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第80話 あの件どうなったと聞くんじゃなかった

 商業ギルドには建国百周年記念イベントの対策本部が設置されていたが、素人の寄せ集めで何の役にも立ちそうにない。

 これなら王都から式典に携わる商会を招いてやって貰った方が余程マシだ。


「今年はマジックハンド、来年はまた別のネタを探す必要がありますが、単純に大きなカボチャのコンクールでも何でも良いんです…あ、自動演奏装置とか良いかもね。

 他にも水を組み上げる装置、衝撃を吸収する装置とか。

 そう言えば、スオーリーさんから貯水池の浮草を回収する装置の開発について話があったんでしょ?」


 皆が『そうなの?』とキョトンとする。まだ知らなかったの?

 ライエルさんから渡された手紙を出して皆に見せる。


 手紙には『貯水池の浮草回収に関して、リミエン伯爵配下の文官共に話を付けてある。近日中にアイデアを募集する布告があるだろう』と書いてあるので間違いない。


「これは初耳だ。商業ギルドには来ていない。

 何も連絡が無いと言うことは、文官達も持て余していると言うことか?」

「まだ四日ぐらいしか経っていないんだよ。

 そんなに急には動かないだけだと思うよ。

 でも確かに大手のギルドには事前に通達があって然るべき問題だね」

「スオーリーさんがどう言う話の持って行き方をしたかなんだけど。

 『どうにかしろ。案が無ければ市民に考えさせろ』と雑に言ったんなら考えてる最中かも」


 あの人のことだから、きっとそんなところだろう。


 雑務係のスレニアさんが、

「一つクレスト様に伺いたいのですが」

と聞いてくるので「はい、どうぞ」と先を促す。


「クレスト様は冒険者ですよね?

 とても強いと噂ですけど、それなのに冒険者らしい活動はなさらずに工房の人と仲良くしたり、アチコチの女性と仲良くしたり。

 それにあの恐ろしい副団長をスオーリーさん呼びしたり。

 イベント企画についてもかなりの知識があるようですが。

 一体何者ですか?」


 ど直球で聞いてきた。でもアチコチの女性と仲良くとは覚えが無いのだが。


「そう言えば、昨日はパンケーキの店主を連れて町を歩いてたらしいわ」

とイスルさんも首を傾げる。


 商業ギルドの誰かが見てたのかな?

 クッシュさんのことなら疚しい事をしてた訳でも無いし、勝手に勘違いされてるだけなんだ。変だと思ったよ。

 でも商業ギルドの人ってそんなに俺のことを見てる訳なの?


「あの、パンケーキの屋台のクッシュさんは既婚者ですよ」

「えっ、そうなんだっ!

 なら、まだ私達にもワンチャンあるかも」

とスレニアさんがガッツポーズをするけど、何のチャンスだろ?

 この世界の女性の考えが良く分からないな。


 イスルさんがスレニアさんに激しく首を振って「エマさんには…」とか耳打ちしてたけどね。


「クレスト君には冒険者ギルドの密命で動いて貰ったこともあるし、これからもそうなるかも知れない。

 若いが度胸も知識もあるし、腕もそこそこ立つ。

 遊んで暮らしているように見えるのは表向きの姿だから」

とライエルさんがフォローしてくれる。

 出来るギルマスはやっぱり頼りになるわ。


「それに木材の買い付けにも喜んで行って貰えるからね。

 とは言え、クレスト君にはパーティーメンバーが居ないから誰かと組ませないといけないんだよね」

「ソロでも大丈夫ですよ」

「夜襲に対応するために、買い付けは四人以上のパーティーを組むことを絶対条件にしているんだよ」


 そうなのか。それだと行動に制限が掛かるから有難く無いんだよね。

 夜襲対応だってウチの子達がしてくれるから安心なんだけど、これはマル秘事項だ。


「そうだな、夜盗、盗賊は狡猾だ。

 クレスト君の腕が立とうと何を仕掛けてくるか分からん。

 商業ギルドから貴重なマジックバッグを預けるのだ。絶対に失敗は許されんのだよ」


 そんな盗賊は事前に殲滅しておいて貰いたいんだけど。その為にご領主様は兵を持っているんでしょ?

 と、大きい声では言えないけどさ。恐らく鼬ごっこで本隊には到達出来ないパターンなのかも。


「話が脱線してしまったが、スオーリー副団長の件はこの後で私が伯爵に確認に行こう」

とレイドル副部長が意思を表す。

 それには俺も大賛成で内心で頷く。


「勿論クレスト君も連れて行くので安心してくれ」


 このセリフに俺以外の全員が一斉に頷く。


「あんた何言ってんのっ!」


 そんなの無理だろっ!

 俺みたいなど平民、しかも骸骨さんと言う核爆弾持ちが領主館とか行ける訳が無かろうが!


「スオーリー副団長に浮草対策の話をしたのは君だろ?

