表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スライム×3+骸骨×1≒人間です。【第一部として完結】  作者: 遊豆兎
第6章 登山の前にキチンと準備を整えよう

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

121/199

第95話 魔道具店デビュー

 ロイに犯罪履歴が残らないように教会を訪れてみた。

 お祈りの効果なのかどうかは分からないが、ステータスではロイに犯罪無しとなっているのが確認出来てホッとする。


 街に出たついでだから、山に行くのに便利な魔道具があれば買っていこうと思いたって魔道具店を探してみることにした。


 魔道コンロを買ったお店と言うことで、ブリュナーさんから三番通りにある小さなお店だと聞いている。


 この辺りの通りは碁盤の目状に近い形に整備されていて、東西に走る通りが奇数、南北に走る通りが偶数の番号で呼ばれている。


 目を皿のようにして、とまでは言わないが、必死になってその店を探してみるが見つからない。

 ブリュナーさんが嘘を言うとは思えないし、そんな必要も無いだろう。

 きっとブリュナーさんも同じ目に合わされたんだろうと思い、看板ではなくドアに注目して歩いてみた。


 その考えは正解で、目的の店には看板がある訳ではなく、ドアに小さく『カミュウ魔道具店』と書いてあるだけで素通りしても当然と言った佇まいだった。


 こんなの気が付くかよ!

 実質、誰かに紹介された人しか立ち入らせるつもりはないだろ!と内心でそう愚痴りながらも、魔道具屋なんて初めて入るので実は興味津々だ。


 ガチャリとドアを開けると、自動的に室内に灯りが灯った。

 灯りは天井と壁に設置された間接照明になっていて、蝋燭やランプしか知らない人は壁が明るくなったと勘違いするだろう。

 材質は白く濁ったプラスチックかな?

 いや、この世界にはそんな物は無い筈だ。何が原料かサッパリ分からない。

 正体不明の素材だから、多分錬金術師が作った素材なんだと思う。


 昨日ラファクト鋼材店に錬金術師が務めていると知って会いたかったのに。

 とまだ少し引き摺っているのは折角のファンタジー世界の(俺が勝手に決めたく)三大要素の一つを目の前にしながらお預けを食らったせいだ。


 ちなみにその後三大要素とは、魔法、錬金術、そしてドラゴンである。

 更に魔道具、神様を足して五大要素にしても良いのだが、神様には会えなかったので検討中だ。


「クレ兄、これは魔法なの?」

「こんな壁は初めて見ましたわ」

「うわーっ、壁が白いのに明るくなったのーっ!」


 他の三人は初めて見る光る天井と壁に興奮しながら、唯一落ち着いている俺にどんな仕掛けか教えてくれとせがんできた。


 因みに寝ていたルーチェは俺の首元に涎を垂らした後に目を覚ましている。

 こっそり『浄化(クリーンアップ)』で綺麗にしたのは内緒だ。


 人感センサーか何らかの装置で人がこの部屋に居ることを検知し、人が居ると判断されれば白い壁の中に隠された灯りの魔道具が点灯する仕組みになっているのではないかと想像し、そう説明する。


