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第十四話「孤独感」

「魔法が効かないなら、剣術だ」

 

 俺は右手で握っている剣を敵兵の正面に構える。

 

 ダンジョンというものは、そこまで広くない。

 むしろ狭いほどだ。

 ミノタウロス族は他の魔物と比べると、大きめなので、幅的にはミノタウロス三体分といったところだろう。

 しかし、ミノタウロス族は賢明である為、一斉に襲いかかるような真似はしない。

 

 もし、俺の能力が敵兵にとって得体の知れないものだとしたら三体は死亡し、勢いづいた俺が残りの敵兵を一掃する、といったところまで予測しているのかも知れない。

 生存確率は、一体で戦う方が、三体が一斉に襲いかかるシチュエーションより高くなるだろう。

 けれども俺は誰一人としてここから逃すつもりはない。

 勿論、味方は逃しますよ?

 それが今の俺のお仕事ですから。


「うらあぁぁ」


 敵兵が、ハーフソードをハンマーのように扱い、襲い掛かってきた。


「所詮は雑魚だな」


 これくらい簡単に避けられる。

 

「ボキッ」


 え?

 今、何が起きたのだ?

 何が砕ける音がした。

 硬化物が砕ける音だ。

 激しい激痛も感じる。

 

 つまり、つまり、つまり……


 俺の骨が折れた……のか?


 あとから(ことわり)(かい)が降りてき、状況を認識する。

 その事で、泣き叫ぶ暇も与えてはくれなかった。


「氷魔法・氷岩(アイスエッジ)


 俺に目がけて、そいつで殴りつけられ、脇腹には氷で作成された、先端が鋭い岩がある。

 

 またもや後で頭が追いつく。


「ぐぎゃああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」



 俺の脇腹に穴が空いて

 血が……

 血が……


 俺は先のことを無意識的に考え、脳内の短期記憶内が恐怖の想像で溢れかえる。

 同時に罪悪感も感じた。

 

 それは、仲間に対してではなく自分に。

 何で俺は魔法が使えない。

 何で俺はあんな攻撃も避けられなかった。

 何で俺はこんなにも弱い。

 何で俺は……


 自分を戒めるように、何度も何度も繰り返し、同じことが再生される。


 痛い。

 痛い……

 痛い、痛い、痛い、痛い


 記憶と共に、痛みも再生され、脇腹に穴が空いた直後とはまだ別格の痛さ。

 痛みでどうかなってしまいそうだ。


 俺は朦朧(もうろう)とした。

 同時に、一面が墨色で塗られた空間へと連れ込まれた。

 

「何で俺はこんな目に遭ってるんだ?」

 

 誰もいない。

 何も見えない。

 真っ暗だ。

 


 俺は何にも悪くない。

 全部、全部あいつらが悪い。

 俺が囮役になった起因はあいつらが誘ったからだ。

 だから俺は……

 

[俺は……何なんだ?]


 俺は、俺は、生まれた時からそうだ。

 天才だった。

 特にHPのステータスは群を抜いて高い。

 俺にダメージが、最も容易く入る筈はない。

 暗影の戦いの時もそうだ。

 あの父を……

 Sランク冒険者を……

 この手で葬った。

 俺に出来ないことはなかった。

 そう、俺は天上天下の天才。

 選ばれた天才だ。

 勇者パーティー加入を断りかけた理由はこうだ。

 自由を奪われたくないから。

 決して恐れていた訳ではない。

 俺の器には小さすぎるから断りかけた。

 

{じゃあ、何で今こうなってるの?}

 

『天才の俺がこんな目に遭うなんておかしいんじゃないですかー?』


 え……?

  

 俺は現実を見た。

 確かに負けた……

 剣術も魔法も発動することなく、負けたんだ。

 なら……

 俺の存在価値は何なんだ?


