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【改訂中】молитва~マリートヴァ~   作者: 羊
プロローグ 壊れた贈り物は再び目を覚ます
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第1花

(すい)という名前はね、自然から生み出された宝石のように輝いて生きてほしい、という意味からつけたのよ』







両親が事故で亡くなり、亡くなった父の姉夫妻が私を引き取ってくれた。

何時までも泣いて塞ぎ込んでいる私に根気よく接してくれて、私は心を開くことが出来た。

その時に、両親が私の名前を名付けた意味を知った。

大切にしていこうと思えた。心から。


けれど・・・・・・、3年も経たない内に、私は『命運』という名の理不尽なものに奪われてしまうこととなる。













(・・・重い)




ボンヤリと目を開くと、朝日が差し込み始めた自分の部屋の天井が映り込む。

起き上がろうと身体を動かすと、腕に何かの重みを感じ、翠はため息を吐くと反対側から起き上がろうと試みる。

しかし、それも何かの重みで上手くいかない。

翠は再度ため息を吐くと、掛け布団を大きく自身から引っぺがした。




「頭痛い~・・・」


「背中が・・・」


「わたくしは腕が・・・」


翠を入れた7人家族の大所帯での朝食の席で、12歳の長男カイバ、10歳の長女エルン、7歳の次女ホウが、それぞれ痛む身体の個所を擦りながら食事をしている。


「もう百回以上注意を受けているのに、懲りずにスイのベッドに潜り込むからよ」


38歳とは思われない美貌と若さを保っている母親、クインティが呆れを乗せたため息を吐きながら、おかずのお代わりを夫であるシュレーに手渡す。


「カイバとエルンは早々にスイ離れをしたほうがいいな」


40歳となるシュレーもまた、妻と同じくその美貌が歳を経るに連れ、磨きがかかっている。


「別に俺は姉貴が好きだからベッドに潜り込むんじゃない。姉貴のベッドのほうがとっても寝心地がいいからだ」


「私とカイバ兄様は駄目で、どうしてホウはいいんですか?」


顔を真っ赤にしながら反論するカイバを尻目に、エルンは純粋に首を傾げている。


「8歳まではスイも甘やかす期間、みたいに決めていて、カイバとエルンがベッドに潜り込んでも文句を言ってもそこまで怒っていなかったでしょう?」


「まあ、潜り込む人数が多くなってからはスイも扱いを雑にせざる負えなくなってきたみたいだがな・・・」


クインティとシュレーが顔を見合わせながら苦笑いを浮かべ、両親の言葉に反応したホウが椅子から飛び上がる勢いで表情をキラキラさせる。


「それなら、わたくしだけなら姉さまと一緒に寝ても問題ないということですね!」


「私だってまだまだお姉様と一緒に眠りたいです!!」


両親が姉妹喧嘩の仲裁をしているなか、黙々と食事を続けている翠の膝を誰かがペチペチ、と可愛らしく叩く。そんな行動をするのは家族内で唯1人であることを知っている翠は、知らず口元を緩やかにし、足元を見る。


「ね~しゃま」


ん!、という声が聞こえてきそうな元気さで、3歳になる次男のジャネーが翠に両手を差し出して、いつもの合図をしてきた。

翠は慣れたようにジャネーを抱き上げると、自分の膝の上に座らせて、ジャネーの好きなミルクココアを火傷しない温度かどうか確かめて渡す。

そんな様子を眺めているクインティとシュレーは、内心でため息を零してしまうことは止められない。




翠は元来、人を疑うことが得意ではなく、身内認定した者に対して甘くなる傾向を持っている。

今、翠の膝の上で嬉しそうにミルクココアを飲んでいるジャネーのように、カイバ、エルン、ホウは育ってきた。

これで年齢を重ねて、姉離れをしろと言っても、出来るはずがない。

忙しい両親2人に代わり、幼い弟妹達の面倒を見てきたのは翠なのだ。

その事実を認めているだけに、クインティとシュレーは子ども達の姉離れが出来ないことを強く責められないことも事実であるのだ。



「シュレー、今日はいつも通りかしら?」


「ああ、騎士団の鍛錬後、陛下と隣国との会談の護衛に付き添うことになっている」


「カイバも早く支度をしなさい」


クインティがカイバを急かすように叱ると、カイバは食事のスピードを上げる。


「カイバ兄様も今日も訓練ですか?」


「ああ。午後からは王子殿下の視察に同行する。早く父様のように大きな仕事を任されるようになりたいしな」


「殿下の護衛も大切な仕事だ。キチンと自分のすべきことを果たしなさい」


エルンの言葉にカイバが答えると、すかさず父親のシュレーがカイバに苦言を呈する。

長子で長男のカイバは8歳の頃から、近衛騎士団長である父親のシュレーに付き添い、騎士としてのスパルタの訓練を日々受けている。

ダラケ癖もあるが、将来の見通しをキチンと持っているようだ。



養子である翠以外の家族は皆ズバ抜けた美男美女であるため、

【麗しのシグルズル家】

と秘かに呼ばれているのを知った時、翠は笑いを堪えるのに必死で、クインティとシュレーは苦虫を嚙み潰したような顔で遠い目をしていた。






翠達の暮らす国、プロセルピナはとても小さな小さな国で、老齢の女王が即位して国を纏めているが、国民は貴族、庶民に関係なく仲が良くて距離が近い。

身分に一切の隔たりがない世界中でも稀有な国家でもあった。

聡明な女王の元、息子の王太子殿下が王として即位する頃には、小国でも立派に大国と渡り合える国に変貌しているだろう、とは他国の見解である。

その王太子殿下は既に妃を迎え、今年で九歳になる王子もいる。

シュレー・シグルズルは近衛騎士団長を務め、妻のクインティは王子の乳母として王宮に勤めている。


翠は王宮に勤めておらず、家でジャネーの面倒を見つつ、幼年学校に通うエルンとホウ







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