第五話「父の強さ」
明確な根拠があるわけではないが、いける気がする。
敵は二千。
ゴブリン族が大半で、残りは小人のトロール族、バフォメット族だ。
ゴブリンは魔物の中では最弱と言われ、人族と肩を並べるほどである。
しかし、そんなゴブリン族も束で襲いかかってきては、ひとたまりもない。
それは、常識内の範疇での話である。
俺には通用しない。
今は固有スキル「クズ」が発動していないと見受ける。
「父上、カイラ兄、ミイラ兄、俺が囮となって層が弱い部分を突くのでその隙に逃げてください」
「いや、しかしそれではお前が……」
「大丈夫、貴方よりかはずっと強いと思う」
流石に冷静な兄達や父上もカチンときたようだ。
視線がこわばっている。
「嘘ですよ。とにかくそれが一番合理的だ」
俺は確かに怖かった。
今にも逃げ出したいくらいだ。
でも、いまは何故かそうは思わない。
心底から高揚感が溢れ出てくる。
その勢いは止まらない。
何かにぶつけなければ衝撃を吸収されない。
「餌食となりやがれぇー!!」
怒号のような掛け声と共に、四VS二千の戦いが繰り広げられる。
「雷魔法・ブリューナク」
俺がそう唱えるとともに、左手をゴブリン族の方向に向ける。
「ぐぎゃああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
ゴブリン族の軍勢に衝突すると、稲妻のように燃え盛る。
包囲陣は風穴のように穴が空き、俺たちは無我夢中で敗走した。
今回の大技でMPを使い切り、疲弊する。
俺は前のめりになり、倒れそうになったがミイラ兄が背負ってくれた。
「ありがとうございます」
「……お前何なんだ? あの技は」
「太陽神の技を模倣しました」
「え?」
父上は、低いトーンで注意する。
当然だ、俺たちは追う側ではなく、追われる側。
追われる側の方がずっと厳しい。
「父上、振り切りました」
「了解だ」
振り切ってもなお、木々に沿って走り続ける。
「あれ?」
「ヴァル、何が見つけたか?」
「……いいえ」
糸口を探策するようにして、遡っていく。
「あそこの空中に兵はいたか?」
思考を声に出す。
そうした方が、思いつきやすい。
ミイラ兄は、微笑ましいことに答えてくれた。
「いない」
初めての戦争でわからなかったが、どうやらこの世界では本当に飛行種は希少らしい。
とにかく俺は、先程の戦闘で得た経験値を配分する。
MPに全振りだ。俺の魔法はすこぶる強力であるが、MPが低いが故にあまり意味がない。
今回はたまたま固有スキル「クズ」が発動していなかったから良かったが、発動していればあの魔法を使った途端に息を引き取っていたことだろう。
しかし何なんだ……?
最近は、ごく稀に固有スキル「クズ」が発動しないことがある。
「止まれ!!」
父上の静止の声とともに俺の思考も停止した。
「なっ……なんで」
俺は思わず声を漏らした。
父上から何かよからぬ匂いがする。
その様子に気がついた父上が後ろをゆっくりと振り向き、はじけるような笑みを浮かべる。
ミイラ兄は事態が把握できたのか剣の柄を握り、カイラ兄は周囲を警戒しながら、俺の背中をさする。
俺の兄達はいつも優しい。
こんな危機的状況でもだ。
でも、父上がそんなことをするはずがないだろう。
大体、ここでそんなことをしても非合理的だ。
それに、父上も兄達に負けない程優しい。
戦争の後で疲れているだろうに剣術や魔法を教示してもらい、たとえ上手く出来なくても決して焦らさず、分かるまで丁寧に指導してくれる。
俺は、はっきり言って物覚えは良い方ではない。
0歳の時の知力300からそこまで変わっていない。
知力が300だった理由は、中身が15歳だったから。
15歳はこの世界では成人並み。
そして300は平均値。
つまりごく普通の知力である。
それなのにも関わらず、俺がここまで魔法や剣が上達した理由は、間違いなく父上の指導の賜物が大きい。
才能の要素もかなりあるが、知識がなければ魔法も放てない。
まったく……
よく出来た父親だぜ。
前世での俺の父は、生まれた時点で既に他界していて、会ったことはない。
だから父親のイメージがあまり湧かなかった。
この世界に来て、父親と言う存在に出会いイメージが確立された。
強くて、優しくて、冷静。
全ての父親がこのような性格特性を持っているとは言えない。
だが、俺にとってはそれが父親の全てなんだ!!
俺にとって父親と言うものは
アーナトリス・ヴァ・ロイ
貴方が全てなんだ!!
俺は貴方を、父上を失いたくはない。
「炎魔法・身体強化」
父上に烈火の炎が纏わりつく、まるで炎の精霊のように。
父上の炎魔法はSクラス。
炎魔法の最高ランクがSクラスである。
炎魔法は身体強化の呪文は豊富だが、中々対処が分からないことで有名だ。
そんな父上とどうやって戦うんだ?
兄達の心の叫びが今にも聞こえてくる。
父上も大事だが、まずは自分の命を大切にしなければならない。
逃げたい気持ちもあるが、俺は立ち向かう。
「炎帝の化身」と呼ばれた父上に。
「兄上、降ろしてください」
「……」
「兄上!!」
「あ、あぁ……」
あの冷静なカイラ兄、ミイラ兄がこれほどにまで怯えている。
父上だけにではない。
周囲の敵に対してもだ。
ここら一帯はもう既に包囲されていた。
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