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スライム×3+骸骨×1≒人間です。(リメイク版)【第一部として完結】  作者: 遊豆兎
第6章 登山の前にキチンと準備を整えよう
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第86話 カードホルダーを作ったら

 商業ギルドのギルドマスターは正体不明だった。

 顔を見せると不都合があるとか言ってたけど、まさか桜吹雪の彫り物をした遠山の偉い人みたいなノリで悪人をバッサバッサと切り倒してんじゃないだろうね?


 そのギルドマスターが俺をいきなり金貨級にランク付けしたのは、ありがた迷惑以外の何物でも無い。ランク付けの基準を明確にしてもらいたいものだ。


 あと、ベンディ馬車工房のベンディさんはかなりの派手好きだった。

 絶対俺とは性格が合わないから徹底的に避けることにした。


 二軒ある馬車工房のうち、商業ギルドから近いボルグス馬車工房を目指すことにしようとしたのだが、その方向には顔を見たくない衛兵隊長の姿があったので予定変更、回れ右をした。


 別に悪い事をやってる訳ではないが、お巡りさんを見たら条件反射で逃げ出す犯罪者の心理が分かったような気がする。


 仕方なく暫く彷徨(うろつ)いてみると正直何を扱う店か分からない店もあって、看板を見て何の店なのかと想像するのも面白い。


「ここは雑貨店か」


 お買い物マップも冒険者ギルドで作成中のはずだが、俺はそっちには関与していないのでほとんどお店を知らない。

 ロイ達の服を買ったのは大通りにあった総合雑貨の店で、そこを選んだのは単に宿屋までの道沿いにあったからである。


 今居るのは大通りから一本離れた通りで、大通り比べると少し規模は小さくなるが、その分店舗の数は多くなる。


 そして目の前の雑貨店は周りのお店と比べると少し控え目…ハッキリ言うと小さな建物だ。

 だがこの店が気になったのは、店のサイズでは無く看板の絵のせいだ。

 何となく何処かのゆるキャラを彷彿とするイラストが描かれているのだ。


 例えばエメルダ雑貨店なら魔女が箒に乗って荷物を届けるアニメ映画の黒猫のようなイラストが書かれている。

 他の店でも極端なデフォルメされたイラストは存在しない。


 某SNSの青い鳥のようなシンプルなシルエットの鳥や馬、王冠などシンボル的な図柄は沢山ある。

 それなのに、オレンジ色で二頭身のまん丸い犬のゆるキャラみたいなイラストが書かれていると、この店だけは明らかに世界が違って見えるのだ。


 この店、まさか転生者の店か?

 意を決してドアを開けると、あまりヤル気の無さそうな俺と同じくらいの年齢の青年?(見ようによっては女性にも見えなくない)がカウンターに座り頭の後ろで手を組んでいた。


 休憩したり考え事をしたりする時に無意識にやるやつだ。


「こんにちは」

「…こんにちは。いらっしゃいませ?」

「何故に疑問形で出迎える?」


 明らかにヤル気が無さそうだ。店も薄暗いし、如何にも倒産寸前と思わせる。


「今テンション低いから」

「いや、アンタの精神状態は知らないし」


 面白い店番だな。弄って遊ぶにはちょうど良さそうだ。


 棚にズラリと並ぶのは木製のゆるキャラぽいフィギュアと言うか、なんと言うか。

 これでチェスとかしたら子供に受けそうだ。


 他にも黒いクマのゆるキャラっぽいのは鋳造品で、薄い鉄板を曲げたり伸ばしたりして作っているのは世界的に有名なネズミのカップルに似ているのだ。


 この世界では見ないような独創的な商品開発をしている訳だな。

 だがこの様子を見ると売れていないのか?


