第三話「もう進化しました」
「どちらの固有スキルですか?」
それは、俺が言いたかったことなんだけどな……
「クズ」か「八尺瓊勾玉」
どちらのスキルが進化しているのか?
ものすごく気になる。
「両方です」
「両方!?」
両親は互いの目を見て驚く。
信じられないと言わんばかりに目をまん丸にしていた。
「はい、両方です」
「クズ」が進化したら、世界を滅びしうるスキルに変貌したりして……
笑いが止まらん。
俺の予想では、「クズ」は負のスキルなのではなく、正のスキルなのではないのかと考えている。
転生したのにも関わらず、足枷になるようなスキルを所有していることは考えたくもないからだ。
まぁ、現実逃避だな……
俺は引き攣った笑い方をし、母はその愛らしい(?)笑みに対していち早く反応したようだ。
「あなた、見て」
「ハイ」
母は、父の反応が気に食わなかったのか舌打ちをして、不機嫌そうな表情する。
父は、馬鹿なのか単純に鈍感なだけなのか分からないが、その様子に気づく気配は全く感じさせない。
母の怒りは募るばかりである。
鑑定士が眉を八の字にして、言う。
「あのぅ……」
前世で影そのものと言っても過言ではない俺から見ても、この鑑定士の存在感は薄い。
「あっ!! はい、大丈夫です」
「わかりました。ご説明致しますね」
固有スキル「八尺瓊勾玉」は経験値2倍、経験値を自分の好みに分配できる、に加えておぞましい固有スキルが加わったらしい。
固有スキル「クズ」も同様。
「すみません……おぞましい何かがわからなくて」
ん? なんでこっちを見たんだ?
見ることに問題があるわけではないが、その鑑定士の視線が冷たい気がした。
俺なんかしたかな……?
生前の俺は、いつもと言ってもいいほど、冷ややかな目で見られていたと思う。
教室に入った途端、一斉に冷たい視線が俺に刺さるという軽い絶望感。
あれは出来ればもう味わいたくなかったが……
「鑑定士なのにねぇ……」
母が困った顔で小さく吐息を吐く。
母は、他人に失礼な態度を取るような人ではない……と思う。
何でこう言う態度を取ったのか少し不思議だ。
俺はまだ赤ん坊だから、頭も前世のようには回らないのかな……
母上よ、この鑑定士は優秀だ。
固有スキルは、その個人しか所有していないスキルなのに見分けることができるなんて通常は出来ないのではないだろ
これを言いたいのだが、言えない。
話したいことを伝えられないとは、こんなにももどかしいこととは……
母が「ご鑑定ありがとうございました。お大事に」と言いい、両親と俺は、家に戻る。
母もお母さんと同様、唐突に話を終わらせる傾向があると見た。
異世界の謎は深まるばかりだな。
家に戻ると重い空気が、幼い俺の肌にのしかかる。
ネガティブ感情は、伝播しやすいと言うことを聞いたことがあるがまさにその現象が起きている。
おぞましい何かが分かれば、みんなの不安を取り除いてあげられるかもしれないが勿論、今の俺では……
いや、今の俺と昔の俺は違う!
俺は、前世でやり残したことをこの世界でやるんだ!
俺は、周りにあるものを見渡す。
刀剣、サーベル、スピア、テーブル、杖、椅子、レイピア……
ほぼ武器しかねぇーじゃん!!
俺の父は、確かS級冒険者だったはず。
冒険者の階級は、上から
(ちなみに属性ランクもスキルのランクも同様)
SSSランク
SSランク
Sランク
Aランク
Bランク
Cランク
Dランク
Eランク
Fランク
こうしてみると父の冒険者としての地位は、結構上位だ。
ちなみにSランク以上は全体の冒険者のうち2%ほど。
Sランク故に様々な種族に対抗するためにも、多様な武器が必要なのだろう。
それはいいとして……
そうすると方法は一つしかない。
俺は、恥ずかしがり屋な方なので、このような方法で目的を達成すると言うことは本当のことを言うとしたくないんだけどな……
この方法しかないなら、まぁ仕方ない。
「ヒィッヒヒヒヒヒヒヒ」
俺は突如、奇怪な笑い声を上げて見せた。
「!?」
まず、カイラが何度も瞬きをして、瞠目した。
カイラは兄弟の中では比較的堅実なタイプで、笑ったことなど一度も見たことはない。
しかし、カイラが初めに腹を抱えて笑った。
笑いの伝播も波のように伝っていき、ミイラや、先ほどまで厭世的な表情が浮き立っていた母も笑い、父も笑った。
1人が笑えば次の人、また次の人と
笑いは伝播してゆく。
本当に笑いは、馬鹿にはできん!
この世界では共に笑い合える
友を
家族を
仲間を
大切にしよう
俺は前世ではボッチだったからな……
とにかく総合魔法学校に入学したら、友達作りに勤しむか。
しかし、総合魔法学校には入学できなかった。
ステータスとスキルが異質すぎて、入学できなかったのだ。
代わりに家で剣術の修行や魔法の修行、読書をして過ごした。
牧歌的に暮らしていた俺だが、10歳の春にある事件が起きる。