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(閑話)屋台を出します

 私はクッシュ。牧畜の盛んなラゴン村出身だけど、今はリミエンで専業主婦をしているわ。


 でも旦那だけの稼ぎだと生活はラクじゃないわね。何か私にも出来ることはないかしら?

 そう考えていた時よ。叔母のミレットさんから手紙が届いたの。


 その手紙には、ある冒険者が定期的にリミエンから荷馬車を出して卵、牛乳、バターを買い付けしてくれることになったこと、そのついでに私の所にも届けてくれるのでパンケーキの屋台を出してみないかと書かれていたわ。


 その手紙を届けてくれたのは、背の高いシルバーグレーの髪の執事さんだった。

 名前は確かブリュー…そんな感じだったわね。

 その人の主がその冒険者で、叔母さんのパンケーキをとても気に入ってるんだって。


 ブリュー…さんが屋台を出してくれるのなら、と大銀貨入りの革袋と屋台の出店許可証を私に渡すのよ。

 そこまで用意してくれているのなら、私の持ち出しなんて知れているわ。すぐにそのお金で屋台を用意し、商業ギルドへと向かったわ。


 ミレット叔母さんから嫌な話を聞いていたけど、後始末は出来たとも聞いているから大丈夫と信じ、総合受付のお姉さんに声を掛けたの。


「すみません、新しく屋台出したいのですが。

 どこへ行けば?」


 すっきりとした美人の受付嬢が、

「それなら二階に上がってすぐの『不動産部』でレイドル副部長を訪ねてください」

と教えてくれたわ。


 屋台なのに不動産部っておかしいわね。

 でも総合受付嬢が間違える筈も無いし、不思議に思いながら二階に上がって不動産部の門をくぐったわ。


 受付の男性職員に声を掛けると大きな声で、

「副部長、お客様です」

と奥に向かって叫んだの。ビックリしたわよ。普通なら席の前まで行って声を掛けるでしょ。


 きっと怒られるわと思っていたら、

「分かった、すぐに行く」

と返事があったのよ。どこの体育会系事務所なのかしらね。


 そのレイドル副部長は予想以上に恐そうな人だったから更にビックリ。

 絶対に人選間違えてるわよ。どうして素手で牛と渡り合えそうな人がこんな所にいるの?

 服の上からでも筋肉ムキムキなのが丸わかりじゃないのよ。それに目付きも悪いし。


 きっと裏社会の人と話を付ける時の為に、こう言うタイプの人も雇っているのね。

 でもそれなら丸暴みたいな専門部署を作るべきでは?


 商業ギルドの人事に疑問を感じながら、レイドル副部長に連れられてやって来たのは『外食産業部』。

 どう考えても不動産部の出てくる必要は無いわよね?


 レイドル副部長に呼ばれて出て来た若手の職員さんも、可哀想にオドオドとした様子だったわ。

 自己紹介を済ませてから、書類に必要事項を書いていく。

 屋台の出店許可証を見せると職員さんが席を空け、すぐに交通管理部の人を連れて来たわ。


 テーブルの上に町の中の地図を広げ、

「現在屋台の新規出店が認められる場所は…」

と何ヵ所かにピンを刺していく。

 一番の狙い目は、この大通り沿いね。老舗の串焼きの屋台が出ている通りよ。


「ピンを指した場所で、ご希望の場所はありますか?」

と外食産業部の職員さんが聞いてきたわ。すると、

「クッシュさん、出すのは普通のパンケーキだけですかね?」

とレイドル副部長が尋ねるのよ。


「いいえ、普通のパンケーキの他にも、串焼きを挟んで主食として食べて貰う甘さ控え目のパンケーキも焼きます。

 それとドライフルーツを生地に混ぜたのも焼きます」

と返事をすると、レイドル副部長は職員さんの手から書類を取って保証人欄に自分の名前をサインしだしたのよ。


「それなら串焼き屋台の隣しかないだろう。

 あそこはクレストのお気に入りの店だ。

 何か困ったことがあれば、『クレスト』の名前を出してくれれば良い」


 あの…そこは保証人欄にサインしたレイドルって名前を出すのが筋だと思うんだ。

 外食産業部の職員さんも不思議そうな顔をしているから私の考えは間違っていない筈。


 クレストさんの名前はミレット叔母さんから聞いているけど、この恐い副部長さんからも信頼されている凄い人なのね。

 まだ二十歳ぐらいの青年だとも聞いてるんだけど。


 屋台の出店許可証はこの場で直ぐに複写もされて、原本は商業ギルドに保管されることになったし、レイドル副部長が居るせいか、皆が少しビビリながらもテキパキと事務仕事を進めてくれるものだから進行はとてもスムーズだったわ。

 これもきっとクレストさんのお陰なのね。

 まだ本人には会ったことは無いけど、彼の方に足を向けては寝られないわね。


「ではこれで屋台の出店に関する手続きは完了しました」

と外食産業部の若手職員さんが終わった~と表情を緩めながらそう言うと、

「まだ終わっていないだろ?」

とレイドル副部長。


「いえ、業務規程の内容は満たしていますが」と職員さんは不満げな顔をするわ。


「アホか。いつから出店可能なのかも口頭で告げず、契約更新の説明もしない。

 何か起きてから聞きに来いと言うスタンスなのが見え見えじゃないか。

 商業ギルドは商売を円滑に行ってもらい、トラブルの発生を未然防止するのも役目だろうが。

 それがトラブルが起きてから聞きに来させるなんて愚の骨頂だぞ。まだ意識改革が浸透してないようだな」


 そう言うのは私の居る前で言わなくて良いからね。職員さんが萎縮してしまったじゃないのよ。

 でも、確かにレイドル副部長の言うことも一理あるわね。何かトラブルが起きてからあたふたするより、事前に色々と教えてもらっておいた方が良いと思うわ。

 もっとも一度に沢山聞いても覚えておく自信は無いけどね。


 それにしても、どうして余所の部署の副部長がここで大きな顔をしているのかしら?

 少し怖い人けど、私の不利益にはなっていないから良いのだけど、やっぱり不思議よね。

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