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出戻り子爵令嬢の二度目のワルツ 〜軍神公爵に愛されて、幸せになってもいいですか?〜  作者: 采火


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28/46

軍神公爵は遅咲きの初恋かもしれない

 コールソン子爵領から白銀の霊鳥アモフィックスを連れ帰ったエドモンは、王城に着いた途端、兄であり国王であるダビデの執務室に呼び出しを受けた。

 当然、アモフィックスの件だろうと心構えをして、エドモンは王の執務室へと足を踏み入れる。

 横に書類を置いて待ちかねていたダビデと、その側で報告書を読んでいたロビンが、執務室へと入ったエドモンに視線を向けた。


「まずはご苦労さん。なかなかすごいものを連れ帰ったなぁ」

「本当に。まさかこのような結末になるとは」


 ダビデが笑いながらエドモンを労うと、ロビンが大きくため息をついて手に持っていた書類を指で弾いた。

 予め人払いをしていたようで、執務室にはダビデとロビン、エドモンの三人だけだ。


「で? ソレを報告書じゃなく伝令にした理由はなんだ? 全て話せ」


 ダビデがすっと表情を真面目なものへと変える。

 報告書……もといダビデとロビンの手元にあるのは、報告書という形を取っただけの伝令文だった。文書でシーキントン伯爵領で起きたことを故意的に伏せていたエドモンは当然のように背筋を伸ばす。

 エドモンは一呼吸おくと、シーキントン伯爵領での出来事を全て二人に話した。

 話は長く、小一時間ほどかかった。すべて聞き終えたダビデは興味深そうにうなずくと、ふむ、と天井を仰ぐ。


「アリエル・コールソン子爵令嬢が聖獣カーバンクルの加護を、な。それがさらにアモフィックスに移って霊鳥に? まぁ、可能性としてはあり得る話だがなぁ」

「アリエル嬢が触れたことでアモフィックスを霊鳥にしたことは理解しました。その力は一度きりのものなのでしょうか。加護を受けられたのでしたら、初代国王のように瘴気を祓う力の方は持たなかったのでしょうか」


 アリエルが瘴気を祓う姿は見ていないが、できないとは言い切れない。明確な答えを持たなかったエドモンが渋面になっていると、ロビンがダビデに提案を投げかける。


「アリエル嬢をしばらく騎士団預かりにしてみてはいかがでしょう。騎士団の遠征に同行させ、彼女の力を量るのは」


 ダビデがちらりとロビンを見やると同時、ぴくりエドモンが耳を動かした。


「却下する」

「何言ってるんです。必要なことでしょう」


 間髪入れずに拒否したエドモンに、ロビンが呆れた。


「瘴気を浄化する力はアモフィックスが持っている。帰路の道中で確認済みだ。それで十分だろう。訓練を受けたこともない女性を、過酷な魔獣討伐の遠征にだすのは論外だ」

「ですが、彼女にカーバンクルの加護があるというのなら、聖女として立てたほうが国益になります」

「聖獣が生まれたんだ。聖女の認定はいらないだろう」

「いいえ。聖女と聖獣の擁立が叶えば、陛下の治世は安泰です。国内的に大きな意味を持つだけではなく、外交でも有利に進められるようになります」


 ロビンの国主体の言葉にエドモンが思い切り眉をひそめた。その表情には不満の二文字がありありと書かれている。


「彼女を国の駒にするつもりか?」

「大いなる力を持つ者は、国として管理しなければならないでしょう」


 エドモンが納得できずに言葉を重ねれば、何を当たり前なことをとでも言いたげに、ロビンは理論的に説いた。

 お互い不毛な言い合いだとは思わないのか、だんだんと言い合いがヒートアップしていく。


「瘴気も魔獣も今の騎士団で間に合っている。私の騎士団が頼りないとでも言いたいのか」

「力はあることに越したことはありません。この先、騎士団だけでは対応できなくなるときもあるかもしれません」

「必要ない。騎士だけで十分だ」

「聖女がいるだけでも民の心の安寧が約束されるのですよ」

「アリエル嬢にそれを背負えと?」

「力を持った以上はその責任があります」

「彼女の力は曖昧だ。魔獣に治癒だけして、聖獣化しなかったらどうするんだ」

「可能性としてはありますね。そうなったらそうなったで、もみ消せばいいだけのこと。話に出ていたミクリという女性同様、ある意味危険人物となりますので、国の監視下に置くべきですが」


