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スライム×3+骸骨×1≒人間です。(リメイク版)【第一部として完結】  作者: 遊豆兎
第6章 登山の前にキチンと準備を整えよう
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第93話 遅ればせながら教会へ行こう

 ラファクト鋼材店でカラバッサ用のタイタニウムを発注し、キャンピングカー擬きに変更することになった。

 そこまでは順調だったのに、鋼材店に雇われている錬金術師が居ると言うのに会わせてもらえなかったのは不満が残る。


 俺にも錬金術スキルはあるのだから、ちょっとマニアックな話をするぐらいで終わらせるつもりだったのに!


 いつの間にか太陽は殆ど沈み、既に夕食の少し前の時間になっている。

 今日から厨房が改築作業中なので、晩御飯はシエルさん達が町に出て適当に買ってきた物を食べようって話にしてある。だからブリュナーさんが居なくても大丈夫だ。


 そう言えば、こうやってブリュナーさんと長い時間一緒に居るのは初めてのことだな。

 歩きながらロイの指導について尋ねてみると、

「もう少し体が出来るまでは自然の成長を促す方が良いでしょうね。スラムに来る前からも、十分に食べていなかったようですから。

 それでも農作業や食料採取で野山を歩き回っていたのか、基礎体力と根性はあるようです。

 あのハングリー精神があれば、十六歳になる頃には、一端(いっぱし)の戦士になっているでしょう」

とまるで子を思う親のように優しい目をしながら話してくれる。


「私としては、親方様にも一緒に訓練を受けてもらいたいものです。

 スキルにより受けられる恩恵は、訓練による経験を積む程に確かなものになっていきますので。

 それに親方様の性格だと、対人戦の経験は殆ど御座いませんでしょう?

 今後どのような相手が出てくるかも知れませんから、剣や武器を持つ相手にも負けない為の訓練は必要でしょう。

 …家族の皆様を守る為にも」


 最後の言葉が無ければ、なんだかんだと理由を付けて拒もうと思っていた。でも家族の為と言われると拒否は出来ないね。


「それはズルい言い方だよ。

 でも、確かにエンガニとの戦いもかなりヤバかったし、好き嫌いのせいで家族を守れなかったなんてことになるのはゴメンだよ。

 それじゃ俺も指導を受けることにします」

「ありがとうございます。老兵ではありますが、しっかりその役目を務めさせていただきます」


 特殊部隊を返り討ちにするだけの技量を持つ人から教えを受けるなんて、俺みたいな平民だと普通ならお金を出しても無理だと思う。

 巡り合わせが良かったと言うべきだろう。

 もしこの世界に神様が居るのなら、感謝の言葉を掛けたいぐらいだよ。


 そう言えば、メイベル部長にロイを教会に連れて行けって言われてたな。自分のことばっかりやっててすっかり忘れてた。


「明日はロイを連れて教会に行ってきます」

「贖罪の祈りですね。

 それなら昼食後の散歩がてら、オリビアさんとルーチェも連れて行くのが良いでしょう。

 朝のうちにワインと何か一品、簡単な料理を寄付出来るように用意しておきますので」


 寄付が要るなんて知らなかったよ。

 聞いてなかったら手ぶらで行くとこだったよ、ヤバイヤバイ。


 家に戻ると食堂のテーブルには屋台で買い求めてきた料理が所狭しと並べられていた。

 持ち帰る間に冷えてしまうので温め直すのが前提の料理であり、各自が食べたい物を取ってブリュナーさんの魔道コンロで温めた。


「クレスト様、このパンケーキは良いですね。

 売り子の女性からクレストさんのお陰で屋台が出せるようになったと聞きましたよ」

と串焼きを挟んだパンケーキを切り分け、一口だけ食べてからオリビアさんが報告してくる。


 あの場所に出せたのは残念ながらレイドル副部長のお陰なんだけどね。

 商業ギルド内部のゴタゴタを皆に話すつもりは無いし、子供達には聞かせたくない。


「色々とあってね。それとオリビアさん、明日のお昼にロイとルーチェを教会に連れて行きたいんだ。

 場所は知らないけど」


 何とも締まらない話である。時刻を報せる鐘が鳴るので大体の位置は分かるけどね。


「クレ兄、教会なら知ってるよ。入ったことは無いけど」

「ならロイに道案内を頼もうか。

 オリビアさんも付いて来て。それで道中で目にした文字の読みを教えてやって」

「はいっ、分かりました」

「ロイ、ルーチェと二人で暮らしてる時は大変だったよな?

