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スライム×3+骸骨×1≒人間です。(リメイク版)【第一部として完結】  作者: 遊豆兎
第6章 登山の前にキチンと準備を整えよう
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第90話 鋼材店にご挨拶

 カンファー家とは距離を置くことに決めたらしいビリーの姉のリイナさんが、何故か突然俺に付き合ってくれと告白してきたのだ。

 そんなのは却下に決まっている。


「リイナ嬢、お気持ちは分からないでもないのですが、暫くは親方様に何を言っても無駄で御座います」

とやんわりとした口調でブリュナーさんが彼女を諭す。


 いやいや、なんで気持ちが分かるのよ?


 改めて彼女を見ると、二十歳前後で俺より少し年上って感じか。

 見た目も極端な美人って訳ではないけど、十分に美少女の範囲に入るだろう。


 つまりはあれか、付き合っている男性がいないのなら親の決めた相手と結婚させられるってやつ。


 そんなのに俺が関わり合っている暇は無いんだよね。


「クレスト様に既に意中の方が居られるのは存じております。

 私は第二、三夫人でも構いませんので、どうかご再考を!」

「…はぁ、人の気持ちを全然考えないような人とは、お付き合いなんて出来ませんよ。

 お引き取りください」


 俺の意中の人って誰のことだろ?

 一番顔を合わせているエリスちゃんのことかな? それなら完全に誤解なんだけど。


 それにしても、ディアーズやカンファー家のことをロクに調べようともしないこの人と付き合うのは、俺にとってデメリットしか無さそうだ。

 今後どんなトラブルを運んでくるか分かったもんじゃないからね。

 そりゃ、トラブル体質は俺自身にも言えることだけどさ。


「でも我が家はリミエンで一番の武器店なんですよ!

 あなたの役に立ちますわ!」

「何を言ってるの?

 俺さ、リミエンで売ってる武器には興味が無いんでお宅の武器に用は無いし。

 ディアーズと違って財産もいらないし。

 それにそう言うことを言う人、嫌いだから話にならない。

 もう一度言います。お引き取りください」


 彼女の境遇に多少の同情はするけど、だからと言って付き合えるかと言うと一切考える余地は無い。

 だから下手に希望を持たせるより、嫌われるぐらいの方が良いと思う。


「リイナ嬢。それ以上言えば余計に嫌われるだけです。

 親方様は好き嫌いをハッキリと仰られる方ですし、既に財産も十分に御座います。

 怒らせる前に立ち去られる方が賢明であると察して戴きたく存じます」

とブリュナーさんが静かに言うと、少し頭を下げて先に歩き出していた俺の後を追う。


 すると背後から、

「でも…好きなら辞めとけとは言わないって言ったじゃないですかっ!

 私、クレストさんのことが好きになったんですっ!」

「はぁっ!?

 ディアーズのことに決まってるでしょ!

 あんた馬鹿?」


 これ、恐らくもう誰でも良いからムキになってるパターンだと思う。

 こんなのまともに相手にするのは時間の無駄だが、放置すると状況はこちらに不利になるか知れない。

 彼女があること無いこと言いふらし始める可能性もある。


 少し寄り道になったが、ファロス武器店に彼女を送って行き、ブリュナーさんに当主と話を付けてもらった。俺は一切ノータッチだからどんな状況だったかは分からない。

 話が終わって出てきたブリュナーさんが珍しく仏頂面だったのは、余程説得に苦労したのか、それとも当主までポンコツだったのか。


「本当に厄介な人達で御座いましたな」

「マジ勘弁だね」

「でさ、リミエンで彼女の相手になりそうな人って居ないの?」

「それなりの家格で二十歳前後の男性、と言う条件で私の頭に入っている人物で言いますと…確かに親方様以外にお勧めの出来る方はおりませんね。

 ファロス家は武器商でありますので、リミエンではなく他領に嫁に出す可能性が高いでしょう」


 たった今、ブリュナーさんの持つデータベースの信頼性が少し揺らいだぞ。

 俺は平民で、しかも市民権も持っていないんだ。家格なんて最低レベルじゃないかよ。


「俺の対応、言質も取られていないよね?」

「そうですね。概ね問題は無いかと。

 ですが、好き嫌いを除けば彼女との結婚はそう悪い話では無いと思われます。

 今日のところは引いていただけましたが、今後ファロス家当主が親方様を望むか望まないか、と言うところでしょうか」


 そう言う可能性があるの?