 試しに一つ、腹巻きを巻いた鳥に似たゆるキャラのようなフィギュアを手に取ってみると、意外と手が込んでいるのが分かる。

 なんと腹巻きは金属製(恐らく錫)で着脱可能なのだ。無駄に高機能な製品だな。


「この玩具、アンタが作ったのか?」

と、ゆるキャラ擬きの腹巻きを元に戻して青年に見せる。


「…売れると思ったんだ。でもサッパリ」

とお手上げのポーズを取る。


 無駄に手先は器用なのに、売れるか売れないかの判断を誤って自滅するパターンか。

 これは惜しい。

 バルドーさんには悪いが、ここを俺の第二の憩いの場にさせてもらおうか。

 あのオバサンのせいでエメルダ雑貨店には行けなくなったからね。


「腕は良いのにね。

 そうだ、一つ商品を作ってくれないかな?」

「何? 可愛くない物は作らないよ」


 ビステルさんが難しい物しか作らないように、この人は可愛い物しか作らないパターンなのか。

 可愛い小物は俺が持つには抵抗があるんだが、ルーチェや女性陣には受けるよね。


 でもその前に、前から作ろうと思って忘れてたカードケースを作ってもらおうか。


「可愛いくするのは後でも出来るよ。

 別パーツで予め作っておいて、それを貼り付けるのもありだよね?」


 腕を組んだままの姿勢で目を閉じると、暫く考えたようで青年?が首を横に振って、

「それは無い。ワンポイントでも良いから、何か入れておきたい」

と我が儘を言うのだ。


 俺が持っても違和感の無い可愛い物ね…頭の中で世界中のキャラクターを検索し、

「じゃあ、こんなキャラクターを入れてくれ」

と言って、犬の相棒の黄色い鳥に決めて勝手に鉄板に書き始めた。

 線の数も少なくて描くのは非常に簡単だ。


「基本はこんな感じ。

 バリエーションに帽子を被らせるとか、片眼がねを掛けさせるとかしても」

と三体のウッドなストックのイラストを描く。


「天才かっ!」


 暫く黙って鳥のキャラクターを眺めていた青年?が突然立ち上がって俺の手を取る。


 声は女性ぽいんだけど、この年齢でこのサイズだと男にも見える…分厚い前掛けのせいで潰れているだけかも知れないけど…どこが?と聞かないように。

 初対面なのに男か女かと聞くのも失礼だし。


「それで何を作れば良い? 今なら領主館の合い鍵でも作れそうな気分だ」

と物騒な事を言う。

 多分冗談だと思うけど、冗談だよな?


「試させて貰うようで悪いが、カードホルダーを頼む」

「なんだよ、それ?」


 別の鉄板を借りて、薄い板で作るケースの絵を書く。

 と言っても一番裏側は長方形の板で。

 二枚目の板はカードとほぼ厚みで凵の形。

 三枚目はカードが落ちないように、且つ字が読めるように□の枠で抑えるだけだ。


 本当は透明のプラスチックで作るのが一番良いのだが、まだお隣のシャリア伯爵領で作られたばかりの新素材がゲット出来ていないので諦めた。


「それにギルドカードを入れてどうするの?」

「革紐を通して首から提げるか、胸ポケットに挟んで止めれば、相手が誰か一目で分かるだろ」

「常に自分のカードを人に見せる訳?

 ちょっと恥ずかしいかな」


 名札の文化が無いとそう思うのか。

 でも最近、何故か一度に沢山の人に合う機会が多くなって名前を覚えきれないんだよな。


「そのうち、ギルドの職員は皆これを付けるようになるから」


 勿論デマカセだが、多くの企業も採用してるんだからこっちの世界でも有用性はあるはず。


「売るのはギルドだけなの?」

「冒険者にも持たせたい。

 だって革袋に入れて首から提げてるらしいし。汚いよね」


 俺は無くさないようにアイテムボックスに入れてるけどね。

 でも町中に居るときは良いけど、戦闘中に首からブラブラさせてたら邪魔になるか。


 それにしても、男は服の中にカードを入れててもそう気にならないだろうけど、女性は気になるんじゃないかな?

 そう言う人はバッグに入れているんだろうけどね。


「でも昔からそう言うもんだし。

 ま、一つは作ってあげるよ。大した手間じゃないしさ。

 その代わり、その鳥のイラストの他にも教えてくれない?」

「お安い御用だ。

 あ、俺はクレスト。冒険者だ。よろしくね」

「やっぱりか。そうだと思った。

 …俺はシオン。よろしく」


 この髪の色でだいたい俺だと思われるんだよな。試しに一回カツラを使ってみるか。


 俺の事はどうでも良くて、シオンって言う名前は、男女どちらにも使えるな。それにこの世界の名前は馴染みが無いから余計に判断が付かない。


 シオンは髪も肩口までしか伸ばしてないし、ほんと中性だよな。

 ワザと女性だと思われないように男装する人も居るかも知れないし、本人が一人称で俺と言ってるんだから男性と言うことにしておこう。


 カードホルダーが出来るまで、適当に著作権侵害のキャラクターを書いて時間を潰しますかね。

 個人が楽しむ分には書いても良いけど、お金儲けに使ったらアウトなんだよね。


 でも異世界だから問題ないだろう。

 ただし、他の転生者とか召喚された勇者が先にこのキャラで稼いでいたなら判定は微妙だけどね。 


 何を書こうか。

 ウッドなストックの相棒の犬は確実にラインナップ入りだけど、それ以外で…ボムボムなプリリン、双子の危機ララ、アイスクリームのガチガチ君、スナック菓子のガール叔父さん…まずはこんなところか。


