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ホラーゲームのNPC

作者: スコ休ミ

今回のお題は

「ゲーム内のNPC」です


音声配信アプリRadiotolkにて配信をしております。

https://radiotalk.jp/program/67074


けいりんさん(https://radiotalk.jp/program/59156)という方の企画「お題で創作」に参加して書いたものです。


作者を明示していただければ、ご自由に朗読発表できます。特に連絡は不要ですが、ご連絡いただけたら喜んで聞きに行きます。

 これは僕が以前勤めていた会社で、とあるホラーゲームを作っていた時の話です。

 僕は制作総指揮兼シナリオライター。そんなすごいものじゃないです。僕の他にはデザイナーとプログラマと、全部で五人だけ。デザイナーがプログラムを書いたり、僕も背景作ったり、全員何かしら兼務しながらの、小さなチームでした。

 そのゲームは、携帯端末向けのアプリでした。テキストベースで、アクション要素はほぼなくて。分岐での選択肢さえ間違わなければ、子供でもクリアできる簡単なものです。あ、いや内容はゾンビ物のホラーなんで、対象年齢は中学生以上でしたけど。

 無事リリースが終わって、一週間くらい経った頃でしょうか。おかしなことが起きたんです。「第三章がクリアできない」「レイチェルの台詞が変わる」「イベントが始まらない」等々、インターネットでの書き込みや問い合わせが殺到したんです。

 レイチェルっていうのは、キャラクターの一人で、主人公の親友です。第三章でゾンビ化して、主人公に殺されるっていうエピソードがあって。

 そんな馬鹿な、っていうのが最初に思ったことでした。だって台詞が変わるなんて、あるわけないんですよ。シナリオを書いたのは僕ですからね。僕は第三章のレイチェルの台詞にパターンなんて作ってないんです。

 チーム全員徹夜でチェックしましたが、プログラムのどこにもおかしな所は見つかりませんでした。アルバイトの子にも会社のデモ機とか各自の端末でプレイしてもらったんですけど、何の問題もなく話が進むんですよ。

 書き込みでも、普通にプレイできたっていう人も多くて。それまでのステータスとか選択肢で分岐するんじゃないか、って検証してるプレイヤーの方もいたんですけど、何度も言うけど、そんなわけないんですよ。そこまで細やかな仕様じゃないんだから。ボリュームだって、ぶっ通しでやれば全エンディング四時間とかからずクリアできるようなゲームですよ。

 本当に、お手上げでした。作った僕らにも何が起こってるかわからなかった。

 そのうち、何かの呪いじゃないか、なんて話が出てくる始末で。いやホント、そうとでも思わないと説明できないんですけど、フィクションのゲームを誰が呪うんですか? もうどうすればいいのかさっぱりわからなくて、でも問い合わせも上司からの小言も止まなくて。限界でしたよ。

 そんな時、アルバイトの子が「出ました!」って。全員で端末を覗き込んでみたら、確かに、見たことない画面なんですよ。本当だったらレイチェルが立って主人公と話してるシーンなのに、頭抱えてしゃがみこんでるんです。

 デザイナーの子が真っ青になって「こんな絵作ってない!」って叫んで。それは全員わかってることだったから、もうパニックですよ。アルバイトの子なんて泣き出しちゃうし、僕が操作を引き継ぎました。操作って言っても、レイチェルがしゃべってるシーンだから、続きを表示する矢印ボタンをタップするだけですけど。

 本当なら、自分がゾンビ化することを悟って、主人公に殺してくれって頼むシーンです。だけどひたすら「死にたくない」「もうやだ」「助けて」「どうしたらいいの」「ここから出して」って……本来なら出てくる選択肢、「殺す」か「殺さない」かも出てこない。なるほど、クリアできないってこういうことかって、妙に冷静に思いました。

 そのうち「うぅ……」ってすすり泣き? しか出てこなくなって。頭抱えてた絵が、顔上げたんですよ。あの顔は今でも忘れられないですね……目が赤くて、あ、ゾンビ化の直前に目が赤くなるってのが設定なんですけど、その目で、表情が完全になくて。ちょっと笑ったみたいに口元の力が抜けてて。今思うと、恐怖で気が触れた時の顔、って言うんですかね。僕もうわっ、てなって。そしたら突然選択肢が出てきて、僕は思わず「殺す」を選択しました。

 後は、本来のストーリー通りの絵と文章が出てきて。問題なく第三章クリアしました。その頃には僕も冷や汗かいてたし、もう全員震えてましたね。その日はもうそれで切り上げることにしました。だけどみんな一人の家に帰りたくないって、仕方ないから全員で二十四時間のファミレスで朝まで過ごしました。カラオケでも良かったんですけど、もう液晶画面を可能な限り見たくない、って心境でしたからね。

 翌日、みんなヨレヨレで会社行って。あ、バイトの子は休ませました。で、そうしたら、不具合の報告がぴたっと止んだんですよ。問い合わせゼロ。ネットの書き込みも「やっとクリアできた」「いつの間にアップデートしたの?」っていうのしかなくなって。最初から最後まで、わけがわかりませんでした。

 ゲームジャンルがホラーっていうせいもあってか、そんな謎の不具合すらも、評判を呼んだみたいで。収益は上々、当初のトラブルはどこへやら、チームが表彰までされましたよ。

 まぁ、チームのメンバー、最終的にみんな会社辞めましたけどね。もう二度とホラーゲームなんて作りたくない、って思ってたんじゃないですかね。僕みたいに、ゲーム業界から離れた人間さえいるし。

 ええ、僕。もうゲームもフィクションもこりごりです。もう二度と関わりたくないです。

 最近、異世界転生モノって流行ってるじゃないですか。現実世界で死んだ人間が、ゲームの中のキャラクターとして転生したり憑依したりするっていうラノベ。

 あの、レイチェル。あれも、実はそうだったんじゃないかな、って思うんですよ。いや、非現実的なのは承知ですけど。

 異世界転生モノみたいに、レイチェルの中に、僕たちと同じ世界に生きてた人間の精神が入ってたら。

 最悪ですよね。ゾンビに怯えて、逃げ回って、襲われたら銃ぶっ放して、腐った肉片の中走り回って生きなきゃいけない世界ですよ。

 悲惨な最期を避けるために奮闘して、結末を変えるのが異世界転生モノのよくあるパターンですよね。でも僕が作ったあの世界は、レイチェルは、どう頑張っても破滅しかないんです。地獄です。

 それにあのゲーム、リリース一週間で確か十万くらいダウンロードされたんですよね。一人一回しかプレイしなかったとしても、十万回、レイチェル死んでるんですよね。

 どんなに幸せなストーリーでも、十万回繰り返したら、頭おかしくなると思いません?

 ええ、あくまで想像です。ただの妄想。だけど、あの顔と……僕が、「殺す」ってボタン押したのがね……忘れられなくて。

 だから、もうゲームとか、アニメとか、創作が無理なんです。怖くて。色々想像しちゃうから。なので、すみません。お話は嬉しいんですけど、僕もうシナリオ書けないんで。ごめんなさいね。

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