 そうか、名を知られる程にそう言う面倒な話も出てくるようになるんだった。


「どうせなら好きな女性と結婚させてよ」

「勿論で御座います。

 ビステルさん以外であれば、私は親方様の周囲に居られる方であれば、どなたを選ばれても問題無いと思います。

 まだ親方様はそう言うつもりは無いようですから、これ以上の発言は控えますが」


 シエルさん、オリビアさんのことか。確かに悪い人達じゃないと思うよ。

 でも最初に言った通り、彼女達とは雇用関係以上の結び付きを持つつもりは無いからね。


 その後はブリュナーさんと油と塩を扱うダミー商会の話をしながら馬車工房に向かう。

 ボーゲンさんとステラさんの二人と月契約を結んで、荷馬車と乗用馬車三台ずつを発注して工房を出た。


 ちなみにステラさんは普通の馬車を製造しないので、ボーゲンさんの作る馬車の改造をお願いしておいた。


 改造した荷馬車はどれもイベント会場の建設や人員輸送に利用する為のもので、土砂の運搬用に荷台がグイッと持ち上がるようにしたタイプ、チェーンブロックを装備した簡易式レッカー&クレーン車、ウイングボディのように開くコンテナ車だ。


 乗用馬車は少しでも多くの乗客を乗せて運べるようにと設計を丸投げした。

 今まで金持ちの道楽に付き合ってアホな改造ばかりしてきたステラさんには、どれも目新しい物ばかりだろう。


 馬車の設計が終われば商業ギルドの三階の対策本部へ持って行くようにと伝えたので、これでステラさんも対策本部の仲間入りだな、と内心で舌を出す。


 次にやらなきゃいけないのは、フレームに使う鉄パイプの手配かな。

 鋼材店に行くならビステルさんを連れて行くべきか。

 ついでだからブリュナーさんもビステルさんちに連れて行こう。今日から暫くは厨房の改築をやってるので、調理が出来ないからブリュナーさんも時間が取れるし。


 そう言う訳でビステルさんの工房のドアをノックする。


「はいよー、なんか用かい?」


 前と変わらない応対でビステルさんがドアを開ける。


「おや、クレちゃんか。ボタンが出来たから入って入って」

「ビステルさん、こんにちは。今日は私も居ります。お邪魔させて戴きます」

「ああ、昨日は済まなかったね。それとワインのお土産有難う御座います」


 以外にも丁寧な挨拶だ。

 どうやら不躾ってスキルは常時発動ではないらしい。俺の『骸骨さん発動』スキルみたいなものか。


 不躾スキルのことはブリュナーさんに教えてある。アルコールが入ったり気が緩んだ時にウッカリ発動するのか知れませんね、と言っているので彼女とお酒を飲むのは控えた方が良いだろう。


 工房内にある彼女の作品を手に取ったブリュナーさんがやたら感心しているので、やはり鍛冶師としての腕は誰しもが認める超一流なのだと思う。


「じゃあ、これが注文のセラドットボタン二十セットだ。

 確認してくれ」


 テーブルに並べられたドットボタンは渋い焦げ茶色で、蝶と三日月が僅かに盛り上がった線で描かれている。

 衣服に装着する為の専用工具も用意されていた。


「それがボタンですか?」

とドットボタンを初めて見るブリュナーさんが興味を持ったようだ。


 サンプルとしてサイズ違いの二組が布切れに装着済みの状態で用意されていて、自信たっぷりにブリュナーさんの前でカチッと着脱を二回繰り返した。


「これが勇者の世界から持ち込まれたセラドットボタンの再現だ。

 他の奴らはセラドボタンと呼ぶみたいだけど」


 大きな方のサンプルを先に手に取って試してみると、慣れ親しんだ感触が指に伝わった。

 大人のブリュナーさんもその感触が楽しいのか、何度も脱着を繰り返して調子を確かめてもいる。


「腕が良いと聞いておりましたが、まさかこれ程の物を作り上げるとはお見逸れ致しました。

 このボタンを使ったナイフホルダーがあれば、どれだけラクだったことか」

「…ははは」


 ブリュナーさんが脇の辺りからナイフを取り出す仕草をしながら真面目な顔で言うものだから、ビステルさんが反応に困りながら引き攣り笑いを見せる。

 確かにこのボタンならパッと開けて取り出せるだろうね。でもなんて殺伐とした感想なんだろね。


「ビステルさん、お願いしていた物の順番を変えたいんだけど大丈夫かな?」

「材料を買いに行かなきゃならないから大丈夫だけど。何を先に作る?

