第四話「初めての戦争」
「暗影の戦い」
これは、隣の大国「峰国」との戦いだ。
峰国は無法地帯国として有名で、全土が支配されていない。
俺は10歳の時に兄二人と共に最下級兵士として微収され、戦った。
兄二人はそれぞれ12歳と13歳。
二人の剣術と魔法力は同期の中でも、一頭地を抜いている。
父は32歳で、世界に100人しかいないと言う「Sランク冒険者」なので大いに期待が寄せられていた。
最前線で戦い、敵の大将を2人討ち取るほど強い。
兄たちも父の強さに及ばずとも、近い強さを見せつけた。
俺は99%デバフがかかっているため、多くの首級を上げることは出来なかったが下士官としてそれなりに貢献した。
つまりそれはどう言うことか?
俺たち兄弟はこの戦争中に大出世したのだ。
戦争開始から二週間目、ひょんなことから父、兄二人、俺はパーティーを組むことになり、少数精鋭で奇襲任務にあたることになる。
敵本陣にいる総大将砕壺を暗殺することが目的だ。
まずは別の囮部隊で本陣の兵たちの気を引き、敵兵に変装して忍び込み、砕壺を暗殺する。
あっさりと敵本陣に忍び込めたが、敵本陣自体が罠だった。
敵本陣には絶滅危惧種である砂属性の魔法「砂地獄」が張り巡らされていたのである。
「父上、これは罠ですぞっ!」
「分かっておる」
さすが父上だ。いつも冷静沈着に戦況判断をし、勝利に導く。
正直、父上以上戦闘力が高い人物に出会ったことは一度もない。
父上は歯で親指ごと噛みちぎり、大量出血させた。
兄二人には驚きの表情の欠片もない。
過度なストレスによってとうとう父上もおかしくなったのか!?
てか、何で驚かねーんだよ!!
兄二人の冷静さはどうやら父譲りのようだ。
俺の性格は前世からあまり変わっていないため、非常に危なっかしい性格だと言われる。
父上が憂いの目で瞼をゆっくりと閉じて、呪文を言いながら血で手の甲に魔法陣を書いている。
砂地獄によって渦に下半身が吸い込まれて、通常ならパニック状態に陥っているところだろう。
父上の信仰している武教では降参の際に呪文を言い、血で手の甲に魔法陣を書いて、自殺するそうだ。
これって全く同じではないか!?
魔法陣での攻撃は、範囲攻撃。
つまり密接している俺たち兄弟にもとばっちりが来るわけだ。
俺の栄光の時代はこれからだったのに、まだ死にたくねぇ
ここは止めなければ!!
「父上!! 諦めるにはまだ早いです」
兄二人の痛烈な視線が俺に刺さる。
足の甲から頭頂部に向かって鳥肌が立つ。
なんで? と言う疑問の言葉と共に。
「召喚・四大天使ウリエル」
父上がそう唱えると、手の甲、ではなく空中に巨大な魔法陣が姿を現し、そこから美青年天使が召喚された。
俺は知っている。
この天使がどのくらいの怪物なのか。
この世界でのウリエルは天の世界の中でも指折りの実力者とされていて、それは四大天使と呼ばれるほどである。
ウリエルの魔法属性は火と雷。
「俺も初めは二属性なら大した事ないじゃん」
と思っていた。
しかしこいつはレイリー王国のズビドゥフ都市部の北北西に位置している楽華魔天監獄の最深部にいる魔王サタンらの軍勢を打ち破った中心人物の一人だ。
世界が滅亡してしまうのでは?
と少々戦慄する。
「ウリエル!! さっさと焼き払え」
ちょ、ちょ、ちょっと待ってくれ!!
父上は今、人間より数倍、いや数十倍も数百倍も数千倍も強いであろう天使を、それも四大天使に対して乱暴な口調でいいの!?
ウリエルは父上に従順な様子。
「神の炎」とやらで砂地獄そのものを焼き払ってしまった。
ウリエルも強いが、父上も恐ろしく強い。
俺は本で読んだことがあるのだが、召喚魔術を使い、小さな魔物を一体召喚するだけでも平均的な魔法使いならば1/4もMPを消費するようだ。
つまり後、4回しか小さな魔物を召喚することができない、ということ。
「ウリエルよ、感謝する」
「どういたしまして」とウリエルがはにかんだ笑みを浮かべながら言った。
ウリエルの周りには、星々が目に浮かぶ。
実際にあるわけではないが、それ程にまで魅力的に感じる。
男である俺ですら、うっとりとしてしまうほどだ。
ウリエルは砂地獄を焼き払った後、前世でのお母さんのように消滅していく。
「ウリエル!?」
父上の動揺は初めて見た。
父上を一言で言うと、「仏頂面」
そんな父の顔が血の気がひくように真っ青になる。
おそらく父は、MPが残りわずかなことに驚きを隠せなかったのだろう。
「君なら大丈夫だよ、僕を従えるほどの器なんだ。息子たちを、パートナーを守ってあげて」
ウリエルは、父上の腕の中で徐々に消滅していく。
父上は、ウリエルの顔を直視しない。
唇を強く噛み、敵本陣の包囲から打開する策を思案している様子だった。
ミイラ兄は刀剣を構えており、カイラ兄は魔法をチャージしている。
俺は何もせず、ただじっと時を伺っていた。
とうとうウリエルが消え、父上、兄二人、俺の4人となった。
包囲している敵兵は、およそ二千程度。
ランチェスターの法則によれば、例えば相手が2倍いる時、こちらの兵の質は4倍高くなければ突破できない。
つまり、相手が500倍なので質が250000倍高くなければ突破できない、と言うことだ。
正面突破は絶対に無謀。
波のように不安感がどっと押し寄せてくる。
滝のような汗を流して打開の策をいろいろと勘案しているが、成果なし。
兄二人をチラリと瞥見してみるが、打開の策を見つけてはいないようだ。
父上は、そんな俺たちに微笑みがけて立ち上がる。
「父上……」
長兄のカイラが無念の涙を流す。
俺は見るに耐えなかった。
父や母、兄が悲しむ姿を。
まるで心臓を鷲掴みにされているような気分だ。
俺は無言で立ち上がり、今にも戦う気配を漂わせている父を腕で静止する。
「なっ!?」
お前はなんで立ち上がる。
確かに天才レベルの才能の持ち主だが、この状況でお前に何ができる、と言った表情だ。
父上は、俺の本当の強さを知らない。
大法則が天と地がひっくり返るように覆す程の強さを見せてやるよ。
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