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(閑話)金属加工ならアタイに任せな!

 アタイはビステル。

 リミエンで一番美人で一番腕の良い金属加工職人だよ。

 …異論は認めないからね。


 転生って本当にあるんだと知ったのは今から二十年ほど前だ。

 忘年会の帰りに誰かにぶつかった弾みで川にドボンと落ちて…。

 忘年会って言うぐらいだから十二月の後半だよ。川の水はヒンヤリなんてレベルじゃない。


 一気に酔いが醒めたと思えば、何の冗談か突然年末ジャンボの抽選会場みたい場所にアタイは居たんだよ。


 そこにはゴージャスな服の司会者やアシスタントが並んでいて、アタイは訳の分からないままに順番にボタンを押すことになったんだ。

 ボタンを押すと、パシュッと音がして矢が発射されて、クルクルと回る的に命中した。


 どうせ夢だし適当でいいや。


「パンパカパーン、今回の抽選結果を発表します!

 一つ目は『メタルフォーミング』!

 コレは凄いよ、どんな金属だって粘土のように加工が出来ちゃうウルトラレア級スキル!

 敵がフルアーマー着てても大丈夫。ちょっと触れば大穴あけることもリボン結びにすることも可能だからね。


 おっと二つ目は『脳内設計』だ、コレも凄いぞ、スーパーレアだ!

 作りたい物の設計図が頭の出来ちゃう設計製図機能だ!

 しかも『メタルフォーミング』と『脳内設計』が揃うとはまさに奇跡!

 この二つがあればどんな金属加工だって思いのままだよ!


 おおっと!なんと三つ目は『不躾:マイルド』。

 流石にグッドな奇跡の後にはバランサーが機能したのか?

 それでもマイルドが付いただけでも救いはあるよ」


 そんなおかしな夢を思い出したのは五歳の頃だった。

 小さな工房の娘に生まれたアタイは、二つのレアスキルを持つせいかお人形遊びなんかより父と鍛冶をしてる方が楽しかった。

 