 君以外に話が出来る者は居ないんだから仕方ないだろ」

「伯爵なんかと話すの恐いでしょ!

 礼儀とか知らないよ!」

「恐いのは最初だけだ。すぐに恐く無くなる。

 伯爵も君が恐くないようにゆっくり話してくれる。

 慣れれば気持ち良く話せるようになる」

「まぁ…まさか、クレストさんってそっちの気が…受けの方ね?」

「イスルさん、何を勘違いしてんのよ!

 レイドルさんもその言い方はやめれ!」

「イスルン、受けって何?」

「スレニアが知るのはまだ早くてよ」


 そこの女子二人は勝手にやってろ。

 どこの腐れ勇者がそんな知識を持ち込んだんだよ!


「クレスト君の性癖は儂にはどうでも良いが、マジコンの話を先に詰めてくれんかの?」

「レイドル副部長、少し真剣に話を進めてくれないか?

 私も忙しい身でね。冒険者ギルドに帰ったらすぐに書類仕事だ」


 セクハラ爺のアシストでマジコンの打ち合わせが再開となった。やるじゃん、ボケ爺。


 俺が黒板に書きだした上から話を詰めて行く。メイン会場の場所だが、大勢の観客を収容出来る施設で且つ屋根付きの場所なんてリミエンには無い。

 厳密に言えばあるが、一般に開放する施設では無いのだ。

 軍事施設、あるいは緊急事態に備え食料を貯蔵する倉庫がそれに該当するからね。


 円形闘技場なんて農業が基幹産業のリミエンにはそもそも不要である。あっても屋根が無ければ雨天の開催は出来ないのだ。


 新しく施設を作るにしても、木材不足の問題がある。

 出来るとすれば自然の地形を活かした『トリアーの円形闘技場』のような施設を作り、これに屋根を支える為の構造を追加するぐらいか。


 鉄骨も鉄パイプもあるんだから、以外と出来るんじゃないかな?

 観客が何人来るか分からないが、幅が四十メートルもあれば十分だろう。そんなロングスパンの梁を渡す技術があるのかは知らんけど。

 建築家のスキルに期待するしかない。


 梁が渡れば、後は透明な素材があれば何とかなるだろう。それも然るべき部署に丸投げしよう。

 出来ないならガラスを並べるしかない。

 屋根のメンテナンスは悪いことをした奴に罰として遣らせれば良い。


 それと宿泊施設にはテントを使ってキャンプ気分を味わってもらおう。

 地面を区画割してA1、B2のように記号を振っておく。その記号を覚えておけば、同じテントが沢山並んでいても自分のテントの場所が分かるだろう。


 人が集まった時に一番問題になるの水とトイレだ。

 水の利便性を考えれば、この施設は貯水池の近辺に作りたい。

 トイレはスライムを利用した式バイオ式トイレにするにしても、やはり臭い対策は必須だ。


 大きめの公衆トイレを設置して、用足し後は水で流す。排水パイプの先には開閉式の弁を設置して一定の重さになればバネが働いて蓋が開いて汚水タンクに流れるようにするか。


 この話の途中で秘書風職員のイスルさんが建築家を連れてきた。勿論こんなロングスパンの梁を渡して屋根を張ることが可能かどうかを確認する為だ。


 回答は性格に難がある技師(ビステルさん)が協力してくれるのなら可能とのことだった。それなら問題は無いだろう。


 それと透明な素材だが、つい最近シャリア伯爵領で発明されていたそうだ。

 シャリア伯爵領と言えばジョルジュさんの居た場所だ。伝手があればラッキーだ。


 嘘かホントか、蟹の殻を酸で溶かした物にアルコールを加えて乾燥させると、軽くて丈夫で透明な材料になるんだって。

 現在は透明度や強度を高める研究の最中らしいが、明かり取りの為なのでそこまでの透明度は求めなくて良いだろう。

 強度が足りないのなら、成形時に中にネットでも入れれば済むと思うし。


 問題は総工費だな。この闘技場擬きだけで大銀貨数万枚は掛かりそうだ。


 明日からライエルさんが貯水池の周りが開発可能かどうかを調査する。それにレイドル副部長も同行することになった。

 そこまでは良いが、何故か俺も強制参加に。

 俺はそんなの見ても分からないけど。


 もし貯水池近辺を開発することになったとして、開発一式で何十億円単位のお金が必要だと思うが、果たしてリミエンにそんなお金があるのだろうか?

