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出戻り子爵令嬢の二度目のワルツ 〜軍神公爵に愛されて、幸せになってもいいですか?〜  作者: 采火


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塵旋鳥アモフィックス・討伐戦

 アモフィックスと対峙したエドモンは、これほどの魔獣とやり合うのはいつ以来かと、頭の隅の冷静な場所で考えていた。


 エドモンが軍神と呼ばれ始めたのは、十年前に婚約者に婚約を破棄された後のこと。それまでは王族貴族としての嗜みも騎士の仕事の合間にこなしていたけれど、婚約を破棄して、貴族として生きるよりも騎士として剣に生きることを選んでからは、最低限の公爵としての領地管理だけをしてその他の時間は鍛錬に当てていた。


 ある意味婚約破棄をされて、自暴自棄になっていた頃があったのだ。


 その時期に、危険深度が五位になる魔獣が現れ、仲間たちの助けを借りながらも、それをエドモンが討ち取った。


 確かその時だ。

 軍神公爵という二つ名を聞くようになったのは。


 あの時の魔獣に比べれば、アモフィックスはまだ戦いやすそうだ。空を飛ぶのはあの時の魔獣もそうだったし、姿が見えなくなるとはいえ、あの時に討伐した魔獣のように炎の吐息を吐くわけじゃない。


 かくれんぼが得意な鳥ごとき、隠れ場所から引きずり出した今、エドモンの敵ではなかった。


「ゆくぞ!」


 エドモンは声を張り上げ、アモフィックスの注意を自分へと向ける。木々がなぎ倒されて、ポツリと開いた空間の中に立つエドモンをアモフィックスが認識した。

 ペイント弾で浮き上がるアモフィックスの姿に、エドモンは力を込めて大地を蹴る。


 向かってきたアモフィックスの体表を逆撫でるように剣を薙いだ。


『ギャァァァ!!!』


 パラパラと擬態能力がとけた鱗が地面に散った。鱗が剥がれた内側からは肉のようなものが現れ、それはエドモンの目にも普通に見える。鱗だけが擬態能力の恩恵を受けるようだと、エドモンは冷静に分析した。


 鱗を剥がされて怒り狂ったアモフィックスが大きな嘴を開け、エドモンを食らおうと突進してくる。図体の大きなアモフィックスは相変わらず近くの木々をなぎ倒すが、エドモンは臆することなくアモフィックスへ向けて前進すると、その横をすり抜けてさらに剣で鱗を削ぎ落とした。


『ギィイイイイイイ!!!』


 分が悪いと判断したのか、アモフィックスは翼をはためかせ、宙に飛ぼうとする。

 エドモンは躊躇なく地面を蹴って跳び上がると、空へと飛び立ったアモフィックスの鱗を削いだ皮膚へ、体重を乗せて剣を深々と突き刺した。


『ギャアアアアアアア!!』


 一方的に蹂躙されるアモフィックス。

 上下に前後にめちゃくちゃに空を飛び、皮膚へと突き刺さった剣と、その剣を突き刺す不埒物を振り落とそうとするけれど、エドモンはその膂力でアモフィックスにしがみついた。