 エドモンの機嫌が一気に急降下する。

 紅い瞳が剣呑に輝き、鋭い眼光がロビンを貫いた。

 エドモンの静かな怒りの表情を見たダビデはパンパンと手を叩くと、言い合っていた二人の視線を集めた。


「二人の主張はよく分かった。ロビンの言うことは概ね正しい。エドモンはちょっと頭を冷やせ」

「……兄上」

「睨むな、睨むな。とはいえ、エドモンが言いたいことも分かるぞ。私だってか弱い女性を無闇やたらと戦場には立たせたくないさ。そこで、だ」


 ダビデは良いことを思いついたように、にんまりと笑った。

 その不穏な笑顔に、エドモンが眉を寄せる。


「手っ取り早く見合いをさせるってのはどうだ?」

「何故そんな話になる」


 エドモンが胡乱げにダビデを見れば、ダビデは「そんなに突拍子のないことでもないぞ」とあっけらかんとした態度。


「国の息がかかっている人間と結婚させておけば、万が一のことに対応しやすい。ロビンの懸念も、エドモンの主張も解決できる。国の利益的には見込めないが、カーバンクルとアモフィックスだけでも十分なのは私も同意見だしな。過ぎたる力は身を滅ぼすとも言うし」


 エドモンはムッとしながらもダビデの提案に口を閉ざす。ロビンも、ダビデの意図するところを汲み取って「そう仰られるのならば」と一歩引いた。

 二人の言い合いが止まったのを見て、じゃあついでとばかりにダビデはアリエルのお見合い候補者に良さげな人物たちをピックアップしていく。


「彼女の相手はそうだなぁ。事情を知ってる騎士で、ほら、アモフィックスの時に討伐数一位だった騎士いるだろ。彼、ちょうど子爵家で家格も釣り合うからどうだ?」


 ちらりと騎士団を受け持つエドモンを見れば、エドモンは大真面目な表情で首を振る。


「駄目です。あいつは女癖が悪い。アリエル嬢の離婚理由を思い出してください」

「あー、そうか。じゃあ二番手の。伯爵家で品行方正ともきく奴だ」

「彼は良くも悪くも貴族らしすぎる。彼女は社交界に出るよりも青い空と緑の草原がよく似合う。もっとのびのびとした生活をさせてやれる人間が相応しい」

「第三部隊の隊長は? まだ独身だっただろう」

「却下だ。人望はあるが粗忽すぎる」


 その後もダビデが挙げていくアリエルの旦那候補を一蹴していくエドモンに、ロビンが呆れたように声を上げた。


「貴方はアリエル嬢の保護者ですか」

「保護者ではないが、だが彼女のこれまでのことを思うと幸せになってほしいと思うのは普通だろう」


 エドモンが平然とそんなことを宣うので、ダビデがニヤニヤとだらしなく顔をゆがめ、エドモンをからかった。


「なんだ、未だにお前はアリエル嬢に片思いでもしてるのか?」

「か!?」


 予想の範疇外からきたダビデのからかいに、エドモンが驚きのあまりに目をむいて、声がひっくり返った。


「か、片思いなど!! そんなことはありません! あ、兄上は人が悪すぎる」


 予想以上に食い気味で否定したエドモンに、ダビデは満更ではないのではとますます顔をにやつかせた。


「なんだなんだ、それならいっそお前がアリエル嬢を嫁に取るか?」

「冗談を!! こんな年上の怪力男と婚姻など、彼女が可哀想すぎる!」

「身分の違いや彼女の経歴に傷がついていることは気にしないのですね」


 ダビデの言葉に力いっぱい否定するエドモンだが、冷静に聞いていたロビンがぼそりと突っ込む。身分や彼女の経歴について、公爵であるエドモンとの婚姻にはそれがまず一番の障害となるはずなのだが、それらをふっ飛ばして自身の不甲斐なさを真っ先に主張したのは、言わずと分かるからか、そんなこと障害にも思っていないからなのか。


 ロビンが呆れながら、アリエルの将来を案じて細々と口出しするエドモンを見ながらも、ふと気がつく。

 案外、それが一番すっきりとうまくいくかもしれない。


「陛下、エドモン様」

「ん? なんだ?」


 エドモンをからかうように次々とアリエルの旦那候補を挙げ連ねていたダビデが、ロビンに視線を向ける。苦虫を噛み潰したように渋い顔をしていたエドモンも、訝しげにロビンを見た。

 ロビンはそんな二人を見渡して、にこやかに微笑む。


「カーバンクルの件がありますから、身分の差や経歴などはどうとでもなります。なので、エドモン様がアリエル嬢と婚姻を結ぶ方向で行きましょう」


 一瞬、エドモンが不自然に呼吸を止めた。

 それからすぐに息を吹き返したエドモンは、ダビデの悪ノリに乗っかった形のロビンに抗議の声を上げる。


「待てッ、何故そうなる!?」

「何故って」


 ロビンはエドモンとアリエルが婚姻した場合のメリットを指折り数えてみせた。


「アリエル嬢の力とカーバンクルの秘密を知っている。アリエル嬢の護衛もできる。アリエル嬢の力の発現があった場合直通で陛下にまで報告できる。エドモン様も女性関係に煩わされることがなくなる。なにより聖獣カーバンクルは王家の側においておきたいですし、万が一、聖女として力が開花した場合はなおさら王家陣営の人間として非常に都合が良くなります」