 さすがに公共事業に骸骨さんの遺産を使う訳にはいかないし、使ったとしても全然足りないし。


 俺の『大地変形』や土属性の魔法を使えば、メイン会場の闘技場擬きは屋根を除けば作ることが出来ると思う。

 問題は人にバレずにやれるかどうかだ。

 夜中にこっそりとコツコツ作ってみますかね。もし人に見られても良いように変装でもすりゃ何とかなるだろう。


 でもリミエンの町から貯水池まで馬車で小一時間。ほとんどの人は歩くと思うが、雨が降るとそうもいくまい。

 シャトル馬車で観客をピストン輸送するとなると馬車の停留所も必要か。それに道の拡張と舗装もしなきゃね。


 マジコンは半年後の十月に開催と決まった。

 貯水池近辺を会場とする案が廃案になった場合、闘技場擬きはこのリミエンの近くの広場に作ることになったが、半年で建築が間に合うとは思えない。


 そこで観客千人程度が収容出来るだけの範囲を先に完成させて、残りは追々作っていこうと言うことになった。


 残念ながらマジコンでは美人メイドコンテストは見送られたが、弓の的当て大会とセラドンショーは開催予定となった。

 セラドンショーって劇団でも呼ぶのかな?

 それとも手作りの市民劇団か?

 それならビステルさんが喜んでシナリオを作りそうだし、小物も作ってくれるかも。


 リミエンの町ではグルメのブースを中心に据え、辻芸人を町に配置する。

 クッシュさんのパンケーキは当然として、ワッフルも出店させたい。

 ザラメが手に入るなら綿菓子機を作って貰いたいし、水飴が大量に生産性出来ればリンゴ飴も良い。


 商業ギルドなら農業ギルドとも繋がりがあるだろうと踏んで麦芽水飴の作り方を披露し、レイドル副部長に丸投げした。

 それを副部長がイスルさんに丸投げすると、甘味料が作れると嬉々としながら作り方を書いた鉄板を何処かに持って行った。

 農業関連か食品関連の部署に行ったのだろう。


 農業関連だとケルンさんが高濃度アルコールの製造に関して動いているはずだ。

 そちらだけでもかなりの増産が必要になるのだから、更に水飴の為の増産となると農場の人に殺されるかも知れないな。


 マジコンの中味については俺の意見をゴリ押しして通した。

 他の参加者の誰にもイベントの経験が無いのだから反対のしようもあるまい。


 とまあ対策本部の中ではこんな感じで案が決まったのだが、勿論ご領主様の許可が必要だ。予算のこともあるから、どれもそう簡単には許可が下りないだろうが。


「では、クレスト君同行を頼む」


 対策本部を後にし、レイドル副部長とライエルさんに脇を固められて馬車へと誘導された俺は、拉致被害者のように黒い高級感バリバリの馬車へと引きずり込まれた。

 

「クレスト君、行ってらっしゃ~い」

とライエルさんがニコニコと手を振る。お陰で俺の心の中にある『いつか泣かすリスト』にライエルさんも追加となる。

 勿論筆頭はレイドル副部長だが。


 無駄に豪華な馬車でチンタラと丘を登ると、そこで目にしたのは予想以上に豪華な城壁と城だった。

 城のような、では無い。何故大した産業も無いリミエンにこれほど豪華な城が建設出来たのか意味が分からない。


「初めてこの城を見た者は皆そうなる。リミエンのくせに、みたいな感じでな。

 だが、それは間違いだ。

 リミエンは元王都だから城があって当然だ」


 なるほど、遷都したのか。コンラッド王国になる前の国の城をそのまま領主館として使っている訳だな。


「セント・バナード城だ」


 犬みたいな名前で思わず笑いそうになったがギリギリ自制した。


「城壁の中には幾つか建物があるが、一番目立つデカブツは現在は飾りでしかないがな。

 五階まで階段を上がるのが手間だから使わないそうだ。

 重要人物の宿舎に使う程度らしい。いつか君が宿泊することになるかもな」

「冗談じゃないですよ。こんな場所じゃトイレにも行けませんって」

「漏らすなよ」


 このオッサン、鉄面皮過ぎて冗談か本気か分からねえよ。


 城壁の門前で馬車が停まり、御者が用向きを告げると中を検めることも無く通行が許可された。

 つまりこの馬車はそれだけの信頼があるってことだ。


 馬車は入ってすぐ右にある、それ程大きくない建物の前に停車した。

 兵舎のように思えるが、ここで伯爵が執務しているらしい。


「あの、レイドル副部長」

「ん? 今更副部長呼びか? レイドルさんで構わんが。ビビったのか?」

「そりゃ平民だからビビりますって。

 伯爵のことはどう呼べば?」

「そのままリミエン伯爵で構わんぞ。伯爵も冒険者相手に礼儀は求めん。回りくどい言葉など時間の無駄だからな」


 それなら、まぁ何とかなるか?


『○○伯爵に於かれましてはなんちゃらかんちゃら云々…』みたいなことを言わずに済むなら、その方がラクで良い。

 スオーリー副団長は武人だからぶっきら棒な喋り方だったけど。


 それにしても、ただの冒険者の俺が直接領主に会いに来るとか、絶対おかしいだろ。

 この国の偉い人は部下に丸投げするのがデフォルトなのか?

 下手にフィルターを掛けたり間違った解釈をされずに済むけど、上に説明するのはアンタらの責任だと思うがな。

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