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【改訂中】молитва~マリートヴァ~   作者: 羊
第3章 悪魔の申し子が生まれた日
30/32

第32花


アエネアがその日のことを今もって鮮明に覚えているのは、かけがえのない人を失いそうになった衝撃と、恐らくは、その後のアエネアが取った選択が、後々までドルドーナ国の頭の痛い問題に発展していったせいだろう。






王妃様が、朝食の席で毒を盛られて倒れられた。


報せを聞いた時、アエネアは一瞬なんの冗談か、と本気で思った。それが性質の悪い冗談ではないことを知ると、書類の束を投げ捨てて、医務室へと駆けた。


医務室の王族専用のベッドでは、今まで見たことがないほど青を通り越して白い顔をした義姉が浅い呼吸を繰り返しながらも、目を覚まさずに眠っている。兄はそんな義姉の手を握りながら、青白い顔でアエネアを認め、それでも優しく微笑んでくれた。その微笑みが、アエネアの胸を更に抉り続ける。


溜まった仕事は減ることがなく、兄に代わり王太子のサガと共に仕事を片付けながらも、ただただ義姉の快方を願うことだけしか出来ない。








当初、苦渋の判断でも、戦場に居る翠に祈らせることを決めた兄と兄の信用する重鎮達であったが、逐一報告が上がってくる戦場の報告で、翠が先日の祈りから、日々の疲れも重なり、体調を崩し、風邪を拗らせて大熱を出してしまっている、との報せに、議場は皆、誰も口を開くことが出来ないほどの沈黙に満たされた。


王妃の命と国の安全。どちらか一方を取らねばならないのならば、義姉と兄は間違いなく国を取る。


アエネアの予想通り、兄はそのことを伝え聞くと、静かに、けれどしっかりと首を振った。


「スイにばかりこの国の命運や他のことを何でも丸投げしてはいけない。これはこの世界の人間達が解決すべき問題だ」


いつもの穏やかな兄の雰囲気ではなく、国王としての重い言葉に、誰もが反論など出来るわけがなかった。








アエネアはタイムを下がらせると、自室で生まれて初めて物に八つ当たりを繰り返した。ままならない衝動は、何かを壊さなければ発散出来ず、かと云って壊してもささくれ立った心は晴れることがない。




兄上と義姉上に散々助けてもらいながら、肝心な時にその恩も返せないのかッッッ!!! 役立たずの小娘がッッッ!!!!!!




そんな憤激の中で、光明たる一報が齎されたのは、数日後のことであった。


ベアートゥスであるフィアナ・テカルドが、自ら大神殿に赴き、祈りを捧げたことにより、義姉の容体はみるみる快方へと進んだのだ。これに国の上層部は歓喜した。アエネアが抱えていた憤激も鬱憤も、すべてが何事もなかったかのように気持ちが治まっていった。


ベアートゥスとして祈ったことにより、フィアナは通例のベアートゥスや翠と同じように倒れて寝込んでいるとの報告がなされた。テカルド家は、以前の失態から一転、ドルドーナ国の恩赦を賜る家となったのだ。








そして、約1年数ヶ月をかけて、リョンロート国の一方的な戦争は終結し、翠は王宮に帰還してくることとなった。


その頃にはアエネアは既に、自分の妃をフィアナにすることを内心で決めていた。テカルド家には何か恩赦を出せねばならないし、テカルド家から、内々に、フィアナとアエネアの婚約の打診がきていることを知っていたからだ。


アエネアは戦場から帰還してくる翠に、一切の興味を失っていた。


だからこそ、後々兄や義姉、タイムが口を揃えて語ったことを、ただ頭の片隅に埋もれておくだけにしておいてしまった。








『何故なんで、あの切迫した状況の中で、スイ(ちゃん)以外のベアートゥスであるフィアナ嬢のことを忘れていたのか(んだ)?』











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