 

 ありえない。この俺が、あんなふざけてる奴に負けるなんて……

 

 


{俺は天才じゃない}


「俺は駄目人間だ」


『俺は昔と何も変わっていない。お母さんを救えなかった時のように』


『お前は教室では空気のような扱いを受け、母親には裏切られて借金を背負う羽目になって……最後には自らトラックに突っ込み、現実逃避した敗北者だ』


{お前は駄目なやつだよ、ほんと。自分のことを天才だと勘違いして、出来もしないことを引き受けて……見てて痛々しい、勘違い野郎だ}


 もうやめてくれ……


「お前が前世で一人でいた理由を教えてやろうか?」


 やめろ……


「傷つくのが怖かったんだろ? 小鳥のヒナを守るように大事に大事に守る。お前のプライドとやらは守る価値すらもないわッッ」


 そんな訳……





{お前は弱い}


 おい……


[お前は弱い]


 やめろって……


『お前は弱い』


 やめてくれ……

 止まれ、止まれ、止まれぇぇ



 



〔よく成長したな、ヴァルカン〕


 その声は聞き慣れたものだった。

 過去の記憶を彷彿とさせる、不思議な声色。

 安心感を与えられるような低い声。


 俺は、この世界に生を授かった時からこの声を知っている。

 全身が包み込まれるような、この安心感を知っている。


 この声は、紛れもなくアーナトリス・ヴァン・ロイだ。

 

 父上。

 教えてください。

 何故こんな事態が起きているのか?

 

 俺は天才だろ?

 だったら何で……


 何度呼んでも答えてはくれない。

 そう、父上は俺がこの手で殺したんだから。


 何が成長しただ……

 俺はただ、現実逃避してるだけの……


 俺はハッと息を呑んだ。

「成長」の定義を噛み砕くと、今までできなかったことができるようになる、


 じゃあ、俺は今まで何をしていた……?

 

 俺は、浮かれていた。

 固有スキル「クズ」があるのにも関わらず、それを忘れて、浮かれていた。

 俺は弱かった。

 今までは、たまたまだったのだ。

 たまたま運が良かった、たまたま能力を発揮できた。

 

 俺は、それに気が付かなかったのだ……

 でも、今は分かる。


 己の至らなさを。

 己の無力感を。

 己の脆弱さを。


 弱くて、脆くて、どうしようない「クズ」だってことが。

 固有スキル「クズ」を与えられても無理はない。


 

 

 


 思い出してみろよ。

 現世では幾度もそう感じた筈だ。

 俺はクズで無力で弱い。

 

 俺は、今なら分かる。

 俺は成長したんだ。

 俺のスキルには伸び代がある。

 俺のステータスには伸び代がある。


 そんなものを、母は俺にプレゼントしてくれた。

 

 一度は裏切られたものの、手を差し伸べてくれた。


 俺は


 俺は


 俺は






 俺は、まだ死ぬ訳にはいかねぇ。


 





 やりたいことが沢山ある。

 普通に100個は思いつく。

 

 





 


 俺は全てのMPを放出する。

 もう理屈なんてどうでもいい。

 全部ぶち壊す。

 何もかも。


 この闇の色を取り込んでいく。


 

 俺は間違っていた。

 

 俺だけの力で勝つ必要などない。

 取り込め

 この闇の力を。



「フフフ……」


「な……何だ?」


 はぁ……

 はぁ……

 はぁ……


 興奮するよ

 

 

「なぁ〜んだ? まだ生きてやがったか」


「邪魔だよ」


「ぐぎゃ!?」


 俺が手の甲を奴の顔面にあてた時には、奴の首は反対に回っていた。


「一体」




「これはまずい……」


「あっ!! 白魔術師が逃げたぞ」




「おい」


「ヒィ!?」


 胸部にでっかい穴を空けてやった。


「二体」




「いいね…」


「ば……化け物だー!!」


 

 ズキッ

 い……痛い

 心臓が……

「うぅ……ッッおぇぇぇ」


 俺はありったけの血をこれでもかと言わんばかりに吐く。

 

 この体では限界が来ていた。













「ヴァルさん!?」

「おい!! しっかりしやがれ」


 仲間の声が聞こえてくる……

 そうだ……

 俺はまだやることが……


 俺は体の気怠さを感じながら、ゆっくりと体を起こす。


「え? なんで……ッッ⁉︎」


 俺をそんな目で……


 彼らは俺を汚物を見るような目で、見ていた。

 

 


 

 

 




 


 

 


 

 

 


 






 

 




 


 


 



 





 

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