 頼まれてるのは、スライド式留め具、鏡、馬車の順番だよね」


 ビステルさんが俺のオーダーを買いた鉄板の前にスタンバイする。


「じゃあスライド式留め具は最後にね。

 それで鏡をウチ、マーカスさん、商業ギルドの一つずつ置くようして三個に変更」

「アタイの分は無し?」

「ご自分用のは好きな形で作ってくださいよ。

 ただの長方形なのを作っても面白くはないでしょ?」


 鏡のことも夕食後にブリュナーさんに説明してあるから、ここで初耳だと慌てることも無い。

 やっぱり日頃からのホウレンソウは大事だよね。


「で、ボーゲンさんとステラさんの二人と契約を結んだので、馬車になるべく早く着手するつもりなんだ」

「えっ…えーっ! 嘘でしょ? マジなの?

 あの二人とも口説けたんだ…信じられない」


 予想通りに驚いてくれて嬉しいね。

 ボーゲンさんとステラさんの二人は『早贄』のブリュナーさんがウチの家令をしていることに驚いていたけどね。


「理を説いて誠心誠意お願いしたら、意外と快く受けて貰えましたよ」

「アンタ、人(たら)しの才能あるわね」


 実際は瓢箪から駒じゃ無くて、冗談から困ってた、みたいな感じの話なんだけど。

 二軒とも経営が苦しかったことを、彼女に教える必要は無いもんね。


「それで、ボーゲンさんの所で荷馬車と乗用馬車の三台ずつ作って、それが出来たらステラさんの所で改造をしてもらう。

 その間に二人に詳細設計をしてもらうようにしてきたから。

 ビステルさん、今から鋼材の手配に行きましょう」

「随分と急だねぇ。

 ま、今はクレちゃんの仕事しか入ってないから構わないけどさ」



 巨大な溶鉱炉を有する製鋼所は領営である。

 これは有事の際の鉄の分配で過去に大揉めしたことが理由らしい。

 地球でもインドなど国営の製鉄所を有する国は幾つも存在するので、そうおかしな訳ではない。


 おかしいのは、地・水・火・風の四大属性魔法に適正のある人や錬金術師を求める立て看板がデカデカと幾つも立てられていることぐらいだろう。

 いや、それだってこの世界のスタンダードで言えばおかしな話ではないのだろう。


 道理で製鉄所が町に近い位置にあるのに、奇妙な程に空気が綺麗な訳だ。

 てっきり酸素還元などの化学的手法で生産されているのだと思っていたのだが、魔法的手法による力技で鉄や鋼を作り出しているのだから。

 これなら製造の難しいチタンが流通していてもおかしくないと思った。


 しかし、やっぱり鍛冶師の多い区画は街の賑やかさと打って違ってカンカン、ガンガンと煩いことこの上ない。

 日本でも町工場の集まる区域を歩けばこんな音をさせていたよな、なんて地球に居た頃のことを思い出す。


 溶けた鉄や色々な不純物の独特な臭いは魔法で上手く消せているようだが、消音までは無理なのだろう。

 そのせいか、どの工房の中からも聞こえる男達の声は滅茶苦茶大きいのだ。


 これは早いとこビステルさんがよく利用する鋼材店を訪れて目的を達し、早くここを出ようと思っていた矢先、長い鉄パイプの束を肩に担いで運ぶ男性を見付けた。


 筋骨隆々、鉄パイプをまるで少林寺で使う棍棒のように楽々と運んでいるが、あれで軽く五十キロは越えている筈。


 その男性が鉄パイプの束を倉庫に仕舞ってから出てくるのを待つ。


 ガッシャーンと派手に音を立てながらパイプを仕舞った男性にビステルさんが声をかけた。


「ようグレック。鋼材を分けて貰えるか?」

「それがウチの仕事だ。好きなの持って行きな。それにしても今日は男連れとは珍しいが、どうした?」

「アタイの新しい客だよ」


 ジロリと俺を見て、