 三人にそんな事が分かるなんて凄いと褒められたが、もし間違っていると恥ずかしい。

 だがそのセンサーが持ち運び出来るサイズなら、馬車に搭載するのもアリだと思う。


 正面には棚があり、幾つかのオブジェが飾ってある。

 ガラスは貴重品のため、ショーウインドウもショーケースも無い。その棚以外には店内に何も置いていないのだ。


 盗まれても困るからそうしているのだと思うが、それなら防犯ブザーを付けたり、連動して賊を閉じ込めるような仕組みを作れば良いのだと提案してみようかな。


 間接照明の壁だけだとすぐに飽き、子供達は口々につまんない、と言いだした。


 その声が聞こえた訳では無いと思うが、奥に続くドアが開くと、老婆と二十代後半に見える青年の二人が現れた。


「ようこそ『カミュウ魔道具店』へ。よくお出で下さいました。

 お子様連れとは珍しい。

 それならこれをどうぞ」


 そう言って青年がカウンターの下から取り出し、ロイとルーチェに手渡したのはなんと竹トンボ…いや、材料は竹ではなさそうだから竹トンボ擬きだな。


 青年が遊び方を教えると二人ともキャッキャ喜びながら遊び始めた。

 きっとこの店はこうやって商品の実演を行うから店舗内に物を置いていないのだろう。


「魔道具店に来るのは初めてなんだ。俺はクレストと言います。よろしく。

 子供達がロイとルーチェ、こちらは教育係兼冒険者でパーティーメンバーのオリビアさんです」

「私はカミュウ魔道具店の店主のイルク。

 こちらが母のカミュウです」


 俺とオリビアさんは冒険者ギルドのカードを、イルクさんとカミュウさんが魔道具ギルドのカードを見せて挨拶をする。


「何がご入り用でしょうか?」

「冒険中に役に立ちそうな魔道具はありますか?」

「それなら現在市販されている魔道具を知ると良いでしょう。

 こちらのカタログですが…」


 イルクさんが棚からファイルを取り出した。どんな魔道具があるのか楽しみだな。


 カタログに載っていたのは機能で言うと着火器具、コンロ、ランタン、蛍光灯、扇風機、保温ポット、固定式湯沸かし器だな。


「意外と種類が少ないんだ」

「そうですね。魔道具はどうしても高価な物になるので、お客様もそう多くはございませんから。

 それに、お客様の要望に合わせて特注の魔道具も作ることが多いので」


 へえ、魔道具って薄利多売の正反対の厚利少売ってやつなんだね。

 家電みたいに簡単に買えるもんじゃないのか。

 でも家電も昔は高かったそうだし、これからどんどん魔道具も安くなっていくのかもね。


 カタログの商品の中でなら着火器具、コンロ、ランタン、保温ポットは冒険でも使えるから買っておこうか。


 あっさりと購入を決めた俺に店主のイルクさんが少し驚いたようだ。

 たかだか銀貨級の冒険者が買えるような金額ではないと言うことか。

 それぞれの値段は大銀貨で着火器具は二枚、カセットコンロ擬きが五十枚、ランタンが四十枚、ポットも四十枚。


 骸骨さんの遺産の大半は俺がアホな事に使わないようにとブリュナーさんが管理するカードに移し替えてあるけど、それぐらいなら俺のギルドカードにも残してあるのでカード払いだ。


 カミュウさんが決済処理をしている間にイルクさんが奥から出してきた魔道具をマジックバッグ経由でアイテムボックスに収納する。

 肩掛け鞄のクチよりコンロの方が大きかったので、前回カマキリの魔物を出すのに使った大きな革袋を使ってアイテムボックスを偽装する。


「なんとその若さでそれ程のサイズのマジックバッグ持ちであったか」


 マジックバッグは容量が少ないものでも購入には大金貨が数枚必要である。

 現在の技術では製造が不可能であり、ダンジョンや古代遺跡から発見された物しか市場に出回らないのが高額となる理由である。

 しかもマジックバッグは誰でも購入出来る訳ではない。中に何が入っているかも分からず、危険物や武器を持ち込まれる恐れがあるからだ。


 悪用を防止する為、国や地域によってはマジックバッグを利用する際には利用申請を出さなければならず、利用時には常に役人の同伴を義務付けている所もあるぐらいだ。


 このコンラッド王国では利用の規制はされていないが、もし今後悪用が発覚すれば規制されることは間違いないだろうと言われている。


 内戦が続くキリアス王国が出身地の俺がマジックバッグを持っていると、「国内の混乱に乗じて上手く手に入れやがった」と思われるのが関の山のようで、今のところ追求されることは無いようだ。


