるけど、こう言うことか?


 教師役のクッシュさんからレクチャーを受け、別れてコンロに立つことになるのだが誰と誰がペアを組むかでひと悶着が起きた。

 俺は誰が隣りに来ても気にしないと言ったのだけど、聞き入れて貰えず異世界ジャンケンで勝ち抜いたアヤノさんが俺とペアを組むことになった。


 気が付けば俺以外は皆女性。彼女達にしか分からない、負けられない戦いがそこにあったのだろうか?


 タネさえキッチリ作れれば、火力の維持を気を付けていればパンケーキを焼くのはそう難しくない。それに失敗しても多少焦げるぐらいだし、焦げた分は焼いた人に割り当てれば良い。


 サイズも形も少々不揃いになっても構わないとにかくスピード重視。鉄板の上に直径十五センチ程に広げ、厚みは一センチを目安で。

 一度に横に三枚、縦に二枚の計六枚を一度に焼く。


 それを八人同時にやるから、一気に四十八枚のパンケーキが庭で焼かれることになる。

 バターとハチミツの甘い香りがさっきまで焼き肉の匂いなんて目じゃないと言わんばかりに、強烈な香りが辺りに漂わせる。


 その甘い香りに誘われたのか、我が家の門から近所の奥さんが顔を覗かせた。


「焼き肉の後はデザートかい。随分良い匂いだね。お宅で屋台でも?」

「屋台はこちらのクッシュさんが出してますよ。今日は遠征に持っていくパンを焼こうと思って、クッシュさんにお願いして来て貰ったんだ」

「パンならその辺の店で買えば良いのに物好きだねえ。

 それに奇麗どころをこんなに集めて、別のお楽しみもあるんだろ。若いのに大したもんだ」


 奥さんの話を聞きながら、表面がプクプクしてきたところでコテを使って次々とひっくり返していく。


「俺が集めたのは商業ギルドに紹介して貰ったシエルさんとオリビアさんの二人だけだから。

 他の人は冒険者ギルド絡みだよ」

「それでも五人だよ。よっぽど好かれてなきゃ、あんたの取り合いなんて起こさないって」

「半分はノリでやってると思うけど」

「本人がそう思うなら構いやしないけど」


 焼けた一枚を半分に切って奥さんに渡す。


「これ食べたら、集まってる理由が分かる」

「じゃあ味見させてもらおうか」


 渡されたパンケーキの半分程を大きく開けた口に入れてムシャムシャ…ゴクリ。

 その間にうまく焼けたパンケーキは木の皿に乗せて温かいうちにマジックバッグ(本物)に入れてもらう。


 皿だけでも凄い量を良く集めたもんだとシエルさんに感謝する。正直、今後そんなにお皿を使う機会なんて無いと思うけど。


「アンタ! このパンみたいなのはどこで買えるんだい?」


 奥様のお気に召したみたいで良かったよ。パンとしてはお高いけど。奥さんにクッシュ監督を紹介して焼きに専念する。

 クッシュさんにはこれからもお世話になるから、固定客が増えることを期待しよう。


 それからはノルマを果たすべく黙々と焼き続けたのは俺一人。女性陣は焼き上がるたびに時計回りに移動していく方式を採用していたらしい。


 アヤノさんの次はお胸様の威力抜群のセリカさんだ。

 彼女が動くたびにU字に空いた胸元に視線が強く誘導されるが、ルシエンさんのお店でかなり弄られたので同じ過ちは繰り返すまいと鋼の精神力で自制する。

 それでもたまにチラリと見えるのは事故だと諦めて貰おう。見たのではない、見えたのだ。


 しかし、パンケーキを焼くだけでこんなに強力な精神的攻撃を受けるとは完全に予想外だ。

 セリカさんとの距離には要注意だな。

 パンケーキにはペチャンコって意味がある筈なのに、セリカさんのお胸様と来たら…。

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