「そうだよな、アンタに男が出来ると思えないし」

と冗談ぽく言うと、

「相変わらず失礼なやつだ。ま、そうなんだけど」

と、いつもの遣り取りなのか、ビステルさんも怒らず軽く流すのだ。

 グレックさんは忙しいのか、それ以上は喋らずさっさと工房のある建物へと戻っていった。


 ビステルさんに案内されて『ラファクト鋼材店』と看板の掲げられた店内に入る。

 中には鋼材店らしく各種鋼材のサンプルが所狭しと並べられていた。

 素材としては鉄、鋼、銅、青銅、真鍮、錫等があるようだ。


「クレちゃん、パイプは建築用鉄骨で良いのか?」

とパイプのカタログが手渡された。

 サイズは規格化されていて、材質、直径、肉厚が選べるようになっているようだ。


 それとパイプとパイプを接続するための継手のエルボー、ティー、クロス(コーナー部の部品でL字、T字、十字)なども用意されていて、思ったより近代化されていたラインナップに驚いてしまう。

 ホームセンターの鋼材コーナー並にバリエーションがあるかも知れないな。


「折角だから、鉄より軽くて丈夫な金属を使いましょう。

 普通の鍛冶師に扱うのは難しく、ビステルさんにしか扱えない材料ですよ」

と言ってカタログの最後のページを示す。


 商業ギルドで見た目録の中に、比重が鉄の六割程で鉄より硬い材料があったんだよ。

 恐らくチタンに相当する鋼材だろう。

 融点が鉄より高く、加工性が悪いのでどこの鍛冶師にも見向きもされていないんだけど、リミエンの近くで採掘が可能な資源らしい。


 金属加工に特化したビステルさんのスキルなら、恐らくチタンでも加工出来ると期待している。


 勿論チタンを使うのは俺とビステルさん用の二台だけだ。市販用には鉄パイプを使う。

 ビステルさんが居なけりゃ製作もメンテナンスも出来ないような製品を流通させる訳にいかないからね。


 本当はアルミ合金が一番良いんだけど、取り扱っていないんだ。

 そりゃそうだろ、アルミを使えるようにするには水酸化ナトリウム溶液で溶かしたり、大量の電力を使って製錬しなきゃならないんだから。

 その知識と完成形を知らなきゃ、幾ら魔法が万能と言っても未知の素材に到達できる訳がない。


 酸化チタンとして自然界に存在し、技術的に酸素還元の難しいチタンなのに、ここでは魔法のお陰か普通に鉄鋼材料として流通してることに感謝だよ。

 

「タイタニウムかい。確かに軽くて丈夫だけど、普通の鍛冶師にゃ扱えない素材だわ。

 お値段も凄いけどな」


 ビステルさんの指が示す価格表を見ると、各種鋼材はキロ単位で価格設定がされており、タイタニウムは鋼の約六倍の価格である。

 希少性ではなく、製錬する手間がそれだけ多く掛かると言うことだろう。


 タイタニウムは鋼より遥かに丈夫な素材であるので、鉄パイプより直径を細くすることが可能だ。

 だけど後々鉄パイプのフレームで作ることを考えて、パイプの直径は変えないことにした。


 店の奥から出て来た店主が開口一番、

「ビステルが男連れで来てると思えば『鋼拳』に『早贄』じゃねえか。

 何処かにカチコミ入れるつもりか?」

とニヤリと笑いながら聞いてきた。


 背丈はさっきのグレックさんより頭一つ分は低そうだけど、パンパンに張った筋肉の量はリミエンで見たどの男性にも負けていないだろう。


「イヤだなぁ、俺もブリュナーさんも平和主義者ですよ」

「衛兵隊長に喧嘩を売る奴がよく言うもんだな」


 おいおい、初対面でそれは無いだろ?

 それにしても、誰がそんなの言いふらしてんだよ? 

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