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スライム×3+骸骨×1≒人間です。(リメイク版)【第一部として完結】  作者: 遊豆兎
第6章 登山の前にキチンと準備を整えよう
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第85話 商業ギルドのギルドマスター

 レイドル副部長の秘書イスルさんが実はめちゃくちゃ怖い人だった。

 チャムさんの事なんかもうどうでも良いと思えるぐらいだ。


 そのチャムさんが切っ掛けで、レイドル副部長が上の人に話をしてくれる事になった。


「クレストさんは執行猶予中なのでくれぐれも気を付けてください。

 不本意ながらお相手を致しますが、セクハラ以外で何かネタはありますか?」

「えーっと、昨日の帰りにレイドルさんに教えたやつで、保温バッグと保温カップから。

 保温カップは来年のイベントの候補だから」


 鉄板に三層構造の保温バッグ(トートバッグ)と保温カップのイラストを書いて行く。

 伯爵用に蒸し焼きにした炭化コルクを使ったカップを作ってもらおうかな。


「その買い物用のバッグは、どれぐらいの時間熱々を保てる?」

「試してみなきゃ分からないから、一回作ってみる?

 本当はコルクの粒を型に填めて高温の蒸気加熱しながら圧力を掛けて作る炭化コルクの方がもっと断熱性能が高いんだけどね」

「なるほど。スレニア、聞いた?

 レイドル本部長のツケでバッグの材料、買ってきて。作るの得意でしょ?」

「アイアイサーっ!

 クレタン、すぐ買ってくる!」


 シュタッとクチで効果音を出しながら、スレニアさんがサッとドアから出ていった。

 喜んで行ってくれたのは有難いけど、今度は『クレタン』かよ。

 皆好きに呼んでくれるよな。


 昨日馬車の中で保温カップを書いた鉄板はレイドル副部長の机に置いてあったらしく、イスルさんも興味があったようで何よりだ。


「あと、今朝一番で本部長が筆記具用に色々と材料を集めさせていたわ。

 どんな物が出来るの?

 羽根ペンより便利な物が出来たら、執行猶予は無しにしてあげるわよ」


 えーと…それって即執行ってことになるけど、なんで? 本当にもぐつもり?


 本当、商業ギルドって癖の強い人が多いよね。

 少し恐怖を感じながら鉛筆、色鉛筆、クレヨン、フェルトペンを紹介すると、鉛筆は削って使うペンと言う意味でシャープンペン→語呂が悪いのでシャーペンと呼ばれることになり、色鉛筆は色付きなのでカラーシャーペン、クレヨンは蝋のペンなのでワックスペンと名前を変えて呼ばれることになった。


 唯一フェルトペンだけそのままの名前で呼ばれることになった。


 実際鉛を使わず作るのだから鉛筆はおかしいと納得出来るが、よりによって鉛筆をシャーペンと呼ぶとはね。

 元日本人の俺には受け入れ難いが仕方ない。


 買い出しに出たスレニアさんを待つ為に、昨日レイドル副部長には教えなかったパステル(顔料、貝殻を焼いて作った炭酸カルシウム、接着剤としてのゴムを混ぜて作る)を追加で教えるとレイドルさんより知っている物が増えたことでイスルさんの機嫌が良くなった。


 どれも本当に作れるかどうかは試してみないと分からないし、俺は実際に作ったことなんて無いからザックリとした材料しか教えられないんだけどね。

 後は製品開発部の人達に全部お任せするしかない。


 イスルさんに各種筆記用具の製法を話をしていると、部屋に居た他の職員達も興味が湧いたのか一緒になって聞いたりメモを取っていた。


「今年はマジックハンド、来年が保温カップなら、再来年は筆記具の見本市が開催出来そうですね」

「それなら玩具の見本市も良いよね」

「魔道具は無理でも、機械や道具の展示会はどうだ?」

「それは客が限定されるからダメなやつ」

「筆記具限定じゃなくて文房具展にしませんか?」


 こんな感じでアイデアが出てくるようになったのは良い進歩だと思う。

 ついさっきまでは会話も何も無く、机に向かって便秘の人が唸っているんじゃないかと勘違いしそうな様子だったもんね。


 それから暫くしてレイドル副部長が戻ってきた。

 

「クレスト君、ギルドカードが出来ていたから渡してやる。無くすなよ」

とニヤリと笑って見せたカードは金色だった。


「なんで?」

「あのな…まぁ良い、教えてやろうか。

 商業ギルドのランクは冒険者ギルドと違って強さで決まる。

 商業ギルドに於ける強さとはなんだと思う?」


 普通に考えれば、経済力か売上げか。

 でも親から受け継いだ資産を考えると、経済力は産まれた家庭によって違うから評価基準に用いるのは不公平か。

 売上げも同様だよな。大きな店を継げば当然売上げも多い。

 だとしたら何だ?


「個人の資質を重視しなきゃならないのは分かったけど、後は分からない」

「ほぼ正解だ。ギルドマスターがそいつの資質と社会に対する影響力を見極めて決めるんだよ。

 ウチのギルドマスターがオマエには金貨級の価値があると認めた訳だ。

 大金貨級にならなかったのは性格の問題だとよ」


 いきなり金貨級なんて冗談じゃないよ。

 商売なんて全然していないんだから、これは明らかにミスジャッジでしょ?


「納得が行かないか?

 だが、ミレットさんの屋台をいきなり大繁盛に導いた手腕がある。

 お前がもし大して金も持たず、屋台を引いていたとしたら、とっくにその辺の屋台を全部傘下に入れているぐらいの影響力があるのは間違いない」


 そうなの? ミレットさんのは偶々たくさん焼いたら匂いが強くなって遠くまで届いたって言う偶然なんだよ。


「それに新型洗浄剤と紙作り。

 偶然の産物にせよ、既に製品開発部にエメルダさんが固形洗浄剤を持ち込んでいるんだ。

 お前が自分一人でやっても良かったんだろ?