「魔道具を利用するには魔石が必要ですが、ご購入はされますか?」

とイルクさん。


 効率が良いか悪いかは別問題とすれば、魔石は街の外に出て魔物を狩ればそれなりに入手可能だ。

 それに考えてみれば『魔熊の森』で倒した魔物はそのままの形でアイテムボックスに収納してある。

 取り出せば結構な量の魔石を所有していることになるので、慌てて町から出て魔石を採ってくる必要は無かったのだ。


 とは言え魔石はそんなに高価な物でもないので、幾つか購入しても問題は無いだろう。

 我が家の厨房には大量の魔力を必要とする魔道ボイラーを設置するのだから。


 魔石の価格は魔石のサイズと込められている魔力密度に比例する。

 より強い魔物になる程、高い魔力密度を持つ魔石を有している。

 大きさは魔物の体の大きさが影響するので、小さくても強い魔物は魔力密度の高い魔石を持つ傾向にあるそうだ。


 売れ筋は当然高密度魔石だ。

 理由は簡単で、魔石はサイズがバラバラで使い勝手が悪く、魔道具には大きな魔石タンクが付いている。

 魔石タンクに魔石を入れて魔道具を使用するのだが、当然密度の高い魔石の方が連続使用時間が延びるのだ。

 そして大きな魔石を投入すると大きな隙間が出来るので使用時間が減ると言う訳だ。


 ブリュナーさんの出したコンロにも、俺が買ったコンロ等にもタンクがあった、と言うよりも魔道具の体積は割合で言うとほぼ魔石タンクなんだよね。


「魔道具を長時間使うためには大きな魔石タンクが必要となります。

 それで、現在私共が心血注いで開発しているのが効率良く魔力を貯める魔道具なんですよ」

「なるほど。大きい魔道具は持ち運びに不便ですね」

「でも思うように進んでいなくて。

 そう言った改良が出来れば、魔道具がもう少し安く販売出来るようになるんですけどね。」


 そう言う事なら協力するのは吝かではない。


「魔石と魔石の隙間を無くす為に、魔石を砕いて粉状にするのはどうでしょうか?

 いや、それをすると魔石が持つ魔力が抜けるかも知れないな。

 魔石粉を圧縮して円筒状に固めるのはどう?

 ついでにサイズを揃えて、どの魔道具でも使えるようにするんだ」


 電池ならぬ魔池である。

 ところでバッテリーを電池と翻訳した人、何故に池と言う文字に翻訳したんだ?

 魔池なんて語呂が悪いだろ、プンプン!


 冗談はさて置き、魔力を使い切った魔石に後から魔力を充填出来ることは、森を抜ける前に実験したので知っている。

 それなら魔石を砕いて粉状にし、成形して再度固めてやればマナバッテリーになると思うんだよね。

 ただし、粉にして固めて作ったバッテリーが本当に魔力を貯め込めるのか、貯めれたとしてどれくらいの魔力を通せば魔力が充填出来るのかは分からないけど。


「試しに手から魔力水を出して魔石粉を入れて、水分を飛ばしながら圧縮したら魔石の代わりに使えないかな。

 あっ、そんな事しなくても、複数の魔石を強い魔力の中に放置すると結合するから、魔力水を使わなくても成形出来るわ」


 これは財宝の上で眠るドラゴンのように俺が魔石の上で寝ていた時に、魔石を吸収して体内の魔石が大きくなったことがあるのと、森の中で興味本位で試した実験の結果が根拠である。


「それに、魔石は外部から強い魔力を当て続けると魔力を吸収するでしょ。

 手間は掛かるけど、再利用可能なんだよね。

 意外と再生可能エネルギーだし、こう言うのは、えすじーでーっすょ」


 スライム時代に経験した魔石のアレコレも今の俺には必要の無い知識だ。


「ちょいとお前さん。えすじーでーと言うのは何のことか分からんから置いとくがの…。

 儂らの知らんことをさも事実のように喋っておるが、魔石の結合と魔力の吸収とは本当なのか?」

とカミュウさんが食い付いてきた。


 よしよし、興味があるみたいだな。


「条件や必要な魔力の強さは詳しくは分からないけど、二つとも間違いないよ」

「そんな話は聞いたことがありませんね」

とイルクさんは懐疑的な様子を示す。

 教えられたことが正解ってタイプの人なのかな?

