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【改訂中】молитва~マリートヴァ~   作者: 羊
第3章 悪魔の申し子が生まれた日
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第34花


真夜中の王宮内の神殿内。


アエネアとタイムは神聖な場所であることは重々承知しつつも、誰の目にも見咎められないなら、と酒盛りをしていた。酒でも飲まなければやっていられなかった。


「キッツ~~!! 最近本当にキツイわ。休みがまったく取れない・・・・・・」


行儀が悪いとわかっていながらも、タイムは祭殿前の床に大の字に寝転がる。そのことに文句を言わない程度には、アエネアも連日の激務で疲れていた。






「何であんな小さい子どもに、寄って集って願いを叶えてもらうことに躍起になるんだか」


「叶うかどうかもわからないから、『願い』なのだろう? それが確実に叶うのならば、年齢など些末な問題なのだろう」


「は~~・・・、自分で叶えてこそ、喜びも一押しだと俺は思うけどねぇ・・・」


それは、願いを自力で叶える力をタイムが持っているから口に出来る言葉なのかもしれない。


だが、だからこそ、タイムの言葉は的を射ているようにアエネアは感じる。










「ああ、そういえば」


タイムが今、思い出したかのようにアエネアのほうに向き直り、酒の入ったグラスを一気に飲み干す。


「それにしてもいいのか? あんなお嬢様を娶ることに決めて」


「問題はない」


「確かに家柄も容姿も問題はないな。しかもベアートゥスだし。でもな、あのお嬢様は間違っても神様からの贈りものじゃねえよ」


タイムも今までも、多少はフィアナと言葉を交わすことがあったが、まるで異星人を相手にしているかのように話が噛み合わないところを幾度となく見ており、最終的には、自分の選択が通るようにゴリ押ししてしまう。


本人にゴリ押ししたつもりは一切ないだろう。口調はおっとりしているし、声を荒げることもない。だが、相手が何度断り、苦言を呈そうと、その意味を理解せず、目を潤ませる。


フィアナが意図してやっているのかどうかわからないが、ベアートゥスという存在は、いるだけで重宝されて然るべきもの。そんな存在に泣かれでもしたら、悪者の烙印を押され、どの国の社交界からも爪弾きにされてしまう。


結果、相手のほうがフィアナが悪くとも折れてしまうのだ。


「当たり前だ。あんな甘やかされた、頭が花畑のベアートゥスが早々いるものか」


アエネアの返答はにべもない。


「辛辣だねぇ・・・」


手の中にある空のグラスを弄びながら、タイムは天井を見つめ、再びアエネアを見る。








「アエネア、そういえば、スイちゃんにはお前がフィアナ嬢と婚約したこと、話したのか?」


今しがた思い出したかのような態度だが、タイムはフィアナのこと以上に、そのことが知りたかったに違いない。


「話していないし、誰も好んでしないだろう」


「まあなぁ」


空になったグラスに再び酒を注ぎながらも、タイムが懸念しているような口調で話すことを止めない。


「でもなぁ、スイちゃん、間違いなく、お前に恋してるんだぞ、アエネア」


そんなのは、誰の目にも明らかなことだ。


「・・・使い勝手があるのなら、あの娘と婚約しても良かったのだが」


アエネアも自身のグラスの中の酒を一気に飲み干す。


「いや、スイちゃんのほうがフィアナ嬢よりもベアートゥスとしての価値は高いだろう」


「そうだがな。恐らくあの娘は長くない」


「え? 医師から診断がおりたのか?!」


「違う。が、あの様子では、遅かれ早かれだろう」


アエネアの返答に、あ~・・・、といった風上でタイムは手と足をダラケさせる。


確かに、このままの状態が続くのならば、確実に翠は命を散らせてしまうことになるだろう。


そんな未来が易々と想像できてしまうことが、タイムを不快感にさせる。








「いや~、そんなことになったら、流石に陛下と王妃様が動かれるだろう?」


有り得る未来の、有り得る姿だ。


「今は兄上と義姉上は動けない。お前も知っているだろう?」


「確かに。どんだけ強欲達が集まってくるんだよって感じだからな」


あんな幼い少女に、崇めることをそっちのけで自分の欲望を叶えさせようとする様は、異様なほどだ。


「願いを叶えた者達には、それ相応のものを約束させた。ドルドーナ国の、兄上と義姉上の治世の繁栄に繋がることを」


アエネアも馬鹿ではない。


激務に費やされる時間の代償はキッチリと貰っている。そうでなければ割に合わないことこの上ない。


「お前は本ッ当に陛下と王妃様主上主義だねぇ~。まあ、気持ちはわかるけど」


「当たり前のことを訊くな。それに、あの娘がこの国にやって来たせいで、戦争が起こり、兄上は疲弊し、義姉上は死にかけた。それならば、代わりにその命を差し出してもお釣りがくるほどだ」


溜まっている鬱憤は何かの行動でしか発散出来はしない。


それはその時の、間違いようのないアエネアの本心からの言葉である。








タイムは呆れたような表情をしつつ、


「まめに贈り物を贈って、王宮の色々な場所を紳士的に案内して、お茶会に誘い出した人間の口にすることじゃないがなぁ」


とボヤく。


「所詮あの娘もそこいらにいる女共と大差がなかったということだろう。異界の知識は役にたったがな」


自分を見る、焦がれ憧れる異性の視線など、浴び過ぎて一々気になどしていられない。


アエネアにとって、翠もそんな1人だった。


「兄上と義姉上の治世のための贄となるために役立つことが出来るのならば、あの娘も本望だろう」


翠がこの世界で生きてこられたのは、間違いなく大国ドルドーナ国国王と王妃の後見があったからこそだ。


「俺の主君は怖い、怖い」


「減らず口を叩くな」


肩を竦ませておどけて見せるタイムに、アエネアは不機嫌な声で返答する。


「はいはい。我が主の仰せのままに」


タイムにとって、国王と王妃は尊敬に値する充分な者達だが、己の忠誠はアエネアに捧げることを幼少時に誓っている。それは今も変わらない。


そのことをアエネアも知っているからこそ、こういった気安い関係が築かれているのだ。










久しぶりの骨休めは、アエネアとタイムにとって大いに今後の激務にも耐えうる充実したものとなった。


しかし、それ故に2人は気付かない。


その会話を翠が隠し通路の扉から聞いてしまっていたこと。


聞かれてしまった事実が、後々の未来に、大きな障害と弊害となって立ち塞がってしまうことに。







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