第六話「ヴァルカンVS父」
父上が炎を纏わせながらゆっくりとこちらへ向かってくる。
目は狂気に満ち、いつもの父上とは思えないほどに眼光が鋭く、覇気に満ちている。
「俺は周囲の兵士を片付ける。その間に父上を捕縛ししてください」
「「了解した」」
「うおおぉぉぉぉぉ」
勢いよく剣を抜き、勢いよく地面を踏み込んだが、
天と地が反転したかのように転ぶ。
「な、なんで……」
頭の中が空っぽになったような空虚感に苛まれた。
包囲している敵兵士は手を叩きながら、薄汚い笑い声をあげる。
まるで祝福しているかのように。
俺は、不思議と苛立ちを感じなかった。
「俺のステータスが……」
俺はステータスを表示させるスキルは持ち合わせていない。
けれども感覚でわかってしまった。
99%デバフがかかったことを。
兄達は戦っている。
カイラ兄は左腕が1本失い、ミイラ兄は右目を失った。
父上はSクラスの炎魔法を使っているのにも関わらず、苦戦を強いていた。
俺は、腰が抜けたまま何も出来ない。
カイラ兄はそんな俺を見て絶望しているだろうか?
ミイラ兄はそんな俺を見て呆れているだろうか?
そんな疑問が脳裏を霞む。
俺が戦意喪失した様子を見計らって、敵兵士は攻撃を開始。
兄二人を狙っている。
父上はグルなんだろう。
父上はそんなことをする人ではないと思っていたのに……
「やらせるもんかぁぁぁぁぁぁぁ」
兄二人を守らんとする思いで、立ち上がり地面に刺さっている剣を手に持つ。
「あ、兄上ーーーー!!」
ミイラ兄は脇腹から縦に血線が描かれ、カイラ兄は心臓を一直線に貫かれる。
自分の父親に。
周囲の敵兵士が押し寄せてき、兄二人は気を取られた。
父上はそれを機に殺したのだ。
なんとも卑怯な奴だ。
家族にも、許容の範疇がある。
彼はその範疇を超えた。
「殺す」
俺の体を漆黒の闇が蝕む。
MPが無限に増えていくような感覚がする。
そのMPをぶつけないと気がすまねぇな……
俺は一歩で父の懐に飛び込み、横一文字に剣を振った。
俺の剣は支給された剣なので弱い。
灼熱の炎に鉄が耐えられずダメージを与えられない。
しかし、俺は負けるわけにはいかない。
諦めるわけにはいかない。
この男を
アーナトリス・ヴァ・ロイを殺す。
「氷魔法・氷の大山脈」
氷によって形作られた何十もの層が地面から姿を見せる。
ロイは、Sクラス魔法テレポートを使い、瞬時に後方へと下がる。
突如、林からは大きな氷山が出現。
バフォメット兵、トロール兵はそれぞれ方向性はまばらで、撤退する。
ゴブリン兵も2つの種族の後を追うようにして、撤退する。
不利になったら逃げ出す、そこは人間となんら変わらない。
貴様もなぁ?
ロイ!!
「スキル・ロキの靴発動」
「雷魔法・ゲイ・ボルク」
2800メートルもの大山脈から高く高く宙に舞い上がり、ロイに向かって赤い幻槍を投げる。
位置エネルギー+運動エネルギーによって威力Sクラスが威力SSクラスに強化されただろう。
俺は氷魔法を解除して、地上へと舞い戻る。
ロイの死骸か分別できない程の惨状だろうと期待をしていた。
だが、そんな期待も粉々に打ち砕かれた。
ゲイ・ボルクを受け止めていたのだ。
かろうじて炎剣で受け止められたが受け止めたら終い、無数の赤い棘が出現した。
無数の棘がロイに突き刺さる。
しばらくの間、ロイは立ち尽くしたまま動かなかった。
「さっさと死ねよ」
「風魔法・風楼斬」
俺は下から見下すような冷徹な目をし、右腕を斬る。
近づくと何があるか分からないので、遠い距離からロイの右腕を空気中でなぞるようにして風魔法を放つ。
「うわあぁぁぁぁぁぁぁ」
ロイの意識が戻り、紅色の瞳からは一滴の雫が頬を伝わる。
被害者妄想してんじゃねぇよ
もっと苦しめ
もっと泣け
もっと後悔しろ
「あ……あぁ……」
もう声も出なくなったか?
そりゃあ、そうだよなー?
あれだけ絶叫していれば声をそのうち出なくなるわ
あ、あれ?
腕が上がらない
俺は、仇が手の前に、
目の前にいるのにも関わらずそれ以上手が上がらなくなった。
疲労ではない。
固有スキル「クズ」が発動してしまったのだ。
父は歪んだ笑みを浮かべ、帝王のような足音を立てて進行してきた。
足音と共にロイの今までの人生が、ガラスを踏みつけたように壊れていく。
そんな気がした。
俺はもうこれ以上、物理攻撃は勿論、魔法攻撃も出来ない。
その上、動くことすらままならないのだ。
俺は、さっきまでロイを殺すと意気込んでいたはず。
なのに……なのに俺は……
逃げ出すことも出来ないなんてどれだけ弱いんだ。
俺は制約がなければ最強だと思っていた。
俺より強い人は存在しない、と。
でも、実際は制約があってもなくても弱かった。
現に己の弱さが故に立ちすくんでいる。
兄上とロイが戦闘していた時もそうだ
俺は本当に……
父が拳が届くか、届かないかくらいまで近づいてきた。
俺は、今までの人生を振り返るように
ゆっくりと目を閉じる。
「じゃあな」
ビュンと耳元で空気をかっ切るような音がする。
俺が目を開けると、ロイが口の端から血を垂らしながら、地面に仰向けになって倒れていた。
俺は恐怖感から解放されたのか体が動くようになった。
腰に携えていたタガーを逆手に持ち、上段の構えから勢いよくロイを目掛けて振り下ろす。
「ま、待て……」
喉仏を刺す寸前でタガーを止める、と言った器用なことはできず、刺してしまった。
それでも傷は浅い。
ロイの意識は飛んではいなかった。
「……うぅ」
憎き父だが、最後の言葉だ。
聞いてやろうではないか。
こいつの今までの人生を全て否定したい気分だ。
「お前は、強い……ただ、その力は長続きはせん。どこかで、どこかで…………詰むだろう」
「詰んだのは貴様だろう?」
「ははっ、そうかもな……だが、よく成長してくれたヴァルカン」
ロイの目を開けたまま、しばらく反応を示さなかった。
俺は前に聞いたことがある。……
このようにしてスリープモードになり、MPやHPを再び回復する。
多分、ロイはそれをしているのだろう。
目の前に、俺と言う敵がいるのにも関わらず。
まだまだ言いたいことは沢山ある。
「おい……」
「なぁ……おい」
激しく左右に揺さぶりかけるが、反応がない。
「嘘だろ」
俺には、母上がいるのに……
まだ母上がいるのに……
何もかも失った
そんな絶望感が俺の肩にのしかかる。
ロイは、俺の兄二人を殺した。
なのに、俺は
この男が死んで、涙を出さずにはいられない。
涙が流れると共に連鎖的にロイと過ごした心のアルバムが一枚、一枚急速にめくられる。
最後の1ページにはあの違和感を感じた言動が記されていた。
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