 その方がチャムさんとやらのような馬鹿がゴタゴタも起きずに済むから精神的にラクなはずだ」


 もしルケイドの家が金に困っていなければ、ルケイドが先に石鹸を作っていただろう…いや、違うな、金が無かったから作ろうとしてたんだよな。

 やっぱり転生者って、ビステルさんのように何もしないのが波風立てずに暮らすのには一番利口だったのかもな。


「ウチのギルドマスターはライエルと違って表には出ないからな。

 面が割れると色々と不都合があるからな」

「はい?」


 どんな不都合だよ?

 組織のトップがそんなんで良いのか?


 覆面社長なんて初めて聞いたぞ。どんな爺さんか知らないけど、家族もギルマスやってることを知らないとかだったらびっくりだ。

 秘密結社みたいで面白いけどね。


 でも、偉い人の知り合いが増えなくて良かったと思えばこれは有難い。

 商業ギルドの方がランクが上…なのは内緒にしておくか。世界に影響を与えるトップ何人みたいな感じで気持ち悪いからね。


「エメルダさんの仲間関係はこっちで処理する。

 お前は暫くあそこには顔を出すなよ。ややこしくなるからな。

 大人しく山に行く準備を整えていろ。それと、余り派手なことはやってくれるな」

「へいへい、そうさせてもらいます」

「よし、じゃあ帰っていいぞ。作れそうな物から作らせるからな。

 ああ、昨日言ってた諸々の詳しい作り方は家に帰ってから紙に書いておいてくれ」


 用事は終わったと、シッシと追い払うように手を振るので有難く退散することにしよう。

 クルリと振り返ってドアを通ろうとしたところで、

「あっ、一つ忘れていた。リタの件だが」 

と呼び止められた。


 昨日の伯爵にやった俺の芝居より、アンタの方がそう言う芝居っぽいのは上手いじゃねえかよ。腹立つわ。


「どうなった?」

「ジョルジュさんの船に乗せることに決まった。

 風属性魔法の適正ありだったようだ。これは思わぬ拾い物だったかもな。

 性格は難ありだが、リミエンから離れる方が彼女にも良さそうだしな」

「海の男に囲まれて女一人…大丈夫ですか?」

「お前がそっちを心配するとは意外だな」


 それは失敬な。

 男ばかりの船に、性格ブスとは言え十年程前は美少女だったかもしれないリタが乗り込む訳だ。

 男達の下半身事情に問題が起きない訳がない。


「風魔法の使い手に手を出す海の男は居ないだろう。

 機嫌を損ねりゃ、船ごと海の藻屑になる可能性もあるんだからな。

 リタも働き次第では上に立つようになるかも知れん。転んでタダで起きるタマじゃ無いだろうからな」

「違いないね」


 王都で解剖三昧にさせると、アイツなら快楽殺人犯になるかも知れないからな。

 ジョルジュさんに感謝だね。


 良いニュースを聞いて機嫌が良くなった後は馬車工房巡りか。

 さて、どう交渉するかを決めなきゃいけないな。


 総合受付でモルターズとボルグスの二軒の馬車工房の位置を教えてもらう。


「『ベンディ馬車工房』もありますよ。

 クレスト様なら、モルターズやボルグスの方より」

と受付嬢が高級路線の馬車工房をお勧めしてくる。

 他の二軒より少々性能が良い馬車を作れるのかも知れないけど、俺の目指すのはその程度じゃないからね。


「欲しいのは豪華な馬車じゃ無い。

 俺の思い通りの馬車を作ってくれる工房を探しているんだから」

「どこの工房もお客様の要望にはお応えするはずですが」


 説明するのも面倒だな。

 今までの馬車と全くコンセプトが違うものを作ってもらうんだから。


 ん? それなら別に馬車工房に頼まなくても良くないか?

 あー、でも異業種参入やると馬車業界全体から反発食らうかもな。どうしよう。


「ちょうど今ベンディさんが見えられましたわ」

とギルド玄関を示すので見てみると、どこの成金かと思うような派手な衣装で横に広い体格の叔父さんが歩いていた。


「あの…あの人とは関わり合いたくないです。

 生理的に無理」

「…ですね」


 受付嬢と意見が一致して良かったよ。


「じゃ、考えるのも時間の無駄だ。近い方から行ってくる。お姉さん、ありがとうね」


 手で軽く挨拶をして別れを告げ、ギルドを出ると金ピカのメッキだらけの目が痛くなるような馬車がすぐ脇の馬車寄せに停車していた。


 町中の移動に白馬の二頭立てとは随分と無駄なことをする。

 工房の宣伝も兼ねているので貧相な真似は出来ないのだろうけど、やり過ぎると嫌みにしか映らない。


 見た目の派手さに目を引く物はあっても、それ以外では興味を注がれる物はない。

 物では無く者で言うなら、御者が二十歳ぐらいの綺麗なお姉さんで首に隷属を意味する首輪があることぐらいか。

 お金があるなら、普通に御者を雇えば良いのに。


 でもそんなに高級馬車が売れるとは思えないんだけど、なんでそんなに羽振りが良いんだろ?

 馬車以外にも何か事業を手掛けているのかもね。それこそビステルさんが手掛けた装飾品を金持ちに高く売り付けるとか。


 まあ、お金は何故かお金持ちのところに集まるもんだから、あの成金も上手くやってんだろうね。

 服が派手すぎて、顔と体形は広かった、と言うこと以外は全然覚えてないけど。

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