 俺みたいに疑って掛からないと、技術者としては成功しないよ。


「イルクさんが疑うのはごもっとも。

 それなら試しに実演してみるから、魔力の尽きた魔石があったらちょうだい」

と当然のようにイルクさんに手を差し出す。


 魔石は魔力が尽きると少し灰色掛かったくすんだ水晶のようになる。

 魔力が込められている状態だと、赤やオレンジ色に光っているんだよね。


 イルクさんは半信半疑と言った感じでポケットからビービー弾ぐらいのサイズで灰色の魔石を三つ取り出し、俺の手のひらにそっと乗せた。


「それでは実験するよ。

 二百を数える間、この魔石を握って圧力を掛けつつ、魔力を強めに流してみるね。

 成功したらくっ付いて一つになって、少し赤くなっているから」


 今からやることを説明し、ロイとルーチェにカンウトさせることにする。

 何もせずにじっと三分ちょいを待つのは退屈だからね。


 俺は両目を閉じるとゆっくり体内の魔力を右手に集中する。ほんのりと右手が熱を持ち始めて準備が出来たところで、

「じゃあ、実験開始っ!」

とロイに合図を出した。


 何も無い店内にロイとルーチェの数を数える声が響く。

 時計に時針しかないので、何分とか言っても理解されないからね。

 時間のカウントが難しいのは困ったものだ。


 時々ルーチェが数え間違えているのはご愛嬌。

 ロイは指折り数え、百を越えると一から数え直していた。

 

 魔力を流すこと約三分間、「二百!」とロイが叫んだところで魔力の流れを停止した。

 さすがに三分間も強めに魔力を流し続けるのは疲れるな。でもこれは俺が森でやっていた魔法を使うための基礎訓練の一つだ。


 さて問題の魔石はどうなっているかな?

 あんなに偉そうに言ったものの、魔石に全然変化が無かったら速攻で逃げるしかないな。


 皆が注目する中、ゆっくりと握っていた手を開くと丸かった灰色の三個の魔石は歪な形の赤い一つの魔石に変化を遂げていた。

 それを見て、

「おー、出来てたよ…よかった~」

と素直に安堵する。

 これで逃げずに済んだ訳だ。


 カミュウさんとイルクさんはとても信じられない物を見たと言う顔で驚きを現している。

 カミュウさんが赤くなった魔石を摘みあげて繁々と眺めた後に、息子のイルクさんにほいっと渡した。

 イルクさんも変化した魔石を目の前に置いてじっくりと観察をする。


「これは凄い!

 三つの魔石がまるで溶けたように一つの魔石になっているし、魔力が抜けていた魔石に魔力が充填されています!

 それに何が凄いって、あの魔力量を長時間流し続ける精神力とその知識」

とイルクさんがべた褒めしてくれる。


 魔力量が多いのはスライム時代に魔石を食べ続けたのと、元の骸骨さんの持っていた魔力量に起因するんだと思う。

 魔石が合体するって知ったのはスライム時代に体験した事だし、森の中を歩くときに暇だったから冗談半分で魔石から魔力を吸収出来ないかと試していたからだ。


 恐らく常人に比べて俺の魔力は量と強度が飛び抜けているんだろう。

 それでもゴブリラを仕留めた時の骸骨さんには全く届いていないけどね。


 で、これで魔石が合体して充填可能だと証明が出来たのだから、マナバッテリーの製作も夢では無いと言うことになる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