 生きるのに必死で、悪さをした時のことを神様の前でごめんって謝ってくれ」

「…うん、わかった。悪いと思ってたんだ。神様は許してくれるかな?」

「大丈夫だよ。ロイが好きでやったことじゃなけりゃ、それを許さないほど神様の心は狭くないから」


 この世界の神様の教えなんて知らないから適当に言ってるけど。

 ロイが悪いと思っていたのなら犯罪記録が残らないそうだから、この世界の神様って随分ゆるいんだろうね。



 そして翌日。

 ロイは庭を走ったり転んだりと自由に遊び回っている。これを疲れて動けなくまで続けるのだとか。

 脚が動かなくなっても腕が動くなら腕を動かせ!と言うのが指導内容だ。


 確か、ロイの体がもう少し出来るまでは自然の成長を促すとか言ってたけど、これでも十分にハードだと思うのは気のせいかな?

 錘を持たせていないだけ甘いとでも言うつもりかな?

 そのうちやたらと重いオレンジ色の練習着を着せているかも知れないな。


 そして一方の俺の訓練だが。

 骸骨さんの剣術スキルのお陰で基礎は問題がないとのことで、ブリュナーさんが嬉しそうにニヤリと笑う。

 ナイフを持ったブリュナーさんと木剣で軽く模擬戦から始めたのだが、スライムアイのサポートが無いと一分程しか立っていられないのだ。


 自分では年寄りだと言うが、緩急を織り交ぜての変幻自在の攻撃はまるで年齢を感じさせない。

 エンガニなんてブリュナーさんから見れば三下だったに違いない。


「親方様、次は私を殺るつもりで攻めてください。そうで無ければ訓練にはなりません」


 いつもにない厳し目の口調でそう言うブリュナーさんに、俺も心を決めて木剣を構えた。

 一度軽く目を閉じて精神を落ち着かせ、神経を研ぎ澄ませる。

 そうすると自然に体内を流れるマナが熱を帯びたように感じるのだ。


「…では、参ります」


 気を引き締め、一息の間にブリュナーさんとの距離を縮める。

 武器の長さではこちらが上だが、それは大した意味を持たないどころか不利に働く可能性だってある。

 そうなれば剣に頼るだけではなく、自然と左の拳と左右の脚が攻撃と防御の役目を持って動き出す。


 ナイフのスピードに勝るのは素手しか無く、常に自分が有利な間合いになるように脚を運ぶのだ。

 何度か対戦するうちに無意識にそう思い始めたようだ。


 疲れで体は重くなるが、立っていられる時間は次第に伸びていく。

 そして遂にブリュナーさんの腹に俺の右の拳がめり込んだのだが、同時にブリュナーさんのナイフも俺の腹に突き立てられていた。


「剣術の訓練のつもりでしたが、剣を捨てるとは」

と咳き込みながらも笑うブリュナーさんに治癒魔法を掛ける。


 二人とも胴体に革鎧を付けているが、衝撃は止めることは出来ないのだ。


「まさか初日に一発入れられるとは予想外。

 親方様の二つ名は伊達では無いようですな。

 ですが今は剣術の訓練です。次に剣を捨てると夕食抜きの刑に処しますから」

「それはズルいよっ!」


 そんなのイヤだと自然に訓練に身が入るのだった。



 そして予定通り昼食後に四人で教会に出掛ける。

 教会までの道中、看板を見付けては読みを教えるので歩みは遅いが仕方ない。


「あの看板の最初の文字は、エ、だよ!」

「お兄ちゃん、ズルい!

 二文字目は…えーと、ネ…?」

「あら、ルーチェちゃん、惜しかったわね。

 正解は、メ、よ。看板には『エメルダ雑貨店』と書いてあるのょ」


 ありゃ、ここを通るのか。いつもと違う道から来たから分からなかった。

 前を通ったついでに顔を出しておこうか。実験室に行かなきゃ良いだろうと判断する。

 それに子供達も紹介しておこう。バルドーさん一家に今後世話になるかも知れないからね。


「エメルダ…?

 あっ、クレ兄が言ってたお店だ!」

「言ってたのーっ!」


 二人もちゃんと覚えてたか。

 子供には難しい話だったと思うけど、しっかり聞いてたんだな。


 ドアを開けると、相変わらずエリスちゃんがカウンターで工作をしていたが、

「あっ、クレストさん、お帰りなさいっ!」

と俺の顔を見るなり、どこか正しくない挨拶で出迎えてくれた。


 ここは俺の家じゃないし。

 こいつ、俺を本気で婿養子にするつもりかよ?