 エドモンがアモフィックスに深く剣を突き刺す間にも、次々に上がるアモフィックスの悲鳴を聞きつけ、対アモフィックス用装備を整えていた騎士たちが集まってくる。


 視界の端で騎士が隊列を為すのを見たエドモンは、かなりの高所に来ていたものの、躊躇なく剣から手を離し、地面へと自由落下した。


「総員、魔獣弾装填! 照準かまえ!!」


 空中でエドモンの怒号が炸裂する。

 騎士達はビリビリと感じる戦場の空気に即座に火薬砲を構えると、魔獣用の実弾を装填し、照準をアモフィックスに定めた。


 アモフィックスがギョロギョロとした目でエドモンを見つけ、咆哮をあげると、己を傷つけた憎き者に向けて急降下する。


 落下するエドモンは真っ直ぐに向かってくるアモフィックスへと、指先を揃えた手を真っ直ぐに向けた。


「撃て!!」


 ドォンッ!! と重低音が一斉に響き渡った。






 エドモンは危なげなく地面に着地すると、その真後ろにアモフィックスがズシンッと墜落した。

 土埃が大きく舞う。

 周辺の樹木はへし折れて、見るも無惨な状況だ。


 一定距離を開けて土埃が収まるのを待っていた騎士たちは、やがてエドモンが無事立ち上がり、地に堕ちたアモフィックスを静かに眺めているのを見ると、一斉に歓声を上げた。


 アモフィックスの討伐を無傷でこなした騎士団長の周囲で、騎士たちの熱い声が響き渡る。


 さすがの騎士たちも、長く煩わされたアモフィックスの討伐には手放しで喜ぶ者が多かった。


「団長! お疲れさまでした!」

「さすが団長です! 一生ついていきます!」

「待て」


 口々に褒め称える騎士たちを制するように、エドモンの静かな声が響き渡る。

 エドモンの言葉に、ピタリと騎士たちの声が止んだ。


『グルルルル……』


 腹の底に響く声。

 騎士たちの間に再びの緊張が走る。

 火薬砲を構える者、剣の柄に手をかける者。

 各々が一点に視線を向けて、何が起きても動けるように呼吸を測る。


 ズシンと地面が響く。

 足裏から伝わる重量感。

 ボロボロの体でなお立ち上がるアモフィックスに、騎士たちが息を飲んだ。


 アモフィックスが翼をはためかせる。

 弱々しくも飛び立つアモフィックスを、あろうことか、エドモンはそのまま黙って見ている。


「団長!?」

「よろしいのですか!?」


 騎士たちが声を上げると、エドモンは落ち着いた様子で口を開いた。


「一班と二班はアモフィックスを追え。剣は抜いていないから出血は少ないだろうが、三班はアモフィックスが垂らす血を浄化して先行する二班を追え。四班はこの下にある横穴の奥の瘴気を浄化、五班はこの場所の後始末をするように」


 空に飛び立ったアモフィックスを見上げながら、的確に指示を出すエドモンに、騎士たちは一瞬動きを止めるが、すぐさま指示された行動に移していく。

 だいぶダメージを負わせられたようで、アモフィックスが飛ぶ高度はそれほど高くはない。擬態能力が封じられた今、訓練された騎士であれば見失うこともないだろう。


 エドモンはようやく息をつくと、大きく深呼吸をして、それまで張り詰めていた緊張を解いた。

 魔獣討伐に昂揚して、緊張を解いても身体の火照りは収まらない。剣を握ること、命のやり取りをすることはこうだったと、久々に思い出した。


 頭を一つ振って、エドモンもその場を後にする。

 森の中を大股で進み、入口の近くの野営地に向かう。


 野営地にはアリエルとクララ、それからマテューがいた。待機させていた騎士たちに囲まれながら話している彼らにエドモンが歩み寄ると、その会話が聞こえてくる。


「お嬢様、お願いですからお屋敷にお戻りください! 旦那様も心配しておられます!」

「いいえ、もう少しだけいさせて。私以外、あの女性の声も顔も知らないでしょう? まだアモフィックスの件は終わっていないのよ」

「いやいやいや、お嬢様ぁー。眼鏡だってないのにお手伝いは無謀ですよー。クララさんの言う通り帰りましょう?」

「眼鏡がなくても平気です。今、すこぶる目の調子がいいから」


 話の内容を聞いたエドモンは苦笑いした。どうやら騎士団に協力するためアリエルがここに残ると言い出したのを、使用人たちが止めているようだった。

 頑ななほどに真面目なアリエルに、エドモンは頬をゆるめた。


「アリエル嬢」

「あ……、閣下」

「貴女は私とともにアモフィックスを追ってほしい。おそらくは巣が駄目になった今、帰巣本能として、アモフィックスを操っていたという女の元へと向かった可能性が高い。証人として同行をお願いしたいのだが、引き受けていただけるだろうか」

「! もちろんです!」


 アリエルが力強くうなずく。

 空色の瞳が意志を伴って煌めくのが、眩しいほどだ。


「そういうわけで、しばらく彼女を借りたい。君たちも着いてくるか? ただ、アモフィックスを追うので危険もそれなりにある」


 エドモンに言葉をかけられたクララは渋い顔になる。マテューは半笑いのような乾いた笑みを浮かべて、そぅっとクララの様子をうかがった。


「……お嬢様を一人で行かせることはできません」

「あー……。クララさんは私が守るので、ついて行かせてもらっても……?」

「分かった。ではすぐに向かう」


 一緒に行くというクララはマテューに任せることにした。

 エドモンは二人に頷くと踵を返し、アリエルを連れて、野営地の端の木につないである自分の愛馬の元へ向かった。すぐに綱を握り、アリエルを抱き上げて馬の上へと乗せる。エドモンはその後ろにひらりと飛び乗った。


「早駆けする。舌を噛まないように」

「はい。スピナもおいで」


 アリエルは短く返事をすると、腕を広げてスピナを誘った。スピナは器用に馬の身体をよじ登ってくると、すっぽりとアリエルの腕の中に落ち着く。

 エドモンはその様子を見てこくりとうなずくと、馬の腹を蹴った。


 アモフィックスの姿は遠くに見える。あれほど大きな体が低空飛行していれば見失うことはない。森の外に住む領民たちは森から飛び出てきた手負いの怪鳥に唖然としている。

 そんな彼らをすり抜けて、エドモンは馬を走らせた。


 しばらく馬を走らせていると、やがて空を行くアモフィックスが下降した。だいぶ距離はあるが、だいたいアモフィックスが降り立った場所に目星をつける。エドモンは嫌な予感がひしひしとしていた。


「あの場所は……」


 アリエルも気がついたようで、ぽつりと言葉が漏れ出る。

 何か思うところがあるのか、彼女はそっと顔を俯かせる。


 エドモンは何も言わない。

 アモフィックスの行き着く先がどこであろうと、エドモンがすることに変わりはないから。


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