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第一話「15歳、転生する」

「起きたのね……」 


 俺の頭の中は、純白な煙がかかったように真っ白になる。

 

 本当に何も考えられない。

 

 いつも脳内で起きていた大合唱が停止していた。


 母が満面の笑みで微笑みがけると、再び大合唱が始まった。


 目の前には吊り上がった切長な眼、少し鋭い口調が特徴的な母がいる。


 俺を捨てた母が

 褒めてくれた母が

 叱ってくれた母が

 遊んでくれた母が

 喧嘩した母が


 そこにいたのだ。


 俺は吸い込まれるようにお母さんに抱きついた。


「まーくん……」


 俺は内側から湧いてくる感情に耐えられなくなり、怒涛の勢いで質問した。


「なんで俺を置いて家出したの?」

「ここはどこなの? なんでここにいるの?」

「俺は死んだの?」


 母の瞳は涙で潤っていた。


「まーくん、ごめんね……私には時間制限があって、それは答えられないの」


 時間制限があるなら仕方ない。

 限られた時間しか話せないんだからしっかり話しておこう。


「あのね……まーくん、これから言うことよく聞いてね?」


「うん……」


「あなたはこれから、異世界に転生します」


「!?」


 俺が異世界……?

 まぁ、ここにいる時点で異世界はあるよな……

 小学生の頃は鏡をくぐり抜ければ異世界にいけると思って、幾度もチャレンジしたが失敗した。

 今、こうして念願の異世界にいけるわけだが……

 正直、様々な感情が交錯していて素直に喜べない。


「何、辛気臭い顔してるのよ、もっと楽しみなさい!!」


「イテッ」

 

 頭頂部にお母さんのゲンコツが衝突し、体中に衝撃が走る。


 楽しめって言ってもな……

 俺、コミュ障だぞ……!?

 楽しめるわけないだろう!!

 

 はは……

 こんな日々も、もうこないのかな……


「お母さん、その……」


「あっ!! もうこんな時間、ごめんね、お母さん消滅します」


 え? え? えーー!?


 唐突すぎるだろ……

 いつもそうだ

 家出した時

 買い物に行く時

 説教する時

 さっきも……

 

 どんだけ唐突なんだよ


「特売でせっせと走り回ってるおばさんかよ……」


「なんか言ったかなー??」


「……ッッ!!」


 お母さんは、かろうじてまだ消滅していなかった。

 俺は、お母さんが消滅すると聞いて、思わず顔を伏せてしまい、直視していなかったのだ。

 まぁ、お母さんの体は透けてきているが。


 その後、お母さんはこれから与えられるスキルについて話し始めた。

 それもまた唐突にだ。

 前置きもなく始まって、まだ途中なのにも関わらず話を切り上げて……


 性格はあいかわらずでホッとする。


 俺のスキルは何を隠そうとも2つある

 1つ目は「八尺瓊勾玉(やさかにのまがたま)

 経験値が通常の2倍、経験値を意図的に分配でき、5属性魔法が使える。

 まさに複数の固有スキルを集約した固有スキル。

 俺は、完全な勝ち組だ。

 このスキルは、強い部類に入るのではないか!?

 そして、俺にようやくモテ期が来て……

 うーむ、笑いが止まらない。

 大脳辺緑系の側坐核の興奮が強すぎるせいか、大脳皮質から側坐核へのコントロールが弱まってるんだろう。


 2つ目のスキルは理解不能。


「お母さん、2つ目のスキルもう一回言って」

「クズよ」

「……お母さん、罵倒は良くないよ。もっと真剣に……」


 お母さんの笑顔が引き攣った。

 これは、ゲンコツの予兆。

 俺はすぐに発言を撤回して、固有スキル「クズ」について詳細を説明してもらった。


「これはね……」

「うん」

「凄いスキルなのよ」


 世界には、まだまだ俺の知らないことが枚挙にいとまがないほどある。

 「クズ」と言うのは、世界を粉々にする、とかそう言う意味なのだろう。

 でもな、こんな凄いスキルあっても、俺は世界を粉々になんかしないよ?

 てか、粉々って何!?



「どう凄いか教えて」

「私にも分からないのよ、だから凄いの」

「……は?」

 

 「凄い」のあとあれだけ溜め込んでたじゃないか!!

 あの沈黙で期待させるなよ……


「そんなに、落ち込まないで。このスキルは、貴方にピッタリよ」


「どう言う意味!?」


「それに、俺はクズではない!」と追加で言おうとしたが、声が出なかった。


 お母さんの体は、それぞれの四肢の末端から徐々に消滅していたのだ。


「……」

 決して捏造されていない感情が、温泉の湯のように湧き上がる。

 

「ごめんね……今まで何にもしてあげられなくって、でも……異世界でも頑張って、応援してるからね」


 え? なんで?

 そういえば、お母さんは……


 でも、目の前で消滅していくからと言って涙ぐむ必要なんてない。

 だって、悲しい顔をして、涙を流されて送り出されるより笑って送り出される方が、俺なら100倍嬉しいから。


「お母さん」

「……なに?」

「何にもしてあげられていないって言ったけど、そんなことないよ」

「……え?」

「俺はお母さんの借金を背負わされて、散々な目に遭ったけど、それ以上に……お母さんから貰ったものは多い」

「今まで育ててくれて本ッッ当にありがとう」


 母は降水の如く涙を流し、安らかな表情で逝った。



 




 

 


 

 



 


 


 


 

 



 



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