 そのうち「あなた、お帰りなさいませ」とか言い出さないか心配だ。


「今日は子供達も連れて来たんだね!

 ふふっ、お二人とも初めまして!

 私はエリスだよ。仲良くしてね」


 手に持っていた刃物は一度置こうよ。怖い挨拶だろ。

 それに反応したのか、オリビアさんが俺の前に出る。


「初めまして、エリスさん。

 私は二人の教育係をクレスト様から仰せつかっておりますオリビアと申します。

 それとクレスト様と冒険者パーティーを組むことになりました。お見知り置きを」

と少し険のある言い方で挨拶した。


 あれ?

 なんかエリスちゃんとオリビアさんの視線の間に火花が散ったような気が…。

 これって二人は馬が合わないってパターンなの?


「くっ! パーティーなんて…手強いライバルね」

と項垂れるエリスちゃん。

 いや、何のライバルだよ?

 頼むから変なバトルを始めないでくれよ?


 少し勝ち誇った感じのオリビアさんがカウンターの上に置いてある加工品を見て、

「貴方が皮剥き器を作っているのですね。

 てっきり頭にタオルを巻いた屈強な男性が作っているのかと思っておりました」


 木工細工はそう言うイメージなのか。

 てか、凄い偏見だな、おい。


「今はクレストさんの武器を作ってる最中。その皮剥き器は検品するやつよ。

 最初は私が作ってたけど、注文が多過ぎて今は外注さんに出してるの」


 外注に出すと出銭になるが、他の工房を利用することで利益を独占していると良からぬ批判を減らす為、バルドーさんがそう決めたのだ。


「ストックが足りないから、販売開始はまだ少し先になるけど、売りに出されたら貴女も買ってね。

 ちょっとパパを呼んでくるわ」

とエリスちゃんが席を立つが、すぐに戻ってきた。


「クレストさん、パパとママが話があるって。ちょっと中に入って」

「…そう。ロイ、ルーチェ、お店の商品で欲しいのがあったら後で買うから言って。

 オリビアさんは文字を読んであげて」

「わかった」

「うん、見てるの!」

「畏まりました」


 三人を店内に残して奥に入ると、

「まさか来るとは思わんかった」

とバルドーさん。そりゃそうだよね。


「教会に子供達を連れて行く道だったので」

「教会? あぁ贖罪のか?」

「えぇ、スラムから保護した子供達ですからね。

 それで、契約の話ですよね?」

「そうよ。レイドル副部長にはクレストさんが全面的に悪いから気にするなと言われたけどね」

「あんにゃろうめ、好き勝手を言いやがって」

「勿論それは冗談でしょうね。

 参加メンバーは順次商業ギルドで契約を結ぶように通達が出されたわ。

 チャムさんも今朝行ってきたわょ。副部長にキツく言われたらしくて、少しは反省してるみたいね」


 前言撤回、レイドル副部長様、ありがとうございますっ!


「冷却期間を設ける為、まだチャムさんには会わん方が良いじゃろうな。

 ホクドウは明日家に届けに行く予定だ。楽しみにしていろよ」

「請求書も忘れないでね。琵琶の木材も全部譲ってもらったし」

「そっちは買い値で渡すから安心しろ」


 実験室の様子を聞いてから店内に戻ると、ロイが木剣を持って嬉しそうにしていた。

 この店に木剣なんてあったかな?


「あー、その木剣はお父さんが昔使ってた奴。

 お下がりだけど、ロイ君が剣の修行をするそうだからプレゼントするわ。

 良かったら何本か仕入れとくわよ」

「じゃあ何本か頼むよ。」

「オッケー。良さげなの探しておくわ。

 で、ホクドウはパパが明日納品に行くって言ってたでしょ?」 

「ちょっと店員さん、対応が雑過ぎないかしら?」

「…クレスト様、私の対応はいかがでしょうか?」


 聞き慣れないエリスちゃんの丁寧な口調は違和感だらけで俺には合わないな。慣れって怖い。


「エリスちゃん、頼むから普通に接してくれ。鳥肌が立つから。

 オリビアさん、この店は俺のお気に入りだから目を瞑ってね。気楽に入れるお店が無くなるのは困るから。

 二人とも俺の協力者だから仲良くして欲しいんだ」


 そう言われると、オリビアさんも引き下がるしか無いようだね。


「エリスさん、失礼致しました」


と謝るオリビアさんにはまだ少し棘があるけど、そのうち無くなると期待しよう。

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