 つらつらとよどみなく列挙していくロビンの理由の数々に、エドモンがあんぐりとしている。ダビデは相変わらず楽しそうにニヤついては、ロビンに賛同するようにうんうんとうなずいた。

 ロビンは散々エドモンがアリエルを娶ることのメリットを連ねると、最後の最後で爽やかな笑みを浮かべてみせる。


「それに、なんといっても惚れた弱み。エドモン様ならアリエル嬢を幸せにできるでしょう」


 むしろ言外に、そこまで色々と高物件を跳ねのけておくぐらいにアリエル嬢のことを想っているんだから、婚姻したら幸せにすることくらい朝飯前なんでしょう?? と含まれていそうなロビンの腹黒い笑みに、エドモンは「ぐぅ」と眉間のしわを指で揉むように抑えて呻いた。


 華麗なロビンの説得に、ダビデがとうとう耐えきれないとでも言うように拍手する。


「お見事!! これはもうアリエル嬢と結婚するしかないな!! ロビン、婚姻届を持ってこい!! 速攻で受理してやるぞ!」

「兄上!! 巫山戯ないでいただきたい!!」

「巫山戯てはいない。むしろお前がアリエル嬢と婚姻しないなら、さっき言った奴らの誰かと結婚させるか、危険な瘴気の地を連れ回し、いつ終わるか知れない聖女の力の検証をするかになるが?」


 さっきまでの面白がっていた表情を引っ込め、国王らしい整然とした顔つきで宣ったダビデに、エドモンも怯む。けれどやっぱり何かしら思うところがあるのか、内心で葛藤するエドモンに、ダビデは珍しく優しく表情をゆるめた。


「まぁなんだ。王としては勿論、ロビンの意見に賛成だ。だがな、弟の初恋を兄として応援したいという気持ちもあるんだ。ここは一人前に当たって砕けてこい」

「砕けたら駄目ではありませんか?」

「そうだな。砕ける前に手籠めにしてこい」


 ロビンの突っ込みにダビデは何を思い直したのか、言い直したように取り繕うけれど、チョイスされた言葉はある意味悪化している。

 手籠め、と聞いたエドモンが顔を真っ赤にしてダビデを睨むと、二十九にもなってそんな初心な反応を見せた弟に、兄王はハッと何かをひらめいたような顔になる。


「まさかエドモン、お前、童て―――」

「不名誉な言いがかりはやめていただきたい!」


 ダビデが言い切る前にピシャッと遮ったエドモンの必死な様子に、ダビデは声を上げて笑った。


「ふはははは!! ならよし!! それじゃ、この件はその方向で進めるということでいいな!」

「いや、兄上、私はまだ何も承諾はっ」

「これは国王命令だ。エドモン、アリエル嬢を口説き落とせ。一週間で口説き落とせなかったら、アリエル嬢には別の夫候補と見合いさせる。それが嫌なら秋にある騎士団の長期遠征にアリエル嬢を連れて行け」


 アリエル嬢の運命はお前次第だと言うダビデに、エドモンはこれ以上何を言っても覆らないことなのだと察した。

 エドモンは山のように言いたいことを抱えながらも、ダビデの下した王命を無視はできない。苦々しくそのことを思ったものの、アリエルとの婚姻、という言葉に脳裏には純白の花嫁姿の彼女が自然と浮かび上がる。

 見たい、と思ってしまった瞬間、エドモンは陥落してしまった。アリエルへの気持ちが、ダビデの言うように、ただの庇護欲じゃないことに気づいてしまった。


「……分かりました。私も腹をくくります。アリエル嬢と婚姻に否やは唱えません。ですが私は、彼女の意志を尊重したい。最終的な選択は彼女にゆだねても?」

「いいぞ。アリエル嬢の人生だからな。だがエドモン、口説くのに手加減はするなよ? 全力で口説け。恥を捨て、花束持って、これでもかというくらい甘い言葉を囁やけば、お前のルックスと包容力でどんな女でも落とせるはずだ!」

「やっぱり楽しんでいるでしょう、兄上」


 真面目な表情から一転して声高々に演説してみせたダビデに、エドモンは半眼になる。

 けれどもダビデの言うとおり、アリエルを口説くのはエドモンの仕事だ。ここ十年以上、まともに女性と付き合ったことのなかったエドモンだから、そういった男女の機微を悟れるかどうかは全くの未知数。

 エドモンは今後のことを思うと、冷静でいられる自信がなくなった。


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