 奥にある工房からシオンが戻って来たタイミングでキャラクターを描くのをやめる。


 俺の描いたのは後で見せるとして、シオンの作った作品を見せてもらおうか。


「カードには本人認証で右下を触ることがあるので、そこは切り欠いたよ」

と自分の銅色のカードを入れて、カードの右下を触れて本人確認をしてみせる。


「そうだったね。忘れてたよ」


 あまり使う機会が無いので、ギルドカードのハイテク機能の事がすっかり抜け落ちてたわ。


「それとクレストさんの仕様だと、一度カードを入れると出すのが難しいので、裏の板には切り欠きを入れといた」

と言って裏面を見せると、左右の端にUの字型の切り欠きがしてある。


 左右どちらからでも直接カードを指で押し出せるようにしたってことだな。

 上に出すようにしなかったのは吊り紐に当たるからか。


 紐を通す為の穴は開いているけど、紐は別売りか。確かに好みがあるからそれで良いだろう。

 胸ポケットに止める為のクリップもオプションで、付けるかどうか客に聞いてから加工するそうだ。

 紐とクリップは別売りにして、人との差別化を図れるようにするつもりだな。やるじゃないか。


 出来たてのホルダーに自分のカードを出し入れして、問題が無い事を確認してみた。

 一番後ろの板にウッドなストックが掘られていて、カードを出した時にお目見えする。この程度なら俺でも普段使いが出来る。

 そのウッドなストックの形の溝には何かの焦げ茶色の樹脂が流し込んであり、それが滑り止めの効果をもたらしているのでビックリポン。


「良い腕してるよ、大したもんだ」

「ありがとうございます。

 これなら板自体を可愛い形にしても良いし、前面のフレームに小さなキャラクターを掘っても良いね」


 既にシオンの頭の中にはバリエーション展開が始まったようだ。

 やる気になってくれたようだし、さっき描いたキャラクターを見せてやるか。全部パクリだが気にするな!


「まずは正体不明のマッドストックの相棒、スムージー!」

「ぅわ~っ、可愛い!面白い!性格悪そう!」


 拍手でスムージーに改名したビーグル犬のキャラが迎え入れられた。

 チャールズさんも自分の生み出したキャラの異世界デビューに大満足だろう。


 続けて双子の危機ララも大絶賛され、氷菓のパッケージをイメージしたガチガチ君は却下されたが、ガール叔父さんはシオンの中ではギリギリセーフだったようだ。


「マッドストックとスムージー、ボムボムプリリンと危機ララが同じ画風でペアみたいだね。

 ガール叔父さんだけ別クチみたい。

 でもリミエンは農業都市だから農家のキャラが居ても良いの」


 シオンが意外と真面目に考え始め、

「クレストさん、弟子にしてください」

と土下座を始めそうな勢いになったので慌てて止めた。

 パクリのキャラを描いただけで弟子が取れる訳が無い。俺は二次創作作家未満なんだよ。


「俺は冒険者だからな、暇なときしかここには来ないし。

 原案は出したけど、これらのキャラは形を変えたりアレンジして、もっとコンラッドの人のハートを掴めるように改良しなきゃダメだ。

 それはこれからのシオンの仕事だ」

「…分かりました。

 『鋼拳(スティールナックル)の』クレストさんに弟子入りしようなんて、甘えすぎました」


 今なんて言った?

 まさか、俺に二つ名が付けられたとか?

 怪しい時はステータスさんの出番だな。原理も信頼性も分からんけど。

 心の中で『ステータスオープン』と唱えると網膜に文字が映し出された。


氏名:クレスト

性別:男性

年齢:十八歳

種族:ハーフエルフ

職業:(自称)冒険者

出身地:キリアス

所属:リミエン冒険者ギルド、リミエン商業ギルド

称号:鋼拳

犯罪歴:無し


 …いつの間にか称号が付いてる。

 誰かが言いだしたのか?

 それとも昨日、兄貴を厨二病患者用グローブを付けて倒したのがフラグになってたのか?


 鉄拳じゃ無くて鋼拳なんて、めちゃくちゃ格好良いんだけど、褒め殺しにするつもり? 


 いや、そっちより何で職業欄に自称が付いてんだ?

 ちょっとステータスさん、これは酷くない?

体操服に大きく名前を書く意味は分からんけど。昔から小さく書いてても良かったんじゃね?

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