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(閑話)問題解決の糸口となるのなら

 私が父の後を継いでリミエン伯爵と呼ばれる身分を(あずか)るようになって十年程か。

 大きな発展は無いが、衰えさせることも無いと自分では思っている。


 農業大国コンラッドの中にあってリミエンは特に特徴も無い一都市に過ぎない。

 王都以外では農作物は自給自足が可能であり、余剰作物は乾燥させて有事に備えたり幾つかの国に輸出もしている。


 だが鉄鉱石と紙の輸入で出ていく金の方が多いのは何年も前から変わらない。

 外貨獲得の為の新商品が欲しいところだが、そう都合良く出てくるものではないからな。


 私は城下町の様子を知る為に配下の者を出して情報を集めているし、毎日冒険者ギルドと商業ギルドの職員に来て貰って前日の変わった出来事を聞くことにしている。

 厄介事があるなら早めの対応が必要だからな。


 それが最近どうも様子がおかしい。

 どちらのギルドも『クレスト』なる人物の話を出すことが多いのだ。

 幻の旧キリアス貨幣を持ち込み、素手で大銀貨級のパーティーを制圧するだけの実力を見せ、スラムの子供を保護し、食べ歩きマップの製作を提案してくる。


 怪しさを感じるものの、話を聞く限りでは悪い人物には思えず、報告する二人からも好意を持って語られている様子だ。


 雑貨店で主婦を集めて新しく洗浄剤の研究を開始したと言う報告を聞き、この人物ならリミエンの経済状況を改善できるアイデアが出せるのではないかと期待を抱くようになるのに然程時間は掛からなかった。


 折良く王都からスオーリー副団長がリミエンを訪れている。少しクレストとやらに接触してもらい、使えそうな人物ならここに呼んでみようと策を巡らす。


 どうやら彼は性格に難があるようで、自分の意にそぐわぬ事を言う者には徹底的に噛み付く習性があるらしい。

 それが証拠に衛兵隊長に対して喧嘩を売るような暴言を吐いているのだからな。


 だが彼も唯一レイドルは苦手にしているらしい。それならとレイドルを呼んで一芝居打って貰う事にしたのだ。


 予定通りレイドルと共に訪ねてきた青年は、この辺では見ない濃紺の髪と瞳の色をしている事を除けば思ったより普通の見た目をしていた。

 もっと野心をギラつかせた攻撃的な姿を予想していたのだが、のほほんとした掴み所の無い人物に見える。


 体格もレイドルより一回りは小さく、とても噂通りの武勇を誇るようには見えないのだが、恐らくは何か特殊な戦闘用のスキルを持っているのだろう。


 私を前にしても特に敬うでもなく、畏れる様子も見せないのは少々減点対象であるが、彼からすればここには来るつもりが無いのに勝手に呼び付けられたような物だから仕方あるまい。


 だが私の質問には一つずつ丁寧に答えていくし、良く考えられた内容である。

 本人が言ったように武力寄りではなく、内政向けの思考が出来る人材だろう。


 ちょうど酒造ギルドから高濃度アルコールの生産許可申請が届いていたので利用方法を聞いてみたが、人命に関わるものであるのなら許可せぬ訳にはいくまい。

 ただ、蒸留という特殊な製法で薪を消費するのが考え物である。酒造ギルドには魔道コンロの使用を厳命せねばならんだろう。


 食べ歩きマップのことを聞いた時には、エマ君のことでも思い浮かべたのか顔が僅かに緩んだようだ。

 エマ君も彼のことを嬉しそうに話すし、二人の仲の良さは既に噂になっているので今後の経過を静かに見守って行きたいものだ。


 だが彼が今日持ってきた話題で一番私に衝撃を与えたのは、建国百周年記念のイベントを行う会場についてだ。


 貯水池周辺を開発した公園とし、土を盛り上げて作るメイン会場には屋根を張り、その周囲にはキャンプ場や遊具を多数設置する計画だとか。

 予算を考えると目眩がするが、他の都市には無い施設を持つことは王都に対する良いアピールになる。


 その為の木材がカンファー家の所有する山林の問題により不足しているのが大きな問題なのだが。

 他の二家の山林から木材を増産させているので現状は何とかなっているが、そんな状況が長続きしないのは自明の理だ。


 スオーリー副団長から話のあった浮草回収はクレスト君にとっては取るに足りないもののようで、アイデアを求める布告文を出すに留めている。


 紙と新しい筆記具の開発予定が既にあるらしいので大いに期待させてもらうが、既に開発中の洗浄剤と紙の生産には薪が大量とのことだった。

 それは木材不足が間近に迫る我が領にとっては困るものなのだが。


 その話のすぐ後、クレスト君自身もカンファー家の所有する山に調査に出る予定であったと言うが期待はせずに待っていよう。

 林業ギルドとライエル配下の者達が何度も調査したにも関わらず、原因不明と結論付けられた異常現象なのだから。


 だが、その山の異常は仕方ないとしても、その後のカンファー家の対応はなんとかならんか?


 彼らの領地は山岳地帯のみなのだから、早めにこちらに次の事業案を提示するなど林業に固執せず救済を求めてくるのなら私も何かの手を打ったのだが。

 旧家の意地なのか、一向に改善の兆しの見えない山に固執し続け、新たな事にチャレンジしようともせん。


 こちらとしても、将来の見通しが立たない貴族家を何時までも抱え続ける訳にはいかん。

 木材不足を招いた責任を取らすべく、今年の年末の納税額に応じた身分変更を取る覚悟なのだ。


 三男のルケイドはクレスト君から洗浄剤作りのリーダーを引き継いだと聞いている。

 彼にカンファー家を離れる決意があるのなら、ルケイドをカンファー家に代わる新たな貴族に取り立てることを考えても良いだろう。

 だがそれもやはり薪を大量に使う事業の上に成り立つと言うのなら、山の問題が解決するまでは待ったをかけねばなるまい。


 山岳地帯は多いのだが、木を切り出して運搬するには多大な労力、つまりは出費が必要となる。故に木材を生産する山はなるべく近い方が良い。

 だが手当たり次第に木を切り出してしまえば、それは地滑りの原因になるので避けなければならない。

 故に年々木材の輸送コストも徐々に上がっている。


 先程は期待はせずに待っていようと思ったばかりなのだが、それらを考えるとクレスト君達の調査に期待を掛けるしか無いのかも知れないな。

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