 でもね、楽しい生活はアタイが初めて一人で作った鍋のせいで一転したんだよ。

 少しでも父の力になれば、そう思って内緒で拵えた鉄の鍋を見た父は自信を無くし、それからは酒浸りの日々を送るようになり、最後は飲み過ぎが原因で呆気なく逝っちまった。


 どうやらアタイのスキルは普通じゃないらしい。

 どんな金属でも自由自在に操ることが出来る。普通の鍛冶師には真似が出来ない作品が(魔力はそれなりに必要だが)簡単に作れてしまう。


 だけど自分に出来るのは金属加工の仕事だけだ。

 村から村へ、町から町へと渡りながら流れの鍛冶師として働き、辿り着いたのはリミエンの馬車工房だ。

 装飾品を作る主力の鍛冶師が大怪我を負ったせいで臨時の鍛冶師を募集していたのを偶々見つけ、五割の力でそれっぽく演技をしてみせたら即採用されたんだ。


 そこは貴族向けのやたら派手な飾りを付けた馬車を作る工房だった。

 アタイのムダに高性能な金属加工スキルはこの工房の需要とマッチし、暫くここで働かせて貰ったが怪我をした鍛冶師が復帰したらまた父みたいになってしまうかも知れない。


 そう思うとアタイはいつまでもこの工房に居る訳にはいかないと思ったんだ。

 アタイの金属加工技術はすぐに知れ渡ることになったが、クチの悪さも同時に広まった。


 幸い腕利きの鍛冶師や職人に偏屈者が多いのはこの世界でも変わらない。

 このスキルのお陰で食うには困らないだけ稼ぐことが出来た。

 貯めたお金で土地を買い、少しずつ自分で家を建てていく。

 勿論この世界では珍しい鉄骨の家だ。外装だけは木を使ったけどね。


 貴族向けの商品や輸出品として頼まれた透かし彫り風のお洒落な真鍮の製品を作りながら日々暮らしているんだけど、その日はちょっと変わった客が来た。


「ボタンを作って貰いたくて来ました。

 ビステルさんをお願いしたいのですが」


 リミエンでアタイのことを知らない奴が居るなんてね。

 濃紺の髪と瞳の青年…なる程、最近噂になっている冒険者か。


 転生するとアタイみたいに完全にこっちの世界の人間のDNAを持って生まれる。

 クレストのような黒に近い髪の色はこっちには居ないんだよ。

 恐らくは召喚された勇者の末裔か、クレスト自身が召喚されたか。


 でも話してみると、彼は転生したのに何故か黒っぽい髪に生まれた新しいパターンのようだわ。

 実に面白いだわね。


 暫くアタイが転生者ってことは内緒にしておこうかしらね。


 で、アタイに作って欲しいのがドットボタン?

 確かにカチッと嵌まっても固すぎたり緩すぎたりで、この世界の職人には難しい代物ね。

 同郷のよしみで作ってあげようじゃないの。


 他にもジッパーが欲しいなんてアンタは転生者なのを隠すつもりは無いのね。

 アタイが転生者だとまだ気が付かないみたいだから、このままもう少し芝居を続けようかしらね。


 勇者大図鑑を見せていると、突然雰囲気が変わってドクロのバックプリントの入ったパーカーを取り出したのよね。

 しかもマジックバッグじゃなくて何も無い空間から。

 それ、アイテムボックスだよね。


 一応アタイにも転生者特典としてアイテムボックス(ミニ)があるけど、数量は三十アイテムまで、サイズと重量制限ありのイマイチ使えない能力なんだよね。

 マジックバッグを一つ持たせる代わりに与えられた能力だわね。


 元に戻ったクレストに漫画を作ることをお強請りして、地球の料理を作ることをお願いすると、そんな料理は知らないと誤魔化さなきゃいけないところを迂闊にもレシピを知っていることをばらしちゃったのよね。

 ダメじゃないのよ。


 あまりにも可哀想過ぎて、米と味噌と醤油を欲しがってアタイが元日本人であることをそれとなくバラしてあげたわ。

 クレストは金も持っていそうだし、上手くいけば地球の食べ物を作ってくれそうな気がするのよね。


 翌日には鏡とワイヤーロープと馬車の製作を依頼に来たのでびっくりしたけど、ホットケーキに免じて許してあげるわよ。

 久しぶりにこんな美味しい物を食べられたんだし。


 でも、さすがにこの工房じゃ広さ的な問題でワイヤーロープは作れないわよ。

 馬車も一人で部品を合わせていくのは難しいわね。

 それにアンタの作ろうとする馬車は、既存の馬車工房に喧嘩を売るようなもんだから気を付けないとね。


 印刷機がこの世界じゃお日様の目を見ないように、極端に良すぎる性能は反感を三周は通り越して攻撃対象になっちまうからね。


 取りあえず『ボルグス馬車工房』と『モルターズ馬車工房』のどちらに創ってもらうかとアタイは聞いたけど。

 そんなチャチな問題じゃ収まらないのがあの子は分ってんのかね?

 もしリミエンの馬車工房全てがアンタの傘下に入ったとしたら、他の領からも注文が殺到するのは間違いないわね。


 今のところはアタイにしかベアリングとサスペンションは作れないのよ。

 工作機械の大幅な改良が先か、アタイがポックリ逝くのが先か。

 それにずっとベアリングとサスペンションばっかり作るのも飽きるだろうし。


 この世界にも銀メッキがあるから鏡はガラス板と貼り合わせれば出来るわよ。

 ドットボタンもアタイの作ったサンプルを見て毎日練習してたら、多分そこらの職人にも作れるようになるわよ。


 プラスチック製のジッパーは上手く成型出来るようになれば作れるようになるかも知れないけど、金属製のジッパーはアタイのメタルフォーミングみたいなスキルを使うか、専用の機械を作らないと作れないのよね。


 髑髏のパーカーには金属製とプラスチック製の両方のジッパーが使われていたから図面は書き起こしてやるわよ。


 けどさ、このジッパー付きのアイテムを持つってことはアタイに認められた人間だけにして欲しいんだよね。

 そいつが美味いもん食わせてくれるなら考えてやるよ。

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